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《特別編》
MARCH 2002 66
八〇年代の終わり頃、日本の総合商社経由で中国国内の物流システムに
ついて相談を受けたことがありまし
たが、その時にも在庫という切り口
は全くなかった。
――それが今は違う。
曲
全く違いますね。 ただしSCM
については概念だけが知られている
だけで、まだ実際には浸透していな
い。 ERPによる単純な在庫削減は
進められていますが、あくまでも社
内だけの話です。 キャッシュフロー経営も支払いを滞納すれば改善
するといったレベル(笑)。 アウトソーシングについても、実際に導
入するのはこれからといった段階です。
田中
もっともERPについては欧米や日本も同じでしょう。 ER
Pは基本的に自己完結型です。 グループ内でまず最適化を図る。 そ
れで限界が見えた時点で、ようやくサプライチェーンを考える。 こ
の流れは中国も一緒。 ただし、中国はスピードが違う。 欧米がかな
りの年数をかけて進んだところを、中国は半年から一年で通過して
いる。 それだけ中国の企業の経営層は皆、若いし勉強している。
ERPソフトがバンバン売れている
――通信ネットワークのインフラに問題はないのですか。 どこでもイ
ンターネットを利用できる環境にあるのでしょうか。
曲
いや。 まだダメです。 ADSLに対応できない地域がまだまだ
残っている。 そのため問題も出ている。 例えばアパレル系の工場な
中国市場の物流マネジメント、物流ITは現在、どのようなレベ
ルにあるのか。 現地の事情に詳しいフレームワークスの田中純夫社
長と、同社の中国市場における販売パートナー・菱通ホールディン
グスグループの曲立東総裁の二人に、素朴な疑問をぶつけた。
九九年が中国の物流元年
――今日は中国の物流マネジメントと物流ITについて、教えても
らおうと思います。 まずは素朴な疑問なのですが、中国企業に物流
部というセクションはあるのでしょうか。
田中
ありますよ。 大手企業であれば、今は全て物流部があると考
えていい。 従来は倉庫管理とか輸送部という名称でしたが、九九年
のドットコム・ブームをきっかけに物流という概念が一気に中国に
拡がりました。 3PLや4PLという概念も今では日本以上に知れ
渡っています。
――物流ITについては? 中国国内にも物流ITベンダーが従来
から活動していたのですか。
曲
あることはありましたが、物流という概念がなかったので、輸
送管理、在庫管理、通関やヤードの管理などのシンプルなMIS
(
Management Information System
)レベルにとどまっていました。
――そもそも在庫を減らそうという発想自体がなかった?
曲
基本的に計画経済でしたからね。 国営企業の場合、売れたら計
上するのではなく、生産した時点で売上計上になる。 モノを作った
ら、それだけ税金を納めなければならない。 国民総生産という発想
が基本でしたから、とにかくドンドン作ればいい。
田中
ITといっても生産高を上げるための支援システムですよね。
フレームワークス田中純夫社長
菱通ホールディングスグループ曲立東 総裁
「中国の物流ITの水準は?」
菱通ホールディングスグループ曲立東 総裁
67 MARCH 2003
めとした物流のパッケージソフトが普及する要因は大別すると二つ
ある。 一つは荷主企業のサプライチェーン・マネジメント。 各地に
どんどん新しい倉庫を作っていくような状況では、パッケージでな
いと拠点網の拡大についていけない。
もう一つのパターンが物流業者側の自発的な理由です。 物流アウ
トソーシングの拡大に伴い、荷主の数も増えていく。 これもまた、カ
スタマイズではなくパッケージ型でないと対応できない。
外注の拡大がWMSの追い風に
田中
極論を言えば、親会社だけの物流をやっている間はパッケー
ジを使っても内部で作り込んでもそれほど大きな違いはない。 とこ
ろが外部の仕事をやろうとすると、それまで使ってきたシステムを
焼き直すという形では対処できなくなってくる。 さらに自社開発で
はメンテナンス・コストが膨れあがっていく。
――しかしWMSのパッケージとなると数千万円レベルの投資にな
ります。 中国で、それだけの投資余力がある物流会社となると数が
限られるのでは。
曲
そんなことはない。 数千万円どころか数十億円単位の物流投資
に踏み切る企業が今の中国にはゴロゴロあります。 ITだけではな
く、自動倉庫やピッキングラインにも積極的に投資しています。
田中
少なくとも日本の中堅企業以上の投資余力を持っている。
曲
しかも今の日本企業はIT投資
といっても、コスト削減のロジックし
かない。 中国は違います。 目的は事
業の拡大です。 ITや物流で他社と
差別化することで、仕事がどんどん
受注できるようになる。 良い人材も
確保できる。 だから投資する。 ただし
中国の場合、初期投資は惜しまない
ものの、導入後のアフターサービス、
メンテナンスに費用を認めないところ
がある。 それが当面の課題ですね。
どは、これまで通信環境を立地選定の時の条件にしてこなかった。 そ
のため工場を建設した後で通信ができないと分かったなどという話
になる。
田中
実際、上海から川を一本だけ隔てた地域に進出した日系の大
規模工場でインターネットに対応できないところがある。
――そのレベルにとどまっている限り、業務用パッケージソフトのニ
ーズも低いのでは?
曲
そうとは限らない。 実際、今の日本企業にはなかなか手が出せ
ないような大型のERPソフトが、中国の大手企業にバンバン売れ
ている。 彼らはどういうふうに考えているかというと、今から自前
で急激なグローバル化に対応したシステムを構築しようとしても時
間的に間に合わない。 それよりも世界で最も優れたソリューション
を導入する。 具体的にはSAPとオラクルを導入して、業務プロセ
スも全てそれに合わせてしまうという発想に立っている。
――パッケージを導入しても、業務プロセスはいじらない日本の企
業とは対照的ですね。
曲
もともと日本企業には、新しい製品が登場しても、それを進ん
で使ってみるという土壌がない。 良い製品を作っても、口利きや紹
介がないと大企業には受け入れられない。 米国の企業なら担当者が
自分の責任で導入を決定して、成功すれば手柄になる。 導入に失敗
しても、転職して新しい会社で失敗の経験を活かすと言えば評価の
対象になる。
――恨みがこもっていますね(笑)。
田中
しかし確かに日本でベンチャー企業が大企業と取引口座を開
くのは大変なこと。 私の知る限り、日本と韓国、中国のビジネスに
は大きな違いがある。 韓国はやはり財閥系が強い。 財閥解体が進ん
でいるとはいっても、まだまだ影響力がある。 そのため資本関係の
ない独立した3PLが育ちにくい状況にある。 物流のソフトウェア
に関しても、自社開発へのこだわりが根強い。 日本はもっとそう。 そ
の点、中国は切り替えが速い。 スパッとパッケージに切り替える。
――物流ITの具体的なニーズとしては?
曲
荷主企業と物流会社で違ってきます。 現在の中国でWMSを始
フレームワークス田中純夫 社長
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