ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年3号
ビジネス戦記
グローバル・ロジスティクスへ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

59 MARCH 2003 EXEテクノロジーズ 津村謙一 社長 米国経済が八〇年代の構造不況から復活し た背景には、グローバル・ロジスティクスの進 展と3PLの普及があった。
当時、米国経済が 置かれていた状況は現在の日本と酷似している。
最近になって日本にも、ようやく3PL普及の 兆しが見え始めている。
我々は、このトレンド を加速させなければならない。
WMSより「フルフィルメント」 EXEの日本法人を設立して、ほぼ四年が 経過した。
最近になってようやく日本にも3P Lの成功事例と呼べる企業が登場してきたよう に思う。
私どもにとっては非常に嬉しいことだ。
WMSベンダーである私が、なぜ3PLの普 及を喜ぶのか疑問に思う人もいるかも知れない。
それも当然で一つはWMSという言葉から受け る印象が影響しているように思う。
そのまま訳 せばWMSは「倉庫管理システム」という味も 素っ気もない言葉になってしまう。
そこで私は このところWMSではなく、「フルフィルメン ト(注文充足)システム」という言葉で、その 役割を説明するようにしている。
「フルフィル」とは顧客への販売だけでなく、 工場の調達を含めて、必要な場所に必要なモノ を届けるという一連のプロセスを指している。
このフルフィルメントに不可欠なソリューショ ンを我々は提供していると自負している。
今日のフルフィルメントは一つの会社では完 結しない。
複数の会社が一つの企業のように機 能して、初めて効率的なフルフィルが実現する。
多くの場合、そこでは3PLが決定的な役割を 果たす。
だからこそ3PLが我々に提供するフ ルフィルメントシステムの主要顧客の一つとな っているのだ。
3PLが普及することで、我々 のビジネスも発展するという構図だ。
日本でもこの構図は変わらない。
今年四月、 ソニーの物流子会社・ソニーロジスティックス と調達子会社のソニーインターナショナルトレ ーディングが合併して発足するソニーサプライ チェーンソリューション(SSS)に、当社の システムが採用されることになった。
SSSの 場合は外販拡大を目指す3PLとは違い、ソニーグループへの貢献を目指すものだが、日本の 3PLとしては先駆的な試みとなるはずだ。
このように日本市場で3PLが普及すること は我々にとってマーケットの成長を意味する。
そのために私は3PLという産業がいかに重要 か、3PLを目指すことが、どれだけ大きな意 味を持つのかを繰り返し訴え続けてきた。
そう いうトレンドに拍車をかけていきたいのである。
3PLが業界地図を塗り替える とはいえ日本の物流業界には、まだまだ3P Lに懐疑的な人が少なくないのも事実だ。
老舗 の物流業者に限っていえば、私の知る限り、十 人のうち七〜八人が、3PLなど絵空事だとい 【最終回】 グローバル・ロジスティクスへ MARCH 2003 60 うネガティブな意見を持っている。
物流会社も 大手になればなるほど、そうした傾向が強いよ うに感じる。
ただし、日本でもSSSを始めとしたメーカ ー系の物流子会社となると話は別だ。
老舗物流 業者とは対照的に、こぞって3PLを経営ビジ ョンに掲げている。
メーカー系物流子会社は、 その成り立ちから親会社のロジスティクス全般 を管理運営する立場に置かれている。
そのため 親会社のロジスティクス全体の効率化を進めよ うという志向を当初から持っている。
これに対して一般の物流業者は不特定かつ多 業種の荷主を相手にしている。
そうした一般の 物流専業者が荷主企業の効率化を進め、その ノウハウを他の荷主企業に転用しようとしても、 実際にはなかなか上手くいかない。
例えばハイ テクメーカーとリテール系の荷主企業では、物 流業者に求めるソリューションの内容が全く異 なってくるからだ。
しかも日本の荷主企業の場合、グループ内の 物流子会社ならともかく、全く資本関係のない 物流専業者一社に、ロジスティクス業務を集中 して委託するケースは希だ。
つまり物流専業者 は荷主企業のロジスティクス全体の効率化を支 援する立場にない。
そんな環境に置かれた物流 業者が、3PLと言われてピンと来ないのは、 むしろ当然のことなのかも知れない。
振り返ってみれば米国でも、キャリアと呼ば れる大手物流業者の多くは当初、3PLに対 して懐疑的だった。
顧客である荷主側にもその 傾向はあった。
米国で急激に3PLが拡大した のは九〇年代初頭のことだ。
しかし当時実施さ れたアンケート調査などを見ると、荷主企業の 三分の二程度が3PLのサービスに満足してい ないと答えている。
当時の米国で3PLを利用していた荷主企 業は、ビジネス・プロセス・リエンジニアリン グ(BPR)を実施し、自らのコア・コンピタ ンスに経営資源を集中することを、アウトソー シングの主な目的としていた。
彼らは自社のコ アとなる機能以外は、その道の専門家に任せた ほうがいいと判断して、3PLの利用に踏み切 った。
大胆な改革を厭わない先進的な企業だっ たといえる。
しかし彼らの求める高いサービスレベルを当 時の3PLは十分に満たすことができていなか った。
米国の3PL企業が本当に顧客を満足 させられるようになったのは、九〇年代も終わ りに近づいてのことだろう。
実際、九〇年代末 に実施された3PLユーザーのアンケート調査 では、以前とはうって変わって、荷主企業は3 PLのサービスに高い満足度を示している。
面白いことに3PLサービスに対する満足度 と歩調を合わせて、米国の物流コスト、GDP に占める物流コスト比率も下がっている。
九〇 年代初頭まで一〇・六〜一〇・七%で推移し ていた米国の物流コスト比率が九九年には一 〇%を割り、九・九%にまで下がっている。
そ の後、米国の景気が後退したことで二〇〇〇年 には若干上昇傾向を見せたが、それでも一〇・ 一%という水準だ。
これに対して日本の対GDP物流コスト比率 は約十一・四%と、米国とは一ポイント以上の 開きがある。
マクロ指標の一ポイントの差は決 して小さくない。
そして米国の物流生産性の向 上に3PLが大きく寄与したことは、当初3P Lに懐疑的だった老舗キャリアを含めて、多く の関係者が認めるところだ。
米国の経済復興に学べ 八〇年代に深刻な構造不況に陥った米国は 九〇年代後半には完全に経済を立て直した。
そ の経済復興にロジスティクスが大きく貢献した ことは間違いない。
翻って日本はどうだろうか。
日本市場におけるフルフィルメント・コストは 諸外国と比較して明らかに割高だ。
これを改革 するには有力な3PLの存在が不可欠だと私は 考えている。
最近、ようやく日本にも3PLとして成功し つつある物流業者が登場してきた。
一部の有力 物流子会社のほか、トランコムやハマキョウレ ックス、丸和運輸機関、バンテックなど、その 顔ぶれを見ると、歴史のある富士ロジテックを 例外として、ほとんどがオーナー経営者の強烈 なトップダウンを特徴とする中堅企業だと言え る。
彼らはいずれも経営者としての明確なビジ ョンを持っている。
一方、老舗の大手物流業者はといえば、旧 態依然としたビジネスモデルからの変革のスピ ードが遅いように感じる。
経営トップにリスク をとって改革を進めようという決断力と求心力 が求められている。
私の古巣の鈴与は強烈な鈴 木与平社長のカリスマ性で3PL事業を伸ばし ている。
老舗企業群も早くこのようになっても らいたいと願っている。
今後、3PLが普及していくことによって、 61 MARCH 2003 現在の日本の物流業界の勢力図は全く書き換え られることになるだろう。
そして米国の経済復 興にロジスティクス市場の刷新が寄与したよう に、そのことが日本経済の再生にも大きな貢献 を果たすことになるはずだ。
事実、八〇年代の米国経済と現在の日本の状 況は非常によく似ている。
当時の米国経済は、日 本を始めとしたアジア製品に市場を席巻されて いた。
その煽りを受けて米国内のメーカーが軒 並み経営難に陥り、製造業の空洞化の危機が叫 ばれていた。
その課題を米国はグローバル・ロジスティク スによって克服した。
割安なアジア製品を敵視 し、保護主義に走るのではなく、米国の経済圏 が世界に拡がったことを前提に、ロジスティク スを抜本的に見直したのだ。
米国がグローバル・ロジスティクスを真剣に 考えるようになったのは、この時が初めてだった と私は考えている。
サプライチェーン・マネジメ ント(SCM)というコンセプトも、ここを出 発点として定着していった。
それまでは米国で もSCMやグローバル・ロジスティクスはもち ろん、国内のロジスティクスでさえ、それほど重 要視されていたとは思えない。
日本から世界へ 今の日本はどうだろう。
国内市場を席巻して いるのが、東南アジア諸国ではなく中国製品だ という違いがあるくらいで、置かれている環境 は八〇年代の米国とほとんど変わらない。
とす れば今、日本が取り組まなければならないのは、 生産の中国シフトや中国市場への進出という単 純な海外展開ではなく、中国を始めとしたアジ ア経済圏という視点から、ロジスティクスを再 構築することではないだろうか。
単なる海外進出ではない。
本当の意味でのグ ローバル・ロジスティクスの構築が求められて いるのである。
八〇年代の米国はそれを成し遂 げた。
基本的に日本人は米国人以上に高い能力 を持っていると私は信じている。
容易なことで はないが可能なはずだ。
ほんの数年という期間 で、それを成し遂げることも不可能ではないと さえ、私は考えている。
少なくとも中国製の安い製品が入ってきて、そ れを脅威としてとらえているだけでは負けである ことは確かだ。
そこで今年、我々はi2テクノ ロジーズ、そしてIBMグループの三社(日本 IBM、IBMビジネスコンサルティングサー ビス、日本IBMロジスティクス)と共に、「J A I L O S ( Japan Initiative Logistics Solution: ジャイロス)」という新しいプロジェ クトを立ち上げた。
中国を中心としたアジア経済圏に活動を拡大 させた日本企業を主な対象として、「在庫」「輸 送」「調達」の最適化ソリューションを提供して いく。
ERPやWMSなど、これまでITソリ ューションの大部分は、「かんばん方式」など日 本の製造業のノウハウを基礎としながらも、製 品としては米国もしくは欧州からの輸入品だっ た。
しかしジャイロスでは日本人の手による日 本発のソリューションを開発し、それを世界に 普及させていきたい。
今は、そんな夢を抱いている。
(連載終わり) PROFILE つむら・けんいち1946年、静 岡県生まれ。
71年、早稲田大学 政治経済学部卒。
同年、鈴与入 社。
79年、鈴与アメリカ副社長 就任。
フォワーディング業務、3 PL業務を展開。
84年、米シカ ゴにKRI社を設立し、社長に就任。
自動車ビック3、IBM、コンパッ クといった有力企業とのビジネ スを経験。
92年、富士ロジテッ クアメリカ社長に就任。
98年、 イーエックスイーテクノロジー ズの社長に就任。
現在に至る

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