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佐高信
経済評論家
59 MAY 2003
『創』の五月号に一部を収録されたが、三月
一日の反戦集会で、私は城山三郎の次の発言
を紹介した。
〈ワーテルローでナポレオンを倒したウェリ
ントンがこう言っている。
「戦争は負けた者が悲惨だ。 勝った者もまた
悲惨だ。 本当の勝者は戦争をしない者だ」〉
劇作家で女優の渡辺えりこも「イラク攻撃
と有事法制に反対する演劇人の会」をつくっ
て反戦を訴えている。
彼女のインタビューも『創』に載っている
が、次の指摘は痛烈なジャーナリズム批判で
もある。
「三月一五日にはジャーナリストたちの反戦
の集いというのに行ってみました。 でももう
いつ爆撃が始まるかわからないという差し迫
った時期なのに、危機感のない人が多くてが
っかりしました。 本を読めば書いてあるよう
な国際情勢の話をえんえんとする人もいて、
そんな話をしている場合じゃないでしょうと
イライラしました。 ジャーナリストというの
は専門家なのだから、何かこんなことをしよ
うという問題提起をしてくれると期待して行
ったんですが‥‥」
反戦の集会に自らは参加することもなく、
日本は参加者が少ないなどと?客観的に〞語
るのが「専門家」なのか。
そのジャーナリストも、組織に属している
者と、属していないフリーの人間に分かれる。 そして、危険を冒してでも事実に迫ろうとす
るのは、後者に多いのである。
『創』編集長の篠田博之は五月号の後記に
「それにしても昨年十一月号で綿井(健陽)さ
んや宮嶋茂樹さんらの戦場取材の座談会をや
った時の話通り、日本の大手マスコミは全社
撤退してフリーだけが現場に残るという状況。
フリーと大手企業のメディア界の二重構造を
そのまま反映した現実で、これでいいのかと
考えてしまいます」と書いている。
綿井がチームを組んでいるアジアプレス・
インターナショナルの代表、野中章弘は三月
二十二日付けの『朝日新聞』で、次のように
「殺される側」からの報道を求めた。
「いまの戦争報道には政治的な言説や戦況に
関する情報はあふれているものの、戦争現場
を多角的に報道するジャーナリストの取材力
は落ちているように思えてならない。 この状
況は危うい。 なぜなら今回の対イラク戦争も、
マスメディアの情報はほとんどホワイトハウ
スや米軍を発信源にしており、これでは戦争
を仕掛けた米国の情報操作から逃れることは
難しいからだ」
野中が恐れていたことは、ピーター・アー
ネットのNBCテレビ解雇となって表れた。
アーネットはベトナム戦争報道でピュリツァ
ー賞を取ったベテラン記者で湾岸戦争の際に
バグダッドから生中継を続けて脚光を浴びた。
あの時はCNNテレビの看板記者だったが、
一九九九年に、ベトナム戦争で米軍がサリン
を使用したと書いて辞職した。 誤報とされた
のである。
今回のイラク戦争ではNBCテレビなどの
特約記者としてバグダッド入りしていたが、
イラク国営テレビのインタビューに応じて、
アメリカの戦争計画は失敗していると語って、
解雇されたのである。
その後、デーリー・ミラー紙に移り、四月
一日付けの同紙にこう書いた。
「解雇されたのはショックだし、恐ろしいこ
とだと思う。 アメリカ政府はバグダッドから
の報道にとても敏感で、正確なニュースを望
んでいない。 なぜなら、事実の報道は多大な
問題を引き起こすからだ」
戦争は必ず、メディアの統制をもたらす。
そうしなければ、政府は戦争を続けることが
できなくなるからである。
「私を解雇したことが目論見はずれだったと
思わせるようなベストな仕事をしたい」
とアーネットは語っている。
戦争報道で問われる真のジャーナリズム
取材力の低下が助長する米国の情報操作
佐高信さんの新刊『許
されざる者』(毎日新
聞社)が出版されまし
た。 本誌に連載中の
「メディア批評」も収
録されています。 ぜひ、
ご一読ください。
LOGI-BIZ編集部
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