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JANUARY 2003 28
物流インフラの実態と課題
中国本土のサプライチェーンは現時点で一体、どのような状況にあ
るのか。 近い将来、どこまで改善が進むのか。 そして中国ビジネスを
成功させるためには、何をどのタイミングで実施すれば良いのか――
アクセンチュアでアジア太平洋地区を統括するSCM部門のトップコン
サルタントが、本号から3回にわたって報告する。
アクセンチュアロバートJ. イーストンSCMアジア太平洋地域統括パートナー
中国のWTO(世界貿易機構)加盟以来、中国で
事業を進める外国企業にとっては、これまでは近づく
こともできないと考えられていた流通および取引の権
利が、入手可能な状態となってきました。 九〇年以前
の中国はビジネスインフラの整備も製品も遅れていま
した。 しかし今では、経済の発展に必要な強固なイン
フラができつつあります。
中国政府は現在、中国のロジスティクスおよび輸送
インフラの近代化に多額の予算を組んでいます。 国内
および海外のサプライチェーン・サービス・プロバイ
ダーは、国有企業を含め、個々のケイパビリティの向
上を急いでいます。 運送業者やメーカーは、低価格で
高いサービスを提供するために、より優れた新しいサ
プライチェーン・ケイパビリティを築こうと懸命にな
っています。 新しい企業はかつてのゴールドラッシュ
のような状況の中に踏み込もうとしています。
このような変化は大いに歓迎されていますが、遅す
ぎた感もあります。 他の先進国と比べ中国は、インフ
ラ整備の遅れが長い間、障害となってきました。 たと
えば、ばらばらで複雑な流通システム、国内の保護主
義、サードパーティーの能力不足、キャッシュフロー
と売掛債権の問題、時代錯誤で制約的な法規制など
です。 これらのために、現在、中国には効率的と言え
るサプライチェーンがほとんどなく、また、この分野
の発展には時間が掛かることが想定されます。 しかし、
二〇〇一年末のWTOへの加盟と、政府の規制緩和
によって、中国のサプライチェーンの近代化はこれま
で以上に差し迫ったものとなってきています。
本稿では、中国のサプライチェーンインフラの現状
を説明し、サプライチェーンにかかわる主要課題を識
別、非効率的なサプライチェーンがもたらす影響を要
約し、改革のドライバーとなる動き――市場の成長、
自由化政策、WTOへの加盟――について説明します。
また、最後に将来の方向性や今後取り組むべき課題
についても検討します。
中国サプライチェーンの課題
中国のSCMには重要な課題が六つあります。 すな
わち、地理的問題、インフラ、関税の効率性と透明
性、政府機関と規制、模造品問題、そして文化的・
ビジネス上の制約です。
地域専制を続ける自治区
中国にはたくさんの自治区・地域が存在しています。
四九年以降の毛沢東主義の遺物である自治区には、冗
長な産業インフラが築き上げられています。 たとえば、
生産・流通の過剰設備、地域間の不十分なシナジー
効果、複雑で非効率的な官僚主義、非生産的なロー
カル保護主義の重視などです。
また、中国の国内需要は地域的に不均衡で、南部
の都市部周辺、東部の沿岸地域、並びに北京、天津、
上海に集中しています。 当然ながら、これらの地域に
は中国の主要なロジスティクス・インフラ、港湾やハ
ブ空港があります。 また、一人当たりの所得が最大と
なるのもこの地域です。
一方、中国の内陸部と西部には、人口の三分の二
が住んでおり、もっとも重要な開発チャンスが存在し
ています。 一人当たりの所得は低く、ローカル保護主
義、アクセスの悪さ、インフラ不足が、ビジネスの発
展を困難なものにしていますが、そこには大きなビジ
ネスチャンスが眠っています。 多くの外国企業は短期
的にはこれらの地域への優先度を下げていますが、家
庭用品のブランドを持つ企業や中国東部で基本的な
ケイパビリティを持つ企業は、中国西部での活動を身
《第1回》
変革のとき――中国のSCM
短期集中連載
第2特集
29 JANUARY 2003
近にとらえはじめています。
不十分なインフラ整備
世界の先進工業国の中で、中国はインフラ整備が
最も遅れています。 中国には道路、鉄道、空港、港湾、
物流ネットワークの能力が不足しているため、中国市
場に参入する企業は、SCMの標準的なアプローチを
適用することはできません。 現在、中国でもっとも一
般的な移動手段は道路であり、次に鉄道、航空、海
路、水路の順となっています。
●道路
一般に、トラック輸送は鉄道や水路よりコスト高に
なりますが、中国では梱包済み最終製品の輸送手段
として好んで利用されています。 外国企業にとっては、
トラック輸送のほうが配送時間や配送形態に、より融
通が利き、管理しやすくなるからです。 たとえば、デ
ルコンピュータは七日以内の納品を実現するため、当
初は製品を空輸しようと考えていました。 しかし、後
に地元運送業者にトラック輸送させるほうが、有効か
つ安価であることを認識しました。
中国のトラック輸送はデルをはじめ他社でも成功し
ています。 しかし、まだまだトラック輸送の課題は残
されています。 中国政府もそのことを認識しており、
トラック輸送網の整備に何十億ドルも投資しています。
中国の主要経済ゾーンと沿岸部、揚子江沿いの主要
四省の幹線道路、蘭州から連雲港、北京から広州を
つなぐことが第一の目標です。 しかし残念ながら、こ
のような取り組みはまだトラック輸送の需要に追いつ
いていません。 都市部ではいまだに渋滞が激しく、上
海や北京などの都市では輸送に時間がかかっています。
また中国のトラック輸送産業は、細分化されており、
五四〇万台のトラックの登録に対して、二〇〇万社
以上のトラック運送業者が存在しています(一社当た
り平均二・七台)。 全運送業者のうち、シノトランス
(
Sinotrans: China National Foreign Trade
Transportation Group Corp.
)が最大で車両保有台
数は三〇〇〇台です。 二位のBeijing City Transport
社の二倍の規模となります。 しかし、全国規模の物流
ネットワークは存在していません。 地元の起業家や地
方自治体の関連業者が保有する非効率的で旧式の車
両が幅を利かせています。
トラック輸送にかかわるその他の懸念事項として、
過積載、サービスの悪さ、不十分なトラック整備、効
率の悪さ、品質管理の悪さ、貨物損傷などがあります。
これらの原因として、道路の悪さや設備不良、価格カ
ルテルによって競争原理が働かないことなどが挙げら
れます。 また車の行き来のない道路も平均しておよそ
五〇%あり、年間経済損失は八〇億米ドルに達して
います。 設備の向上とテクノロジーへの投資には、比
較的小額しか費やされていません。
登録済みの大型トラックは全国で一八万七〇〇〇
台しかなく、コンテナ付きはその二〇%にすぎません。
商品を屋根のないトラックの荷台部分に平積みするた
めに、たびたび損傷が発生しています。 海外と国内の
運送業者はコンテナ付きの長距離輸送用トラックを導
入し、もっと効率的なインターモーダル・オペレーシ
ョンを行っています。 しかし、地域間の輸送には、地
域の保護主義や複雑な認可制度などにより問題点が
多く残されています。
地域の保護主義は、特に大きな問題となります。 事
実、いくつかの地域や地方自治体では、外部の運送
業者がライセンスを確保することができず、貨物を次
の管轄区で別のトラックに積み替えなければならない
状況が生じています。 多くの都市でトラックがライセ
JANUARY 2003 30
ンスなしで市内に入ることを認めておらず、ライセン
ス取得にも時間が掛かります。
場合によっては、トラックは特定地域内では片道運
搬だけに制限されており、多くの都市ではトラックが
入ってくる時間を制限しています。 また、管轄区によ
っては、単に外部運送業者にはライセンスを与えず、
地元産業を保護している場合もあります。
最後に、中国のトラック輸送コストの二〇%は、通
行料金に費やされ、地域によっては、その地域以外の
トラックに追加料金を課しているところもあります。
地方当局の中には、外部トラックを抑制し、罰金を科
している場合もあります。
中国ではロジスティクスを管理する地方当局の力を
過小評価するわけにはいきません。 たとえば、西安市
の職員は、ロジスティクス・ハブとしてその地域を発
展させるために、運送業者に地域内の倉庫を使用する
よう義務づけていました。 北東部の黒竜江省を拠点に
した民間運送業者のHoaU
は、独自の施設を建設し、
この義務づけを拒否したところ、同市によって商品を
差し押さえられ、二カ月間にわたり西安市内で輸送を
行うことができませんでした。 またセキュリティ面に
も重要な懸案事項であり、内陸部では護衛をつけるこ
とがきわめて重要となります。
●鉄道
鉄道は、穀物や石炭などの物資輸送に使われる中
国では最も安価な輸送手段です。 軍需物資や戦略的
物資の輸送に長年、優先的に利用されてきたためです。
今日も、鉄道は石炭や穀物、その他、化学製品など
の大量の資材を運ぶ際に優先的に利用されています。
にもかかわらず、鉄道は商業輸送にはあまり利用され
ていません。 その理由として、輸送能力の不足と、サ
ービス精神の低さが挙げられます。
アクセンチュアの調査では、鉄道による貨物需要の
二五〜三〇パーセントは満たされておらず、鉄道によ
るアクセスができない町は二〇〇〇程度あります。 こ
のような状況は、インフラ不足によるものが大きいと
言えます。 たとえば、インターモーダル接続や港湾・
工場への鉄道の引き込み線がないために、鉄道を選択
することを困難にしています。
インターモーダル接続がないと、コンテナをトラッ
クから鉄道車両に積み込むことができません。 また鉄
道の引き込み線がないと、物資の積み込みと積み降ろ
しで二度の作業が発生し、貨物損傷を引き起こす可
能性が増えます。 しかも損傷率は、道路輸送と比較し
て三倍ほど高いとみられています。
最後に付け加えると、輸送中の貨物が当局の圧力
で「優先順位の高い」荷物を運ぶために列車から降ろ
されることが頻繁にあります。 これに加えて、情報イ
ンフラが整備されていないため、鉄道に関する問題は
さらに大きくなります。
・輸送の追跡がほとんど不可能で、荷主は情報をほと
んど入手できない
・輸送スケジュールに融通が利かず、特にコネや何ら
かの関係がないと予約だけでも何週間、あるいは何
カ月もかかる
・貨車満載の荷物は通常、長期的なサービス契約だ
けに限られる
これらの弊害により、大幅な遅れが日常的に発生す
ることになります。 輸送時間が掛かり、貨物は間違っ
た目的地に到着したり、どことも知れない鉄道基地に
置き去りにされることになります。 上海から北部地域
までにかかる時間は平均して一五日から四五日、北東
地域までは六〇日かかることもあります(輸送期間は
日数ではなく週数で示されています)。
道路網の整備は急ピッチで進められているが‥‥
31 JANUARY 2003
その結果やはり、多くの企業が別の配送手段を考え
るようになります。 たとえば、マクドナルドの配送を
請け負っているHAVIフード・サービスでは、国内
の輸送に保冷トラックを利用しています。 信頼性の高
い定温輸送サービスを安く利用できるのなら、本来は
鉄道が理想的な手段となったはずです。
中国の鉄道サービスは、COSCO(China Ocean
Shipping Company
)やシノトランスが一部のサービ
スを提供していますが、ほとんどは鉄道省が管理して
います。 今までは、これらの組織は旅客サービスに力
を入れていましたが、次第に貨物輸送ニーズへの認識
が高まりはじめています。 最近では鉄道省が率先して、
鉄道インフラの向上と輸送能力や輸送スピード・アッ
プを狙いとする、いくつかのプロジェクトを立ち上げ
ています。
●航空
中国の航空輸送は、長期的にはかなりの成長が予
想されますが、現時点では問題点が山積みの状態です。
価格が高く、ルートが限定されており、航空会社と運
送会社間の情報交換は限られています。 しかも主要な
中国航空会社の旅客重視の方針から積載能力も不十
分であり、空港ネットワークも水準以下です。 航空輸
送業者の提供するサービスも、欧米の水準には至って
いません。 このような状況であるにもかかわらず、海
外の輸送業者は輸送能力の増大に制限を受けていま
す。
今後一〇〜一五年にわたり、中国は空港施設の建
設に数十億ドルの投資を計画しており、その一つとし
て、香港空港に対抗した航空貨物用のスーパーハブ空
港を広州に建設することを計画しています。
航空速達便では特に、貨物ターミナル各部門のサー
ビス時間の短さと予定外の閉鎖に悩まされています。
国外への即日配達は早朝に顧客から商品を引きとら
ないと問題が発生します。 このセグメントでの税負担
も、他の輸送方法に比べ高くなります。
●海路と内陸部水路輸送
船舶輸送は、中国ではもっとも発達した輸送セクタ
ーであり、海・河川含めて一二〇〇カ所の港湾が三
万三〇〇〇隻分の停泊所を提供しています。 そのうち
七八〇以上の停泊所が一万トン級以上の船舶に対応
できます。 中国の海運業者は、世界最大規模にランク
されており、COSCOは世界で七番目に大きい船
舶輸送企業に位置づけられます。
もっとも国内水路輸送は安価であるにもかかわらず、
以下のような理由で十分に活用されていません。
・ほとんどの港湾は、国際的な水準の効率で貨物を処
理・管理できる能力がない
・船舶輸送スケジュールは融通が利かないことが多い
・輸送の信頼性が低い
・インターモーダル・オペレーション時に数回のクレ
ーンによる積み替えが必要となり、ボトルネックと
なっている
・関税処理においては官僚的な進め方による遅れが日
常化している
・港湾での盗難が多く、損傷率が高い
・過剰な処理能力となっている
・大型貨物船舶を収容できない港湾がたくさんある
このような課題に対し、中国では最近、内陸水路
輸送に一七億米ドルを投資し、インターモーダル・ケ
イパビリティを備えた国際水準のコンテナ・ネットワ
ークの構築も計画しています。 今後一〇年で、大連、
寧波、青島、上海、深 、天津にコンテナ港が建設、
拡張される予定です。 さらにシノトランスや他の船舶
輸送会社は現在、内陸停泊サービスをハブ港湾にて
第2特集
ているケースもありますが、十分な規模をもたないた
めに高価なものになりがちです。 近代的な倉庫が増え
るにしたがって、より高品質のサービスを、より低料
金で、またその他の付随サービスも利用できるように
なるでしょう。 すでに、高度な倉庫管理とサプライチ
ェーン・ケイパビリティを完備した、いくつかのロジ
スティクス・ハブの建設計画が、中国政府あるいは自
治体から発表されています。
EIU(Economist Intelligence Unit
)の最近の
レポートによれば、二〇〇五年までに、政府は国内に
三〇カ所に及ぶ近代的なロジスティクスセンターの建
設をもくろんでいます。 このようなセンターは現在す
でに、上海に二カ所を建設中であり、そこでは、地方
行政府がワールドクラスのロジスティクスビジネスの
立ち上げに一五〇億米ドルの投資を計画しています。
三つ目のセンターは、北京に建設される予定です。 H
AVIなどの企業は、独自の配送センターを建設して
おり、生産性は欧米のトップレベルにまで近づきつつ
あります。
●情報テクノロジーインフラ
中国におけるロジスティクスのオンライン化を進め
る試みが始まっています。 しかし、中国のITやイン
ターネット普及はまだ低いレベルにとどまっています。
事実、二〇〇一年のIDC(International Data
Corporation
)の報告によれば、中国の電子ロジステ
ィクスサービスは、「非常に低い」と評されました。
IDCによれば、ごくわずかの多国籍企業は年間平
均一五〇万米ドルをeロジスティクスに費やしていま
すが、中国の中小企業がeロジスティクスに投資して
いる金額は年間平均で五〇〇〇米ドルとなっています。
その結果、ロジスティクス市場におけるeロジスティ
クスの比率は、香港では十二%であるのに比べ、中国
JANUARY 2003 32
提供し、そこで貨物が遠洋貨物船に積み替えられるよ
うにしています。
一般に海路と内陸水路輸送は、完成品や時間重視
の貨物には向いていません。 しかし、P&Gなどの企
業は、特定の状況ではコスト効率の高い内陸水路輸
送を利用しています。 たとえば北京から広州への帰路
には、トラック輸送より安く、損傷あるいは盗難など
による追加コストがかからないという理由で内陸水路
輸送を使っています。 船舶輸送や内陸停泊所は大量
物資を特に長距離運ぶためには有効な手段であると考
えられています。 しかし、より完成度の高いインフラ
が整うまでは、この方法はまだ十分に利用されない状
態が続くと予測されます。
●倉庫
近代的な倉庫設備が中国には必要です。 現在、倉
庫キャパシティの九〇%以上を国が管理しています。
現在の倉庫オペレーションはまだ未熟です。 自動化は
限られており、非効率的な設計で、天井が低く、照明
設備も不十分です。 湿度や冷蔵品を管理するには温
度調節の信頼性が低く、浸水の可能性もあり、害虫
管理も十分ではありません。
商品は手作業で取り扱われ、積み上げられて、ラッ
クの設備さえない場合があります。 また、汚染の危険
性を考えずに乱雑に置かれています。 倉庫の自動化や
情報テクノロジーの利用はまだ中国では稀です。 その
結果、倉庫では、お粗末な在庫管理による品目・数
量の不一致、限定的なオーダートラッキング、在庫の
陳腐化、減価、盗難、損傷が頻繁に発生しています。
このような理由から、多くの企業において、倉庫の
設計、インフラ、テクノロジー、運用の改善が優先課
題となっています。 近代的な海外のロジスティクス・
ジョイント・ベンチャーによって倉庫業務が提供され
33 JANUARY 2003
では一%以下となっています。
中国の倉庫企業協会(Storage Association
)の調
査によれば、中国のロジスティクスサービス企業の六
一%は、ロジスティクス情報システムさえ持っていま
せん。 情報システムを持っている企業の約三分の一だ
けが、顧客に在庫の財務サマリーを提供しています。
さまざまな試みがなされていますが、中国では関税
書類、電子決済、サードパーティー管理、あるいはサ
プライヤーのリスク管理などにオンラインシステムが
ほとんど導入されていません。 手作業でサプライチェ
ーン業務を行うために、より多くの人手が必要になり
ます。 さらにIT利用が低いために、貨物トラッキン
グ、サプライチェーン企業間のコミュニケーション、
顧客ニーズや嗜好データの入手や利用が難しく、信頼
性や利便性が犠牲になっています。 中国のコンピュー
タ業界誌の報告によれば、中国のインターネット・ユ
ーザーの八〇%は支払のセキュリティに不安を持って
おり、それが、オンライン取引の支払を代金引換にし
ている主な理由となっています。
多くの中国企業は、先端テクノロジーの導入が遅く、
国営企業や地域企業はERPシステムの導入を始め
たばかりです。 しかし、信頼できるデータの統合デー
タベースや、標準化されたビジネスプロセスなしでは、
優れたオペレーションを実現することは非常に難しい
状態です。 また高度なサプライチェーンの取り組みを
開始することも不可能です。 その実現には、標準化さ
れ、いつでも利用可能なデータやリエンジニアリング
された業務プロセスが前提条件となるからです。
しかし、ERPソリューションを戦略的に導入して
成功させている中国企業の多くは、コストをはるかに
上回る効果が上がっていることを認めています。 サー
ドパーティー企業は、洗練された情報テクノロジー・
ソリューションを開発しており、中国企業はそれらの
レディーメイド型のソリューションに関心を示しつつ
あります。
面倒で非効率な通関業務
中国では、通関業務において非常に面倒な手続き
が必要です。 その結果、事務手続きが大量で、処理が
非効率的になっています。 さらに、通関業務は、一定
のサービス時間内でしか処理されず(サービス時間は
短く)、休日にはサービスを受けられません。 対照的
にアジア諸国のほとんどの港湾では、一週間七日、一
日二四時間の通関サービスを提供しています。
さらにやっかいなのは、書類、関税や評価額に関す
る問題が発生した際には、その問題が解消されるまで、
税関が商品を差し押さえてしまうことです。 これは、
通関手続きの遅れを生み、中国でビジネスを展開して
いる外国企業が最も問題にしている点でもあります。
税関の問題は、電子処理が導入されると解消されるものもありますが、まだ普及されておらず、多くの場合
は手作業で処理されているのが現状です。
しかし、政府や企業がこの問題に注意を払うように
なると、短・中期的にはかなり改善されることが期待
されます。 通関手続きのコンピュータ化はまだ始まっ
たばかりです。 中国国営のITサービス・ジョイン
ト・ベンチャーであるChinaeport
は、eコマースを利
用してペーパーレスの取引を実現し、官公庁その他組
織向けにデータ・センターを有効活用している企業の
一例です。
担当が不明確な政府機関
中国では、ロジスティクスはまだ明確に定義されて
いません。 ロジスティクスの各サービスは、さまざま
第2特集
ハード面での整備は進んでいるが、
ソフト面はこれから。
(写真は上海港と外高橋保税区)
JANUARY 2003 34
な政府部門が管轄しています。 ロジスティクスの監督
は、国内通商担当局、通信省、鉄道省(MOR)、国
家経済貿易委員会(SETC)、国家開発計画委員会
(SDPC)、対外貿易経済共同体(MOFTEC)、
および民用航空総局で分担しています。
当然ながら、このような分担は、多くの企業(国
外・国内企業)にとって、どの政府部門が自分たちの
領域を担当しているか見極めるのを難しくしています。
複数領域にまたがって仕事をする際に、異なる政府部
門から承認が必要となる場合は、さらに困難になりま
す。 事業領域の制約や不透明な法規制とともに、所
轄官庁の重複は、市場へのアクセスをますます難しく
しています。 外国企業にとっては、ひとつの認可で自
社の事業活動をすべてカバーすることなどありえませ
ん。
●法規制
中国のサプライチェーンが未発達なのは、厳格な法
規制によるところが大きく、過去に外国企業の活動に
対して厳しい制約をつけた結果でもあります。 ?流通
チャネル、?多国籍企業の統合、?3PL企業――
という三つの分野から、これら法規制による管理の結
果を確認してみましょう。
・外資系企業(FIE)は部品販売会社を設立でき
ない
・厳しい輸入税と付加価値税(VAT)
・中国南部の?グレーチャネル〞が輸入市場の発展を
妨げる
・業界によっては現地調達率の規制あり
・中国法人をもたない外国企業は、海外貿易権(F
TA)を所有しない限り、直接中国の会社に販売
することはできず、認可された輸入業者を通して販
売する
・代表オフィスは販売およびその他直接の事業活動は
できない
・FIEは独立法人として販売子会社を設立できな
い
・厳しい取引制限があり、FIEは一般に自社製造
品の販売・流通のみ許可される
・FIEは輸入販売に関わることはできない
・FIEは卸売会社を設立できない
・小売業界の対外直接投資(FDI)は厳しい政府
管理下にある
・フランチャイズの形態に制限あり。 直接販売とマル
チ商法は禁止
・業界によっては生産能力の増強に、政府の承認が
必要
・FIEは自社の製造品にのみアフターサービスを提
供できる
・外国・輸入品のアフターサービスは、中国国内のサービスセンターで行う
・サービス・ジョイントベンチャー(JV)は現行の
法規制のもとでグレー領域を占有。 一〇〇%外資
の企業には許可されない
・ロジスティクス・サービス領域のFDIは厳しい政
府管理下にある
・FIEはロジスティクスサービスJVの過半数株主
になることはできない
・外資系メーカーは、自社の現地製造品の流通に関
わることができる
(次号に続く)
ロバートJ. イーストン(Robert J. Easton)
アクセンチュアのサプライチェーン・マネジメント
=アジア太平洋地域統括パートナー。 中国、香港、
韓国、台湾のサプライチェーン・サービスに従事。 サ
プライチェーン戦略、プロセス・リエンジニアリン
グ、パフォーマンス管理、システム・インテグレー
ション、チェンジ・マネジメントなどに20年以上の
経験を有し、著書多数。 マッコーリー大学院にて
MBA取得、シンガポールのC o m m a n d a n d
General Staffカレッジを卒業。 現在、香港を拠点
に活動している。
第2特集
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