ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年2号
中国SCM
流通チャネル規制と成功モデル

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

67 FEBRUARY 2003 流通チャネルの複雑さと高度化 中国におけるサプライチェーンの 発展は、長い間、ローカル保護主義、 不公平な競争、国家および自治体レ ベルのさまざまな法規制により制約 を受けてきました。
中国の流通チャ ネルも同様の制約を受けており、一 九七〇年代から八〇年代にかけて発 展してきた以下の三階層からなる管 理構造の制限を受けてきました。
・一次流通業者は、北京、上海、天 津、広州、広東を拠点に活動 ・二次流通業者は、各地の州都や中 規模都市で活動 ・三次流通業者は、小規模都市や町 で活動 このような構造のもとで、流通業 者は基本的な物流サービスを提供し ていましたが、マーケティングあるい はセールスサポートは行っていません でした。
また、製品輸入も禁じられ ていました。
法律により外国商社は 流通業者を通して商品を販売する必 要があり、独自の物流チャネルやロ ジスティクス・インフラを持つこと はできませんでした。
国内の流通業 者は、商売意識を持ち、革新性を求 第2回 める必要はありません でした。
単に、生産者 から地方の物流拠点ま で商品を運搬すること だけが求められていま した。
今日の法規制のもと ではまだ、中国で製造 した製品を除いて外国 企業が製品を直接小売業者に配送することは 禁じられています。
ま た外国企業は独自の物 流チャネルを所有、あ るいは管理することは できません。
業界によ っては、このような規 制は特に厳しくなりま す。
たとえば、八八年 以前は海外の自動車会 社は、独自のディーラ ーばかりでなく、合弁 のディーラーを設立す ることも禁じられてい ました。
図2のとおり、外国 企業は多階層からなる 流通チャネルを通して 製品を販売するために、 その多くは標準以下の アクセンチュア ロバート J. イーストン アジア太平洋地域統括パートナー 流通チャネル規制と成功モデル 前号に続き、中国市場におけるSCMの実態を報告する。
今 回は流通チャネルの現状を解説すると共に、中国政府・自 治体の厳しい規制の網をかいくぐり、物流ネットワークの構 築に成功している外資系企業の事例を中心に紹介する。
●外資系企業 (FIE)は部品販売会社 を設立できない ● 厳しい輸入税と付加価値税 (VAT) ●中国南部の"グレーチャネル"が輸 入市場の発展を妨げる ●業界によっては現地調達率の規 制あり ●代表オフィスは販売およびその他 直接の事業活動はできない ●FIEは独立法人として販売子会社 を設立できない ●厳しい取引制限があり、FIEは一 般に自社製造品の販売・流通のみ 許可される ●FIEは輸入販売に関わることはで きない ●FIEは卸売会社を設立できない ●小売業界のFDIは厳しい政府管理 下にある ●フランチャイズの形態に制限あ り。
直接販売とマルチ商法は禁止 ●業界によっては生産能力の増強 に、政府の承認が必要 ●FIEは自社の製造品にのみアフタ ーサービスを提供できる ●外国・輸入品のアフターサービス は、中国国内のサービスセンター で行う ●サービス・ジョイントベンチャー (JV)は現行の法規制のもとで グレー領域を占有。
100%外資 の企業には許可されない ●ロジスティクス・サービス領域の 対外直接投資 (FDI)は厳しい政府 管理下にある ●FIEはロジスティクスサービスJV の過半数株主になることはできな い ●外資系メーカーは、自社の現地製 造品の流通に関わることができる ●中国法人をもたない外国企業は、 海外貿易権(FTA)を所有しない限 り、直接中国の会社に販売する ことはできず、認可された輸入 業者を通して販売する 調 達 製 造 ロジスティクス 1次サプライチェーン 2次サプライチェーン 流 通 顧客接点 図1 サプライ・チェーンにおける規制問題 (WTO加入前) ケイパビリティしかない、地元の企 業に依存せざるを得ませんでした。
そ の結果、中国の流通チャネルの多く は非効率的でまとまりがなく、コス ト高となっています。
たとえば、卸売業者は通常、小規 模で財政的に弱く、売掛回収日数は しばしば九〇日を超えています。
販 売力はほとんどなく、マネジメント の質も水準以下で、明確な戦略など ほとんど持っていません。
輸送、倉 庫、在庫管理能力もお粗末で、商品 の損傷、過剰在庫を引き起こしてい ます。
倒産する企業も多く、物流ネ ットワークの崩壊につながっていま す。
さらに中国には全国的な流通業者 がなく、中小規模の地域業者がひし めいています。
たとえば、EIUの レポートによれば、中国の医薬品業 界には一万六〇〇〇社の卸売業者が 存在しています。
これに対して米国 ではたった八社で、その半分が全製 品流通の八〇%を占めています。
Zuellig Pharma というサプライチ ェーンマネジメント企業は、中国の 医薬品業界にサービスを提供してい ますが、一〇〇都市にまたがる五〇 〇社以上の卸売業者と取引をしてい ます。
このような状況では、規模の 経済を築き上げることはほとんど不 可能です。
中国の流通チャネルの多階層構造 はまた、ロジスティクスのサービスレ ベルと販売時点管理を困難にしてい ます。
流通業者が多くの下請会社を 利用する必要があるからです。
現実 にメーカーの多くが納期や納入状態 を管理できないため、販売時点管理 が販売・マーケティングにとって大 きな課題になっています。
たとえば棚スペースの確保にマー ジンを支払っても、社員を増員して 確認させないかぎり、自社商品が正 しい棚スペースに積まれているかチ ェックすることはできません。
さらに 卸売業者は顧客の要求や好みに関す る情報を提供できず、顧客からのフ ィードバックを求める姿勢はなく、そ れどころかフィードバックを喜びませ ん。
地域をまたがって販売する場合に はもっと悪い状況が起こります。
つ まり、卸売業者がばらばらな価格戦 略を利用して、ある地域で大量に製 品を仕入れ、別の場所でそれを販売 するということが日常的に行われて います。
およそ一二〇〇万から一六〇〇万 の小売店がある消費財業界は、中国 における物流の問題や商習慣の事例 を示してくれます。
中国の小売店の 九〇%は、フロアスペースがおよそ 一〇平方メートルの「パパママ・ス トア」であり、一日から二日分の在 庫を置くスペースしかありません。
直 接小売業者に配送しようとしている メーカーもありますが、成功レベル はさまざまで、全国レベルで行って いる企業はありません。
経済的に見合わないからです。
しかし、効率化を図るチャンスは あります。
たとえば、多階層の卸売 構造の中では、二次、三次の卸売業 者の多くが、一%から二%の低いマ ージンで顧客へのサービスを提供し ています。
強力なブランドをもつメ ーカーの中には、これらの末端の卸 売業者に直接働きかけて、小売業者 へのサービスの提供や、優良顧客と の直接取引を行うことで、流通構造 の階層を減らせることに気づきはじ めています。
物流コストは増えます が、流通の階層削減で、それ以上の マージンが得られるからです。
中国物流の成功例 外国企業にとって中国の過度の法 規制や未発達な物流インフラは、創 造的な物流ソリューションを採り入 れることにより、マージンを確保し、 情報、在庫、販売サービスを管理し ていかざるを得ないことを意味して います。
たとえば九九年には食品・飲料メ ーカーのSwire Beverages が中国南 部と東部での市場浸透を図って、集 中的に販売活動を行いました。
同社 は地元の小売業者をインタビューす ることからスタートしました。
その情 報を利用して、地元の独立系卸売業 者を集めて「パートナーシップ 101 」を 結成、卸売業者へのトレーニングお よびマネジメント支援を行いました。
これによりSwire Beverages はオーダ ー、在庫の管理をすることができま した。
二〇〇一年までに、同社は一〇〇 〇社の卸売業者をリストアップし、 「パートナーシップ 101 」に参加させま した。
通常ならば地域のオペレーシ ョンを緻密にモニターする必要があ るところを、潜在する取引量の多さ から、同社は卸売業者たちに最低限 のケイパビリティ要件とサービスレ ベルを満たすように強いることがで きました。
このように地元の物流業者と協力 体制を築くことは、次第に一般的に なりつつあります。
協力の方法とし FEBRUARY 2003 68 69 FEBRUARY 2003 ては物流業者へのスタッフの派遣、新 しい店舗の開店、需要予測、在庫管 理のサポートなどが挙げられます。
しかし、中国で物流ネットワーク を成功させている企業は独自の輸送 部隊を持ち、主要な顧客や重要な小 売業者に直接サービスを提供してい ます。
彼らは地域の工場や倉庫から ある一定の範囲に収まる都市部に物 流業者を配備し、辺鄙な地域では地元の物流業者を利用しています。
たとえば、ピザハットやケンタッキ ー・フライド・チキン(KFC)な どのファーストフードチェーンを傘 下に抱えるTricon は、上海の浦東地 区に最先端の物流センターを設立し、 ピザハットやKFCの店舗に食材や 備品を納品する地域供給センターへ の配送を専用トラックで行っていま す。
ベース拠点となる地域工場や倉庫 を持たない企業の場合、地域の物流 業者を選定して卸売業者との関係を まかせるのが一般的です。
しかしな がら、サプライチェーンの最大の課 題は、ハンバーガーやフライドチキン、 コーラを買う生活レベルにまで達し ていない人々がたくさん住んでいる 北東部、北西部、西部、南西部の未 開拓市場に入っていくことです。
このような隔絶された地域に入っ ていくことは、非常に骨の折れるこ とであり、もっとも優れた企業です ら、中国農村地域の新市場に参入す るには、中国東部に築いた物流イン フラやシステムに何らかの変更を加 える必要があると認識しています。
中国の物流チャネルの構築と強化 については、次の二つの点が重要と なります。
・一歩ずつ、一都市ごと、一地域ご と、一地方ごとのアプローチをと る以外に、中国の物流チャネルを 発展させる方法はない ・物流チャネルへの大きな投資は最 終的には自分たちのためになる H A V I 、 コ カ コ ー ラ 、 S w i r e 、 Tricon 、 Legend など、このような投 資を行った企業は、製品をどこでどのように販売していくかをコントロ ールしやすくなります。
中国では安 価で効率的なオペレーションを求め ることが非常にむずかしいため、そ れを実現した企業は競争上、非常に 優位に立つことになるのです。
一般的にいえば、このような流通 モデルを成功させるためには、強力 なブランドと大量の販売が必要にな 企業ブランドオーナー プラント 地域の配送センター と卸売業者 流通業者 流通業者 流通業者 ◆流通業者 (500-1000) ・非独占の流通業者  ―― 製品を店に納品  ―― 店への与信  ―― 店内の販促活動 ・何社かは改善への姿勢 と能力がある ・下請の物流業務が見え ない、 予想できない サービス ◆複数顧客  ・主要顧客以外の最終顧 客が見えにくい  ・実際の需要とサービス レベルが見えにくい ◆複数サプライヤ ・地元および輸入資材 ・特定プロジェクトの委 託製造業者 ◆ジョイント・ベンチャー・  プラント ・調達を含むオペレーシ ョンを担当 ・ときには複数の地域を 拠点にする ◆複数の配送センターと  卸売業者 ・倉庫や物流のジョイン ト・ベンチャー、あるいは ローカルかジョイント・ベ ンチャーのサードパーテ ィーが扱う ・原始的な自動システム ・日数ではなく週数で示 す納品リードタイム ・手作業の会計処理 図2 中国の消費財企業のサプライチェーン・ネットワーク例 サプライヤー 委託製造業者 主要顧客 顧 客 顧 客 顧 客 サプライヤー サプライヤー サプライヤー サプライヤー ります。
しかし、ブランド力の低い 製品でも補完ブランドやビジネスパ ートナーの協力があれば、魅力的な 提案を行うことが可能になります。
多国籍企業の統合に対する制約 中国で事業を進める多国籍企業が 直面する最大の課題が、サプライチ ェーンとバックオフィス機能を自社 のなかで統合することです。
この国 の厳しい法規制により、多くの企業 が組織、資産、オペレーション、契 約関係を自社内で重複して持たざる を得なくなっています。
多国籍企業でも中国で製造した商 品であれば国内で販売できますが、輸 入製品は、たとえそれが国外の姉妹 工場や系列会社で製造されたもので あっても、中国内で販売、流通させ ることは禁止されています。
中国に ある親会社が子会社の工場で製造さ れた製品を販売することも同様に禁 止されています。
この規制により、外国企業は製造 会社=工場が異なれば、顧客への出 荷、納品書をまとめることができな い状況になっています。
これまでの ところ現地資本とのジョイントベン チャーを持つ外国企業は、この規制 に対して以下のような対抗措置をと っています。
■持ち株会社やサービス会社 持ち株会社のもとに販売専門の組 織を設立します。
グループ内企業の 倉庫、輸送、アフターサービスも含 めて、販売、マーケティング、物流 業務を現行のジョイントベンチャー が行います。
この方法の強みは、一 オーダーに対して複数のグループ会 社から納品する場合に、ジョイント ベンチャーが顧客向け納品書、積荷、 納品をまとめることができる点にあ ります。
ただし、このような利点があるに もかかわらず、サービス会社の設立 は、以下のように困難です。
―― 資本金の条件あり (三〇〇〇万米ドル以上) ―― 認可されるまで一年以上を要す る ―― ジョイントベンチャー役員会で の満場一致の承認が必要 ―― 持ち株会社は依然として、中国 国外で製造された親会社の商品 の配送はできない ■販売サービス会社、 または販売サービス・ ジョイントベンチャー サービス会社と同様に、「販売サー ビス・ジョイントベンチャー」は、外 資系企業(FIE) の代理店あるい はディストリビューターとして活動 します。
ジョイントベンチャー会社 は引き続き自社取り扱い製品の納品 書を発行しますが、それ以外のベン チャーは、指定の販売サービス・ジ ョイントベンチャーに物流業務の権 利を引き継ぎ、そこが認められたサードパーティーに物流業務を委託す るか、持ち株会社を設立する必要が あります。
別のオプションもあります。
たと えば、ディストリビューターが所有 する場所や車輌を使用するものの、ス タッフの提供、管理は自社で行う企 業もあります。
ただし、このやり方 は協力関係が壊れると、特に外国企 業が資産や設備に投資していた場合 には、非常にリスクが高くなります。
次に規制を受けない案として、ジ ョイントオペレーション事業体を設 立し、外国グループであっても中国 の会社のように活動できるようにす ることです。
要するに、中国・外資 ジョイントベンチャーと中国企業に よるジョイントベンチャーです。
どち らの事業体も実際には中国の会社と なり、ジョイントベンチャーは、国 内企業と認識され、外資系の会社と はみなされません。
このため外資系 企業に課される規制を受けなくてす みます。
中国の3PL企業 中国で活動する外国ロジスティク ス企業は、政府規制への対応が最大 の課題であると言っています。
事実、 国営流通業者や運送会社による改革 のないことが、規制障壁と結びつい て、優れたサードパーティー・ロジ スティクス企業の出現を阻んできま した。
現在のところ、中国市場には 二%以上のシェアを持つロジスティ クス企業はありません。
現在は、一〇〇%外資の四社だけ が、中国の特別地域以外でロジステ ィクス・サービスを提供しています。
規制により、外国サードパーティー 企業は、ジョイントベンチャーを介 さない限り、物流リソースを所有す ることは禁じられています。
法的に は、外国企業はロジスティクス・ベ ンチャーの株式所有を四九%までに 制限されています。
しかし、ジョイ ントベンチャーはうまく機能してい るとはいえず、また中国政府が期待 しているケイパビリティ面での大き な発展にも結びついていません。
FEBRUARY 2003 70 71 FEBRUARY 2003 外国企業の多くは、入札時に自社ジ ョイントベンチャー・パートナーと直 接競争することになります。
またパー トナー企業は、近代化への努力やサー ビス向上の必要性を感じず、保護され た状態を享受しています。
アクセンチュアが中国のロジスティ クス企業のエグゼクティブに対して行 った調査では、パートナー企業が改善 の意欲を示さないために、ジョイント ベンチャーは期待した効果を上げてな いことが指摘されています。
下流の物流をコントロールできない こと、非効率的なサプライチェーンの 主な要因が表面化しないことで、顧客 が本来得られるはずの効率性を提供し ていくことが困難になっています。
さ らに悪いことに、外国のロジスティク ス企業は、価格、ローカルの知識、リ レーションシップ、国内ネットワーク のカバー範囲で競争することができず、 地元の会社を使うことが義務付けられ ています。
このような制約により、付加価値の あるサービスを販売して競争しようと することができない状況になっていま す。
期待できるのは、「ワンストップ・ ショップ」、すなわちトータル・サプラ イチェーン・ソリューションを顧客に 提供することです。
しかし、このため には、資産をもたないサービス提供会 社の設立と運営、才能ある人材の調達、 維持を許可するように、もっと規制を 緩める必要があります。
資産を持たないロジスティクスサー ビス提供会社の設立ができないと、ロ ジスティクスコストの負担は大きくな ります。
しかし現行の規制ではノンア セットベースのロジスティクス企業を 設立することは認められておらず、資 産を所有することがロジスティクス・ ケイパビリティの前提条件とする考え 方に立っています。
これは、サードパーティー・ロジス ティクス企業が資産の提供者ではなく ソリューションの提供者であるという 西欧諸国の考え方とは対照的です。
西 欧では、サードパーティー・ロジステ ィクス企業は、契約と直接結びつかな いかぎり資産は所有せず、資産をバラ ンスシートから除外しようとしていま す。
中国がこの問題の取り組みに失敗す ると、Sinotrans や COSCO などの国営 企業が、株式市場へ上場を狙うに際し て、国営企業の競争力や投資の魅力が 大きく損なわれることになります。
さ らに重要なことは、資産の所有からサ ービス重視に目を転じない限り、急速 に期待をもちはじめている顧客や消費 者から厳しい反発を受けることにも なります。
模造品問題 中国では、特に強力なブランドを 持った企業にとっては、模造品が大 きな問題となっています。
新製品が 発売されて何日かたつと、市場に模 造品が出回るのはよくあることです。
模造品が実際の製品と同じサプライチェーンを通じて出回ることもある ため、サプライチェーンに非常に大 きな影響を及ぼします。
卸売業者に よっては、マージンを増やすために 模造品と実際の製品をまぜていると ころもあります。
これがサプライチェ ーンにどれだけ影響を与えるかは、 P&Gが輸配送業務では実際の製品 に模造品が混入されないように、ト ラックを封印しているという例から も分かります。
文化とビジネスの制約 中国には、サプライチェーンの効 率化を阻害する文化的な要素が三つ あります。
これらは多国籍企業にと っては克服が難しいものです。
一つ めに、「勝ち負けの考え方」がビジネ スを支配していることです。
問題に なるのは特にサプライヤーと取引す る場合です。
中国の道路輸送業界は 古典的な例です。
サービスには関係 なく、もっとも安価であるというこ とが最優先されます。
二つめの要素は信頼性です。
これ はサプライチェーン企業間の情報共 有やコラボレーションには不可欠で す。
残念ながら企業間の信用構築は 中国ではほとんどありません。
三つめの問題は、一般的に自分に しか関心のないことです。
彼らは自 分の領域内にとどまり、他人のビジ ネスのやり方が優れていてもチャレ ンジしようとはしません。
このような 意識は、会社の中、異なる部門間、会 社の外(取引相手同士)でも存在し ています。
部門間や取引先間での調 整や、相互間の信用なくして、サプ ライチェーンの本当の価値を発揮す ることはできません。
上記の文化的な特性のほかにも、インセンティブの支払などに「帳簿外」 取引が発生することも中国ではよく あります。
このような商習慣は、サ プライチェーン改善の取り組み、特 に情報共有を阻害します。
たとえば、資材やサービスの調達 方法を改善し、情報供給へとつなげ る取り組みは、中国では大きなコス ト削減のチャンスとなります。
しか し同時に、簿外取引を日常的に行っ ている調達担当者には脅威となりま す。
全国的なロジスティクス・イン フラや地域をまたがるロジスティク スの構築は、このような簿外取引に よっても妨げられています。
■人材面の制約 サプライチェーンマネジメントのス キルをもった人材の発掘や維持は、今 日の中国において企業が直面する難 しい課題のひとつです。
問題は全体 的な知識やスキルが不足しているこ と、人材の異動が激しいこと、顧客 サービス意識が低いこと、保守的で 内向きな文化、そしてパフォーマン ス重視の意識が欠落していることで す。
もちろん、必要な能力を持った、 やる気のある人々はいます。
たとえ ばサードパーティー・ロジスティク ス企業、人民解放軍(PLA)、多 国籍企業などは、有能な人材を多数 養成してきました。
しかし人材には 限りがあります。
ロジスティクス機能のエクセレン スは、中国の過去の統制経済のなか では、ほとんど注目されていません でした。
サプライチェーンに関する 専門教育も現在までほとんど行われ てきませんでした。
その結果、ロジ スティクスの付加価値サービスがど れほどビジネスの発展に役立つかは あまり理解されていません。
また、短期的な利益を求める人が 多く、高い給料を提示されたり、条 件の悪化が示されたりすると、簡単 に会社を辞める決心をします。
ある 多国籍企業の人材担当役員は「社員 にキャリア意識が低く、市場経済に すぐに取り込まれてしまう」と言っ ています。
なぜ社員がインセンティ ブをほとんど持たないかには、たくさ んの理由があります。
たとえば、 ・実力主義よりも年功序列の傾向が ある ・仕事の責任と報酬の仕組みとの関 係が明確ではない ・手当の支給方法が非常に複雑 また、変化に対しては「受身的・ 攻撃的」姿勢が中国では一般的であ り、問題点や課題に対して責任を取 らない、あるいはオーナーシップを持 たないという傾向があるのも事実で す。
中国人は、「お金がいつまでもここ にある」とは感じていません。
その 代わり、「太った豚は先に食べられる」 FEBRUARY 2003 72 ・コストが高い。
西欧諸国よりも 30〜50%高い ・固定費が高い。
資産、インフラの 重複 ・売掛金が多く、与信管理が不十分 ・盗難率、欠品率、損傷率が高い ・返品コストが高い ・地域の保護主義によるコスト増 ・高度な市場知識がない ・ディストリビューターや小売業者 からの体系的フィードバックが不 足 ・顧客ニーズや顧客接点の理解にギ ャップがある ・エンドユーザーや消費者との直接 のやり取りが限定されている。
・販売、マーケティングの管理が限 定 ・需要データが不正確 ・実需要が見えない ・公表データに矛盾がある ・顧客セグメントが複雑 ・サービスコストの認識がない ・サプライチェーン・オペレーショ ンが非効率 ・二重三重の処理があたりまえ ・協力体制が不十分 ・業界標準や全国標準がない ・集中化や統合に対する規制 ・都市部の車輌移動に対する制約 ・マニュアルシステムへの依存度が 高い ・サービス・パフォーマンスが悪い ・商品の引き取りや納品の予定が不 明 ・貨物の優先度の変更 ・顧客の不満が多く、ニーズが満た されていないい ・品質やサービス意識の低い下請業 者への依存 ・出荷プロセスの情報が見えない、 輸配送品の追跡が不十分。
・メンテナンスの信頼性が低く、不 十分 ・需要予測や在庫精度が低い ・販売計画プロセスがお粗末 図3 中国のサプライ・チェーン: 問題領域 コスト 効 率 信頼性・サービス ・パフォーマンス 顧客接点とマネジメント 業の製造業では一・二、商業では 二・三でした。
米国では、平均が 一五〜二〇の間であり、米国の多 国籍企業は三〇近くになることも あります。
二〇〇一年十二月のE IUレポートによれば、平均して、 中国メーカーの業務時間の九〇% がロジスティクスに費やされ、一 〇%が製造業務に費やされていま す ・中国の日用品は、米国より四〇〜 五〇%多くコストを輸送にかけて います。
中国の輸送および倉庫コ ストは、売上原価の三〇〜四〇% を占め、化学製品の場合には八 〇%にも達しています ・著名な国務院政策アドバイザーに よれば、ロジスティクスの非効率 性や、市場情報入手の遅れは、年 末までの累積で商品価値にして四 八〇〇億米ドル以上に達し、これ は二〇〇〇年の中国GDPの四 五%に匹敵します さらに、食品業界における、協業 によるコスト削減と売上向上を目指 したエフィシェント・コンシューマ ー・レスポンス(ECR)のような 取り組み、業界標準の導入について は、中国ではまだ始まったばかりで 73 FEBRUARY 2003 あるいは「出る杭は打たれる」とい う表現を使い、変化に直面したとき に人々の気持ちを表しています。
権 威主義の文化が強く、間違いは許さ れないと考えています。
すなわちリス クをとりません。
その後には処罰が 待っているからです。
結果:非効率的な サプライチェーン 中国でビジネスに挑戦することを 安易にとらえるべきではありません。
中国のサプライチェーンにはお金が かかり、非効率的で、信頼性が低い ため、企業が顧客を理解し、顧客と 対話することは困難です。
予想され る結果を図3に要約します。
・二〇〇〇年のロジスティクスおよ び輸送コストは、米国では国内総 生産(GDP)の一〇%、日本で は一四%なのに対し、中国では二 〇%でした。
二〇〇一年九月、中 国の総ロジスティクスおよび輸送 コストは、GDPの一六・七%と なりました ・二〇〇〇年の累積在庫は、米国で はGDPの四五%でしたが、中国 では五〇%でした ・中国の運転資本回転率は、国営企 す。
このような標準化への取り組みは、 香港を含めた先進諸国では一般的に 行われています。
標準化に参加する 企業は、取り決めに従って業務を行 います。
たとえば、製品を標準のパ レットで標準のバーコードを使って 輸送・納品します。
一方、中国では、 通常、パレットは使用せず(すなわ ち標準パレットなどはない)、通路が狭く、納品先である裏口にはパレッ トを受け取る設備も、積み降ろしの システムもありません。
基本的なインフラや標準パレット、 ラックやマテハンシステム、バーコー ドなどの手法は、他ではどこでもあ たりまえの高度なレベルに中国が達 するにはおよそ五年はかかるでしょ う。
しかし、ECR委員会が中国に設 立されて初めての年を迎えます。
ビ ジネスパートナーとの協業を推進す る標準化が進めば、ECRガイドラ インの利用も、香港と同様に急速に 進展するかもしれません。
このよう な標準化が広まれば、中国のサプラ イチェーンマネジメントの全体的な 効率も改善されるでしょう。
(次号に続く) ロバートJ. イーストン(Robert J. Easton) アクセンチュアのサプライチェーン・マネジメント=アジ ア太平洋地域統括パートナー。
中国、香港、韓国、台湾のサ プライチェーン・サービスに従事。
サプライチェーン戦略、 プロセス・リエンジニアリング、パフォーマンス管理、シス テム・インテグレーション、チェンジ・マネジメントなどに 20年以上の経験を有し、著書多数。
マッコーリー大学院に てMBA取得、シンガポールのCommand and General Staffカレッジを卒業。
現在、香港を拠点に活動している。

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