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29 APRIL 2003
特 集
荷主のモノサシで運賃体系を作る
荷主にとって運賃はコスト。 物流業者にとっては収入だ。 荷主
企業と物流業者は、全く違うモノサシで運賃を見ている。 物流
業者が用意する運賃表は当然、物流業者のモノサシに基づいてい
る。 荷主が自分のモノサシで運賃体系を作ることで管理・運用レ
ベルは格段に向上する。
日本ロジファクトリー代表青木正一
「運賃」と呼ばないで
「運賃」という言葉はあまり好きではない。 そもそ
も運賃とは、運送の賃金という意味だろう。 つまり、
あくまでも人が運ぶことを前提にしている言葉だ。 「運
賃」という呼び方自体が、これまでのトラック運送業
の低い付加価値を象徴しているように思える。 トラッ
ク運送業者は「運賃」ではなく「料金」や「価格」と
いう発想で経営しなければならない。 また、そうなっ
て欲しいと願っている。
同様に荷主企業も、「運賃」を「配送料」として管理
する必要がある。 協力運送会社がドライバーに支払う
賃金は、荷主企業にとって直接的な管理の対象では
ない。 ドライバーの賃金がいくらだろうが本来、荷主
には関係のない話だ。 そうではなく荷主が管理しなけ
ればならないのは自分の会社の物流コストだ。
一般に荷主側が依頼した見積もりに対して、物流
業者が提出するのは時間当たり、もしくはキロメート
ル当たりの料金表だ。 つまり物流業者は自分の言葉で
見積もりを提出してくる。 ところが荷主側では重さや
距離ではなく、一個当たり、一件当たりでコストを管
理する必要がある。
物流業者の料金表は、そのままでは荷主企業の物
流管理の役には立たない。 荷主と物流業者は違う言
葉で、違う視点で、配送料をとらえている。 両者の間
には大きな温度差、ギャップがある。 そこで当社では
荷主企業が管理しやすい形で、物流業者から料金表
を提出してもらうことをクライアントに提案している。
つまり見積もりのフォーマットを荷主企業が自分で指
定する。 荷主企業が物流コストを管理する時に使用す
る形で協力物流業者にデータを提出してもらうのだ。
その具体例を資料1に示した。 あるメーカーで使用
した見積書だ。 まず「見積条件」として、荷主側の管
理に沿った運賃体系と必要な車種を提示する。 そして
荷姿や出荷頻度、積み降ろしの方法などの出荷データ
をできるだけ詳細かつ「正直」にまとめる。 正直と強
調したのは、荷主の出荷データには往々にしてウソが
あるからだ。
ピーク時の数字を平常時の実績のように見せたり、
明らかに出荷が減ることが分かっているのに、それを
明記しなかったり。 データを信用して見積もりを提出
し、契約を結んだ協力物流業者からすれば、詐欺行
為に等しいような荷主のウソが実際には少なくない。
こうしたウソは結局、周り回って荷主側にしっぺ返し
が来る。 避けるべきだ。
さて、こうして荷主が自分で作成した見積書のフォ
ーマットを複数の物流業者に渡して回答してもらう。
このことで協力業者の選定の手間は格段に省ける。 何
より比較が楽になる。
本来、トラック運送の料金、とりわけ路線便の料金
を厳密に比較しようとすると、かなり手間のかかる仕
事になる。 国土交通省に届け出されている料金表と、
実際に物流業者が荷主に提出する料金表は実態とし
ては別モノだ。 料金水準が違うだけでなく、「重量(容
積)」×「距離」で計算する料金カーブと方面別料金
は、その路線業者のインフラや戦略によって違いが出
てくる。
そのため各社の料金表は単純には比較できない。 出
荷する荷物の方面やロットなどの条件によって、結果
は左右されてしまう。 Aという荷主にとっては割安な
料金表でも、Bという荷主には割高になってしまうと
いうことが往々にして起こる。 自社の出荷パターンに
応じて路線便を選択しなければならない。
実際、当社が荷主企業のコンサルティングで配送料
連載事例で学ぶ現場改善《特別編》
APRIL 2003 30
を分析する時には、その荷主の出荷実績
をもとに、一件ごとに着地までの距離と
方面を整理するという作業を行っている。
一件ごとの個数、重量、納品先住所を表
計算ソフトに入力し、さらに専用ソフト
を使って住所から配送距離を自動計算す
る。 これに各路線業者(特別積み合わせ
業者)が見積もりとして提出してきた料
金表を当てはめて単価を弾くのである。
その結果、トータルの料金が最も安いと
ころが第一候補となる。 また場合によっ
ては、方面別に路線便を使い分けたほう
がいいという結論になることもある。 そ
こまでやらないと路線便を正しく選択す
ることはできない。 また現状の配送料が
妥当なのか、配送料を下げるための方法
があるのか、といったことも本当には分
からない。 つまり真っ当な管理ができな
いのだ。
ところが、そんな物流管理の基礎とな
るような数字を荷主企業の多くが持って
いない。 協力業者との交渉も、今回は運
賃を叩いてやった、いや今回は値上げを
呑まされてしまった、というレベルに終
始しているということだろう。 一件ごと
の着地をデータに入力して単価を弾くシミュレーショ
ン作業は確かに骨が折れる。 我々のようなコンサルタ
ントを使うならともかく、企業の物流マネジャーが日
常業務を抱えながら処理するのは容易ではないのも事
実だ。 しかし、この「着地分析」は一度、作成してし
まえば、管理の基礎データとして様々なことに活用で
きる。 実際、物流先進企業では、よく見られる管理手
法だ。
コンサルティングの仕事を通じて、私はこれまで数
多くの荷主企業の管理実態に触れてきたが、産業別
に比較すると日本では自動車業界の物流管理が最も
レベルが高いという印象を持っている。 次がエレクト
ロニクス業界だろう。 こうした産業で、どのように配
送料が管理されているかを知ることは、他業界の物流
担当者にとっても有益だ。
物流子会社D社の管理手法
以前に物流のコンサルティングに入った電子部品メ
ーカーで、驚かされたことがある。 この電子部品メー
カー、仮にD社としておくが、D社は物流子会社のD
物流を持っていた。 世間の他の物流子会社同様、D
物流も配送は自社車両ではなく、傭車もしくは路線
便を使っていた。
当初、私はD物流の付加価値について、かなり懐
疑的に見ていた。 D物流は本来の荷主であるメーカーと協力物流業者の間に入って、単にマージンを抜いて
いるだけだろうと高をくくっていたのだ。 実際、これ
まで私が目にしてきた事例の多くが、そうした子会社
だった。 しかしD物流は違った。 とくに配送料の管理
には正直、感心せずにはおれなかった。
というのも冒頭で述べたように、物流業者と荷主企
業では配送料の持つ意味が全く異なっている。 残念な
がら多くの物流業者にとって、配送料とは「運賃」、つ
まり第一義的にはドライバーの賃金だ。 しかし荷主企
業にとって配送料は、あくまで販売経費だ。 具体的に
は販売管理費の細目の一つである支払い物流費とし
て管理されるコストだ。
D物流では、こうした物流業者と荷主企業のギャッ
プを上手く「翻訳」して親会社に伝えることで、親会
〈資料1〉
31 APRIL 2003
特 集
社に物流コスト意識を植え付けていた。 物流コスト削
減のためのパンフレットも作成し、そこで保管料や配
送料、荷役料などの単価を明示するとともに、親会社
の営業部門に対して次のように呼びかけていた。
「物流費に満たない受注金額の出荷指示をしていま
せんか? 物流費は最低でも一件当たり一〇〇〇円
程度かかります。 従って一〇〇〇円以下の受注はお
断りすることも必要です。 さらに売上高物流比率を
(D社が目標とする)五%以下に押さえるには二万円
以上の受注が必要です」
一〇〇〇円以下の出荷は物流費だけで足が出る。 経
営目標を達成するには、出荷指示を二万円以上にし
ようというわけだ。 本来、営業部門にとって協力物流
業者の料金表など関心外だ。 しかし、この説明なら、
D社の営業も理解しやすい。 しかも自分の営業活動に
すぐに反映できるアドバイスだ。
さらにパンフレットには、こんな細かなアドバイス
も書かれていた。 「出荷指示を無造作に入力していま
せんか? 出荷伝票は一枚一二〇円です。 そして出
荷伝票には一枚で六行入力できます。 受注の都度、出
荷指示するのではなく、得意先によって全オーダーの
終了まで受注メモの形で待機するようにして下さい」
一二〇円という具体的な数字に説得力がある上、こ
うした指示を営業マンが意識するだけで物流コストは
大きく変わってくる。 単純な運賃叩きとは全く違うレ
ベルで支払い物流費を削減することができる。 D物流
の管理の実力に正直、私は舌を巻いた。
こうしたアドバイスをできるのは、D物流が目安と
なる単価を掴んでいるからだ。 配送料も単位当たりの
コストは量がまとまると安くなる。 そのことをD物流
は出荷実績の分析を通して重量当たり、小口当たり
のコストを弾くことで、数字で裏付けていた。 出荷一
件当たりの売上高や一個当たりの売上高、そのコスト
といった数字も押さえていた。 自分の物差しを、しっ
かりと持っていたのである。
一般に物流子会社は自立のために、まず外販比率
を上げようと考える。 しかしD社のように親会社に貢
献しているという実績がなければ外販などとれるはず
がない。 無理に外部の仕事をとっても赤字に陥るのは
目に見えている。 実際、物流業界の評判や親会社で
ある荷主企業から話を聞く限り、物流子会社の多く
はその存在価値を認められていないのが現状だ。
しかし、D物流のように真に荷主企業の立場から物
流を管理することのできる物流子会社ならば、例え外
販がゼロであっても、付加価値は十分にある。 実際、
私は荷主企業によっては「物流子会社を作れば儲かり
ますよ」とアドバイスすることもある。
物流業者のモノサシを変える
配送料の改革を行った当社のクライアントの事例を
紹介しよう。 売上高で四〇〇億円規模の化学品販売
会社F社のケースだ。 F社は貸し切りトラックの配送
料の見直しに当たって、料金水準を下げるのではなく、
料金体系自体を変えることで約一八%の支払い物流
費の削減を実現した。
図1のように、それまでF社では「基本運賃」+
「付帯料金」で配送料を計算していた。 協力業者が用
意した車型別・二四ランクの料金表から弾いた運賃
と、それに実費の高速代を加えたものが「基本運賃」。
「付帯料金」は「容積割増」+「早出料金」+「残業
代」+「引き取り」の合計値だった。
こうした資料やF社担当者へのインタビューなどの
調査を通して、我々日本ロジファクトリーはF社と協
力運送会社との取引条件が不透明であると感じた。 既
新契約 料 金 設定理由・根拠
件数割増 2,500円/件
(2件目より適用)
平成2年貸切タリフ×80%
400km以上の納品先について
実費精算(ただし、往路のみ)
現在の実勢料金+件数割増のインセンティブ付与
のため
現状の他社実勢契約条件に基づく(ただし依頼の
帰り荷がある場合は、事前申告により使用可)
配送における付加価値は、より効率的に、多くの
納品先に配送を行うこととする(基準の明確化)
現状での平均配送件数(2.64件/車)から十分努
力できる件数でインセンティブを働かすため
4件以上配送を行うことで、現状平均的な一日当た
りの貸切料金になるように設定
かんばん納品のため、待機・分納する納品先は分
納回数一回当たり件数割増を適用する
独自運賃表
高速代請求
容積割増
早出料金
残業代
引き取り
24ランク・車型別
実費
所定表による
1,400円/件
1,800円/件
3,000円/件
現契約 料 金
基本運賃
付帯料金
旧体系 新しい体系
〈図1〉
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存の運賃体系では協力業者から提出された請求書を、
荷主側ではチェックできないはずだと考えたのだ。
荷主企業の多くは協力運送会社の請求書を鵜呑み
にして料金を支払っている。 しかし請求が正しく行わ
れているという保証はない。 荷主が必要以上の料金を
支払っているケースは実際には決して少なくない。 と
くにF社のように複雑な付帯料金が設定されていると、
そのチェックは容易ではない。 チェックするのが物流
担当ではなく経理担当であればなおさらだ。
例えば付帯料金の一つとなっている「早出料金」。
F車では朝八時の集荷にも早出料金が適用されてい
た。 業界の常識を考えれば支払う必要のない料金だ。
「残業料金」にしても協力会社のドライバーの残業を
荷主側で直接、管理しない限り確認できない。 結局、
協力物流業者の言いなりになるしかない。
また配送に複数の貸し切りトラックを使っている場
合、トラックの?積載率〞ばかりを見る荷主企業があ
るが、これは大きな間違いである。 物流の観点から見
れば荷台に満載の荷物が積まれたトラックは一見効率
的に見えるが、荷台に荷物が満載になるようなビジネ
スをしている企業はまれであり、むしろ空に近い荷台
のままでもスピーディに納品することで売り上げ、利
益が取れる場合が少なくない。 商売の観点から見れば、
「このトラックはいくらの売り上げを運んだのか」が
ポイントであり、配送した(売り上げを取れる)得意
先の数こそが効率となる。
交渉の主導権を握る
F社の従来の「基本運賃」+「付帯料金」という
料金体系では協力業者側に配送効率アップのインセ
ンティブが働かない。 むしろ、効率の悪い仕事ほど協
力業者にとってはメリットが出てきてしまう。 結局、
F社の料金体系は、あくまでも物流業者の「物差し」
でしかなった。 そこで我々は、料金体系を荷主の「物
差し」に変えましょうと提案した。
新しい料金体系を作るに当たって我々は、管理がシ
ンプルで正しく運用できること、荷主と協力業者の相
互に分かりやすい基準であること、に重点を置いた。
さらに積載率を向上させるのではなく、配送件数を増
やすことによって、協力業者にもメリットが出てくる
ような料金体系にする必要があった。
そこからまず従来の「基本料金」+「付帯料金」と
いう構成を、「基本料金」+「件数割増」という構成
に組み替えた。 各種の付帯料金を基本的に廃止し、そ
の代わり一車当たりの配送件数が一件増えるごとに割
増料金が大きく加算される仕組みにしたのだ。
これによって協力業者側に配送件数を増やすことで
件数割増を稼ごうというインセンティブが働く。 荷主
側ではドライバーの早出や残業などをチェックする必
要がなくなり、配送件数だけを管理すればよくなる。
また「基本料金」も協力業者の独自タリフではなく、
国土交通省の平成二年届け出タリフに基づいた実勢
料金にした。 高速道路代も従来のような使い放題では
なく、四〇〇キロメートル以上の納品先に限定した。
しかも従来は帰りの高速代もF社で負担していたが、
現状の業界の商慣習に合わせて往路の高速代のみに
実費を支払う形にした。 帰り便の活用は協力会社の
ほうで努力して欲しいというわけだ。
F社の協力会社は、この提案を受け入れた。 その結
果、F社の支払い運賃は約一八%減った。 しかも一
車当たりの配送件数増加にインセンティブを与えたた
め、今後は協力業者の積載率改善努力が期待できる。
F社は新しい料金体系を導入したことで、コスト削減
の主導権を取り戻すことができたのだ。
あおき・しょういち 一
九六四年生まれ。 京都産
業大学経済学部卒業。 大
手運送業者のセールスド
ライバーを経て、八九年
に船井総合研究所入社。
物流開発チーム・トラッ
クチームチーフを務める。
九六年、独立。 日本ロジ
ファクトリーを設立し代
表に就任。 現在に至る。
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