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MAY 2003 60
Fが使っている管理指標(KPI:
Key Performance Indicator
)を解説
することにある。 ただし、CLO(ロ
ジスティクス最高責任者)やこれを目
指している人たちは、もう一段高い視
点を持つ必要がある。 ロジスティクス
のKPIを使うことによって、最終的
にどのような経営指標を改善しようと
しているのか。 この点をきちんと理解
しておくことが重要だ。
それが図1に示した「ロジスティク
スの経営指標」である。 クラフトの場
合、ロジスティクス関連では、「RO
A(Return On Asset
)」、「棚卸資産
率」、「棚卸資産回転月数」の三つの経
営指標を徹底的に追いかけている。 最
初にこうした経営指標の目標値があり、
これを達成するために日常業務を管理
ないが、これはロジスティクス以前の
問題である。 改善を進めたいのであれ
ば、必ず定期的に実績を振り返り、し
つこく問題解決に取り組まなければな
らない。 しかもこれをロジスティクス
の担当部門だけでなく、経営会議など
を通じた全社的な取り組みとして進め
る必要がある。
実際、AGFでは、この目標管理型
のロジスティクスを実践してきた。 ロ
ジスティクス部門とその他の関連部門
(事業部、営業部門、工場など)は毎
年、年度始めに具体的な数値目標を設
定する。 そして経営陣も参加する「ロ
ジスティクス業績報告会」で毎月、実
績をレビューし、問題点を分析しなが
ら対策を施している。
今回の原稿の主眼は、この際にAG
味の素ゼネラルフーヅ(AGF)が
ロジスティクスの導入に成功した最大
の理由は、経営トップの明確な意志に
あった。 そして、もう一つ欠かせなか
ったのが、導入後の管理体制の構築だ。
成果を確実に手にするためには、部門
別・担当者別の目標管理の徹底が必須
条件になる。
ロジスティクスと経営指標
ロジスティクスの導入は、いわば機
構の大改革を意味している。 とくに一
般的な日本企業では、ロジスティクス
の関連業務が複数のセクションに分散
しているケースが多い。 経営トップの
強い意志がなければ、こうした業務の
統合は実現できない。
これは前号で指摘した通りだが、ト
ップの意志に次いで重要なポイントが、
導入後の管理体制の構築だ。 ロジステ
ィクスを企業に根付かせるためには、
日常的に業務を担う現業部門を巻き込
んでいく必要がある。 本稿では、その
ためのAGFの管理手法を紹介する。
何も難しい話ではない。 要は「プラ
ン・ドゥ・シー」(計画―実行―検証)
の取り組みを実践し、目標管理を徹底
しさえすればいい。 少なくとも私がロ
ジスティクスを学んだ米クラフトでは、
八〇年代からこれを忠実にこなしてい
た。 予め目標を定めて実行する。 実績
をレビューして分析し、何か問題があ
ればきちんと手を打つ。
現実には目標を決めたはいいが、ほ
ったらかしにしてしまう企業が少なく
味の素ゼネラルフーヅ
常勤監査役
川島孝夫
ロジスティクス管理指標(KPI)
《第6回》
61 MAY 2003
するツールとしてロジスティクスのK
PIがある。 CLOは、この順番を間
違えてはならない。
クラフトが拘る三つの指標
クラフトがこだわっている三つの経
営指標は、もちろんAGFにとっても
重要な指標だ。 多少、会計的な話にな
るが、ロジスティクスを導入しようと
すれば避けられないテーマのため、こ
こでは敢えて経営指標についても踏み
込んで説明する。
クラフトが最も重視している経営指
標である「ROA」は、一般には「総
資産利益率」と訳されることが多い。
ただし総資産=使用総資本であること
から、AGFでは「使用総資本事業利
益率(Return On Total Asset
)」と
いう訳語を当てている。
ROAは、P/L(損益計算書)に
ある事業利益を、B/S(バランスシ
ート)の中の使用資本で割ると算出で
きる。 クラフトの基準では、このRO
Aが五%を超えていなければいけない。
幸いAGFは基準をクリアしているが、
これを下回っているグループ企業は、
クラフト本社から絶えず「どうなって
いるんだ」と追及されることになる。
では、このROAに最も影響を及ぼ
す要因とは何なのか。 それが二つ目に
挙げた「棚卸資産率」という指標であ
る。 これは?在庫〞の状況をあらわす
経営指標で、B/Sの中の棚卸資産
(製品だけでなく貯蔵品なども含む)を、
同じくB/Sにある全資産(流動資産
に固定資産も足したもの)で割ると求
められる。 クラフトの基準では、この
数値は一〇%以下でなければダメだ。 日本の上場企業のB/Sを見ると、
一流と言われる企業の多くが悠々と棚
卸資産率一〇%以下で経営している。
トヨタなどは五%を切っているし、味
の素も五%台にある。 一方、苦しんで
いる企業の多くは一〇%を超えている。
この指標を見れば在庫の多寡は一目瞭
然なのだが、どう対処すればいいのか
分からないため、在庫を減らせずにい
る企業が少なくない。
利益を生んでいない企業の内情を見
ていくと、たいてい在庫の問題に突き
当たる。 これは経営者が必ず持つべき
視点なのだが、現実に対応できている
企業はごくわずかだ。 味の素にしても
単体では優秀な棚卸資産率でも、連結
になると一〇%を超えてしまう。 グル
ープ企業がまだまだ課題を抱えている
ためだ。 現状は日本の一流企業の多く
が、単体で実現できた効率を、連結で
も達成しようと躍起になっている段階
にある。
クラフトが重視している経営指標の
三つ目は「棚卸資産回転月数」だ。 こ
れはB/Sの中の棚卸資産を、月別の
売上高で割ると出てくる。 月単位で在
庫が何回転したかを見るための指標で、
これが一・〇であれば一カ月分の在庫
を持っていることを意味する。 クラフ
トの基準では、この数値は〇・七以下
でなければいけない。
このような視点で決算書を見ていく
と、企業のロジスティクスのレベルが
手に取るように分かる。 数字を粉飾し
たりすれば商法違反で捕まってしまうため、たいていの企業は正直に出して
いる。 なかには「当社の定義ではこう
ROA(%)= ×100
※使用総資本=
※事業利益=営業利益+金融収支(受取利息・配当金−支払利息)
(Kraft基準=5%、東証一部:全産業平均=3%、製造業平均=3.9%、非製造平均=2%)
図1 ロジスティクスの経営指標(利益管理)
※棚卸資産=製品・商品+原材料+仕掛品+貯蔵品
(Kraft基準=10%以下、東証一部:金融を除く全産業平均=11%)
(Kraft基準=0.7カ月、東証一部:製造業平均=1.47カ月、小売業平均=0.7カ月)
事業利益(P/L)
使用資本(B/S)
期首使用総資本+期末使用総資本
2
1 ROA(使用総資本事業利益率) Return On Total Assets
2 棚卸資産率(%)=棚卸資産(B/S)÷全資産×100%
3 棚卸資産回転月数=期首期末平均棚卸資産÷月間売上高(P/L)
MAY 2003 62
なっている」などと強弁する会社もあ
るかもしれないが、国際会計基準に準
拠していない企業がグローバルに戦え
ないことは、もはや言うまでもない。
AGFの管理指標(KPI)
さて、ロジスティクスの管理指標
(KPI)に話を戻そう。 AGFが実
際に追いかけているKPIは主に六つ
ある。 いずれも定量的な数値目標を掲
げて管理しており、年初・期初に計画
値として目標を決める。 そして、これ
に対して実績がどうだったのかレビュ
ーするという作業を繰り返している。
仮に実績が目標を下回ってしまった
ときには、なぜ計画通りにならなかっ
たのかを徹底的に追究する。 毎月、計
画値と実績値の差違分析を行い、その
原因と対策を定例報告会の場で経営ト
ップに報告するようになっている。 こ
の会議の内容は、そのままAGFから
クラフトへの報告事項でもある。
以下に、AGFが使っている各KP
Iの内容と狙いを説明する(図2)。
一番目の「在庫削減」は、ロジステ
ィクスにとって最も重要な?在庫〞に
関する指標だ。 販売計画や生産計画、
資材購入計画に基づいて、原料・包材、
半製品、製品ごとの?在庫計画〞を週
次で策定している。 この数値は毎年、
前年実績を下回ることを求められてい
る。
二番目の「物流費削減」は、在庫を
ゼロにすれば、不要な物流費もゼロに
できるという究極の状態をベースに管
理している。 単に作業単価の切り下げ
を目標とするのではなく、在庫を減ら
していくことを前提に、運賃、保管費、
荷役料、構内物流費の目標値をそれぞ
れに設定している。
三番目の「SKU(Stock Keeping
Unit
)削減」はアイテム管理を指している。 周知の通り、アイテム数と在庫
量の間には強い相関関係がある。 SK
Uを減らすことが在庫削減に多大な効
果を発揮することは、すでにAGFで
も実証済みだ。 具体的には次のような
手法でSKUの管理を行っている。
まず最初に、SKU別の売上高と粗
利益を出してランキング表を作成する。
AGFのSKUは通常で五〇〇〜六
〇〇あるのだが、これを一位から六〇
〇位まで順位づけしてしまうわけだ。
そうやって売上高の下位一%に入るS
KUを数えてみると、それだけで全体
の二〇%前後に上ることが明らかにな
る。
次にこの売上高下位一%のSKUを
詳細に見ていくと、いわゆるキャンペ
ーン商品が大半を占めていることが分
かる。 例えば阪神が優勝したから商品
の図柄をトラのマークにした、といっ
た類の商品である。 一般にこうしたキ
ャンペーン製品の売れ行きは、当初予
定を大きく下回ることが多い。 予定の
三、四割も売れれば上々だ。 このため
AGFでは、キャンペーン管理こそが
SKU管理という考え方に基づいて諸
施策を講じている。
四番目の「返品・
販売不良品削減」
では、ギフト品の扱いが重要なポイン
トになる。 通常品は鮮度管理さえ緻密
に行っていれば返品はほとんど発生し
ない。 返品の大半はギフト品のシーズ
ン終了時に発生する。 従ってギフト品
に関する業界の商慣行の改善や、メー
カーとしての生産能力の向上が返品削
減のカギになる。 これを得意先別に行
うことを基本としている。 五番目の「配送ロット増・届け先数
減」とは、届け先の数を絞り込むこと
によって、配送ロットの増大を図る取
り組みを指す。 実際、AGFは特約店
の数を一九〇社余りに絞り、さらにメ
ーカーとして販売取引制度を改定する
という切り口で成果を上げてきた。 メ
ーカーDCを経由せず、工場から顧客
へ直送することも、このKPIを改善
1 在庫削減‥‥原料&包材、半製品、製品
2 物流費削減‥‥運賃、保管料、荷役料、構内物流費
3 SKU(Stock Keeping Unit)削減
4 返品・販売不良品の削減
5 配送ロット増・届け先数減
6 受注頻度・配送頻度の削減
図2 6つのロジスティクス管理指標(KPI)
63 MAY 2003
するための有効な施策だ。
六番目の「受注・配送頻度削減」と
いうKPIでは、毎日受注・毎日配送
という従来の取引条件を見直してきた。
それに代わって出荷予測に基づく計画
発注を顧客にお願いしている。 すでに
多くの卸店や小売店とともに取り組み、
受注関連業務の低減や物流コストの削
減を実現した。
欠かせない評価の仕組み
以上、ロジスティクスを管理するた
めにAGFが日常的に追いかけている
六つのKPIについて説明した。 いず
れも事前に目標値を設定し、実績を分
析する「プラン・ドゥ・シー」のサイ
クルを基本に管理しているのは前述し
た通りだ。
これに加えてAGFでは、全員参加
型のロジスティクスを社内に根付かせ
るために「人事評価制度」も活用して
いる。 AGFの人事評価は、活動を評
価するのと同様の目標管理が基本なの
だが、この際の個人目標にロジスティ
クス関連の項目を入れてしまったので
ある。
例えば営業マンであれば、「担当ク
ライアントの返品率をお中元で何%以
内に、お歳暮で何%以内にする」とい
った数値目標を期初に設定する。 結果
として目標を達成できればA評価がつ
くが、達成できなければC評価がつく
という具合になっている。
こうして各従業員がKPIをブレー
クダウンした目標を持つことによって、
AGFはロジスティクスを全社的な取
り組みへと高めてきた。 個人ごとに設
定する目標についても、定量的な数値
目標でなければ機能しないことは言う
までもない。 このように管理の工夫を積み上げてきた結果が、前号で紹介し
た五年間で在庫を六割削減するという
成果につながった。
ただし、ロジスティクスのKPIは、
市場環境の変化とともに見直していく
必要がある。 現にAGFのKPIも、
最近一〇年の間にだいぶ変わった。
この原稿で紹介した六つのKPIの
重要度が高いのは相変わらずだが、最
近ではこうした業績評価とは別に、安全
性や環境問題に関する社会的なKPI
も追いかけるようになっている。 この点
については引き続き次号で説明する。
(かわしま・たかお) 66年大阪外語大学ペルシャ語
学科卒業・米ゼネラルフーヅ(GF)に入社し人事部
配属、73年GF日本法人に味の素が50%を出資し合弁
会社「味の素ゼネラルフーヅ(AGF)」が発足、76
年AGF人事課長、78年情報システム部課長、86年情
報物流部長、88年情報流通部長、90年インフォメー
ション・ロジスティクス部長、95年理事、2002年常
勤監査役に就任し、現在に至る。 日本ロジスティク
スシステム協会(JILS)が主催する資格講座の講師
なども多数こなし、業界の論客として定評がある。
図3 ロジスティクス管理指標(KPI)の評価
1 定期的な評価会議:月次経営会議(会議後Kraftへ報告)
2 評価方法:計画対実績報告および対策決定
3 KPI−1【企業内評価】
(1)在庫削減‥‥原料&包材、半製品、製品、工場工程ロス、品質不良品
(2)物流費削減‥‥運賃、保管料、荷役料、構内物流費、工場直送比率
(3)SKU(Stock Keeping Unit)削減
(4)返品・販売不良品のゼロ化
(5)販売精度の向上
4 KPI−2【社会的評価】
(1)得意先サービスレベル
(2)安全・安心の推進‥‥工場事故・災害率、消費者クレーム率・内容、自己退職率
(3)誠実の履行‥‥環境対応(HACCP/IS0、リサイクル、リユース、産廃ゼロ)
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