ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年3号
CLO
ロジスティクスと物流の大きな差

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

47 MARCH 2003 図1 SCMの進め方 Supplier 原料/包材 Maker Shipment Packing Process Customer D/C Store ? EDI ? Logistics ? ECR(CRP/CPFR) Consumers e-Marketplaces に現在と同じような意味でこの言葉 を使っていた。
サプライチェーンを 輪切りにして、彼らなりに、どの部 分をどう変えれば全体を効率化でき るかを解説していた。
こうしたバックボーンがあるだけに、 クラフトのSCMやロジスティクス の定義は明確だ。
彼らはSCMを「原 料・包材から消費者に至るまでの、全 ての調達、購入、移動(物流)、保管、 受注出荷、システムの管理を全体最 適化すること」と定義している。
さ らにSCMを実現するうえで、ロジ スティクスをどう位置づけるかもハ ッキリしている(図1)。
図1のなかの番号は、SCMを実 現するために着手すべき順番をあら わしている。
まずファーストステップ 日本でSCMといえばITの話と 思われがちだ。
だがサプライチェーン 管理という考え方そのものは、最近 になって唐突に出てきたものではな い。
八〇年代に米国企業がこぞって 参考にしたトヨタの「かんばん方式」 が、その最たる例だ。
では、実際に SCMを導入するには、どうすれば いいのか。
そのときロジスティクスは どのような役割を果たすべきなのか。
米国流の明快な方法論を紹介する。
誤解だらけの日本のSCM ロジスティクスやサプライチェーン といった言葉が、ようやく日本でも 浸透してきた。
しかし、こうした概 念が日本で本当に理解されているか となると残念ながら心許ない。
言葉 の定義すら明確になっていないのに、 イメージだけが一人歩きしている感 が強い。
結果としてアングロサクソン流の 経営者の目には、日本は?定義が曖 昧〞な国と映ってしまう。
「言葉の定 義」や「目的」が明確ではないのに、 いきなり「How(どうやってやる か?)」から入っていこうとする感覚 が理解できないと思われている。
日本人の多くは、サプライチェー ンという言葉がサプライチェーン・ マネジメント(SCM)がブームに なった九〇年代の後半に生まれたと 認識しているようだ。
だがクラフト では、私がロジスティクス研修のた めに渡米した八五年の時点で、すで 味の素ゼネラルフーヅ 常勤監査役 川島孝夫 ロジスティクスと物流の大きな差 《第4回》 MARCH 2003 48 として、EDIとロジスティクスを 同時に構築する。
それができるよう になって初めてECR(Efficient Consumer Response :効率的な消 費者対応)に取り組む。
その具体的 なやり方としてCRP(Continuous Replenishment Program ) や CPFR(Collaborative Planning Forecasting and Replenishment ) がある。
昨今のITの進歩で誕生したeマ ーケットプレイスは、こうした取り 組みを効率化するための一つの手段 と位置づけられている。
ようするに クラフトは、EDIとロジスティク スの実現なくして、サプライチェー ン全体の最適化などできるわけがな いと考えているのである。
翻って現在の日本では、クラフト 流のロジスティクスを実現できてい る企業はほとんど存在しない。
ロジ スティクスを導入しているとしても 範囲が限定されており、全体を網羅 するには至っていない。
にもかかわら ず欧米から言葉だけを持ってきて、S CMがどうのとか、CPFRがどう のと言っている。
CLO(ロジステ ィクス最高責任者)を目指す人たち は、まずこうした点をきちんと認識 する必要がある。
ロジスティクス導入の三段階 では、クラフト流のロジスティク スの定義とはどういうものなのか。
日 本では?物流〞を単に英訳したのが ?ロジスティクス〞だと考えている 人も少なくないが、その意味すると ころはまったく異なる。
これは物流 管理とロジスティクスの根本的な差 でもある。
クラフトは、ロジスティクスを「一 つのファンクションで在庫を統合的 に管理する機能」と定義している。
こ れらは米軍の管理概念をそのまま持 ってきたものだが、ここでキーワード として「統合」という言葉が出てく る。
この「統合」という考え方はロ ジスティクスを導入する際の重要な ポイントであるため、ぜひ頭に入れ ておいてほしい。
クラフトにとってロジスティクスの 目的は二つある。
一つは「競合優位 性」の確立。
ライバルよりサービス レベルが高く、企業として競争力が あることを顧客に認めてもらうとい う狙いだ。
もう一つは「在庫削減」。
物流コス トは主に保管費と運搬費からなる。
従 って在庫を限りなくゼロに近づけれ ば、余計な物流コストもかからなく なり、コスト競争力の強化につなが る。
これがロジスティクスの二つ目 の狙いである(図2)。
このクラフト流のロジスティクス を導入するためのステップは、大き く次の三段階からなる。
第一段階 情報システムの統合 第二段階 需給調整機能の統合 第三段階 物流管理機能の統合 ファーストステップの「情報シス テムの統合」というのは、在庫情報 を一元管理できる体制の構築を意味 している。
クラフトは「情報が何種 類かあると判断できなくなってしま う。
情報は必ず一種類にするのが大 原則」と考えている。
これを実現し たうえで、必要な人たちが、必要な ときに情報を共有できる体制を整え なければならない。
複数の物流拠点に在庫を置いてい るために分散してしまった在庫情報 図2 Logisticsの目的と定義 Supplier Maker Customer D/C Store 在庫 Inventory 在庫 Inventory 在庫 Inventory 在庫 Inventory 目的  1. 競合優位性(得意先サービスレベル)  2. 在庫削減  3. 企業間関係強化(CRM) 定義  在庫の一元統合管理機能 Key Word  統合 Integration 49 MARCH 2003 の一元化はもちろんだが、ここでは もっと抜本的な管理体制が問われる ことになる。
一般に日本のメーカー は販売系と原価管理系で別々に在庫 情報を持っている。
しかし、これで は在庫情報が二種類になってしまう。
クラフト流ではこれを改める必要が ある。
バッチ処理かリアルタイム処 理かにかかわらず、情報を一種類に することが大前提になる。
第二段階の「需給調整機能の統合」 とは、ロジスティクスに関する主要 な計画や、販売計画の調整機能を統 合することを意味している。
この第 二段階は、ロジスティクス導入の三 段階のなかで、最も難易度の高いス テップでもある。
企業というのはどこでも事業計画 を作り、これに沿って販売計画を策 定している。
そして、この販売計画 をベースに、生産計画、在庫計画、資 材購入計画、要員計画などの諸計画 を作っている。
ところが販売計画と いうのは、競合状況など市場の変化 に応じて常に修正していく必要があ る。
当然、これをベースに作ってい る諸計画も頻繁に修正や調整を迫ら れる。
従来、こうした作業は?製販会議〞 と呼ばれる調整の場で行われてきた。
ところがクラフト流では、「そんな会 議は全部、廃止しろ。
すべての権限 をロジスティクス部門に与えて、こ こで調整しろ」となる。
実際、クラ フトの社内では、すでに八〇年代に そういう体制が完璧にできあがって いた。
この第二段階で諸計画の調整 機能や権限をどこまで一部門に統合 できるかで、ロジスティクス導入の 成否も決まることになる。
ここまでやった上で、ようやく第 三段階の「物流管理機能の統合」に 着手する。
支店や工場で個別に物流 管理を行うのではなく、ロジスティ クス部門で一元的に管理する。
そし てロジスティクス部門が全体を見渡 しながら、拠点配置などの物流ネッ トワークを最適化していく。
多くの物流部門は、まずこの第三 段階から着手して物流コストを減ら そうとしてしまう。
しかし、第二段 階を経ずに在庫削減を進めようとす れば、各部門の利害などが衝突して しまい、ほぼ間違いなく失敗する。
結 果としてロジスティクスの導入も上 手くいかない。
これが前述した三段 階を守らなければいけない最大の理 由である。
十数セクションの機能を統合 ロジスティクスを導入せずに物流 管理に取り組んでも意味がないとい うのは、味の素ゼネラルフーヅ(A GF)の実体験に基づく話だ。
八〇 年代前半のAGFは、何をやっても 物流コストを減らせず、非常に苦労 した経験を持っている。
当時、AGFの物流部門では、物 流ネットワークがどうのとか、トラッ クへの製品の積み方がどうのなどと いいながら物流コストの削減に取り 組んでいた。
私も情報システム部門 の担当者として、在庫情報を見やす くする仕組みを構築したりして在庫 を減らそうとしていた。
全社的に在 庫削減のプロジェクトに取り組んだ こともあったが、やはり在庫は減ら ず、物流コストも一向に削減できな かった。
そんなとき、この状況をみていた ゼネラルフーヅ(現クラフト)が、「物 流コストを低減するなどという取り 組みは止めてしまえ。
ロジスティク スを導入しろ」と言ってきた。
当時 の我々には、彼らが何を言っている のかまるで理解できなかったのだが、 八五年になると、たまたま私がロジスティクスに関する約三カ月間の米 国研修を受けることになった。
そこ で徹底的に教え込まれたのが、前述 ロジスティクス導入の3段階 (1)情報システムの統合 ・在庫管理情報の一元化 ・簡便な情報検索 (2)需給調整機能の統合 ・ロジスティクスに関する主要計 画および販売計画の変更・調整 機能の統合 (3)物流管理機能の統合 ・調達/工場構内/販売物流の統 合化 MARCH 2003 50 したロジスティクス導入の三段階だ った。
しかし、正直なところ研修を受け てからも、私はAGFにロジスティ クスを導入するのは無理だと感じて いた。
その理由は、関連する機能を 一つのファンクションに統合すると いう行為(ロジスティクス導入の第 二段階)が、当時のAGFにとって は非現実的に思えたためだ。
その頃のAGFでは、受注や出荷 指示は営業が担当し、販売計画は営 業本部が作り、その大元は事業部が 束ねていた。
また、販促活動は、支 店や営業が事業部の承認を得ながら 個別にやっていたし、購買は資材部 が担当していた。
生産計画について は当然、工場が手掛けていた。
つまりクラフト流のロジスティク スで統合すべき業務が、AGFでは 全社に分散していた。
そうやって十 数部門に分散して動いている機能を、 すべて抜き出して一部門に統合する など、私にとっては「そんなアホな」 という話でしかなかった。
日本の企 業はクラフトとは違う、できるわけが ないと思った。
だが前号までに書いたように、アン グロサクソン流のマネジメントでは、 米国で納得ずくの研修を受けてきた以 上、「できません」では済まされない。
八五年秋にロジスティクス研修から帰 国した私は、まず第一段階の「在庫 情報の一元化」に取り組むことになっ た。
私も含めて、他の担当者たちにと っても半信半疑のスタートだった。
そして翌八六年には、情報システム 部と物流部を一つにして情報物流部 が発足。
私は情報物流部長になった。
それから数年の間は、私の所属部署 の名称が頻繁に変わることになるのだ が、これはAGFのロジスティクス導 入が第二段階に進んだことと密接に 関係している。
八八年になると営業本部のなかに あった販売計画の調整機能を、部門 ごと情報物流部に移管し、このときに 組織名を情報流通部に改めた。
そし てロジスティクス導入の第二段階であ る「需給調整機能の統合」に本格的 に取り組みはじめ、全社に散らばっ ていた機能を順次、情報流通部に人 ごと集めていった。
その結果、AGFでロジスティクスを担うセクションの人数は急速に 膨れあがった。
母体となった情報シ ステム部のときに二〇人強だったの が、情報物流部になると三十数人に 増え、ピーク時のインフォメーショ ン・ロジスティクス部のときには七 五人くらいになった。
これでも各部 門に分散していたときの単純合計に 比べれば三割ほど減っていたのだが、 一〇人くらいだった当初の物流部と は比較にならない大所帯に生まれ変 わっていた。
こうして組織の統合が進んでくる と、不思議なことに管理体制も徐々 にロジスティクスらしくなってきた。
そして、その効果もハッキリと数字 にあらわれ始めた。
やはりクラフトの 言っていたことは正しかった――。
ロ ジスティクスの導入に懐疑的だった 私も、そう思い知らされることにな った。
(かわしま・たかお) 66年大阪外語大学ペルシャ語 学科卒業・米ゼネラルフーヅ(GF)に入社し人事部 配属、73年GF日本法人に味の素が50%を出資し合弁 会社「味の素ゼネラルフーヅ(AGF)」が発足、76 年AGF人事課長、78年情報システム部課長、86年情 報物流部長、88年情報流通部長、90年インフォメー ション・ロジスティクス部長、95年理事、2002年常 勤監査役に就任し、現在に至る。
日本ロジスティク スシステム協会(JILS)が主催する資格講座の講師 なども多数こなし、業界の論客として定評がある。
――まず、CAIという会社について説明して 欲しい。
CAIはコンピュータの有効活用を支援す る会社だ。
二二年前に一人のオーナーによっ て設立された。
現在、世界有数の3PLであ るエクセルのシステム開発や、フェデックスの IT運用などを手掛けている。
それ以外にも 化学品大手のローム&ハースや、エネルギー関 連製品を扱うPSEGなども当社の顧客だ。
CAIが提供しているサービスは、コンサル ティング、情報システムの構築、運用サービス など多岐にわたる。
非公開企業のため業績は 公開していないが、創業以来、顧客の数は順 調に増え続けている。
その一方で離れていった 顧客はごくわずかでしかない。
――特にロジスティクスの分野に強いと聞いて いる。
最初からそうだったわけではないが、当社が ロジスティクスの分野に注力してきたことは確 かだ。
エクセルのEDIシステムの構築を全面 的に手掛け、サプライチェーンを効率化する 「TOPEX」というシステムを開発したこと が大きい。
CAIとエクセルの付き合いは既に 七年以上になるが、彼らは現在、我々の開発 したシステムを使って米国の消費財分野の企 業に広く3PLサービスを提供している。
私自身がエクセルと出会ったのは、まだ私が クラフト・インターナショナルに在籍していた 九〇年の話だ。
当時、クラフトは世界中で買 収を繰り返していたため、ヨーロッパの物流拠 点の数が百数十カ所にもなっていた。
このとき 倉庫業務から輸送業務までを一任する3PL としてエクセルを迎え入れた結果、クラフトの ヨーロッパの拠点を二〇カ所まで集約すること ができた。
――そうやって欧州最大の3PLに成長した エクセルは、米国でも急速にビジネスを拡大し ていった。
九四年から九五年にかけて、ウォルマートが P&Gやクラフトと一緒にサプライチェーンの 高度化に取り組んだとき、3PLとしてエクセルも参画した。
このとき多くの画期的な変 化がエクセルによってもたらされたのだが、実 は本日、私の隣に座っている Mr. アンダーソンは、 かつてエクセルでCIOを務めていた人物だ。
彼は米国で約一〇年間をかけて、ウォルマー ト向けのシステムを構築した実績を持っている。
その後、エクセルはウォルマートに認められ、 現在では唯一の3PLパートナーになっている。
最近、エクセルはカリフォルニアに二八万八〇 〇〇平方メートルに及ぶ、恐らく世界最大の ディストリビューション・センターを作った。
この施設はウォルマート専用で、エクセルはす べてを3PLとして任されている。
CAIが 開発した「TOPEX」には、こうしたビジネ スの経験が凝縮されている。
――その「TOPEX」というソフトは、EX Eテクノロジーズやマンハッタン・アソシエイ ツなどが提供するWMSパッケージと同様の機 能を持つものなのか。
「TOPEX」は単に物流センターを管理する ためのソフトではない。
オーダーから納品まで のサイクルタイムを短縮し、効率的なクロスド ッキングを実現する。
サプライチェーン全体を カバーすることで、コストを低減する機能を備 えている。
しかも「TOPEX」は市販されている既 存のパッケージをベースに作ったシステムでは ない。
すべてCAIの社内で構築した。
当初、 CAIはエクセル向けに「TOPEX」を開 発したのだが、現在ではエクセル以外の顧客に も、これに手を加えることで同様のサービスを 提供している。
――御社はすでに米国、イギリス、カナダ、フ ィリピンに進出している。
今回は日本市場での ビジネスの可能性を探る目的での来日だが、手 応えはどうか。
日本でのビジネス展開はまだ検討を始めた ばかりだが、手応えは充分だ。
CAIは強力 でユニークなツールを持っている。
エクセルと の経験を通じて我々が蓄積してきたノウハウは、 日本のユーザーにも大いに役立ててもらえるは ずだ。
ただし私の経験から言うと、CAIが日本 で成功するためには、日本のビジネス慣行を理 解し、日本語に対応していく必要がある。
そ のためには日本国内で優秀なビジネスパートナ ーを見つけることが不可欠と考えている。
「世界有数の3PLの経験を伝授する」 米コンピューター・エイド・インク(CAI) CIO V. ジェームスオナルフォ オナルフォ氏の前職は米クラフトフーヅ・インターナショナルのCIO(情報最高責 任者)。
本連載を担う川島氏が米クラフトで研修を受けたときの直属の上司に当たる。
クラフトを引退後、現職に就いた。
今年1月末にCAIの日本でのビジネス展開を調 査するために来日したオナルフォ氏に、本誌編集部が単独インタビューを行った。
51 MARCH 2003

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