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FEBRUARY 2003 22
「ダメ社長では儲かるはずがない」
現場のコスト管理を徹底することで、一般に儲からないと言わ
れる流通業向けの物流で高い利益率を確保している。 社長自らが
率先してコストを掛けない仕事のやり方を実践。 その姿を目の当
たりした社員が後に続く。
ハマキョウレックス大須賀正孝社長
パート社員の教育法
――流通業向けの物流サービスは料金水準が低く、利
益を生み出しにくいとされています。 その川下をメー
ンに事業を拡大させているにもかかわらず、これまで
増収増益を続け、しかも高い利益率を維持している。
その秘訣とは?
「川下は価格競争が激しい。 当然、物流に掛けら
れるコストも限られてくる。 当社が頂いている料金は
世間並で、決して他社よりも高く設定されているわけ
ではありません。 その中でどうやって利益を捻出して
いくか。 物流現場のムダを見つけて、それを一つひと
つ潰していくしか方法はない」
「当社の強みはコストに対する意識が末端のパート
タイマーにまで浸透している点です。 パートタイマー
たちが現場改善に向けた知恵やアイデアを自分から提
案してくれる。 それを実行に移すことでコスト削減を
実現している。 現場のどこにムダがあるのかを見つけ
ることができるのは現場の作業員だけです。 同業他社
は物流現場が活性化していない。 現場の作業員に権
限を委ねていない。 ムダを見つけるという役回りも与
えていない。 だから、どうしてもムダを見逃す。 結局、
利益が出ない。 その差です」
――しかし、パート社員にコスト意識を植え付けるの
は容易なことではありません。
「頭ごなしにやろうとするからうまくいかない。 現場
で働く作業員が自主的に改善活動に取り組めるよう
な仕組みを提供することが大事です。 そして目標を明
確にすること。 しかも目標は個人ごとに設定すべきで
す。 会社全体や部署といった大きな括りでの目標だと、
自分が手を抜いても誰かがカバーしてくれるだろうと
いう甘えが生じる。 また、全体目標と個人目標とでは
後者のほうが達成感が大きい。 やる気も違ってくる」
「目標設定の際に注意しなければならないのは、い
きなり高いレベルの結果を求めないようにすることで
す。 段階的にレベルアップさせるようにしないと、プ
レッシャーに負けたり、うまくいかないと自分自身を
過小評価してしまったりして自信を失ってしまう。 最
初は誰だって四五度のお湯が張られた風呂には入れな
い。 ところが、三八度から毎日一度ずつ温度を上げて
いけば、最後には四五度の風呂に入ることができるよ
うになる。 現場作業員の育成も同じです。 段階的に教
育していけば、最後にはどんなに高い目標でも達成で
きるようになるものです」
――コスト削減を強要すると現場から不満が噴出する
のでは?
「目標を達成するために一日中現場を走り回れば、誰
だって疲れてしまいます。 疲れないように、つまり体
を極力使わないようにするためにはどうすればいいか。
頭で考えて知恵を出すことを求めているわけです。 体
とは違って、頭は一日中使ってもそれほど疲れない。 し
かも頭を使って何かを改善できると、賢くなったよう
で気分もいい。 なにも強制労働させてコスト削減を達
成しているわけではありません。 楽しく働きながら改
善活動をさせているからこそ成果が出るのです」
物流はブランドじゃない
――何故、そこまでコストにこだわるのですか?
「荷主企業が物流企業を測る物差しはコストとサー
ビス水準だけだからです。 料金が高くて質の高いサー
ビスはどんな物流企業でも提供できる。 それは競争力
にはならない。 安くて質の高いサービスを提供できる
物流企業だけが支持される。 荷主企業のコスト削減に
貢献する。 それによって新しい仕事を手に入れる。 ま
Interview 総合25位
23 FEBRUARY 2003
たコストダウンを実現する。 さらに仕事が増える。 当
社はこの繰り返しで業績を伸ばしてきました」
「安いコストで、しかも目的地に時間通りに事故な
く、荷物がきちんと到着するか。 荷主はそこしか見て
いません。 物流企業が立派なトラックを使用していよ
うが、古いトラックだろうが、荷主はまったく興味が
ない。 このことが意味しているのは、物流の仕事はブ
ランド力で獲得できるものではないということです。
日通、ヤマトであっても結果がきちんと出せなければ、
荷主から見放されてしまいます」
――同じような仕事をしているのに、他社は軒並み業
績が低迷しているのは何故でしょうか?
「適正料金というものをきちんと把握しないで、コ
スト割れする仕事を簡単に引き受けるからです。 トラ
ックは水では走らない。 固定費は決まっている。 しか
し、物流企業はそのことを荷主にきちんと説明できな
い。 儲かるわけがありません」
「荷主企業にも問題がある。 物流サービスのコスト
構造を理解していないから無理な要求を平気で口にす
る。 先日、どうしてもコスト割れで仕事を引き受けろ、
と迫ってきた荷主があった。 そこで私はこう言い返し
ました。 『当社がコスト割れした分の物流費を穴埋め
するわけだから、お宅にとって当社はお客様という扱
いになるんでしょうね』と。 要するに物流企業と荷主
企業との間で?交渉〞を行っているようではダメなん
です。 お互いに対等な立場にたって、協力して効率化
できる余地を探す。 そういう関係を構築できれば、適
正料金を下回ることはない」
――組織の問題もあるのではないでしょうか?
「口ではコスト削減と言いながら、経営トップや本
社が見本となるような行動を示していない。 物流現場
など末端にだけしわ寄せがいく。 その結果、末端の社
員がやる気を失ってしまう。 コスト削減が進まない。
業績が好転しない、という悪循環に陥っていると思い
ます。 いくら偉そうなことを言っても行動が伴ってい
なければ、誰もその人にはついてきません」
「もともと私には秘書もいなければ、運転手もいま
せん。 そんなものは必要ない。 先日も総務から秘書を
置いてほしいという要請がありましたが、『その分の
コストは総務持ちだよ』と話したら、慌てて却下して
いましたよ。 運転手に関しても、はっきり言って私の
ほうが運転は上手い。 周囲は色々と気をつかってくれ
ているのでしょうが、無駄なものは無駄なんです」
「本来、会社の中で一番働かなければならないのは
社長です。 一番高い給与をもらっているわけですから
当然です。 ところが、多くの企業で社長が一番働いて
いない。 ゴルフや酒やらで遊び呆けている。 そんな姿
を見て、社員が言うことを聞くでしょうか? 私は社
内で一番仕事をしていると自負している。 それができ
なくなったら、すぐに社長の椅子を後進に譲るつもりです。 社長業とはそういうものです」
日本一の物流業を目指す
――今後の事業展開は?
「現在と方向性は変わりません。 実運送や物流セン
ターの運営など地に足のついた事業をコツコツと積み
重ねていくだけです。 元請けとなって下請けに現業部
分を丸投げしてマージンを抜いたり、運賃を右から左
に流す水屋(ミズヤ)のような手を抜いた仕事にはま
ったく興味がない。 目標は日本一の物流企業になるこ
と。 これは規模を追求するという意味ではありません。
日本一安いコストで日本一高い水準のサービスを提供
できる企業になることです。 それが具現化できれば、
売り上げ規模も自然と大きくなっていくでしょう」
ハマキョウレックスの業績推移(連結)
200
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
98.3 99.3 00.3 01.3 02.3
6
5
4
3
2
1
0
売上高
当期利益
(単位:億円)
主要顧客はイトーヨーカ堂、平和堂、ファミリ
ーマートなど。 川下物流への進出で急成長を遂げ
てきた。 連結売上高は6期連続、営業利益は4期連
続で増加している。 2002年3月期の売上高営業
利益率は7.5%、連結ROE(株主資本当期利益率)
は10.2%。 上場物流企業では数少ない高収益企業
として知られる。 パートタイマーが輪番で現場責
任者を務める「日替わり班長制度」など独特のコ
スト管理手法を導入することで、顧客企業のコス
ト削減ニーズに応えている。
会社概要
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