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運送業はお先真っ暗だ
トラック運送業界の数少ない勝ち組として知られるハマキョウレックス。
トラック1台からスタートし、その後、流通川下向けの物流センター事業
に進出して大きな成功を収めた。 今年3月には念願の東証一部上場も果た
した。 数多くの運送業経営者が師と仰ぐ同社の名物社長、大須賀正孝氏が
“儲かる運送業者”になるためのノウハウを披露する。
ハマキョウレックス大須賀正孝 社長
33 APRIL 2003
業績いいのはナンデダロウ?
「ハマキョウさんは何で業績がそんなにいいの?」と
質問される機会が最近とても多い。 一言でいえば、業
績がいいのはコスト競争力があるからだ。 ウチは他社
よりも安くて質のいいサービスを提供している。 だか
らお客さんに支持される。 3PLだのSCMだの横文
字を使ってどんなに綺麗事を並べたって、最後はコス
トの安いサービスを提供できる業者が物流の委託先と
して選ばれるに決まっている。
要するに物流はブランド力ではないんだ。 金ピカの
トラックで運ぼうが、オンボロのトラックで運ぼうが、
露天で仕分け作業をしようが、冷暖房の利いたところ
で作業をしようが、お客さんからしてみれば、そんな
のどうでもいいこと。 お客さんは安いコストでモノが
指示した場所に時間通りに届いたかどうか、商品にダ
メージはないか、それしか見ていない。
ただし、ハマキョウレックスはそれだけではない。
当社のお得意先である流通の川下企業は今、価格破
壊の影響で本業が儲かっていない。 こうしたお客さん
たちを勝ち組にしたいと思っている。 そのためにはど
うしたらいいのか。 商品の販売価格をこれ以上引き下
げることはできないわけだから、物流でコストダウン
してあげるしかない。 そうした期待に応えている。 だ
から次々と仕事が舞い込んでくる。
勘違いされることがあるんだけど、ウチは仕事を取
るのにダンピングなんてしていない。 お客さんからき
ちんと料金をもらっている。 しかしあくまでも適正料
金のみ。 当社が努力してコストカットした分、適正料
金を上回る分についてはすべてお客さんに還元してい
る。 当社が生み出した成果だからといって、それを総
取りしてしまうのではいつまで経ってもお客さんとの
信頼関係は築けない。 儲かったら還元する。 それを繰
り返していれば、自然とお客さんは次の仕事も我々に
くれるようになる。
他社よりも安い料金を打ち出すというのは簡単なこ
とではないよ。 自分たちもコストダウンしなければ当
然、赤字になる。 お客さんからもらった料金でちゃん
と利益を確保するには徹底的にムダを排除しなければ
ならない。 しかし口で言うほどムダを探すのは簡単で
はない。 ウチはこのムダ探しとムダの始末が他社より
も上手だから業績がいいんだと思う。
結局、ムダを見つける作業というのは担当者ひとり
ふたりでできるような仕事じゃないんだ。 社員全員で
やらなければ大きな成果は出せない。 社員全員といっ
たけれど、これには当然、現場で働くパートさんたち
も含む。 現場のどこにムダがあるのか、一番よく知っ
ているのはパートさんだ。 そのパートさんにもムダ探
しのお手伝いをしてもらわないと、コストダウンなん
てできない。
例えば、パートさんたちの時給が八〇〇円だとする。
そうすると現場管理者というのはパートさんの価値を
八〇〇円くらいにしか見ない。 「あれやれ」「これやれ」
と奴隷のように扱いたがる。 しかし、これが大きな間
違いだ。 確かに時給は安いけれど、パートさんだって
同じ人間だ。 正社員と同じように扱ってあげないとい
けない。
パートさんも一人ひとりに目標を持たせれば、きち
んとそれに向かって努力する。 はっきり言って正社員
よりも優秀な人だっている。 「ムダをなくすための工
夫や知恵をどんどん出してくれ」と呼び掛けると、こ
ちらが想像もしなかったようなアイデアがポンポン出
てくる。 中には旦那さんからアドバイスをもらってア
イデアを捻り出してくるパートさんもいる。
特 集
《第1回》
新連載やらまいか物流通業〜ハマキョウ流・運送屋繁盛記〜
APRIL 2003 34
いずれにせよ、現場で働く人をやる気にさせる体制
づくりをしないと、ムダなんて見つけられないし、コ
ストダウンも進まない。 それが言いたいの。 このパー
トさんの活用法については後に詳しく説明するつもり
なんで、乞うご期待。
社長業にコストを掛けすぎ
それにしても最近はどこの運送会社の社長さんに会
っても「仕事がない」っていう愚痴ばかり。 しかし本
当に仕事がないんだろうか? 例えば自動車業界では
トヨタ自動車が市場で三〇〜四〇%のシェアを確保
している。 これに対して物流業界では最大手の日本通
運だってシェアは知れている。 物流のマーケットには
開拓の余地はまだいくらでもある。 社長さんの努力が
足りないだけだよ。
運送会社の社長さんっていうのは仕事をしない人が
多すぎる。 もちろん、お客さんと酒を飲んだり、ゴル
フをしたりするのも社長としての大事な仕事。 しかし
ゴルフをするんでも、会社にとって有益な情報を入手
してくるとかプラスがないと意味がない。 ただ遊んで
くるのでは社員だって納得しないよ。
社長というのは会社で一番高い給料をもらっている
わけだから、社内で一番働かないとダメ。 雑用も自分
から率先してやらないといけない。 社長が一生懸命働
いている姿を見て社員がついてくるわけだから。 社長
というのは会社の中で「仕事量一番」という座を明け
渡したら、さっさと辞めるべきだよ。 私はそうするつ
もり。
そもそも私から見ると、どの会社も社長業にコスト
を掛けすぎている。 まず秘書。 あんなものは要らない。
自分のスケジュールくらい自分で管理すればいい。 そ
れに他人にスケジュールを管理されたら、やりたい仕
事ができなくなるでしょう? 会議ばかり押しつけら
れて外に出られなくなる。 現場には行けなくなるし、
お客さんに直接セールスもできなくなる。
少し脱線するけど、社長のスケジュールというのは
社員のみんなに公表しないとダメ。 遊んでいると思わ
れる。 お客さんとゴルフ、という予定も正直に話すべ
き。 私は自分の一週間のスケジュールを月曜日の朝礼
ですべてオープンにしている。 そうする癖をつけてお
けば、自分自身が仕事をサボれなくなる。 社員にも同
じようにスケジュールを公表させている。 そうすれば、
「勤務時間中に彼女とデート」など人に言えないよう
なことはしないようになる。
それに運転手も必要ない。 だいたいオレのほうが運
転はうまい。 お客さんを送迎するための運転手を用意
するのはまだ分かる。 しかし、実際にはそれも必要な
いようだ。 お客さんにはタクシーチケットを渡せばい
い。 何だったら社員が会社や自分の車でお客さんを目
的地まで送れば済む。 とにかくムダなことはとことん
省かないと。
運賃は上がらない
「いつまでたっても運賃が上がらないのは政治や業
界団体の責任だ」というお決まりのセリフはもう聞き
飽きた。 だいたい運送会社は「運賃を下げろ」って荷
主さんから迫られると、素直にハイハイと答えてしま
う。 それが問題だ。 トラックは水じゃ走らない。 一定
のコストが掛かることをきちんと説明して適正運賃を
もらわないと、運賃は下がる一方だ。
排ガス規制の絡みで車両の代替が進まず、車両の
総数が減って今後運賃が上昇する可能性は確かにあ
る。 しかし、それも一時的な現象にすぎないだろう。
代替が進んでくれば、また運賃は下がっていく。 中長
ハマキョウレックスの業績推移(連結)
200
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
98.3 99.3 00.3 01.3 02.3
6
5
4
3
2
1
0
売上高
当期利益
(単位:億円)
当期利益
売上高
特 集
の内容をきちんと把握していないと、相手はとても不
安になる。 そんな会社にお客さんが仕事を任せてくれ
るわけがない。
そもそも物流というのは金儲け主義の商売じゃない。
物流は世の中で一番重要な仕事だよ。 損得勘定だけ
で動いてはいけない。 物流は駅伝でいえばアンカーだ。
駅伝では一番信用された人がアンカーを務める。 どん
ないいモノをこしらえたって、お客さんのところにち
ゃんと届かなければ、つまり物流がダメなら台無しに
なってしまう。 だから物流というのはアンカーを務め
るような優秀な人じゃないと。 私は日本で一番優秀な
人が物流の仕事をやるべきだと思っている。
35 APRIL 2003
期的には運賃の下落はまだまだ続く。 残念ながら、適
正運賃というものをきちんと把握できる運送会社が増
えないかぎり、消耗戦を繰り返すだけ。 倒産に追い込
まれる運送会社も出てくるだろう。
当たり前だけど、運賃というのは需要と供給のバラ
ンスで決まる。 需要が旺盛な時、つまり車両が足りな
い時になると、運送会社はここぞとばかりに値上げを
吹っかける。 荷主さんもモノを運んでもらわないと商
売にならないから、泣く泣く値上げを呑む。
逆に車両が溢れている時には荷主さんから値下げを
要請される。 それを運送会社が受け入れる。 まさに
「やられたらやり返す」という構図。 これじゃ双方に
とって不幸だ。
運賃にとっては水屋という商売も悪だな。 「東京ま
で走ったトラックが帰りは空車だから運賃なんていく
らでもいいだろう」という相手の弱みにつけ込む商売
だから。 水屋の数が増えて、全国に拡がっていったら
運賃はますます安くなっていく。 自分で自分の首を絞
めるような商売だから、私は絶対に水屋業には手を出
さない。
実運送を丸投げするのも良くない。 実運送は儲から
ないからといって下請け業者にすべて任せてサヤだけ
抜くのは単なる弱いモノいじめ。 市場での運賃動向を
常に把握しておくという意味からも最低でも全体の二
〇%くらいは自社便を走らせるようにすべきだ。 当社
は実際にそうしている。
要は物流の仕事はバランスが大切だ。 人間の身体だ
って何かが欠けていると病気になる。 それと同じ。 配
送、庫内作業、情報システムなどすべてを自社で揃え
ておかないと。 手間の掛かる仕事を丸投げして楽をす
るようなやり方は無責任。 本物ではない。 お客さんに
説明するときに言葉に詰まってしまう。 担当者が仕事
おおすか・まさたか1941年静岡県
浜北市生まれ。 56年北浜中卒、ヤマ
ハ発動機入社。 青果仲介業などを経て、
71年に浜松協同運送を設立。 92年に
現社名の「ハマキョウレックス」に商
号変更した。 2003年3月に東証1部
上場。 主要顧客はイトーヨーカー堂、
平和堂、ファミリーマートなど。 流通
の川下分野の物流に強い。 大須賀氏は
現在、静岡県トラック協会副会長、中
堅トラック企業の全国ネットワーク組
織であるJTPロジスティックスの社
長も務めている。
読者の皆様へ
さて、まとまりのない断片的な話を続けてきました
が、私がいったいどんな男なのか、イメージくらいは掴めた
でしょうか? 二回目以降は私がこれまでどのような
道を歩んできたのかを、もう少し詳しく説明していくつ
もりです。 貴社の経営に少しでもお役に立てれば幸いで
す。 拙い文章でたいへん申し訳ないのですが、しばらくの
間お付き合いください。
ちなみに連載タイトルにある「やらまいか」という言
葉は、当社が本拠地を置く浜松市を中心とした遠州地
方の方言で、その意味は「やってやろうぜ」です。 今、トラ
ック運送業界に欠けているのは、まさにこの「やらまいか」
の精神であるような気がしてなりません。 この連載を通
じて「やらまいか」というプラス思考でビジネスを展開す
るトラック運送事業者が一社でも増えれば嬉しいかぎり
です。
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