ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年4号
ケース
ライオン――コスト削減

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

総額一〇〇億円のコスト削減 家庭用品大手のライオンは、二〇〇一年度 から大規模な中期経営計画に取り組んできた。
「VIP(Value Innovation Plan )計画」と 名付けられたこの五カ年計画は、「成長基盤 の再構築」、「収益構造の改革」、「組織能力の 向上」の三つの柱からなる。
二〇〇三年までの前半三カ年で、まずコス トダウンと経営効率化を進め、同時に従来は 全方位的に展開していた事業構造を見直しコ ア事業への注力を図る。
そして二〇〇四年以 降の後半二カ年では、周辺分野も含めて新規 事業の拡充を進め、グローバル競争に対応で きる事業を確立する。
この「VIP計画」で前半三カ年の具体的 な目標として掲げていたのが、一〇〇億円の トータルコストダウンの断行だった。
これを 実現するためにライオンは「収益構造改革推 進本部」を設置。
製品原価の低減やSCMの 構築などの施策を展開、トップダウンによる 変動費・固定費の削減に取り組んできた。
実務面の事務局は 「LOCOS推進部」 が担当した。
「LOC OS」とはLow Cost Supply の頭文字だ。
同社は一〇年ほど前、 その名の通りのロ ー・コスト・サプラ APRIL 2003 48 全国の拠点集約と工場直送で トータルコストダウンに貢献 トータルコストを100億円削減する3カ年計 画を昨年、1年前倒しで達成した。
トップダウ ンで進めてきた製造原価の低減や、拠点集約 を柱とした物流費削減などの成果だ。
今年か らまた新たに100億円のコストダウンを目指す プロジェクトをスタート。
物流関連では20億 円の削減に取り組んでいる。
ライオン ――コスト削減 ライオンの小平昌秋 LOCOS推進部長 49 APRIL 2003 集約・再編だ。
ライオンの家庭品の物流ネットワークは、 中央倉庫、流通センターおよびその補完基地 からなる(図1)。
中央倉庫は自社工場に併 設したストック型の拠点で、ここから各地の 流通センターに在庫を補給しながら市場に商 品を供給する。
また、季節商品や出荷頻度の 低い商品については別途、少量品向けの中央 倉庫を東西二カ所に設けて流通センターへ補 給する態勢をとっている。
中央倉庫から流通センターへの補給業務は、 三年前に「新需給管理システム」を導入して 以来自動化されている。
月次の出荷見通しを もとに、対象アイテムの発注点・補充点・在 庫実績から流通センター別・商品別の補給量 を自動で算出。
ルートごとの輸送能力と、セ ンターの保管・荷役能力の範囲内で補給計画 を作成する。
車両の手配以外はすべてコンピ ューター画面上で一括処理できる。
このシステムを導入する以前は、基準在庫 の設定は事実上、担当者の裁量に任されてい た。
そのため最適配分の実現が容易ではなか った。
また、輸送や荷役体制などの制約から、 補給計画の決定には関連部署間の調整が欠か せず、業務効率も悪かった。
同システムを導入したことで業務のスピー ドアップを実現。
在庫管理の精度も高まり、 品切れや不良在庫の発生が減った。
こうして 拠点間の在庫配分を適正化する仕組みは、三 年前に完成した。
「VIP計画」で取り組ん だ拠点集約はこれに続く施策で、実在庫削減 の環境整備をさらに一歩進めるものだ。
自前の物流拠点をすべて撤収 具体的な拠点の集約作業は、「VIP計画」 に先立つ二〇〇〇年秋から始まっていた。
当 時、ライオンは首都圏に、補助倉庫を入れて 合計八カ所の流通センターを構えていた。
こ のうち溝ノ口、宮前、平井、八千代などの六 拠点を撤収し、首都圏の物流ネットワークを 川崎と船橋の二拠点体制とした。
続いて九州地区でも、九州工場の閉鎖に伴 って福岡にあった三つの物流拠点を廃止。
プ ラネット物流の共同物流基地に集約した。
さ らに昨年八月には近畿・中四国地区でも拠点 再編に着手。
従来あった七カ所のうち、自社 物件の摂津流通センターをはじめ吹田、岡山、 丸亀など六拠点を閉鎖し、新たに茨木に拠点 を新設。
泉大津流通センターと合わせて、近 畿・中四国地区の物流ネットワークを二拠点 に集約した。
今年二月に静岡流通センターを閉鎖したこ とによって、拠点集約はひととおり終了。
拠 点数は小規模な補助倉庫も入れて二六カ所か ら十一カ所へ減った。
今回の拠点再編では少量品倉庫の配置も見 直した。
従来は東西に一カ所ずつ独立した拠 点として設けていたのを、東は船橋流通セン ターに併設、西は茨木流通センター内に設置 した。
在庫移動のコストを削減する狙いだ。
イを実現すべく全社的な業務改革プロジェク トに取り組んだことがある。
そのプロジェク トチームを母体に発足したのがLOCOS推 進部だ。
当時は、製品の品切れや在庫の偏在が、単 なる物流の問題としてではなく経営課題とし て認識されるようになった時代だった。
これ を解決するうえで、LOCOS推進部は部門 間の調整を横断的に行う組織として位置付け られた。
以来、同部はロジスティクスの観点 から生産・販売・物流を最適化するための施 策の立案やシステム構築に取り組み、数次に わたる「トータルコストダウン」プロジェク トの先導役も 担ってきた。
今回の「VI P計画」でも LOCOS推 進部は、主力 の家庭品事業 で原価低減プ ロジェクトの事 務局を務めて いる。
その一 方で物流効率 化のための施 策を立案し、自 ら実行してき た。
その目玉 が物流拠点の 図1 ライオンの物流フロー 自社工場(6) 関係会社(9) 原材料メーカー 工場中央倉庫(6) 流通センター(11) 卸 売 業 小 売 業 小ロット品中央倉庫(2) 協力工場(14) 仕入企業(37) APRIL 2003 50 今年七月末には衣料用合成洗剤を生産する川崎工場を閉鎖し、千葉と大阪の二工場に 生産を移管することがすでに決定。
この生産 拠点統合による家庭品事業の製造原価低減 効果として、年間一〇億円を見込む。
これは 二〇〇〇年末の九州工場閉鎖、東京・千葉 工場への生産移管に次ぐ生産拠点の見直しで、 結果として同社の自社工場は東京・千葉・小 田原・大阪・明石の五カ所となる。
また、昨年一〇月には、衣料用洗剤を製造 する千葉・大阪工場を舞台に、卸店などのユ ーザー向け直送がスタートした。
これを、ラ イオンでは物流効率化によるコストダウンの 新たな切り札と位置づけている。
工場直送は、従来の中央倉庫から流通セン ターを経由してユーザーに届けるという流通 ルートに、いわばバイパスを設けるものだ。
一 定の物量がまとまることが実施の条件になる。
昨年一〇月からの取り組みでは、一〇トン車 一台分の物量からを工場直送の対象とした。
この工場直送の実施に先立ち、ライオンは 二〇〇一年に取引制度の改定を行っている。
配送の曜日指定による割り引きなどを廃止す る一方で、発注数量に応じてマージンに格差 を設ける制度を導入。
パレット単位、あるい は一〇トン車一台(一六パレット)単位に発 注をまとめれば、それだけ取引先にとってマ ージン収入が増えるようにした。
前回の改定から一〇年余り。
この間に日用 品の流通は大きく変わった。
日雑卸の経営規 模が再編と統合を経て拡大し、中間物流機能 が強化された。
スケールメリットを追求でき るところまで流通のパイプが太くなり、パレ ット単位で商品を動かすといった施策がスケ ールメリットを追及する上で有効な手段にな った。
実際、ライオンが二〇〇一年に新取引制度 を導入した後、卸への配送のパレット化率は 従来の三割から六割に跳ね上がった。
昨年一 〇月に始めた工場直送は、こうした条件整備 のうえで実施されたものだった。
一連の取り組みで閉鎖した拠点のなかには、 摂津以外にも宮前、平井などの自社物件が含 まれている。
これによってライオンは自社で 抱えていた倉庫を全て廃止したことになる。
「自前の拠点にこだわらずに、最適な拠点配 置をめざした結果」(小平昌秋LOCOS推 進部長)だという。
庫内作業などの現業部門は、すべてアウト ソーシングに切り替えた。
管理・運営だけを 従来通り子会社のライオン流通サービスが担 っている。
物流コストの削減では子会社を含 めた組織のスリム化も課題の一つになってお り、これを拠点集約に併せて実行した。
ライオンは昨年、二〇〇三年度までに一〇 〇億円のトータルコストダウンを実現すると いう「VIP計画」の目標を、一年前倒しで達 成。
このうち拠点集約を柱とする物流関連の 効率化は一六億円のコスト削減に寄与した。
二〇〇二年十二月期の同社の連結決算は、 売上高こそ家庭品の価格改定の影響から〇・ 〇三%増に止まったものの経常利益は九九億 七〇〇〇万円(前期比三一・三%増)を確 保。
当期利益も五八億四〇〇〇万円と、当 初予想の五〇億円を上回る実績を上げている。
工場直送の拡大で四億円削減 こうした成果にタガを緩めることなく、同 社は「VIP計画」が三年目に入った今年、 さらに一〇〇億円のコスト削減を目標に掲げ て収益構造改革の再スタートを切っている。
施設の全国配置図 □札幌支社 ●札幌流通センター (プラネット物流北海道事業部) □仙台支社 ●仙台流通センター (プラネット物流東北事業部) ■ 東京工場 ■ 千葉工場 ■ 川崎工場  □東京本店 △全国受注センター ● 川崎流通センター ● 北関東流通センター ● 船橋流通センター ○東日本小ロット品中央倉庫 ● 座間流通センター (プラネット物流南関東事業部) ■小田原工場 □名古屋支社 ● 名古屋流通センター ● (プラネット物流中部事業部) ■ 大阪工場 □大阪本店 ● 茨木流通センター ○西日本小ロット品中央倉庫 ● 泉大津流通センター 生産拠点 販売拠点 受注センター 工場中央倉庫 小ロット品中央倉庫 流通センター □福岡支社 ● 福岡流通センター (プラネット物流九州事業部) ■ 明石工場 ●沖縄流通センター 6カ所 6カ所 6カ所 2カ所 11カ所 1カ所 物流拠点 これまでもライオンでは、数量によって一 部で工場直送を行っていたが、その運用はあ くまでも人為的なものにすぎなかった。
これ に対して、昨年から始めた工場直送はシステ ム化されている。
同社では受注時にオンラインでリアルタイ ムに在庫を引き当てる仕組みを早くから稼働 しているが、従来は受注先の出荷エリアにあ る流通センターでしか在庫を引き当てられな いルールだった。
これを昨年から見直し、直 送対象のアイテムについては中央倉庫の在庫 からも引き当てられるようにした。
受注数量 によってシステムが自動的に最適な出庫場所 を選択し、出荷指示を出す仕組みだ。
ライオンの社内で在庫管理をしながら需給 バランスの調整に当たる業務推進部や、配車 手配を行うライオン流通サービスなどの関連 部署が情報を共有できる体制も整えた。
スム ーズな運用を図るためだ。
受注センターも段 階的に集約して東京一カ所に統合済みで、オ ンラインなどによる受注自動化率は九〇%を 超えた。
昨年、新たに掲げた一〇〇億円のトータル コストダウンのうち、物流関連では二〇億円 のコスト削減を目標としている。
このうち四 億円を工場直送の拡大で実現できると見込む。
年間五〇〇〇万ケースの出荷のうち二割が直 送に切り替われば、この目標を達成可能と計 算している。
この施策を推進するため、今年は直送の対 象領域を拡大する。
商品構成の関係から発注数量がまとまりやすい千葉・大阪工場では、 これまで一アイテムで一パレットを直送の条 件にしてきた。
今後は条件を緩和して、商品 を積み合わせたパレットも対象に加える。
少 量品の中央倉庫からの直送拡大もターゲット の一つにする方針だ。
SCM構築への基盤整備に ライオンは今後、これらの物流施策と並行 して、SCMの構築に向けた生産購買管理の 新システムの導入や、営業情報の一元化も進 める。
新しい生産購買管理システム「MAPP」 では、生産サイクルを月次から週次に短縮。
生産計画の立案や資材納入指示などの管理業 務を一元管理する。
これによって業務フロー の改善や、集中購買による購入原価の低減、 さらに生産リードタイムの短縮などを図る。
取引先の原材料メーカーにインターネット経 由で在庫状況・使用予定を提供し、自動補 給してもらう調達システムも導入していく。
営業情報の一元化については昨年、第一弾 として店頭活動支援システム「ALWAY S」を稼働させた。
ライオンは、店舗を巡回 しながら顧客に製品情報を提供したり、販促 情報の収集しながら店頭管理を行う別会社を 発足している。
その担当者が収集した情報を 端末経由で吸い上げて「ALWAYS」で管 理する。
今後は段階的に、フィードバックの 中身を定性的な情報から定量的データへとバ ージョンアップしていく予定だ。
ライオンの製品構成では、定番品よりセー ル対象になる企画品のウエートが大きい。
こ のため商談情報などの早期入手は需要予測の 精度向上に有効だ。
こうした情報を生産購買 管理システムと連動させることで、無駄な在 庫を抱えずに市場へのレスポンスを高めるこ とが可能になる。
一方で、定番品については、卸の在庫情報 をもとに自動補給するシステム「IMS」の 導入が進んだのに加え、三年前に新需給管理 システムを稼働したことで拠点間の在庫偏在 を防ぐ仕掛けを完成している。
「一足飛びで はなく、パートごとに仕組みをつくって検証 しながら、サプライチェーン全体を統括する システム構築へ段階的に進める」(小平部長) という手堅い手法といえる。
「見込み生産が宿命の装置産業では、SC Mの形も(受注生産が可能な業種とは)基本 的に異なる。
流通段階の在庫削減が急激に進 んでいる中、代わりに在庫を負担していく役 割がメーカーにはある。
在庫減らしが究極の 目的ではない。
要は在庫を減らしやすい仕組 みを作っておくことだ」(同) 拠点集約や工場直送をそうした仕組みづく りの一環として見ると、SCMのインフラを 整備する上で大きな意味を持つ取り組みであ ることが分かる。
(フリージャーナリスト・内田三知代) 51 APRIL 2003

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