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JANUARY 2003 22
納期短縮――東京化成工業
1894年創業の老舗試薬メーカー。 2002年10月、ベルギーのア
ントワープ郊外に物流センターを新設した。 欧州での販路拡大と
納品リードタイムを短縮するのが狙い。 従来、欧州向け商品はす
べて日本から供給していたため、納品まで1〜2週間掛かっていた。
しかし、新センター稼働後は受注の翌日に納品できる体制を確立
している。
物流がノーベル賞を左右する
東京化成工業は医薬品の研究開発に使用する「試
薬」や半導体の材料などを製造、販売する化学品メ
ーカーだ。 創業は一八九四年。 もともとは医薬品の卸
問屋だったが、一九四六年に試薬事業に参入。 以来、
有機試薬の分野を中心にビジネスを展開してきた。 現
在では農薬、香料の生産・販売などにまで事業領域
を拡大しており、化学品の取り扱いは約一万七〇〇
〇品目に上るという。
民間調査機関によると、同社の二〇〇一年一〇月
期の売上高は約四九億円、当期利益三億円。 業界有
数の高収益企業として知られる。 有機試薬というニッ
チな分野に特化して高い競争力を維持する戦略が好
業績に結びついてきた。 それでも「まずはユーザーに
製品を安定供給し続けるのが使命。 利益は二の次と
いう姿勢でこれまで事業を拡大してきた。 その考え方
は今でも変わらない」と浅川皓司社長は説明する。
もともと同社は日本の医薬品メーカーや大学、研究
機関などを対象に試薬を供給するドメスティックな企
業だった。 しかし八〇年代以降、海外展開を加速さ
せている。 まず八五年に米国オレゴン州に現地法人を
設立。 米国市場で本格的な営業活動を開始した。 さ
らに九九年にはベルギーに現地法人を立ち上げ、欧州
市場への参入も果たしている。
特にここ数年は欧州市場の開拓に力を注いできた。
欧州、中でもスイスやドイツには試薬の需要家である
医薬品メーカーの研究機関が数多く設置されているか
らだ。 ただし、欧州でのビジネスには課題が残されて
いた。 受注から納品までのリードタイムの長さである。
一般に現地の試薬メーカーのリードタイムは一〜二日。
これに対して、東京化成工業では注文を受けてから日
本の拠点で仕分け・梱包した後、通関、空輸などを
経て製品を供給してきたため、納品までに約一〜二週
間掛かってしまっていた。
企業の研究機関はライバル企業と新製品の開発で
一刻を争っている。 試薬の納品が遅れれば、その分開
発が滞ってしまう。 その結果、ノーベル賞級の発明や
特許をライバル企業に奪われる――。 そんな事態も想
定されるため、試薬調達先を選定する際の基準の一つ
として納品リードタイムを重視している企業も少なく
ない。 それだけに東京化成工業にとって日本から製品
を供給するという物流体制は欧州でビジネスを拡げて
いくうえでのマイナス要因となっていた。
もっとも、研究・開発の遅れを防ぐにはユーザーに
在庫を多めに確保してもらえばいい。 ところが「ユー
ザー側は試薬が余ってしまった場合、自社で処理しな
ければならない。 それを避けるため、必要な時に必要
な分だけ試薬を調達するようになっている。 そもそも
試薬には一グラムで数万円する高価な製品もある。 多
頻度小口配送のニーズに応えられなければ取引しても
らえないというのが実情だ」(浅川皓司社長)という。
拠点新設で翌日納品を実現
そこで、東京化成工業は欧州の物流網整備に乗り
出した。 二〇〇二年一〇月、ベルギーのアントワープ
郊外に新たに物流センターを稼働させた。 センターは
敷地面積一万平方メートル、延べ床面積三五〇〇平
方メートルの平屋建て。 アントワープ港から一〇キロ
メートル、ブリュッセル空港から五〇キロメートルに
位置する。 投資額は約六億円だった。
センターを建設した狙いは、もちろんリードタイム
を大幅に短縮することにあった。 実際、センターで製
品を在庫。 そこから欧州の需要家に供給する体制に
CASE STUDY
第1特集
23 JANUARY 2003
切り替えたことで、注文を受けた翌日には製品を納品
できるようになった。 同社ではセンター新設と同時に、
もともと日本で担当していた受注業務をすべてベルギ
ー現地法人に移管させた。
センター運営責任者であるルディ・ブルス・ロジス
ティクスマネージャーは「ベルギーに物流拠点を設け
たのは西欧の中心地で、各国の主要都市へのアクセス
が容易だからだ。 納品までのリードタイムが短くなり、
なおかつ発注窓口が欧州内に設置されたことで、顧客
の利便性は格段に向上したはずだ」と説明する。
このセンターでは主に日本の生産工場(深谷工場な
ど)から大ロットで送られてくる製品を小分け(リパ
ック=袋・箱詰め、リボトル=瓶詰め)して、ユーザ
ーに向けて出荷するまでの物流業務を担当している。
庫内オペレーションには自社社員二五〜三〇人が従
事している。
3PLなど外部の物流業者に外注化しなかったの
は、危険物があるほか、小分け作業で特殊なノウハウ
を必要とするためだ。 これに対して、顧客への配送で
は業務を民間の物流業者にアウトソーシングしている。
委託先は地元ベルギーの運送会社VOP社など五〜
六社。 全出荷量の九〇%をトラックで、残りの一〇%
を航空便で配送している。 ちなみに調達物流に相当す
る日本〜ベルギー間の輸送は化学品に強い航空フォワ
ーダーの近鉄エクスプレス、郵船航空サービス、UP
Sの三社に業務委託している。
危険物用保管庫や定温保管庫などがあるが、セン
ターの構造はいたってシンプルだ。 マテハン機器はラ
ックがある程度。 ただし、情報化は進んでおり、入荷
から出荷までのセンターオペレーションはすべてWM
S(倉庫管理システム)で制御されている。
センターでの作業フローは以下の通り。 まず日本か
ら送られてくるASN(事前出荷情報)を基に、無
線端末を使って製品ラベルのバーコードをスキャンし
て入荷検品する。 次に製品には日本語のラベルが貼付
されているため、それを欧州向けに貼り替えた後、無
線端末に表示されるロケーション番号に従ってラック
に格納する。
続いて出荷作業。 ケース単位またはバラ単位で出荷
する製品はラックからピッキング後、梱包などの工程
を経て出荷する。 一方、バラ以下で出荷する製品はリ
パック室(リボトル室)で小分けしてから同様に出荷
する。 原則として同じ届け先の製品は混載して出荷す
るが、事故等で化学反応を起こして有害物質を発す
るなど危険性の高い製品の組み合わせの場合は別梱
包で発送する。 欧州での製品供給先は大学や企業の
研究機関など二〇〇〜三〇〇カ所という。
現在、このセンターでは約八〇〇〇アイテムの製品
を扱っている。 これを将来はフルアイテムの約一万七
〇〇〇品目にまで引き上げる計画だ。 「センターはもともと一万七〇〇〇品目を扱えるように設計されてい
る。 オペレーションはすべて情報システムで管理され
ており、アイテムが増えても特に作業面での問題は発
生しないはずだ」とブルス・マネージャーはセンター
運営に自信を深めている。
同社では翌日納品という短いリードタイムと豊富な
品揃えを武器に、欧州での販路拡大を狙っている。 現
在、欧州での売り上げは十数億円にとどまっているが、
これを数年後には三倍に拡大させることを目標に掲げ
ている。 「次のステップとしてベルギーに生産拠点を
新設することも検討中だ。 当社はこれまで日本を基盤
にビジネスを拡大させてきた。 日米欧の三極でバラン
スよく収益を上げることができる営業体制を早急に確
立したい」と浅川社長は意気込んでいる。
アントワープ郊外に建設した物流センター
ルディ・ブルス
ロジスティクス・マネージャー
東京化成工業の
浅川皓司社長
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