ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年1号
特集
欧州市場の現場 日系メーカーの欧州拠点戦略

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2003 12 日系メーカーの欧州拠点戦略 欧州市場では92年のEU統合を機に物流拠点の再編に乗り出す企 業が相次いだ。
各国に分散していた物流拠点を統廃合して製品在庫 や物流コストの大幅削減を図った。
これに伴い3PL市場も急成長 した。
それから10年が経過し、市場は新たな転換期を迎えている。
本誌編集部  トヨタはカーヤードを二カ所に集約 トヨタ自動車が欧州の物流網再編を加速させてい る。
もともと同社は日本、英国、トルコ、フランスの 各工場で生産された西欧市場向けの完成車を陸揚げ・ 一時保管するため、フランス、オランダ、ベルギー、 ドイツなど各国の港にカーヤードを確保してきた。
し かし、二〇〇一年に新たにベルギーのゼーブリュージ ュ港にカーヤードを開設。
この新拠点とドイツのブレ ーマーハーベン港の二カ所にカーヤードを集約した。
さらに二〇〇三年にはドイツのカーヤードも廃止し、 ベルギーに一本化する計画だ。
これに伴い現在、敷地 面積二一万平方メートルの広さを誇るゼーブリュージ ュ港のカーヤードを五〇万平方メートルにまで拡張す る工事を進めている。
同施設の二〇〇二年の取扱台数 (輸出入合計)は約一五万七〇〇〇台だったが、二〇 〇三年には一気に二五万台に達する見通しだ。
西欧と並行して北欧四カ国の物流改革にも着手す る。
現在、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、 デンマークにそれぞれカーヤードを設けているが、二 〇〇三年にはこれをスウェーデンのマルメ港に新設す る拠点に一本化する計画を打ち出している。
ここ数年、トヨタは欧州市場での販売台数を急激 に伸ばしている。
小型車「ヤリス」(日本名ヴィッツ)、 新型「カローラ」などが好調で、五年連続で前年販売 実績を更新した。
二〇〇一年度の販売台数は約七〇 万台。
これを二〇〇五年には八〇万台。
さらにその五 年後の二〇一〇年には一三〇万台にまで拡大させる という目標を掲げている。
ただし、トヨタにとってこれまで欧州はさほど旨味 のある市場ではなかった。
販売台数こそ堅調に推移し てきたものの、肝心の収益は長らく低迷を続けてきた。
トヨタ・モーター・ヨーロッパ(TME)のクーン・ ヴァンデルステーゲン・マネージャーは「もともと欧 州では各国に置かれた製造、販売会社がそれぞれにビ ジネスを展開してきた。
そのため、欧州という大きな 枠組みで物流コストを削減しようという試みを実行に 移しにくい面があった」と打ち明ける。
そこに本格的にメスを入れた。
二〇〇二年四月に 欧州事業の統括会社としてTMEを設立。
それぞれ 独立していた欧州の製造会社と販売会社を一括管理 する体制に移行させて経営の効率化を進めた。
「TM Eの設立でようやく完成車の物流を一元管理できる 体制が整った」とヴァンデルステーゲン・マネージャ ー。
これによって当初二〜三年先を想定していた欧州 事業の黒字化の実現は多少早まりそうだという。
今回の一連の拠点統合も欧州事業の収益基盤強化 に向けた最重要課題の一つとして位置付けられている。
各国に分散していたカーヤードをエリア別に一カ所に 集約。
それによって、欧州各地のディーラーまでの物 流に掛かるオペレーションコストを大幅に削減するの が狙いだ。
具体的な金額は明らかにされていないが、広 大な土地を必要とするカーヤードの統廃合によって数 十億円規模のコスト削減を見込んでいる。
一方でカーヤード集約のデメリットも懸念されてい る。
実際、構想が持ち上がった当初、ディーラーから は納車までのリードタイムが長くなるという反発の声 が少なくなかった。
また、カーヤードの撤退によって 失業者が大量に発生するのを防ぐため、国によっては 政府首脳がトヨタに踏み止まるよう働き掛けてくるケ ースもあったようだ。
それでも集約に踏み切ったのは、各国にカーヤード を置かなくても、従来通りのサービスレベルを維持で きると見込んだからだ。
「ディーラーから注文を受け 解説 13 JANUARY 2003 欧州市場の現場 第1特集 て四日以内に納品するというリードタイムは、トラッ ク輸送や鉄道輸送、運河を利用するバージ輸送などを 駆使することでクリアできる。
既にそのメドは立った。
カーヤードの集約化が欧州事業の収益改善に与えるイ ンパクトはとても大きい」とヴァンデルステーゲン・ マネージャーは期待している。
ブリヂストンは販社倉庫を半減 九二年のEU(欧州連合)統合以降、欧州でビジ ネスを展開する企業が一斉に物流拠点の統廃合に乗 り出した。
EU域内での商品流通が自由化。
さらに 国際間輸送の自由化で国境通関が廃止されたことで、 従来のように国別・地域別に物流体制を構築する必 要性がなくなったからだ。
物流網再編のパターンは各社とも似通っている。
E DC(European Distribution Center )と呼ばれる大 型物流センターを欧州に一カ所、もしくは二〜三カ所 設置。
このEDCから直接、顧客企業に製品を配送 する。
あるいはリードタイムの関係から遠隔地につい てはEDCの傘下に配送デポを数カ所用意し、そこを 経由するかたちで配送する、というやり方だ。
その目的はもちろん各国に分散していた物流拠点を 統合し、製品在庫や物流コストを削減することだ。
世 界的なSCMブーム。
そして、九九年に単一通貨ユー ロが導入されたことで、九〇年代後半以降はその動き にさらに拍車が掛かっている。
アントワープ大学のア レクス・ヴァンブレーダム教授は「ユーロ導入で決済 が簡略化されたことが企業の物流網再編を後押しして いる。
欧州各国に物流センターを構える必要はなくな りつつある」と説明する。
ブリヂストンの欧州地域現地法人「ブリヂストン/ ファイアストン・ヨーロッパ(=BFE、二〇〇三年 一月にブリヂストン・ヨーロッパに社名変更)」もま た現在、販社倉庫の統廃合を進めている。
もともと同 社はスペイン、フランス、イタリアなど欧州の各工場 で生産した製品を直接、欧州内の販社倉庫約六〇カ 所に配送するという物流体制を敷いていた。
これを改 め、工場〜販社倉庫間に大型物流センターを計三カ 所(ベルギー、オランダ、フランス)用意。
従来、販 社倉庫が抱えていた製品在庫をこの三カ所に集約する ことで、倉庫の数を減らそうとしている。
九〇年代後半に始まった今回の大掛かりな物流改 革は、ブリヂストングループがグローバルレベルで取 り組んでいるSCMの一環だ。
既に販社倉庫を半減。
従来に比べて製品在庫を一五〜二〇%削減するとい う成果を上げている。
それでも「現状はあくまでも通 過点にすぎない。
さらに販社倉庫を絞り込んでいくこ とで、将来的には欧州内の在庫水準をもう一段引き 下げる」(クリスター・ニルソン・ロジスティクスマ ネジャー)計画だという。
現在、BFEでは大型物流センターの機能拡充を 急いでいる。
例えば、ベルギーの拠点では二〇〇三年 七月をメドに二万八〇〇〇平方メートルの倉庫を増 設する予定だ。
従来、同施設はトラック・バス用タイ ヤのみを担当してきたが、これに欧州で生産された乗 用車タイヤや、日本、タイなどで生産された輸入タイ ヤのオペレーション機能を新たに加える。
トラック・バス向け、乗用車向け、輸入タイヤの三 つのカテゴリーを一元管理する体制に移行することで、 錯綜していた工場〜販売会社間の受発注業務を簡素 化できる。
さらに「ベルギーの物流センターが販社の 在庫をコントロールする体制になれば、在庫切れなど によって発生していた他地域の工場からの緊急輸入が 減り、物流コスト削減につながる。
欧州で販売するタ トヨタ自動車は欧州のカーヤー ド集約を進めている(写真はゼ ーブリュージュ港のカーヤード) ブリヂストンは販社倉庫を半減。
製品在庫を15〜20%削減した (写真はゼーブリュージュのEDC) JANUARY 2003 14 イヤは可能な限り欧州の工場で賄うというブロック需 給体制を確立できる」とBFEでSCMを担当する 奈良田孝彦シニアコーディネーターは期待する。
集約先はオランダとベルギー 欧州のロジスティクスを統轄するEDCをどこに設 置すべきか。
物流改革に着手する企業がまず最初に直 面するのがこの問題だ。
英国、ドイツ、フランスとい った経済大国がひしめく中で、トヨタやブリヂストン のように、多くの企業がその進出先や候補地として挙 げているのがオランダ、そしてベルギーだ。
欧州最大の港であるロッテルダム港を抱えるオラン ダは、EDCの進出先として四四%というシェアを確 保している。
もともとオランダに設置していた物流セ ンターをそのままEDC化するパターンが多いためだ。
ただし、ロッテルダム港は慢性的な交通・通関渋滞に 見舞われているなど課題も少なくない。
そのため、ここ数年はとりわけベルギーへの進出が 目立っているという。
ちなみにEDCのシェアはベル ギーが二八%で第二位。
オランダと合わせて上位二カ 国で全体の七割以上を占めている。
以下は英国一五%、 フランス一三%という順だ(囲み記事参照)。
そのベルギーは人口約一〇〇〇万人、GDP(国 内総生産)約二五〇〇億ユーロ。
フランス、ドイツ、 オランダに挟まれた国土面積約三万一〇〇〇平方キ ロメートルの小国だ。
ただし、地の利はいい。
欧州市 場は、北は英・ロンドンから南は伊・ミラノ、東は 独・フランクフルトから西は仏・パリまでの「バナナ 型」のエリアに全体の購買力の約六〇%が集中する。
ベルギーは、そのちょうど中心部に位置している。
インフラ面でもベルギー北部のフランダース州には 世界第十一位、欧州第三位のコンテナ取扱実績を誇 るアントワープ港をはじめ、ゲント港、ゼーブリュー ジュ港など複数の港湾施設がある。
欧州の主要都市 を結ぶ高速道路はほとんどの区間が無料。
鉄道網も 整備されている。
首都ブリュッセルの空港は国際宅配 便会社DHLなど複数の企業が欧州のハブ拠点とし て活用中。
陸・海・空すべての物流インフラが充実し ているのが特徴だ。
「EDCの開設を検討する企業にとって、ベルギー の一番の魅力はEU各国の主要都市へのアクセスが 容易な点だ。
ブリュッセルからロンドンまでの距離は これまでフランダース州は自動車産業をメーンターゲ ットに企業誘致活動を展開してきた。
その結果、現在で はフォードがゲンクに生産拠点を構えているほか、日系 メーカーではトヨタ、ホンダが物流拠点を設置している。
これらメーカーだけで二・八万人。
自動車部品など周辺 事業までを含めると十二・八万人の雇用が創出されたこ とになる。
自国にこれといった産業を持たないベルギー にとって、相次ぐ自動車メーカーの進出は大きな経済効 果をもたらしている。
近年は自動車のほかに、化学産業の誘致にも力を注い できた。
その結果、ベルギー最大の港であるアントワー プ港は米国のヒューストンに次ぐ規模の化学基地として 成長を遂げた。
現在、日 系企業では日本触媒を はじめ、東京化成工業 などが生産拠点や物流 センターを構えている。
企業が欧州進出を決 めるにあたって重視する 項目の一つが物流インフラの充実度だ。
その点ではベル ギーは高い評価を受けている。
フランダース州にはアン トワープ港をはじめ、ゼーブリュージュ港やゲント港な ど機能性の高い港湾施設が数多くある。
EDCの候補地 としてフランダースを挙げる企業にとって、港湾施設の 充実ぶりはとても魅力的なはずだ。
ただし、我々は現状に満足しているわけではない。
進 出企業の利便性をさらに高めるため、ドックの新設やコ ンテナターミナルの拡張など港湾施設へのインフラ投資 を強化していく計画だ。
EDC候補地としての最大のラ イバルであるオランダに負けない物流インフラを整備し て、各方面の企業にアピールしていきたい。
(談) 自動車関連 17% 食品以外の 日用雑貨 14% 化学 17% 食品 9% IT関連 7% ヘルスケア 5% その他 工業製品 21% その他 10% ●ベルギー・フランダース州に  EDCを置く企業の産業別比率 オランダ 44% ベルギー 28% 英国 15% フランス 13% ●EDCの国別シェア 「相次ぐEDC進出が雇用を支えている」 ベルギー・フランダース政府 ジャーク・ハブリエルス 経済担当大臣 物流誘致を強化するベルギー BFEの奈良田孝彦 シニアコーディネーター出典:EDC study2002, Flemish Government 15 JANUARY 2003 欧州市場の現場 第1特集 二〇〇マイル、パリまでは二一〇マイル。
さらに物流 インフラのコストも安い。
例えば、アントワープ港の コンテナハンドリングに掛かるコストは欧州の主要港 の中でもっとも低い水準にある」とベルギー・フラン ダース政府企業誘致局のディルク・デルイベル・ビジ ネス開発ディレクターはアピールする。
ベルギー・フランダース政府が出資するロジスティ クス専門の研究機関「フランダース・ロジスティクス 研究所」によると、現在フランダース州にはEDCが 約一八〇カ所設置されているという。
日系企業では冒 頭のトヨタ、ブリヂストンをはじめ、日本ビクター、 コマツ、TCM、東京化成工業(二二ページ・ケース スタディ参照)などがEDCを開設している。
本田技研工業もベルギー・フランダース州にEDC を置く一社だ。
同社はゲント港に七一万平方メートル に及ぶ広大な土地を確保。
そこに五二万八〇〇〇平 方メートル、最大二万五〇〇〇台の収容能力を持つ 完成車用のカーヤード、そしてスペアパーツ用物流セ ンター、二輪車用倉庫を併設している。
完成車用のカーヤードでは日本、米国、英国の各 工場で生産された完成車をゲント港の専用埠頭で陸 揚げ後、カーヤードで一時保管。
品質検査、オプショ ン部品の据え付けなどを作業を経て、欧州各地のディ ーラーに供給する。
一日の出荷台数は約一七〇〇台。
一方、パーツセンターでは日本のパーツセンターか ら横持ち輸送される製品、さらに現地の部品ベンダー から納品される製品を荷受け・検品後、ラックに格納 して一時保管。
欧州各地のディーラーのオーダーに従 ってピッキング・仕分けしてから、二四時間以内に配 送している。
ディーラーへの直送が基本だが、一部地 域についてはDCを用意。
そこを経由してから納品す る体制を敷く。
約二〇万点の部品を在庫し、一日に 約三万五〇〇〇オーダーを処理している。
二輪車用倉庫は二〇〇一年一月に新設したものだ。
延べ床面積は約三万平方メートル。
スペイン、イタリ アの工場で生産された製品を一時保管し、ドイツ、ベ ルギー、オランダの各ディーラーに供給している。
従 来は欧州各地に保管用倉庫を用意していたが、これを 改め、同施設への集約を進めつつあるという。
ホンダは3PLを限定活用 このように国別・地域別に配置してきた物流拠点 を統廃合し、EDCに集約するにあたって、欧州でビ ジネスを展開する企業は「自社でEDCを建設・運 営するのか」、それとも「3PL(サードパーティー・ ロジスティクス)など外部企業にアウトソーシングす るのか」という選択を迫られる。
ホンダでは欧州内のすべての物流業務を、欧州現地 法人の一つで、物流管理専門会社として設立された 「ホンダヨーロッパNV」が一括管理している。
パーツセンターと二輪車用倉庫の運営に関しては、現地の 3PL、GHD社(ゲント・ハンドリング・ディスト リビューションセンター)を利用しているが、これも 業務委託は物流センターのオペレーション全体の五 〇%程度に抑えているという。
ホンダヨーロッパNVの杉山寿夫上級副社長(肩 書きは取材時点)は「自社にもきちんと物流のノウハ ウを残しておきたい。
九〇年代以降、製造業にとって ロジスティクスはコア事業ではないため、アウトソー シングすべきだという議論がなされてきた。
しかし、 自社で物流を賄うことで他社とのサービスの差別化を 図るという戦略もあるだろう」と説明する。
欧州ではEU統合に伴う規制撤廃でフォワーディン グ事業という収益の柱を失った物流業者が続々と3 ホンダはゲント港にEDCを構える (写真は右上:品質検査場、右下: パーツセンター、左上:二輪車用 倉庫、左下:カーヤード) JANUARY 2003 16 PL企業に転身。
EDC建設・運営の外注化が広く 浸透した。
前述したトヨタはカーヤードこそ自社で所 有しているものの、オペレーションはすべて現地の物 流業者であるシンタックス社に委託している。
同様に 新たにEDCを構える企業の多くが3PLの利用に 踏み切った。
その結果、欧州では九〇年代以降、3 PL市場が急激に拡大した。
日本郵船の3PL子会社である「NWL(New Wave Logistics )」のベルギー現地法人では九〇年の 会社発足以来、業績の右肩上がりが続いている。
二 〇〇〇年度の売上高は約二五〇〇万ユーロだった。
そ れが二〇〇一年度には三八〇〇万ユーロに伸長。
さ らに二〇〇二年度には約四三〇〇万ユーロにまで拡 大する見通しだ。
好業績を支えているのはEDC絡みの物流業務だ。
現在、同社ではミノルタ、カシオ計算機、いすゞ自動 車など約二〇社から物流業務を受注しているが、その 大半はEDCの運営が占めているという。
「もともとEDCはメーカー側が自社で建設し運営 するのが主流だった。
しかし、ここ数年はむしろアウ トソーシングに踏み切る企業が増えてきている。
こう した荷主企業側の方針転換は当社のビジネスにとって プラスに作用している」と武部俊秀コーディネーター は説明する。
強まるノンアセット志向 3PLや荷主に代わり土地や建物などの物流アセ ット(資産)を所有することを本業とする不動産開発 業者の存在も、欧州市場における3PL普及の背景 になっている。
ベルギー、オランダ、フランスを中心 に活動する大手不動産開発会社「ユーリンプロ ( Eurinpro )」もそのうちの一社だ。
同社はメーカーや3PL企業に代わって物流センタ ーを建設。
それを一〜一〇年単位の契約で賃貸する ことで収入を得ている。
ビジネスモデルは米国のプロ ロジスやシービー・リチャードエリスなどとほぼ同じ だ(二〇〇二年九月号特集記事参照)。
ユーリンプロのエディ・ハウスマンス専務は「欧州 でリース型物流センターの需要が拡大し始めたのは一 〇年前から。
EU統合の時期とちょうど重なる。
各国 に用意してきた物流拠点を統廃合し、拠点を新設す るにあたって、自社で投資すべきか、それとも外部に 委ねるべきか。
多くの企業がロジスティクスのフレキ シビリティ(柔軟性)を保つために後者を選択してき た。
最近では経営規模が大きい企業ほどその傾向が強 まっている」と説明する。
とくにここ数年は新規の物流センター建設の依頼が 後を絶たないという。
そのため、同社は一年間に五〇 万平方メートルのペースで物流センターを建設し続け ている。
二万平方メートル規模の物流センターを二五 カ所稼働させている計算だ。
正式な数字は未公表だが、 ユーリンプロの業績自体も好調のようだ。
同社の顧客リストにはエクセルやシェンカーなど欧 州を代表する3PLが名を連ねる。
しかし、最近はと りわけメーカー向けの案件が増えている。
日系企業向 けでは二〇〇〇年にソニーと日本ビクターの物流セン ターを新たに立ち上げた。
いずれもEDCだ。
メーカーが従来から所有していた物流センターを売 却。
リース契約に切り替えたうえで新たにEDCを設 置するというパターンが一般的だ。
日本ビクターもか つてはフランスのパリに自社保有の物流センターを構 えていた。
しかし、それを売却して、新たにユーリン プロがアントワープに用意した物流センターに入居し ている。
ユーリンプロの エディ・ハウスマンス専務 NWLはEDCの運営受託 で業績を伸ばしている (写真は上:ベルギーの 物流拠点、下:センター 内の作業の様子) 17 JANUARY 2003 東欧対応で再度物流見直しも 欧州の物流網再編に乗り出した企業が従来のアセ ット(資産)志向を改めているのは、東欧諸国のEU への新規加盟をにらんでいるからだ。
現在、EUは一 五カ国で構成されている。
しかし、二〇〇四年五月に は新たにポーランド、チェコ、ハンガリーなど一〇カ 国が加わる予定だ。
マーケットが一気に拡大すれは、 現行の物流体制の見直しを再度迫られる可能性があ る。
そうした環境の変化に対応するために、自社で物 流センターを保有するのを避けているのだ。
前述した通り、欧州でビジネスを展開する企業の大 半がEDCを構えているのはオランダとベルギーだ。
両国はともに「東欧へのアクセスも決しては悪くはな い」(ベルギー・フランダース政府企業誘致局のディ ルク・ディレクター)と訴える。
しかし、早くも当事 者たちの間では「オランダ、ベルギーよりもう少し東 側のドイツ、もしくは既に生産拠点の移管が進んでい るポーランドにEDCを移すべきではないかという議 論が出始めている」(日系大手総合商社)。
昨年十二月に開かれたEU首脳会議で加盟が承認 されたとはいえ、対象国では加盟の是非を問う国民投 票などを控えている。
実際には何カ国が新たにEUに 加盟するかは不透明な部分もある。
だからこそ荷主企 業はEDCの位置を固定できない。
その結果、ロジス ティクスに対するアウトソーシングのニーズが高まる。
3PL企業にとっては追い風だ。
これを受けて、欧州の3PL企業は受け皿となる物 流センターの機能拡充を急いでいる。
日本郵船系の3 PL、NWLでは欧州に展開する現地法人十二社に 対し「日本の本部から欧州の物流ネットワークを強化 するよう指示が出された」(武部俊秀コーディネータ ー)という。
一方、ハードを提供する側のユーリンプロの鼻息も 荒い。
近い将来、東欧諸国のEU加盟で再び欧州の 物流改革に動くであろう荷主企業に積極的なアプロー チを試みている。
同社はオフィスビルの賃貸事業など も展開しているが、欧州では当面、物流センター事業 に重点的に投資を続けていく構えだ。
ただし、3PLや不動産会社のビジネスが必ずしも 今後も安泰だとは言い切れない面もある。
欧州の物流 トレンドは九〇年代以降、内製化からアウトソーシン グへとシフトしてきた。
しかし、ここにきて再び物流 業務を内製化に切り替える動きが出始めている。
「3PLが提供するサービスに満足できなかった。
サ プライチェーン全体をコントロールする4PL(フォ ースパーティー・ロジスティクス)などが登場し、荷 主企業に受け入れられつつあるが、そこまでハイレベ ルなサービスを提供できる物流業者はごく僅かにすぎ ない」(フランダースロジスティクス研究所のフランシス・ローム研究員)というのがその理由だ(一〇ペ ージ・インタビュー記事参照)。
さらにNWLの武部コーディネーターは「言語の問 題もある。
いくらEU市場が統合されたと言っても、 各国の言語までは統一できない。
そのためEDCでは 多国語を処理する必要に迫られている。
それだけオペ レーションは複雑になっている」と指摘する。
物流理論的には集約化効果は明らかだが、現場に はしわ寄せが出ている。
このことが集約一辺倒だった EU統合後の拠点政策に影響を及ぼす可能性は否定 できない。
東欧を見据えた物流網の再編を目前に控え、 荷主企業はアセットの所有、3PLの活用、そして現 場のオペレーションまで視野に入れた拠点政策をもう 一度、練り直す時期にきている。
第1特集 欧州では東欧諸国のEU加盟 をにらみ、拠点政策を再考 する企業が相次いでいる

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