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本誌編集部
MARCH 2003 8
米国モデルは日本に根付くか
今年2月25日、日立物流が運営する国内最大級の物流拠点「イ
オン関西NDC」が稼働した。 これによってイオンが97年から進
めてきた「戦略物流構想」にメドが立った。 並行して取り組んで
きた「IT戦略構想」も着実に前進している。 欧米型サプライチ
ェーンが初めて日本市場で動き始めた。
日本史上最大の3PL案件
新幹線で京都から大阪に向かう途中、左手にイオ
ンと日立物流の名を冠した巨大な物流センターが見え
る。 今年二月に稼働した「イオン関西NDC」の威
容である。 延べ床面積は約一〇万平方メートルに上る。
この国内最大級の物流拠点は、一九九七年からイオ
ンが取り組んできた「戦略物流構想」の象徴ともいえ
る施設だ。
同構想に基づきイオンは二〇〇一年六月に仙台R
DCを稼働したのを皮切りに、全国を一九カ所三九
施設で網羅する新たな物流ネットワークの構築を進め
ている(本誌二〇〇一年七月号既報)。 これまでグル
ープ内に抱えていた一二六カ所の物流拠点をいったん
全て白紙に戻し、二〇〇四年度中をメドに全く新た
なネットワークに置き換える。
イオンの試算によると、この戦略物流構想には総額
で八九〇億円もの投資が必要だという。 ただし、それ
を直接負担するのはイオンではない。 日立物流、福山
通運、日本トランスシティ(トランシィ)、センコー、
ニチレイの3PLプロバイダー各社が、自らのリスク
でイオン専用の施設を建設し、センターの運用までを
担う。 日本では過去に例のない規模の3PLプロジェ
クトだ。
福通は全拠点のなかで二番目の規模となる「イオン
関東RDC」を受託するため、土地・建物に約一三
〇億円という巨費を投じた。 トランシィも「イオン中
部RDC」に約七〇億円をかけた。 いずれも特定荷
主向けでは過去最大の投資となる。 各社がイオン向け
事業に賭ける意気込みの大きさが伝わってくる。
トランシィで事業戦略を統括する川合一明常務は、
「イオンさんの中部RDCの運営を我々の業態変革の
トリガーにしたい」と意気込む。 創業から一〇〇年以
上の歴史を持つ老舗企業の同社は、これまで素材や
原料を中心に扱ってきた。 トランシィにとって一年三
六五日、一日二四時間稼働の大規模センターを運営
するのは今回が初めてだ。 ここで培うノウハウを新た
な事業展開に活用しようとしている(三二ページ参
照)。
福通にとってもイオン向け事業は大きな転機になっ
た。 九九年十二月に同社は日立物流と業務提携して
いるが、実はその引き金となったのが当時、すでに水
面下で進められていたイオン向け3PL事業への参加
だった。 他社との差別化が難しくなっている特積み事
業のインフラを有効に活かすという狙いもあって、福
通はセンター運営事業を強化する道を選んだ。
これらの3PLパートナーを選ぶために、イオンは
九八年から一年半ほどかけて大規模なコンペを開催し
た。 書類選考や担当者との面談を繰り返した結果、パ
ートナー候補を常温分野の四社(日立、福通、トラン
シィ、センコー)と定温分野の二社(ニチレイ、日本
水産)の計六社に絞り込んだ。
本来は、3PLパートナーを一社に集約したほうが
荷主側の管理負担は軽くなる。 3PL側でも全体を
コントロールできるため、合理化の施策が打ちやすい
と言われる。 イオンがそれを避けたのは、事業規模が
大き過ぎることに加え、「複数の事業者を使い分ける
ことでリスクを分散し、しかもプロバイダー同士が競
い合うことで生産性を高める構図を作りたいという狙
いがあった」と同社の高橋富士夫物流統括部長は説
明する。
プロバイダーの生産性向上への意欲は時に荷主自
身をも巻き込んだ。 今回の物流構想では施設の立地
条件や構造、導入するマテハンの仕様などを、すべて
解 説
9 MARCH 2003
特集1
イオンの物流部門主導で選ぶことになっていた。 とこ
ろが事はそう簡単には進まなかった。 例えば、中規模
の在庫拠点である仙台RDCには自動倉庫を導入し
たのに、最大規模の在庫拠点である関西NDCには
自動倉庫がない。
イオンは自動倉庫の導入を前提に話を進めた。 これ
に対して日立物流とトランシィは、それではかえって
庫内業務の生産性が落ちると主張。 各施設の装備の
標準化を図りたいイオンは自動倉庫の導入を望んだが、
投資の当事者である二社は譲らない。 生産性を試算
したところ自動倉庫なしでも、同等の生産性を確保で
きるメドが立ったため最終的にはイオンが折れた。
その後、実際に稼働してからも、自動倉庫の有無に
よる明らかなコスト差はあらわれていないという。 こ
の一件で高橋部長は「3PLプロバイダーの持ってい
る経験なり知識を実感した」という。 手本のないプロ
ジェクトは荷主側、3PL側の双方に試行錯誤を求
めた。
NDC稼働でプロジェクトにメド
しかし、それも二月に関西NDCが稼働したことで、
「やっと大きな峠を越えた。 今後、立ち上げる施設は
小規模なものばかり。 延べ床面積という意味でもすで
に全体の五割を超えている。 プロジェクトは折り返し
地点を迎えた」とイオンの高橋部長は評価している。
予定している全国三九施設のうち、今回稼働した
関西NDCはまだ七カ所目に過ぎない。 しかし、同セ
ンターは規模の大きさばかりでなく、機能的にもイオ
ンの物流ネットワークの中核的な役割を担っている。
比較的回転率の低い商品を集中して在庫すると同時
に、プライベートブランド(PB)商品や海外から直
接調達した戦略商品の中央拠点として機能する。
施設の全国配置図 ※()内は稼働時期
札幌RDC/XD/PC(04.5)
盛岡XD/PC(03.11)
秋田XD/PC(03.7)
仙台RDC/XD/PC(01.6)
新潟XD/PC(03.8)
信州XD/PC(04.7)
北陸XD/PC(03.10)
静岡XD/PC(02.11)
関西NDC/NXD/RDC/XD(03.3)
京都XD/PC(04.3)
兵庫RDC/XD/PC(02.7)
四国XD/PC(03.5)
広島RDC/XD/PC(04.3)
沼津RDC/XD/PC(検討中)
関東NXD/RDC/XD/PC(02.11)
青森XD(03.5)
沖縄RDC/XD/PC(03.9)
九州RDC/XD/PC
(02.11)
2001年稼働 2002年稼働 2003年稼働 2004年稼働
NDC(ナショナル・ディストリビュション・センター)
NXD(ナショナル・クロスドック・センター)
季節商品並びに商品回転率の遅い商品など全社
的に在庫を集中した方が効率的な商品を保管。
各地のクロスドック・センターを経由して全国
の店舗に商品を供給
商品在庫保管機能は有さず、全国に供給する経
由形商品を集約し、全国のクロスドック・センター
を経由して全国の店舗に供給
RDC(リージョナル・ディストリビュション・センター)
XD(クロスドック・センター)
商品回転率の速い商品の保管と担当エリアの店
舗に担当エリアのクロスドック・センターを経
由して商品を供給
商品の在庫保管機能は有さず、NDC/NXD/RDC
からの供給商品と所在エリア商品の荷受けと店配送
PC(プロセス・センター)
生鮮食品の製造加工並びにインストアー商品の
原料を併設のクロスドック・センターを経由し
て供給
展開施設のタイプ
中部NXD/RDC/XD/PC(02.11)
北関東XD/PC
(04.1)
日立物流が100億円を投じた
イオン関西NDC
【施設概要】
建設地:京都府乙訓郡大山崎町、構造:
鉄骨造・地上7階(高さ43.9m)、敷地面
積:63,884m2、延床面積:90,566m2
(車路除く)、トラックバース:107台分、
ケースソーター: 104シュート、ピース
ソーター:388シュート、フォークリフ
ト:52台、パレットラック:1000パレ
ット、ネステナー:10,000台、無線ハン
ディターミナル:500台
物流改革構想全国施設一覧表(2002年8月6日ステアリング・コミッティー承認)
札幌
青森
秋田
盛岡
仙台
信州
新潟
北陸
北関東
関東
沼津
静岡
中部
京都
大阪
関西
広島
四国
九州
沖縄
所在地
岩手県玉山村
宮城県岩沼市
新潟県豊栄市
石川県鶴来町
千葉県市川市
静岡県掛川市
三重県四日市市
京都府大山崎町
兵庫県龍野町
香川県宇多津町
佐賀県鳥栖市
面積(m2)
敷地 延床
19,140
19,186
56,783
22,760
58,654
40,461
34,565
16,942
27,603
23,304
16,529
64,220
10,689
35,740
85,645
18,277
8,903
18,480
取扱高
(億円)
512
238
405
278
565
304
493
534
507
1,149
2,002
399
235
645
1,303
836
445
1,668
1,135
893
545
1,002
443
277
146
供給対象企業
イオン、MAX北海道
イオン
イオン、MAX東北
イオン
イオン、MAX東北他
イオン
イオン
イオン
イオン
イオン
イオン、東日本G各社
イオン
イオン
イオン、MAX中部
イオン、MAX中部
イオン
イオン、全国G各社
イオン、MAX西日本他
イオン、MAX西日本
イオン
九州J、MAX九州他
九州J、MAX九州他
琉球J
琉球J
稼働予定
2004年5月
2003年5月
2003年7月
2003年11月
2001年6月
2004年7月
2003年8月
2003年10月
2004年1月
常温2002年11月
生鮮2004年11月
2002年11月
常温2002年11月
生鮮2004年9月
2004年3月
2003年3月
2002年7月
2004年7月
2003年1月
常温2002年11月
生鮮2004年1月
常温2003年9月
生鮮2004年4月
常 温
DC
福山通運
センコー
福山通運
トランシィ
日立物流
日立物流
日立物流
福山通運
XD XD
福山通運
福山通運
福山通運
福山通運
センコー
日立物流
日立物流
日立物流
福山通運
福山通運
トランシィ
トランシィ
日立物流
日立物流
日立物流
日立物流
日立物流
福山通運
生 鮮
ニチレイ
福山通運
福山通運
ニチレイ
ニチレイ
ニチレイ
日立物流
日立物流
ニチレイ
福山通運
ニチレイ
トランシィ
ニチレイ
日立物流
日立物流
ニチレイ
日立物流
福山通運
農産RS
ニチレイ
ニチレイ
ニチレイ
ニチレイ
ニチレイ
FSJ
ニチレイ
FSJ
FSJ
水産PC/RS
ニチレイ
ニチレイ
ニチレイ
ニチレイ
ニチレイ
FSJ
ニチレイ
FSJ
ニチレイ
FSJ
ニチレイ
FSJ
FSJ
畜産PC/RS
ニチレイ
ニチレイ
ニチレイ
ニチレイ
ニチレイ
FSJ
ニチレイ
FSJ
ニチレイ
FSJ
ニチレイ
FSJ
FSJ
惣菜PC/RS
ニチレイ
ニチレイ
ニチレイ
ニチレイ
FSJ
ニチレイ
FSJ
FSJ
注1)「面積」が記載の施設は既に稼働かまたは現在建設中の施設 注2)「取扱高」は仕入原価ベース。 マイカル分含むがウエルシア等は含まず
施設
※FSJ=フードサプライジャスコ
検討中
2003年2月現在
MARCH 2003 10
具体的には以下の四つの役割を果たす。
?NDC 四・九万平米のスペースを使って低回転
商品や戦略商品を在庫する
?RDC 近畿エリアのイオングループの店舗に供給
するための商品を在庫する
?NXD 西日本に位置するメーカーの商品をクロス
ドックで仕分け全国に供給する
?XD 通過型の商品を域内の店舗へと供給する
関西NDCの建設に日立物流は土地代を除いて一
〇〇億円を投資した。 六・四万平方メートルに及ぶ
敷地は、これまで日立物流が経営していた自動車学
校を閉鎖してひねり出した。 他にも日立物流は全国一
九カ所の常温施設のうち八カ所を担当することが決ま
っている。
イオンの戦略物流構想を支える3PLプロバイダー
のなかで、日立物流は常温分野の最大のパートナーだ。
同社は二〇〇二年三月期に3PL事業で六六六億円
の収入を計上したが、さらにイオン向け案件だけで約
二〇〇億円の増収を見込んでいる。 それだけにプロジ
ェクトが失敗した時のリスクも大きい。 しかし同社の
3PL事業を育て上げ、今回の案件でも契約の最前
線に立った山本博巳専務は強気の姿勢を崩さない。
「イオンさんが新たな物流網を構築したことを受け
て、従来からの当社の大口クライアントでもある加藤
産業さんがイオンさんの施設の周辺にどんどん進出し
ている。 さらに関西NDCには中国や東南アジアで作
られた商品が次々に入ってくる。 こうした売り上げま
で入れればイオンさん絡みの増収効果は二〇〇億円ど
ころではない」という。
イオンは二〇一〇年に小売り業者として世界十指
に入る「グローバル
10
」という経営目標を掲げている。
具体的には現在、約三兆円の連結売上高を二〇一〇
年に七兆円に引き上げる計画だ。 この壮大なビジョン
を実現するため、九七年に就任した岡田元也社長は
憑かれたかのように社内改革を進めてきた。
イオンの背中を押し続けてきたのは強烈な危機感だ
った。 八七年にイオンは「
21
世紀ビジョン」という長
期展望を策定している。 すでにこのときにGMSとい
う業態がいずれ苦境に立たされること、そして大規模
小売店舗法が廃止されて自由競争の時代に入ると、G
MSとは異なるディスカウント型の業態でなければ生
き残れなくなることを強く自覚している。
この「
21
世紀ビジョン」の延長線上で、岡田社長が
就任直後に立ち上げたのが「物流情報統合プロジェク
ト」だった。 米国の大手コンサルティング会社、カー
トサーモンアソシエイツ(KSA)の助力を得て、「I
T戦略構想」と「戦略物流構想」を策定。 これはイ
オンが進めている改革の両輪ともいうべきものだ。 従
来型のMD(マーチャンダイジング)を根本的に変え
て、世界レベルで戦える企業体質を作るためのサプラ
イチェーン改革である。
世界水準のオペレーション
イオンの「IT戦略構想」を牽引している縣厚
伸取締役IT本部長は、「我々がグロバールリテーラ
ーと戦うためには、従来のように取引先任せのMDで
は勝ち目がない。 我々自身がリスクをとって商品を開
発しなければ、エブリデイロープライスは実現できな
い。 そのために社内のルールを変え、役割を変える必
要があった」と強調する(十一ページ囲み参照)。
イオンはWWRE(ワールドワイド・リテール・イ
クスチェンジ)と呼ばれる世界最大規模のeマーケッ
388シュートを備える国内最大級
のピースソーター(椿本チエイン)
40カ所(5ライン×4系統×2台)
ある投入口から商品を送り込む
104シュートある自動仕分機、能力
18000個/時間(トーヨーカネツ)
スペース効率を高めるため1階の
ソーターのシュート部分を交差
イオン関西NDC
11 MARCH 2003
トプレイスの創立メンバーにも名を連ねた。 WWRE
から調達している商品の量は二〇〇二年二月期の段
階では四四億円とまだわずかだが、縣取締役はWWR
Eに参加した意義は大きかったと言う。
「
従来の商談ではバイヤーはいつも一番安いものを買
っていると考えがちだった。 ところが中には過剰在庫
を抱えている調達先もある。 実際、来月これだけ売りた
いからとWWREで呼び掛けると簡単に一割、二割、
仕入れ価格が下がることがある。 商品やタイミング次
第で、まだまだ仕入れ原価を下げられると気づいたこ
とが大きい。 しかも、いったん下がった仕入れ価格は
簡単には上がらない。 取引実績は累積で効いてくる」
一連のIT改革にイオンは約三五〇億円を投じた。
物流投資は3PLプロバイダーが肩代わりしたが、I
Tについては自ら投資している。 米JDA、日本IB
M、日本オラクル、日立製作所といった有力ITベン
ダー九社による分業体制を構築。 各社の得意分野を
有機的に組み合わせながら、最先端のIT武装を進めてきた。
具体的な投資分野は大きく二つある。 一つは、店
舗のPOSシステムからMDシステムに至るサプライ
チェーン全体の仕組みの高度化だ。 ここに約二九〇億
円を投じている。 世界中で小売り業者への豊富な導
入実績を持つ米JDA社のパッケージソフト「ODB
MS」を中心に据え、店頭から調達部門にいたる在
庫管理システムをイオンの本部で統合的に管理できる
仕組みを作った。
もう一つが、WMS(倉庫管理システム)への投資
だ。 前述した通り物流センターの設置と運営は3PL
プロバイダーに任せているが、オペレーションのカギ
を握るWMSには約六〇億円を投じてイオン自身が
導入した。
特集1
――九七年の「IT戦略構想」の前段となった「MD
プロセス改革」について説明してください。
商品本部の組織と役割を大きく見直しました。 従来
のイオンでは「商品の企画・設計」から「メーカー商
談」、さらに「卸との話合い」や「店舗での在庫管理」
までを、すべて一人の担当者が手掛けていました。 商
品単位に縦割りの組織になっていたためです。
このプロセス改革で「店舗での在庫管理」を専門部
署で横断的に手掛けるように変えました。 狙いは、店
舗の状況を本部で把握できる体制の実現です。 そうす
ることが我々がとろうとしていた戦略・戦術を実行す
るうえで、どうしても必要でした。
――そのときイオンがとろうとしていた戦略・戦術とい
うのは?
当社には「グローバル
10
」を目指すという目標があ
ります。 グローバルリテーラーと戦っていくためには、
彼らが顧客に提供している価値を当社も実現しなけれ
ばならない。 そのときまず提供すべき価値がエブリデー
ロープライス(EDLP)でした。 そして、EDLP
を継続的に提供していくためにはエブリデーローコスト
(EDLC)が必須条件になります。
我々のコストのなかで最大の比率を占めているのは
商品原価です。 商品原価を下げるには、いくつかの方
法とか手段がある。 なかでも当社が取り組むべきは開
発型の商品調
達でした。 具体
的にはPB商品
の開発や海外ソ
ーシングです。
ようするに我々
がリスクを負っ
て商品を開発す
ることで、生産
コストを下げる必要があった。 これが従来のイオンの
組織のままでは実現できていなかった。
――なにがダメだったのですか。
従来の当社の商談で、あるメーカーさんの新商品を
採用したとします。 そうすると「何月何日からお店に
並べるから、○×問屋さんにいつまでに納品して下さ
い」と依頼した段階で、我々のMDは終わっていまし
た。 あとはお店が発注するから、品切れしないように
在庫を管理しておいて下さいとお願いするだけだった。
つまり商品を決めてしまえば、その後の発注責任と販
売責任はお店、中間物流の在庫責任は卸さん、という
役割分担になっていた。 商品本部の役割とか責任は極
めて希薄でした。
しかも商品を返品しないといっても、これは店に入
れてからの話で、最終的にどれだけ売るかも決めずに
生産や中間物流の在庫管理をお願いしていた。 でも、生
産するところから我々がコミットしない限りコストは下
がりません。 現にグローバルリテーラーはそうしている。
我々も選択肢の一つとして、そういうことをできる体
制が必要だという話しになった。 つまり海外に商品を
発注してから以降の管理体制を整えなければならなか
った。 物流センターに商品が何個あるのか。 これを店
舗に配ったとすると、いくつ売れて何個残っているの
か。 こうした情報をきちんと把握しなければいけない。
――そこでサプライチェーンの再構築に乗り出したわけ
ですね。
そうです。 ただし、在庫が見える仕組みを実現した
としても、次は誰がこれをコントロールするのかという
話があった。 在庫管理のプロを育てなければいけない。
それで組織を変え、役割とルールを変えて、在庫管理
の担当者が必要な情報をとれる仕組みを作ることにな
った。 それが「IT戦略構想」と「物流戦略構想」だ
ったわけです。
「リスクを避けていては世界と戦えない」
イオン 取締役
グループIT本部長
縣
厚伸
MARCH 2003 12
この分野でパートナーになった日立製作所の西村芳
和ロジスティクスソリューション部長は、「当社は『M
ARC』と『HITLUSTER』という大規模な
WMSパッケージを二つ持っている。 『MARC』に
ついては、かつて米TRW社がイオンさんのコンペに
参加したとき、当社にパートナーとして組まないかと
声を掛けてきた。 そのとき我々が日本での独占販売権
を取ったという経緯がある。 典型的な欧米型の倉庫管
理システムだ」と説明する。
TRWは米国国防総省などに強い有力SIベンダ
ーである。 イオンのコンペに参加した当時、約二兆円
の売り上げを誇る大手だった。 だが、その後、同社は
「MARC」の販売権をオランダに本社を置くMAR
Cグローバルシステム社に売却。 ただし現在でも日本
での独占販売権は日立製作所が持っている。
当初、イオンは欧米流のビジネスモデルを具現化で
きるソフトとして、在庫型センターの運営に「MAR
C」を使うつもりだった。 ところが実際に仙台RDC
に導入したところ、欧米流のパレット単位で動かす物
流管理が日本の流通現場には馴染まないという齟齬
が発生してしまった。
しかも「MARC」はサポート体制も弱かった。 オ
ランダの本社から導入支援の部隊が乗り込んではきた
が、「カスタマイズなどの対応が我々の望むスピード
についてこれなかった」(イオンの高橋部長)。 結局、
仙台RDCで通過型センターのソフトとして採用して
いた日立製作所の「HITLUSTER」を在庫型
に改良して、兵庫以降の二カ所目のセンターから全国
展開することを余儀なくされた。
見込み違いは、3PLプロバイダーとの関係でも発
生した。 二〇〇一年五月にイオンが初めて大々的に
「戦略物流構想」を仙台で発表したとき、記者会見に
は岡田元也社長をはじめプロバイダー六社の社長が顔
を揃えた。 しかし当時はまだ契約手続きの途上にあっ
た。 各社の対応は、それから微妙に変化していった。
当初、イオンとしては、食品を加工する定温センタ
ー・PCの建設と運営を日本水産に二、三カ所は担
ってもらう計画だった。 しかし日水は水産以外の畜産
や惣菜の加工には難色を示した。 結局、日水は3P
Lプロバイダー候補から降り、従来通り水産物の仕入
れと加工業務だけを委託する一調達先という関係に
収まった。 イオンの高橋部長は「両社の話し合いのな
かで円満解消した」と言うが、このことがある種のリ
スクを残したことは否めない。
PCのプロバイダーは二社のうち日水が辞退した結
果、ニチレイ一社になってしまった。 これを懸念した
イオンは子会社のフードサプライジャスコ(FSJ)
に日水の担う予定だった施設を任せた。 だが、これで
複数のプロバイダー同士が競い合う関係は望めない状
況に陥ってしまった。 正念場を迎える事業戦略
今回の物流構想のなかでイオンと3PLプロバイダ
ー各社は、いわば運命共同体ともいうべき関係にある。
投資規模が大きいだけに、互いに失敗は許されない。
ただし、緊密なパートナーシップを保ちながらも自分
を守るためのリスクヘッジは必要だ。 常温分野の四社
は、各社がイオンとともに歩む明確な動機を持ってい
る。 万一、どこか一社が撤退を余儀なくされるような
事態になっても、イオンのとり得る選択肢はある。
ところが日水が降りた後のPCは、イオンにとって
リスクヘッジの効かない状態にある。 ニチレイは日本
最大の冷蔵倉庫業者という顔を持ちながらも、依然と
してビジネスの主力を食品事業に置いている。 しかも
日立製作所の西村芳和
ロジスティクスソリューション部長
13 MARCH 2003
イオン向けの投資もリースが中心で、リスクを避けよ
うという動きが目立つ。
イオンに限らず今日、生鮮分野の流通効率化や定
温物流の高度化は大きな課題となっている。 しかも
「マックスバリュ」などの業態でスーパーマーケット
事業を強化しているイオンにとって、ライバルは従来
の大手小売業より、むしろ地場の食品スーパーにシフ
トしている。 今後のイオンの手綱さばきが問われる重
点分野といえるだろう。
こうした課題を包含してはいるものの、日本初とも
いえるイオンの大規模な3PLの試みは、おおむね計
画通り進んでいる。 そこでは従来の日本企業の物流契
約には希有なパートナーシップが生まれつつある。 互
いの主張をぶつけながら生産性を高め、しかもそれぞ
れがしたたかに算盤を弾く。
今のところ商流面ではメーカーや卸からの反発が激
しい。 だが、サプライチェーン改革の方向性は基本的
に理に適っている。 かつてダイエーやマイカルが、バイイングパワーを武器にひたすらメーカーと流通の覇
権争いを演じたのとは、本質的に異なる道をイオンは
歩んでいる。 二〇一〇年までに売上規模を倍増すると
いう目標がどこまで実現できるのかはまだ不透明だ。
それでも現在のような勢いでシェアの拡大が続けば、
顧客である卸に遠慮して声をひそめている加食メーカ
ーとの直接取引もいずれ可能になるだろう。
グローバルリテーラーの日本進出はまだ第一段階に
ある。 しかし、西友を舞台に慎重に市場調査を重ねる
ウォルマートと、出店戦略を大幅に修正しながら日本
流への適合を模索中のカルフールが、資本力にものを
言わせて今後、一気に攻勢に出る可能性は高い。 その
ときこそイオンのサプライチェーン改革の真価が問わ
れることになる。
特集1
――イオンは「戦略物流構想」に着手するまで全国に
一二〇カ所以上の物流拠点を持っていました。 計画
通り一九カ所三九施設が立ち上がったら既存施設は
閉鎖するのですか。
基本的にすべて新しい施設に切り替えます。 すでに
三割くらいは閉鎖したはずです。 ただし、規模の大き
な施設になると、在庫の移管問題があるため一気に既
存施設を閉鎖することはできません。
例えば、昨年十一月に稼働した関東RDC(千葉
県市川市)では、すぐ近くの船橋市にあった福山通
運さんの在庫型センターから引っ越してくるだけで一
〇トン車が八八台も必要でした。 まだ群馬、埼玉、大
阪に既存施設が残っていますが、これを動かすとなる
と船橋どころではない。 こうした大きな施設について
は段階的に移管していきます。
――ここまではスケジュール通りに進んでいます。
施設数はまだ全体の約三割が稼働したに過ぎませ
んが、延べ床面積でみるとすでに五割を超えています。
大きな峠は越えたなという感じはしています。
――当初、各施設に導入するマテハン設備はイオンが
決めるという話でした。 しかし、結果を見ると自動倉
庫を入れる施設と入れない施設に分かれました。
確かに仙台RDCと関東RDCでは自動倉庫を導
入しましたが、中部RDCと関西NDCは入れてい
ません。 関西に
ついては日立物
流の山本専務が
「自動倉庫は嫌
いだ」と言うし、
中部もトランシ
ィの森取締役が
「いったんピッキ
ングしたものを
なぜ再び戻す必要があるのか」と言って入れたがらな
い。 だから、関西と中部の二カ所は導入しませんでし
た。
――でも自動倉庫の有無でコストや生産性が変わって
きてしまうのでは?
その点は我々もきちっと試算して、自動倉庫を導
入しなくても遜色ないことを確認しました。 実際、自
動倉庫を導入したかしないかで明らかなコスト差がつ
いているかとなると、現状を見る限り必ずしもそうで
はありません。
――少し意外だったのですが、プロバイダーとの契約
年数にもばらつきが出ました。
プロバイダーごとに年数を決めたのではなく、施
設規模によって決めています。 仙台RDC以下のサ
イズの施設であれば基本的に十二年。 関東、関西ク
ラスの大規模施設であれば二〇年となっています。
――イオンとしては契約期間を短くしたい。 他方プ
ロバイダーとしては長くしたい。 互いにせめぎ合う部
分かと思っていたのですが、実はそうでもなかったよ
うですね。
各社のビジネスに対する考え方の違いでしょうね。
これはプロバイダーを選定する段階でも感じたのです
が、倉庫業界とか特積み業界の企業というのは非常
に保守的です。 彼らは概して契約年数も長くしたがっ
た。 これに対して日立物流さんやセンコーさんのよう
に、センター運営の経験の豊富な事業者は案外あっ
さりと一二年で結構ですと言いました。
――常温分野で中心的な役割を担う日立物流との契
約が一二年後に切れると、かえって首根っこを押えら
れかねないという怖さはありませんか。
その点はまったく心配していません。 逆に日立物流
の売り上げに占める当社の売上構成が大きくなって、
そんなヨコシマなことは考えられなくなりますよ(笑)。
「物流ネットワークの整備は峠を越えた」
イオン 物流統括部 部長 高橋富士夫
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