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JANUARY 2003 24
『中国3PL市場 その可能性と課題』
中国のロジスティクス市場は、急激な経済成長と歩調を合わせる
形で、その規模を拡大させている。 しかし、高度な3PLサービス
に関しては、まだ荷主側に不安感が根強い。 有力なプロバイダーも
まだ育っていない。 最新の調査でそれが明らかになった。
マーサー・マネジメント・コンサルティング(MERCER management consulting)
マーク・カーダー副社長
ダイアナ・ホアンプリンシパル
調査の結果
このたび我々は中国のロジスティクス市場を調査す
るにあたり、中国国内の主要な3PLプロバイダー約
二〇社、荷主約三〇社にインタビューを行った。 荷主
は、アウトソーシングに積極的と考えられる八つの事
業分野(IT・通信、家電、食品・飲料、アパレル・
繊維、自動車、化学、非耐久消費財、医薬)に限定
した。 プロバイダーとはすべて面談。 荷主へのインタ
ビューは面談もしくは電話によって行った。
調査結果の概要は以下の通りである。
・調査したロジスティクス・プロバイダーの大部分は、
過去三年間の成長率を三〇%以上としている。
・プロバイダーの売り上げのうち、八五%は輸送・倉
庫管理といった基本的なサービスが占めている。
・七割以上のプロバイダーは、顧客はまだアウトソー
シングに対する準備が整っていないと考えている。
特に3PLのサービス水準に対し、荷主の半分近
くがアウトソーシングへの不安を口にしている。
・市場は細分化されている。 二%以上のシェアを占め
る3PLプロバイダーは存在しない。
・売り上げの約八割は、長江(揚子江)流域と珠江
三角州(広東デルタ)地域に集中している。
中国物流市場の概要
中国の物流・ロジスティクス市場は巨大であり、し
かも急速に成長している。 それに伴って外部委託の市
場規模も、二〇〇一年で約四〇〇億元(約六〇〇〇
億円)に達しており、年成長率は、米国のそれをはる
かに超える二五%程度が見込まれている(図1、図2)。
三〇%以上の成長率を達成している回答者が、全
体の七割を超えていることからも窺えるように、3P
Lの供給面から見ても市場は急速に拡大している。 し
かし売り上げの八五%は、運送・倉庫管理などの基
本的なサービスが占めている(図3、図4)。
荷主が中国の国内企業である場合、物流コストの
分析はあまり行われていない。 トータルの物流コスト
を把握しているのは、荷主の約三割(すべて多国籍企
業)に過ぎない。 七割近いプロバイダーは、特に中国
系の顧客にはアウトソーシングをする態勢が整ってい
ないと考えている(図5)。
――?準備はできていない.派の言い分――
「ロジスティクスをアウトソーシングしたら、彼らは
大量の従業員と莫大なアセットをいったいどうする?」
「ポテンシャルが途方もなく大きいことは認めるが、
中国企業がもっとアウトソーシングするようになるに
は、まだ時間がかかるだろう」
「多くの顧客がアウトソーシングに前向きだとは言
え、それは限られたサービスについてだけの話だ。 彼
らが求めているのは、単純なサービスを提供する3P
Lプロバイダーだ」
「単純輸送に限れば、アウトソーシングに積極的と
言ってよいだろう。 しかしより高度なサービスに関し
ては、もっとそれを後押しする外部的な圧力が必要
だ」
――?機は熟している.派の言い分――
「特に多国籍企業は、アウトソーシングへの準備が
整っている。 可能な限りのアウトソーシングを進めよ
うとしている」
「中国の顧客たちは、ロジスティクスという考え方
をもっと学ぶ必要がある。 だが中国企業は、他の国と
くらべてはるかに速やかにその考え方を受け入れてい
第2特集
25 JANUARY 2003
3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
500
0 2000年 2001年 2002年
(予測)
2003年
(10億元) (予測)
図1 中国の国内輸送およびロジスティクス関連費用予測
資料:SG Securities Research
1,770
1,903
2,062
2,260
50
40
30
20
10
0
30%以下 30ー50% 50%以上
(%)
図3 中国3PLプロバイダーの年平均成長率
資料:Mercer China 3PL Survey,2002
注:全回答者の単純平均(各3PLのサイズによる重み付けはしていない)
(1999ー2001)
24%
41%
35%
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
輸送管理 倉庫管理 ロジスティクス統合サービスと
付加価値サービス
(%)
図4 中国3PLプロバイダーの売り上げの内訳
資料:Mercer China 3PL Survey,2002
32%
15%
53%
100
80
60
40
20
0
管理コスト 輸送・倉庫コスト 在庫コスト
(%)
図5 荷主によって把握されているコスト
資料:Mercer China 3PL Survey,2002
47%
79%
93%
79%
76%
37%
80
60
40
20
0
2000年 2001年 2002年
(予測)
2003年
(予測)
資料:SG Securities Research
図2 中国のロジスティクス・アウトソーシング市場予測
(10億元)
31
39
48
61
多国籍企業
中国企業
CLMの2002年の大会で
熱弁をふるうカーダー副
社長(右)とホアン・プ
リンシパル
JANUARY 2003 26
くだろう。 なぜなら彼らには他の分野での経験から学
ぶことがあるし、現行の商品やサービスを改善しなけ
れば生き残っていけないという、厳しい外的環境に置
かれているからだ」
「現地の製造業者たちは、アウトソーシングをさら
に押しすすめ、より高度なサービスを必要とするよう
になるだろう」
「華東地域(中国東部)の顧客は豊富な知識をもち、
アウトソーシングにも積極的だ」
荷主たちはサービスの水準に対して不信感をもち、
信頼し得るプロバイダーの確保が難しいと考えている。
多くのプロバイダーはマーケティングには長けている
が、配送業務のなかでも特に、広範囲にわたる質の高
い配送を一貫して保証する能力に欠けている。
また市場は非常に細分化されており、単独で二%
以上のシェアを持つ企業は存在しない。
荷主に関する主な調査結果
多国籍企業である荷主と、中国企業の荷主が求め
るものの間には相当な開きがある。 このことは今後の
3PL市場の展開に、二つの異なる方向性があること
を示唆している。 荷主たちの主目的は、コストとサイ
クルタイムの削減、サービスレベルの向上である。 そ
のために多国籍企業の約七割はロジスティクスを外部
委託している。 ところが中国企業に限ると、その割合
は一五%に過ぎない。
荷主が多国籍企業である場合、ITシステムの充
実度、業界と実務の専門的知識、標準化されたオペ
レーションなどの点を重視し、結果として自分たちと
同様に3PLパートナーにも外資系プロバイダーを好
む傾向がある。
一方、荷主が中国企業の場合は、コストの安さ、現
地事情に精通していること、国内のネットワークの充
実度、などの理由で同じ中国系のプロバイダーを好む。
約八割の荷主は今後3PLの利用を増やしていくと
述べているが、アウトソーシングへの移行は、漸進的
かつ緩やかであろう。
アウトソーシングの範囲に関して、調査した荷主の
ほぼ九割は単純輸送を外部委託している。 しかしロジ
スティクスについて外部委託しているのは約半分であ
り、中国企業に限ればその割合は一五%強に激減す
る。
コスト削減が急務となるなかで、多くの荷主が3P
Lプロバイダーに求めているのは、ロジスティクス・
コスト削減のための業界知識とオペレーションの経験
である。 トータルで見ると約三割(特に多国籍企業)
は外資系のプロバイダーを、二割以上(特に中国企
業)は現地のプロバイダーを好んでいる。
プロバイダーの戦略多くのプロバイダーは、目標を達成するため、自ら
の能力を存分に発揮しうるパートナーを求めている。
シノトランス(Sinotrans
)やコスコ(COSCO)と
いった中国の大手国有企業は、大量の余剰人員、従
業員の顧客サービス精神の欠如、業績評価システムの
不備といった問題に直面している。 一方でEAS、P
GLといった新興のロジスティクス企業も、財政面で
の限界、低い管理能力、成長を支える効率的な組織
の欠如、などの課題を抱えている。
また、外資系物流企業の中国進出は、主に多国籍
企業にグローバルなサービスを提供することを主眼と
しており、中国国内でのオペレーションは限られてい
る。 そのため下請け業者の管理と、顧客の期待にどう
自社でまかなえる
サービス水準に不安
良いプロバイダーが見当たらない
利点がない
サプライチェーンを構成する
企業の数が多すぎる
費用がかかり過ぎる
以前に失敗した経験がある
コンセプト・考え方に同意できない
ITシステムの未整備
(%) 0 10
図6 ロジスティクスをアウトソーシングしない理由
資料:Mercer China 3PL Survey,2002
注:重要と思うもの上位3つを重み付けし(1位=×3、2位=×2、3位=×1)、総合点の割合を計算した
33%
24%
21%
7%
6%
4%
2%
2%
1%
20 30 40
27 JANUARY 2003
応えるかが、運営上の大きな課題であるとプロバイダ
ーは考えている。
現地企業・外資系企業を問わず、約八割のプロバ
イダーが、成長目標達成のための提携やジョイントベ
ンチャーという方策を模索している。
現状の収入源を見ると海外ネットワークに弱みをも
つ中国系プロバイダーは、国内ロジスティクスを中心
としている。 一方、外資系プロバイダーは、主にグロ
ーバル企業相手の輸出入ロジスティクスからほとんど
の収益を得ている。
中国企業の多くは同じ中国系のプロバイダーを利用
しているが、すべての3PLプロバイダーの主要ター
ゲットは、国内ロジスティクスをも必要とする多国籍
企業である。
これに対しプロバイダーたちが業務遂行上いちばん
の課題と考えているのは、信頼できる下請け業者を見
つけだし、そして彼らのサービスの質をコントロール
していくことである。 国際物流の経験がない顧客の要
望に、いかに応えていくかもまた大きな課題である。
外資系のプロバイダーにとっては政府の規制がいち
ばんの足枷となっているが、すべての企業が有能な人
材の確保に頭を悩ませている。 成長目標を達成のため、
多くのプロバイダーは提携先を探している。
アウトソーシングの推進力
政府の方針も、ロジスティクス・アウトソーシング
への推進力となり始めている。 中国の「第十次五カ年
計画」には、ロジスティクスの育成計画が含まれてい
る。 二〇〇一年三月、対外貿易経済合作部・鉄道部・
交通部・情報産業部・国家民用航空総局は、?中国
におけるロジスティクスの発展を促進するための指
針.を発表した。
中国のWTO加盟により、外資系企業のロジステ
ィクスに対する投資の自由化が進めば、多種多様な参
入者が相次ぎ、様相は一変することになろう。 多くの
外資系企業が、中国をアジアのみならずグローバルな
マーケットに向けての生産拠点とするにつれ、ロジス
ティクス需要と荷主の特質は急速に変化してゆくはず
だ。
小売業者の集約とナショナル・チェーンの台頭によ
っても、ロジスティクス・プロバイダーの役割は変わ
っていく。 ハイ・クオリティなプロバイダーの登場で、
さまざまな業界標準が定められることになるであろう。
ただし、中国の3PL市場は変わりつつあるとは言え、
その変化は急激ではない。
今後は業界の再編により、中国の物流市場にいく
つかの巨大企業が出現するであろう。 大手国有企業の
なかからいち早く構造改革案を見いだし、マーケット
リーダーへと成長する企業も出てくる。
新規参入が相次ぐなか、資金力に優れ、なおかつ特定分野に特化した企業が成功を収める一方で、得意
分野を持たない小さな会社は淘汰されていくだろう。
多国籍企業はグローバルな顧客を持つという強みを活
かし、国内の基盤強化とマーケットシェアの拡大を図
り、重要な役割を占めることになろう。
プロバイダーは、自らに適した事業とサービスに特
化していく。 近々新たな業界標準が確立する。 既存の
顧客は起用するプロバイダーの数を絞り込み、より高
い信頼性とサービスの質を要求するようになる。 顧客
はプロバイダーに、ITシステムの完備をより求める
ようになる。 しかしながら進展のスピードは遅く、競
争の激しさと必要とされる投資の額を考えれば、短・
中期的にはそれほど利益の出る事業とはならないだろ
う。
第2特集
60
50
40
30
20
10
0
5000万元以下
(630万ドル)
5000万〜2億元
(630万〜2500万ドル)
2億元以上
(2500万ドル以上)
(%)
図7 3PLプロバイダーの総収入の規模
資料:Mercer China 3PL Survey,2002
31%
46%
23%
|