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佐高信
経済評論家
69 JANUARY 2003
新社会党が発行する週刊新聞『新社会』に
熊本学園大教授の原田正純が「いのちの告発」
と題したコラムを連載している。 『水俣病』
(岩波新書)の著者の原田は、十一月二六日号
では「労働組合の恥宣言」について、次のよ
うに書く。
水俣病を惹き起こしたチッソでは、一時、
四〇〇〇人以上の人が働いていた。 彼らは工
場において日常的に化学物質を浴び、帰って
はメチル水銀に汚染されていた魚を食べてい
たにもかかわらず、水俣病を他人事として、
水俣病を問題にしようとする患者や漁民、そ
して市民と対立した。
しかし、それが長期的に見た場合、企業の
ためになるのか?
一九六二年の大争議を経て、そうではない
と考えたチッソの労働組合は、翌年夏、工場
内で行われていた水俣病に関する秘密ネコ実
験の公表を会社に迫り、一九七〇年春には、
「水俣病を自らの問題として取り組んでこなか
ったことを恥とする」という恥宣言を出して、
加害企業の労働組合としては初めての八時間
の公害ストを決行した。
この労働組合はまもなくなくなってしまっ
たが、「しかし、このチッソ労働者の行為はわ
が国の労働史上に長く残るであろう」と原田
は書いている。
ただ、残念ながら、この組合の「恥宣言」
的考えは、主流とはなっていない。 不況下で、連合はまったく逆の方向に歩き出しているよ
うに見える。
続く十二月三日号では、原田は「企業内内
部告発」と題して、大鵬薬品という会社のわ
ずか七人の小さな組合の話を紹介する。
八一年当時、同社は売り上げ年間約九〇〇
億円弱、従業員二一〇〇人余りの優良会社だ
った。 そして、慢性関節リュウマチ、腰痛、
変形性関節症などの治療薬として、ダニロン
という薬の販売を厚生省に申請する。
ところが、この時、この薬の発ガン性に関
するデータが隠された。 それでも最初は、中
央薬事審議会がそれを指摘して不許可にする
だろうと思っていたのだが、許可されて薬の
販売は始まった。
それで危機感をもった研究者たちが組合を
結成し、「自由にものが言える職場環境の改善
とダニロンの製造販売中止、情報公開」を求
める。
これに対して幹部は「膨大な時間とカネが
かかっているのだから、もしシロと出たら、
組合に責任を取ってもらう」と脅し、さまざ
まな不当労働行為を繰り返した。
委員長は「企業秘密をもらした」として、
懲戒処分まで受けたのである。
しかし、地元をはじめ、各地に支援組織が
作られ、支援の輪が広がって、遂に会社は販
売を断念し、一九九一年秋には、組合の要求
を全面的に受け入れて和解したという。 十一
年目の?春〞だった。
〈もし、そのまま販売を続けていたならば、
企業にとっても大変なことになった。
この小さな組合は企業の危機を救った。 彼
らは企業に大きな貢献をし、薬害から多くの
人を守ったのだ。 しかし彼らに勲章はない〉
原田はこう結んでいる。
雪印や東京電力等、いま、頻発している企
業の問題を根本的に解決するための原田の重
要な指摘だが、いわゆるマスコミで、こうし
た発言に触れる機会は少ない。
「マス」のための「コミ」でしかなくなって
いるからかもしれないが、問題解決の芽は
「マス」ではない人たちの声をきちんとくみと
るところからしか育ってこない。
この間、NHK教育テレビの「真剣一〇代
しゃべり場」という番組で、一〇代の少年少
女と話す機会があったが、自分が雪印の社員
だったら、やはり黙っている、と言われた。
正直な感想だとしても、彼にそう言わせたこ
とにマスコミは無関係なのだろうか。
労働組合の告発行動に救われた企業
問題解決の芽は少数意見の反映から
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