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事例で学ぶ
現場改善
日本ロジファクトリー
代表 青木正一
FEBRUARY 2003 64
総勢一〇〇人に上る物流コンサルタントを育
成する。 それが大手路線業者A社向けコンサル
ティングの第一ステップだった。 そのために実
施した計十二回の指導(研修)を通じて出席
人数の増減はほとんどなかったが、途中、参加
メンバーの交替は発生した。 前半から興味をも
ち、積極的に参加していたメンバーは、最終回
まで輝いていた。
次のステップに研修を進める前に、嬉しい報
告があった。 石田センター長のグループが、コ
ンサルティング案件を八〇〇万円で受注したと
いう。 しかも、上場企業のコンサルティング会
社をコンペで破っての受注であった。 勝因を聞
くと「物流コンサルタントの名刺を出すと先方
が様々な物流関連の情報を開示してくれた。 そ
のお陰で納得のいく提案ができた」という。 こ
のコンペの担当者となった石田センター長グル
ープの参加メンバー四人全員が、私と約束した
通り、名刺に「物流コンサルタント」と印刷し
てくれていた。
研修を第二ステップに進めるにあたって、彼
ら石田センター長のグループの四人のほか、本
社システム部を中心に計十二人の選抜されたス
ペシャルチームが編成された。 このチームを相
手に、研修形式から会議形式にシフトさせて実
践指導を行った。 テーマは図1の通りである。
決算書の読み方
第二ステップは「実際の案件にどのように対
応するか」ということ、そして「経営や生産、
販売から物流を見る」ことに力点を置いた。 結
果として、基本的な「財務データの読み方」が、
収穫の大きいものとなったのは意外だった。 彼
らは選抜された精鋭たちではあったが、そうし
た経験を持っていなかった。
第2回
主に中小規模の荷主企業やトラック運送会社をクライアン
トとして、物流現場の泥臭い改善を数多く手がけてきた日本
ロジファクトリーが、具体的な事例をもとに物流改善のノウ
ハウを解説する。 今回は前号の後編として、大手路線業者を
対象に行った物流業者の営業マン研修を紹介する。
大手路線業者A社の営業マン研修《後編》
1
.
最新コンサルタント事情
2.
経営コンサルタント養成講座 〜経営から物流を見る〜
(営業戦略づくりの方法/生産改善効率化の方
法/財務データの読み方)
3
.
コンサルティング活動の情報収集
〜アプローチ〜受注まで
(ケーススタディ三社)
4
.
コンサルタントによる物流改善手法
(ケーススタディ三社)
5
.
コンサルティングのルール化、ノウハウ化
(受注のルール化/コストダウン必勝パターン/
A社における3PLのルール化/ノウハウ化)
図1
あおき・しょういち 一九六四
年生まれ。 京都産業大学経済学
部卒業。 大手運送業者のセール
スドライバーを経て、八九年に
船井総合研究所入社。 物流開発
チーム・トラックチームチーフ
を務める。 九六年、独立。 日本
ロジファクトリーを設立し代表
に就任。 現在に至る。
65 FEBRUARY 2003
の中にも指導についていけない社員が数人出て
きたのだ。 路線会社の雄とされるA社といえど
も、二四回の物流コンサルタント養成カリキュ
ラムを消化するのは難しかった。 そこで山村氏
と改めてミーティングを行った。 今回の我々の指導で、A社の営業スタイルは
従来の方法が六五%、日本ロジファクトリーか
ら導入した新たな物流コンサルノウハウの注入
が三五%という状態になっていた。 完全移植で
はなく、部分移植というわけだ。 これをA社の
営業の最前線で直面している案件に活かし、実
際に受注に繋げようという狙いを立てた。
仕切り直し後のテーマは次のようになった。
?受注するためのツール
?営業活動の方法
(スケジュールの決め方、手帳の使い方など)
?キーマンの見つけ方
?アポイントの取り方
?名刺の利用方法
?商談のすすめ方
?交渉のすすめ方
?営業マンの考え方
?既存売上の守り方
提案営業の現場に出る
これをOJT形式で進めるのだ。 こうした売
り上げ拡大に向けた施策と共に、経費を下げる
という両輪での整理も必要だった。 そこでA社
における役職別に業務分担を決定していった。
本社は販促キャンペーン、店長は顧客のトップ
またはキーマンへのアプローチ、係長は車両拡
張の手配といった具合である。
荷主企業への提案には私を含めた日本ロジフ
ァクトリーの他のメンバーも参加した。 A社の
抱える農業資材メーカーC社の案件で、我々に
導入コンサルティング、調査、分析と改善提案、
報告書の提出まで、一貫して手伝って欲しいと
いう依頼だった。 C社は「コストダウンを前提
としたアウトソーシングの実施」を要請してい
た。 また、リストラの一環として既存のC社の
物流スタッフの受け入れも求めていた。
A社はC社とは以前から取引があった。 しか
しメーンの協力会社ではなく、路線業者として
は三番手に位置していた。 そこに第一ステップ
の物流コンサルタント養成指導を受講したA社
の堀営業課長が提案を持ち込み、最後に本社
システム部も加わってコンサルティングの受注
にこぎ着けたという案件だった。
我々にとっては、少々やっかいな流れであっ
た。 ファーストアプローチ、セカンドアプロー
チまでに参画していない我々には、先方のニー
ズや狙い、それに至る背景や微妙なニュアンス
が理解できない。 その結果、改善提案がぶれる
可能性がある。
しかし、今回はA社スタッフの情報収集力を
信じて対応するしかない。 早速、我々側でプロ
ジェクトメンバーを編成し、我々の名前と「委
託コンサルタント」という肩書きを刻んだA社
の名刺を作成してもらった。
調査初日、A社と日本ロジファクトリーのプ
ロジェクトメンバー五人は、C社の西日本セン
ターに入った。 当センターは地場の物流会社の
倉庫を賃貸したものだった。 二層式で延べ三〇
〇坪という規模のセンターだ。
現場調査の第一歩は「挨拶と整理整頓」であ
研修では実際に「最近、3PLで受注した
上場大手小売業の決算書」と「有価証券報告
書」を配布して、物流費はどこにあるのか、物
流関連の資産はどこにどれくらいあるのか、今
後の物流関連の投資はどのように計画されてい
るのか、などを慣れない情報源から拾い上げて
いった。 例えば、あるクライアントの決算書に
は図のような情報が記載されていた。
このような数字をチェックをしながら、その
詳しい内容や情報を担当者メンバーと擦り合わ
せていった。 分析は借入金とその内容から与信
管理にまで広がっていった。 こうして決算書だ
けからでも、かなりの情報を得ることができる。
「情報は求めている所に集まる」「情報は出せば
出すほど集まってくる」――これはコンサルテ
ィング業の鉄則である。
第二ステップの指導も中頃になって、テーマ
の仕切り直しの必要に迫られた。 精鋭メンバー
?役員の状況:提案窓口である専務は、社長の弟であ
り、高校を卒業後、兄と同じくA商事
に入社し、現在の会社に至っている。
49歳である
?経営組織図:物流部が大阪、東京にある
?商品群売上高構成比率:家電が全体の22%から17
%に減少していた。 (この実態はA社
のメンバーも知っていた。 不良品が出
て、大幅な返品があって以来、出荷が
伸びていないという)
?物流関連設備:自社センターを3カ所に所有してい
た。 延べ3万9000平方メートルの土
地に対して、約1万5000平方メート
ルの建物を持っており、賃貸倉庫が約
4000平方メートルあった。 そして、
物流センターの新設予算として10億
円が計上されていた
?損益計算書:支払物流費は昨年が37億6500万円、
今期が38億円と3500万円程増額し
ていた
図2
FEBRUARY 2003 66
る。 残念ながら、挨拶のできない現場であった。
またセンター内に入るとまず、照明の暗さが印
象的であった。 その他、ロケーション、レイアウ
トの悪さによる人員動線、棚番地、事務所内に
おける受注人員の多さなどに課題が見られた。
一週間後、栃木にあるC社の東日本センター
も調査した。 うだるような暑さで、センター内
の温度は四〇℃を超えていた。 汗でズボンがま
とわりつく。 この東日本センターでは、西日本
とは全く別に独自のオペレーションを行ってい
た。 ロケーション設定のルール、適正在庫の設
定などが統一されておらず、非効率であった。
梱包材の規格も西日本とは違っていた。
C社の現場には物流という概念がなかった。
専門の部署も責任者もいないことは現場を見れ
ば明らかだった。 センター見学の帰途、最寄駅
前のコーヒーショップでプロジェクトメンバー
と大枠を擦り合わせた。 その数日後、A社の本
社でプロジェクトミーティングを行った。 ここ
で「?仮説出し」「?報告書目次内容」「?分
析作業」の役割分担を決定した。
A社がC社から包括的アウトソーシングを受
注するには、従来よりもコストダウンできる運
賃タリフを提示する必要があった。 一般に路線
会社が他社の運賃データをもらって、自社に移
行した場合のシミュレーションを行うには莫大
な手間と時間がかかる。 一つひとつ自社のタリ
フに落とさなければならないからだ。 しかし避
けては通れない作業であった。
運賃シミュレーションと情報システムをA社
が行い、ロケーション設定、適正在庫の設定な
どの倉内作業改善と、受注業務改善などその
他の分析を日本ロジファクトリーが担当するこ
とになった。 報告書作成に与えられた期間は一
カ月半だった。
二〇日ほど経って、中間擦り合わせでA社の
本社を訪れた。 分析作業の進捗状況を確認し
合った。 我々は新人を社内作業で投入したこと
もあり、若干スケジュールより遅れていた。 が、
A社の運賃シミュレーションは、さらに大幅に
遅れていた。 当初計画していた人工数と実際の
作業量に大きな開きが出たためであった。
双方ともラスト七日間で追い込みをかけ、何
とか改善提案書が完成した。 報告会当日、C
社の最寄駅にプロジェクトメンバーが集まった。
全員が疲労困憊の状態であった。 C社でさらに
営業の堀課長と合流し、会議室に通された。 C
社側は専務、常務、取締役、参与など、七人
の出席者であった。
プレゼンテーションの実際
まずA社のシステム部から伝票発行のパッケ
ージシステムをPRし、改善提案の報告に入っ
た。 私からは報告書作成に至る情報収集、現
場調査などの経緯を説明し、質疑応答は最後
に時間を取りたい旨を伝えた。
約一二〇ページにわたる報告書を「総評」、
「調査分析結果」、「改善実施項目と優先順位」、
「具体的改善の進め方」という目次に沿って説
明した。 後半、我々のスタッフに疲れが出てき
たので、私に報告をバトンタッチ。 最後にA社
から新タリフを提示した。
いよいよ質疑応答の時間である。 二〜三分で
あろうか、長い沈黙があった。 嫌なムードが漂
った。 その後、専務が口を開いた。 「よくこれ
だけの短時間でここまで調べてくれましたね」。
重苦しかった場が、急に明るくなったように感
じた。 続いて参与から、A社へ新タリフの確認
があった。
その辺りで、C社から出席しているメンバー
は物流の現状と実務について、ほとんど知識の
ないことがわかった。 いきなり分厚い報告書が
出てきて、自社を詳しく調べ上げているのに驚
いているといった様子だ。 C社にすれば最終的
にはA社に仕事と人を丸投げすればいいという
開き直りがあったのかもしれない。
最後にC社の常務から、「この報告書の内容
を社内でもんでみます」という返事があった。
それから約一カ月後、「質問会」を開き、A社は
アウトソーシング受け入れの準備に入った。 我々
は、ここでプロジェクトメンバーから離れた。
約二カ月後、プロジェクトのリーダーからC 社の進捗を聞いた。 物流人員の受け入れで、待
遇面その他の調査に時間がかかっているものの、
実取引額は順調に増えてきたという。 ただし完
全な移行にはあと三〜四カ月はかかりそうだと
のこと。 私はほっと胸をなで下ろした。
このOJTを振り返って見ると、A社が我々
をうまく部分起用して、使われるのではなく、
主体性を持って「使った」点は成功であった。
しかし、実務改善をA社のアセットとアウトソ
ーシングでカバーするC社の丸投げ姿勢には懸
念が残った。 経験上、アウトソーシングの本当
の成果は一年から一年半が経過しないと表れて
こないものだ。 完成度としては六〇点と評価し
ている。
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