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ステムとして機能する。 したがって、地域がグローバ
ル・ロジスティクス・ネットワークの重要な構成要素
としての地位を確立するためには、グローバル・ロジ
スティクス・ネットワーク全体の文脈の中で、地域を
いかに戦略的に位置付けるか、そのビジョンを明確に
する必要がある。 この目的を達成するために、政府は
単独もしくは一致団結して、ビジョン実現に向け体系
だった政策を開発、実行していく必要があろう。 また、
このグローバル・ロジスティクス能力の本質は、民間
部門にも適合するものである。
同時に、環境への関心が高まりをみせるなかで、も
はや効率的な物的ロジスティクスは持続可能な発展と
いう目標と切り離して考えられない。 いまやグローバ
ル・ロジスティクス能力は、環境に優しいロジスティ
クスに対する要求を含め、もっと包括的に多様に考慮
する必要がある。
21
世紀の効率的で環境に優しいグローバル・ロジス
ティクス・ネットワークを確立するには、様々な地域に関して、その内部的にそして地域を超えてロジステ
ィクス・システムの現状を理解し、それぞれの地域特
殊的な問題を識別するための共同研究が必要である。
こうした研究では、産業あるいは国家の競争力の観
点からだけでなく、消費者、荷主、ロジスティクス・
サービス業者、政府の政策展望まで考慮に入れた、グ
ローバル社会最適化の観点から、先進のロジスティク
スを評価する必要がある。 したがって、グローバルな
利害と地域間での共通の枠組みに基づいた、望ましい
グローバル・ロジスティクス・ネットワークに対するビ
ジョンが求められる。 政府、民間企業両者にビジョン
達成に向けた発展経路の識別を可能とする、具体的な
政策と指導原理が提起されるべきである。
OECD「TRILOGプロジェクト」の目的は、
多地域、国際的局面で直面する、複数形態管理、貨物
要 約
国際ビジネスは、急速な移行期を経験している。
グローバリゼーション、ロジスティクスの統合、情
報通信技術(ICT)の発達といった趨勢は、ど
れも世界貿易パターン、ひいては、物的貿易フロ
ーの再編を促している。 このような再編は、競争を
激化させるだけでなく、経済成長、資源配置の改善、
消費者の選択の自由の向上にも寄与しつつある。
企業は、国際競争に向けて、世界規模の戦略的ネッ
トワークを組織し、世界市場のいかなるセグメントか
らの要求に対しても、効率的で質の高い対応を実現し
つつある。 こうした活動を支える効率的で統合化され
た組織は、グローバル・ロジスティクス、あるいはサプ
ライチェーン・マネジメント(SCM)と呼ばれるこ
とが多いが、これがグローバルな競争力の中核に据え
られるようになってきた。
グローバル・ロジスティクス・ネットワークは、多
様な構成要素が組織的統一の下にそれぞれの機能を果
たすグローバルな付加価値連鎖に対する一つの循環シ
アジア太平洋、ヨーロッパ、アメリカ
地域を超えて共有される課題と解決
経済協力開発機構(OECD)TRILOGプロジェクト報告
訳 福山平成大学門田清 助教授
ロジスティクスを効率化するために政府や国
際機関はどのような政策をとるべきなのか。 それを探るために経済協力開発機構(OECD)
は九六年、欧州、米国、アジア太平洋の三つの
地域を対象にしたロジスティクス研究プロジェ
クト「TRILOG」(Trilateral Logistics
Project
)を発足させている。 その研究成果と
して二〇〇二年九月に発表されたレポートを、
福山平成大学・門田清助教授の訳で二回に分
けて紹介する。
77 MAY 2003
輸送ロジスティクス、そしてこれに関連する諸政策課
題に対し、アプローチを変え、経験を放棄するよう促
すことにあった。 このプロジェクトは、一九九六年に
道路輸送と輸送モード間での連結に関するOECDの
道路輸送研究プログラム(Road Transport Research :
RTRプログラム)の一環として始められた。
中心テーマは、地域的、世界的に共通する重要課題
を識別し、効率的な輸送ロジスティクス推進のための
妥当な政策措置の開発促進に資する解決の糸口を比較、
あるいは提案することにある。 この解決策、あるいは
提案によって、統合化された輸送の全体的効率性を高
めうる、民間部門の開発、規制の調和、技術および慣
行の標準化とその利用を一層促進しうるような政策が
打ち出されることが望まれる。
TRILOGプロジェクトは、三つのタスクフォー
スを通して行われた。 アジア太平洋地域、ヨーロッパ
地域、北アメリカ地域に関する報告書が提出されてい
る。 日本、欧州委員会総務局?(現在、DG TREN
)
運輸部会、そしてアメリカが三つのタスクフォースの各議長を務めた。
報告書の中では、「(先進)ロジスティクス」と「サ
プライチェーン・マネジメント」の用語が互換的に使
われている。 「(先進)ロジスティクス」とは、「情報技
術とデジタル通信ネットワークを十分に活用して、ロ
ジスティクス・チェーンのなかで複数組織にまたがる
諸活動を同期化し、生産部門や物流部門へ各組織に必
要な情報をリアルタイムでフィードバックするという
概念」である(OECD一九九二、一九九六)。
これは、資材の流れの最適化を追求し、その組織を
通して顧客へ供給する相互作用プロセスであると考え
た、ロジスティクス管理の初期の概念を拡張したもの
である(Christopher
一九九一)。
ヨーロッパでは、「サプライチェーン・マネジメント」
要 約
共通の調査結果と推奨政策措置
第1章 グローバル貨物輸送ロジスティクス
1
―
1 貿易ネットワークの発展
1
―
2 ロジスティクスにおける趨勢
1
―
3 推奨政策措置
第2章 ロジスティクスを支援する情報通信技術
(ICT)の開発
2
―
1 情報社会におけるロジスティクスの進展
2
―
2 先進の情報技術と技術革新がロジスティクスに及ぼす効果
2
―
3 推奨政策措置
第3章 マルチモーダル輸送とロジスティクス
3
―
1 持続可能な輸送の必要性
3
―
2 マルチモーダルの特徴
3
―
3 ロジスティクスとモード間輸送
3
―
4 マルチモーダル輸送に対する障害
3
―
5 推奨政策措置
第4章 ロジスティクス・インフラの整備
4
―
1 ロジスティクス・インフラ開発の必要性
4
―
2 新たな財務・統制計画の必要性
4
―
3 公共部門と民間部門とのパートナーシップ
4
―
4 インフラ・プロジェクトにおけるコスト最小化
4
―
5 コストの配分
4
―
6 地域的課題
4
―
7 推奨政策措置
第5章 技能と訓練に対する要件
5―1 ロジスティクス産業における労働市場の特徴
5―2 ロジスティクス産業における変化
5―3 ロジスティクス産業における変化が人的資源に及ぼす影響
5―4 推奨政策措置
第6章 ロジスティクス・システムの評価
――指標の開発
6―1 ロジスティクス成果指標の開発目的
6―2 新指標の必要性
6―3 新指標開発に向けた推奨措置
後編 前編
MAY 2003 78
という語が使われているが、北アメリカとアジア太平
洋地域では「(先進)ロジスティクス」という語が一般
に使われている。 したがってロジスティクスとサプライ
チェーン・マネジメントの語は、地理的、組織的境界
とは無関係に、ロジスティクス概念を顧客とサプライ
ヤーにまで拡張したものと理解されている。
この正式のTRILOG報告は、三地域全てに共通
の課題を識別、統合し、国際的に継ぎ目の無い輸送シ
ステム実現のための協働に向けた政策オプションの開
発を目的としている。 ビジネスのやり方に大きな変化
が起きている(たとえば電子商取引)が、次には何が
開発され、どの方向に向かうのか、そしてその開発は
一体、何に起因し開発にはどう対応し、どう推進して
いくのかは明らかではない。
報告書では、三地域に共通に観察された調査結果と
これに基づく推奨政策措置の提示に焦点が当てられて
いる。 したがって、これは明確な結論を提示するので
はなく、むしろ概観したものとして考えられるべきもの
である。
共通の調査結果と推奨政策措置
●グローバル化とロジスティクスにおける趨勢は、輸送
活動再編の過程にある。 ロジスティクスの新たな戦
略的活用は、企業間にまたがる事業活動の本質と文
化を絶え間無く変化させることになろう。 各国政府
は、こうした変化に適合しなくてはならないだろう。
ロジスティクスの戦略的優位性は、輸送効率化の
利益に結びつく調整と計画の改善の点で最も顕著に
みられる。 しかしながら、政府がロジスティクスの概
念を十分に理解し、経済発展を促しうるよう経済面
での競争力を刺激することが重要である。 同時に政
府は、影響のマイナス面にはその低減に努める必要
がある。 それによって、持続可能な発展を含め、よ
りバランスのとれた経済成長に向けた取り組みが可
能となるからである。
●現在、ロジスティクスの開発に関する知識に欠け、そ
の政策活動の効果が出ていないことに加え、国内的
に制度的、組織的制約が存在することが、政府間で
のグローバル・ロジスティクス・システム整備能力
を制限している。 多くの場合、貨物輸送政策は、輸
送業者から求められているような統合貨物輸送管理
要求に対して、正式に十分には輸送モード面からの
考慮がなされていない。
●各国政府がロジスティクスから与えられる機会を拡
大し、また持続可能な発展をも実現することで競争
力を高めるためには、より広範な社会・経済的目標
達成のための統合された政策の枠組みを開発する必
要がある。 グローバル・ロジスティクス・システムの
効率性と持続性に影響する政策課題の範囲は広く、
それは単に運輸部門の成果改善義務しか負わない狭
い視野しか持たない政府機関の管轄を超えて拡張さ
れる。
また輸送とロジスティクスは、国際貿易、国際金
融、持続可能な経済発展、グローバルな環境変化、
地域側、現地側の関心と相互関連を持つため、政策
の枠組みは、適切に、より広い文脈の中で捉え、国
際的に協調性を備えたものとすべきである。
●「現地の」状況に関しては地域ごとの多様性がある
ことを念頭において、この全体的枠組みの中で、刺
激(トリガー)と制約の範囲が考案される必要があ
る。 多様な文化的背景と発展段階の相異から、国家
間でロジスティクス活用の在り方は異なる。 アジア
諸国を含め多数国の政府が、今なおロジスティクス
に対してきわめて限られた理解しか持ち合わせてい
ない。
また中にはロジスティクスの重要性に対するより
一般的な見識に欠け、他方で専門的なロジスティク
ス知識にも不十分で、ロジスティクスを管理する一
体的政策を策定できないような国も存在する。 さら
に複合一貫輸送といった現代的ロジスティクス概念
は、まだこれら諸国には浸透していない。 しかしこ
うした現状ではあるが、いかなる地域もロジスティク
スにおける現在の発展と、輸送に関わる効率的で環
境にやさしい解決策の要求に応えていく必要がある。
●政策活動の効果性と効率性は、比較研究を通して分
析された。 この研究で直面した主な困難は、多様な
地域を比較、対照させるに当たり、入手情報に欠け
ていた点にあった。 ロジスティクス・システムの成
果と政策の効果性の評価は、適切な成果指標を用い
ることで可能であったが、現時点でロジスティクス
の発展を監視する指標およびデータは欠如している。 したがって、こうした指標を開発し、政策に関連す
るデータ要求を識別するための共同研究が必要であ
る。 また、全ての参加者間でデータ共有が可能なよ
うに、統計データベースを調整、整備し、収集デー
タを比較可能にする必要がある。
●先進ロジスティクス・システムの実現には、ICTの
戦略的活用が重要である。 他方で、この分野の急速
な変化は挑戦課題を提起させる。 ロジスティクスに
おけるICTの活用拡大は、グローバルな規模での
輸送の素早い柔軟な開発につながるが、政策面での
要件が厳密に明確にされないのであれば、持続性の
達成は危ぶまれかねない。 輸送の効率性と持続性の
利益を求めたICTの効果的活用を促進する政策枠
79 MAY 2003
組みの開発においては、多くの政府が出遅れている。
●国際的な場で、持続可能な輸送の追求を急ぎ過ぎて
もしょうがないが、ロジスティクスの開発と持続可
能性の両立実現に向けた政策手段の策定が重要であ
る。 ゆえに政府が、経済活動のグローバル化の進展
に合わせて、持続可能な輸送開発に貢献しうる先進
の輸送ロジスティクス能力を向上させる必要がある。
●ロジスティクスは、貨物輸送の量及び距離を拡大さ
せ、ICTにより計画化と調整の改善を進めること
によって、モード間貨物輸送を拡大させる機会を生
み出す。 これにより、マルチモーダル輸送によるサー
ビス水準は向上し、荷主にとっての魅力はさらに高
まり、ロジスティクスは持続性目標の達成に貢献し
うるだろう。
しかしながら、これには規制の調和、技術および
インフラの活用をめぐる枠組みの標準化といった、政
府間での調和のとれた介入が必要となろう。 規制改
革を通して新たな統制とインフラに関わる技術の革
新と導入を促すには、成果基準のようなメカニズム
の研究が必要である。
●グローバル・ロジスティクス・システムは、輸送イン
フラの統合ネットワークが前提となる。 多くのアジ
ア諸国では、貨物輸送インフラの発展が鍵を握って
いる。 アジア・ロジスティクスの発展は、その急速
な経済成長に乗り遅れ、北米、そして欧州のロジス
ティクスには大きく水をあけられている。 アジアでは
多様な国家間で輸送インフラの規模と制度的措置に
ばらつきがあり、このことがロジスティクス・システ
ムの遅れと非効率性をもたらしている。
●先進国、発展途上国を問わず、政府がインフラ開発
に利用できる財務手段には、現在の要求をカバーし
支援できるだけの十分な柔軟性も有効性も透明性も
まだ無い。 公共部門と民間部門のパートナーシップを含め、革新的な投資協定が開拓されるべきである。
●ロジスティクスとICTの発展は、技能要求を変化
させる。 訓練・資格体系は、こうした発展に対応さ
せて改善する必要がある。 公共、民間両部門それぞ
れで貨物輸送産業の支援に向けた人的資源開発面で
の配慮が求められる。 発展途上国では技能水準が国
家間で異なるため、訓練コースを設ける際、支援が
必要となる。
●効率的なグローバル・ロジスティクス・システムの
実現には、民間企業、政府、国際機関の間での広範
な協力と協働が重要である。 各国政府は、先進のグ
ローバル・ロジスティクス・システム開発のための
枠組みを準備する必要がある。 そこには税関手続き
処理、規制緩和、モード間システムの開発および維
持といった国境をまたぐ重要な課題への取り組みが
盛り込まれるべきである。
継ぎ目の無い統制活動、互換性を持った訓練・資
格体系、全ての利害関係者間での広範な情報交換を
促進していくためにも、例えば、規制の調和、IC
Tに基礎を置いた通関手続システムの合理化、新規
技術の標準化といったことを通して、各国政府は協
力し、グローバルな規模で政策を統合することを推
奨する。
●多くの技術、特に高度道路交通システム(ITS)
を取り巻く技術は、今なお研究段階にある。 ゆえに、
先進ロジスティクス・システムの開発には、R&D
への取り組みが重要である。 しかしながら、その短
期的収益性は不確実なため、民間部門でのR&Dに
よる支援が必要となる。 したがって、各国政府は民
間部門でのR&D活動を促進するとともに、技術進
歩機会を最大化しうるよう、技術的解決に向けた論
証を促し、情報の普及を通して生産性向上に努める
必要がある。
第1章 グローバル貨物輸送ロジスティクス
1―1 貿易ネットワークの発展
ロジスティクス活動を最も明確に示すものの一つは、
貿易の世界的拡大を通じた貨物輸送の拡大である。 実
際、計画化から、調達、製造、販売活動を含めた産業
のグローバル化は、貿易をより複雑にし、輸送ネット
ワークの一層の発展をもたらしてきた。
また貿易ネットワークの発展を促してきたのは、主
要な規則的な変動であり、技術的趨勢であった。 特に、
アジア太平洋経済協力会議(APEC)、欧州連合(E U)、北米自由貿易協定(NAFTA)といった経済
圏で起きている貿易自由化は、国境をまたぐ移動上の
制約を取り除き、そこに関わる「障壁コスト」を低減
させてきた。 情報・通信技術の発展により、企業は広
く地理的に分散した立地にまたがる事業活動に対して
効率性改善の手段を手に入れた。
1―2 ロジスティクスにおける趨勢
取引ネットワークの発展により、付加価値ロジステ
ィクス管理に対する多様なニーズが生まれ、ロジステ
ィクスとサプライチェーンに数多くの個別の趨勢を生
み出している。
1―2―1 ロジスティクス・システムの再編
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生産能力および在庫能力を限られた立地に集約化さ
せる形で、製造業者は、そのロジスティクス・システ
ムを再編しつつある。 生産能力の集約化により、ロジ
スティクス・システムは輸送集約的となり、顧客に配
達するまでのリードタイムは長くなるという犠牲はあ
るが、企業の生産面での規模の経済性は最大化できる。
在庫の集約化は、これまでも長期にわたり取り組ま
れてきたが、今や広範な地理的規模で行われるように
なってきている。 これまで企業は、集約化傾向にある
在庫保有活動と分散化される荷下ろし活動とを地理的
に分離して、追加的な輸送コストの発生を最小化しな
がら、在庫コスト削減を実現してきた。
小包と手紙の配達システムでも集約化が起こってい
るが、そこではほとんどのローカル・レベルの輸送が
集中的に区分けされるシステムを通して統制される「ハ
ブ―サテライト」システムに、そのロジスティクス・シ
ステムを構成する動きとして現れている。
1
―
2
―
2 サプライチェーンの再編
企業のサプライチェーン再編の動きが起こっている。
多くの産業分野の企業間で中核ではない補助的な活動
を外部の下請けに回し、コア・コンピタンスに集中化
することがなされてきた。 生産活動における垂直的な
活動の外部化によって、サプライチェーンに結合関係
を追加する形で生産工程の輸送集約性を高めつつある。
また同時に企業は、その調達、流通活動において堅
実に地理的規模を拡大してきた。 企業は、生産の集約
化と製品のカスタム化との間の緊張を和らげるために、
標準的な製品の生産に関しては、その中核部分の多く
を低賃金国に集約し、地域市場に着いてから製品のカ
スタム化を行うやり方を取っている。 カスタム化の時
点まで在庫単位数を最小化することで、在庫コストの
リスクを最小化し、リードタイムを短縮化している。
この例として、コスト削減のためにグローバル生産
ネットワークを活用し諸活動を再編してきた、パソコ
ン産業がある。 最終製品の在庫増加を回避しながら需
要面の変化に柔軟に対応するために、当該産業では最
終市場にできるだけ近い場所に最終組立工程を配置す
る、グローバル生産ネットワークを作り出している。
配達に関しては、重量に対する価値率の高い製品に
おいて、直接配達が拡大してきているようである。 こ
れは特に、電子媒体を通して、ダイレクト・マーケテ
ィングが成長を見せていることが背景にある。 他方で、
いくつかのヨーロッパ諸国では、巨大小売り数社が、サ
プライヤーから最終購買者までのサプライチェーン全
体に責任を負うようになってきている。
サプライチェーンの再編において、規模の経済性を
享受すべく、数少ないハブとなる港および空港に国際
輸送を集中する動きが一段と強まってきている。
1―2―3 製品フローの再設計
サプライチェーン上の製品フローに対する時間的制
約が一段と強まる状況にある。 今や、海外市場での競
争に伍していくための、伸長したサプライチェーンに
おける注文のリードタイム(注文から財の配達までの
時間)短縮に向けた圧力が存在する。 また、このリー
ドタイムに関しても、取引慣行、小売り集中化の度合
い、ICTによる支援水準、国家の規模によって、多
様性が存在するようである。
製品フローにおける時間の圧縮により、在庫コスト
は節約され、企業は需要の多様性のみならず製品ライ
フ・サイクル短縮化にも素早く対応することが可能と
なり、配達に求められる信頼性も増すことになる。 貨
物輸送スケジュールの再設計の一つのやり方として、顧
客への指定日配達と工場指定時間納品(Timed-
Delivery at Factories
)がある。
1―2―4 輸送および倉庫管理の改善
輸送および倉庫管理は、多様な輸送モードの最適活
用を図り、情報通信技術(ICT)の活用を拡大する
ことで改善される。 例えば現在、パソコン産業では、付
加価値の度合いに応じて、部品を空路、海路いずれか
で輸送する、国際輸送モードの選択的活用が常識とな
っている。
低付加価値品の場合、通常、輸送費削減のために船
便を使う。 高付加価値の主要部品は、需要変動に応じ
て選別され、組立直前に航空便で輸送される。 これに
より製造業者は、最終財に使われる部品の質を維持で
きるとともに顧客満足も確保され、同時に在庫品の価
格下落リスクも取り除くことが可能となる。
国際貨物輸送コストは、これまで実質的に下落して
きた。 以前には非常に高価で複雑なものと思われてい
た航空貨物も、単位コストの低減、過剰能力を持った
航空路の存在、国際貿易面での官僚的な構造の瓦解、
ドア・ツウ・ドア・サービスを包括的に扱い統括する業者の成長によって、選択肢として利用可能になって
きた。
また、輸送機関および輸送取り扱い面での技術開発
により、多様な貨物輸送モードを統制するコストは変
化しうるし、輸送フロー・パターンに変化が生ずる可
能性がある。
ICTは電子的通信システムによる支援を拡大する
ことによって、サプライチェーンに対し、輸送および
倉庫管理に多大な影響を与えることになろう。 リアル
タイムでの注文処理、ルーティングおよびスケジュー
リング・システムだけでなく、自動配置・航行システ
ム(automatic positioning and navigation system
)
の発展も予想される。
数多くの輸送会社が、いつでも、いかなる貨物でも、
その存在場所を識別できる「輸送追跡」システムに多
81 MAY 2003
額の投資をしてきた。 これによって荷主とその顧客に
とってのグローバル・サプライチェーンの可視性は高
まった。 これは在庫管理上の主要課題となっている。
1―2―5 製品デザインの変化
製品が複雑化し洗練されてくると、特に最終財の単
位重量あたりの付加価値は高まることになろう。 イン
ターネット販売が拡大するのに伴い、CD、テープ、ビ
デオ、ソフトウエアの直接配達は、電子的な流通に切
り替わりつつある。 また、製品デザインの初期段階で、
ロジスティクスと輸送の両面を統合して考えるところ
にも機会は存在する(統合的製品デザイン)。 例えば、
包装産業等のサプライチェーンを構成する各主体の参
加である。
標準化と、(リバース)ロジスティクス(保管、処理、
輸送等々)の持つ意味が考慮されることが考えられる。
例えば、製品流通で使われる同じ輸送機関により、小
売りの販路から、きれいなゴミ(すなわち容器)を回
収することも含まれるだろう。
1―2―6 ロジスティクスの統合
産業活動のグローバル化の進展に伴い、ロジスティ
クスも必然的に国境を越えて拡大を見せる。 その調達
から顧客までのサプライチェーン全体で、資材と情報
のフローがより増大するだろう。 サプライチェーンを再
編する場合、これらフローを最適化する視点から、統
合化された過程としてロジスティクスを管理する必要
がある。
特定のサプライチェーンにおいてそこに関わる企業
全てが、他の構成企業とは独立した形で自分達のロジ
スティクスの最適化を図るのであれば、チェーン全体
でのフロー管理は準最適なものにしかならない傾向に
ある。 統合ロジスティクスにより、この問題の克服が
試みられている。
この統合ロジスティクスの概念では、顧客、サプラ
イヤー、製造業者を含むところまで機能管理を拡大さ
せている。 企業はもはや供給面での効率性にだけ焦点
を当てることはできないのであり、競争優位性の確立
に向けた土台を築くためにも、需給両面を統合的に管
理する方向に自らを向かわせられるよう、その事業戦
略を活用していく必要がある。
これには生産と流通に関わる諸活動と諸組織が、サ
プライチェーンの中で互いに連結した関係にあって、完
全な構成をなしていることが求められる。 それは資材
と製品のフローの起こるプロセスの各活動間に、そこ
に横たわる構造が存在することを示唆している。 そし
て、部門間の意志決定が互いに影響し合うことで、そ
れは単一の相互依存的システムとなるのである。
多様な統合水準
産業ロジスティクスの統合は、広範囲にわたる。 多
数の利害関係者の関わる分化されたサプライチェーン
における、産業ロジスティクスの統合は、販売・流通
活動に責任を負う同一企業内の多様な事業部門の統合
のような、機能的統合として取り組むことが可能であ
ろう。
このロジスティクス統合水準にある企業群では、そ
れぞれが、調達、加工、流通、そしてアフター・サービ
スにわたるグローバル・サプライチェーン活動において、
機能的卓越性とコスト優位性の獲得を模索している。
各企業は、内部障壁の強化ではなく、その撤廃を進
め、戦術的解決(例えば、非付加価値活動、運転資本、
在庫、顧客サービス等々の合理化)に焦点を当てた取
り組みを行っている。 これは、同一の企業構造を持つ
多様な企業間で、施設、設備、システム、人員をより
柔軟に組み替える形で結びつけていく内部統合に進化
していくであろう。
最も広範な統合は、市場経路の、もしくは外部的な
統合である。 この統合水準では、各企業はその内部サ
プライチェーン・プロセスを原料サプライヤーとの川
上側にも、最終顧客に続く川下側にも拡張していくこ
とが求められる。
このように、サプライチェーンを構成する全ての企
業が自らの活動を他企業のそれと統合し、合同統制の
経済性を実現してきている。 市場経路は、もはや共通
化した個々の目標やシステム、組織、施設を備え、そ
して共有管理下の仮想企業化している。 この統合水準
にある企業では、サプライヤーそして顧客とともにプ
ロジェクト組織を立ち上げ、投資は合同で行う。 この
統合水準に達した企業であれば、優れた実績を上げる
だけの潜在能力を備え持つ。
革新的な企業からなる比較的小規模なグループは、ロ
ジスティクスの技巧と手段を採用し先進のICTを採
り入れてきた。 それらの企業のほとんどがサプライチェ
ーン上の連続する二つの企業間でのフロー最適化の実現に重点を置いている。 今なお、多くの企業は物理的
な活動でも、情報システムに関しても、内部統合の問
題に取り組んでいる状況にある。
北米と比べると、ヨーロッパとアジアでは、ロジス
ティクスの発展が遅れている。 実際、ロジスティクス
の発展は、ある部分、(乗っ取りと合併を通じて)権限
が集中化し、他のサプライチェーンの構成員に対して、
その権限が行使された結果である。 別の見方をすれば、
それは小企業が単独では得られないような、サプライ
チェーン上での規模の経済性を実現するための「協働
(コラボレーション)」の機会とも考えられる。
統合ロジスティクスのグローバル事業慣行への影響
複数のサプライチェーンにまたがるロジスティクス
MAY 2003 82
統合の進展は、事業慣行に重大な影響をもたらしてき
た。 Sary
(一九九九)が指摘するように、そこには次
のような傾向がみられる。
・事業ネットワーク内で相互に連結された企業間の相
互依存性の高まり、これが産業の新しい現実となっ
た。 個々の企業による成果は、全ての企業の成果に
影響し、ネットワーク全体の最終的な成果を決定づ
ける。
・グローバル化の進んだ経済では、国境をまたいで生
産と資材および製品部品の調達とを結び付け販売に
つなげることで、時間、距離、文化、そして多様な
市場選好の問題を生じさせる。 またそこでは、より
高い効率性を追求しつつも多様で急速に変化する市
場に対応する中で、競争は激しく、製品の多様化の
拡大によって供給面での複雑性は増大している。
・企業のコンセプトは変化する。 組織は、特有な価値
を支えるコア・コンピタンスに集中すべく周辺的活
動は脱ぎ捨ててきた。 ゆえに、外部依存を強める中
で、活動とプロセスを調整するためには、組織間関
係に焦点が移らざるを得ない。 場合によっては、コ
ア事業へのシフトが「ヴァーチャル」組織の創出に
つながり、事業統制の大部分が、サード/フォース
パーティ・ロジスティクス(3PL/4PL)とい
った外部主体にアウトソーシングされているケース
もある。
・経営者が知識を与え、労働者が行動するという階層
構造から、組織全体に知識が広く普及し労働者が自
らの活動を管理する状況へと、企業組織構造は移行
する。 これにより協働的な意志決定は、行動の起こ
る場所に近いところで行われるようになる。 ロジス
ティクスの枠組みに当てはめれば、組織の境界をま
たいだデータ・情報システムと公式的、非公式的接触を通じた組織間関係に重点が置かれることになる。
・政府の環境は変化し、問題も機会も生み出される。 輸
送と通信に関わる経済的規制の多くが自由化されて
きた。 倉庫、通信、製品組立および関連サービスと
輸送との結合を実現してくれる諸サービス・プロバ
イダーを、新たに市場ベースで組み合わせて活用で
きるようになった。 輸送と通信に関わる経済的制約
が緩和・撤廃される一方で、消費者保護、環境、安
全といった要素に関して規制が敷かれるようになっ
てきている。
1―2―7 ロジスティクス活動のアウトソーシング
アウトソーシングの必要性
効率的なロジスティクス活動は、効果的な事業統制
に欠かすことのできない要素である。 ゆえに、非常に
うまくこうした不可欠な要素を機能させている企業の
場合、様々な形で、企業活動に真の価値を付加してい
るのである。
グローバル化は、ロジスティクス・サプライ・ネッ
トワークを高度に複雑なものへと駆り立て、製品の市
場価値を高める上で流通と輸送が果たす重要な役割を
際立たせる。 また、企業の持続可能な競争優位を維持
する上で流通と輸送が重要であることは、流通、輸送
活動をさらに洗練されたものとする。
企業が、コア・コンピタンスへの集中化を求める中
で、今やロジスティクスは専門のプロバイダーに外注
される傾向を強めている。
サードパーティ・ロジスティクス(3PL)
製造業者の間では、ロジスティクス活動を3PL業
者に外注する場合が多い。 こうした業者は、専門性が
高く、低い活動コストと良質なサービスで、広範な地
域をカバーしうる高いロジスティクス統制上の柔軟性
を確保できる。
ロジスティクス・サービスの外部化は、その過程で
二つの局面を経験してきたが、そこでは、企業は外部
調達するサービスの範囲、そしてサードパーティに委
託する輸送量の両面で拡大が可能となった。 統合ロジ
スティクス・サービスをカスタム化することに対する
企業側の要求は強まってきている。 最良の3PLプロ
バイダーはロジスティクス管理の戦略的重要性を理解
しており、顧客側が主能力への統制権放棄に対して持
つ懸念を払拭できるだけの、より多くのそしてより良
質のサービスを提供する存在として自らを位置づけ活
動している。 従ってサードパーティ側のサービス調整
とカスタム化の能力が非常に重要となる。
顧客側も、これまでの3PLサービス経験には、満足しているようである。 ロジスティクス活動のアウトソ
ーシングの拡大が予想される。 この傾向は、多くのグ
ローバル・ロジスティクス・サービス・プロバイダーが
多様性の面でも地理的にも途上国向け活動範囲を拡大
することを促し、またサービスのカスタム化も進展さ
せている。
フォースパーティ・ロジスティクス(4PL)
今日、ほとんどのプロバイダーが、顧客の特殊なニ
ーズを満たしその能力を補完する、広範なサービスを
提供している。 しかしながら、サードパーティ・プロバ
イダーがサービス全般を扱うプロバイダーとして機能
するというのが一般的傾向としてあり、従って、顧客
側が望むあらゆるサービスが、少なくとも組織内部と
同等には完全かつコスト効果的に組織外から供給され
83 MAY 2003
るだけの環境が整っている。
フォースパーティ・ロジスティクス(4PL)は、ロ
ジスティクスのアウトソーシングにおける新しい概念で
ある。 伝統的なアウトソーシングでの調整で可能とさ
れる、一度きりの統制コストの削減と資産移転を超越
した段階を示す概念として登場してきた。
4PLプロバイダーとは、サプライチェーンに対す
る包括的な問題解決サービスを提供することを目的に、
自らの組織の持つ資源、能力、技術を補完的なサービ
ス・プロバイダーのそれと組み合わせ管理する、サプ
ライチェーン統合管理主体のことである。
4PLの成功を決定づけるものは、「最高の統合体」
を追求するそのアプローチにある。 これは顧客のサプ
ライチェーン活動に対して、選りすぐりのサードパー
ティ・プロバイダー、技術プロバイダー、経営コンサ
ルタント間の連携を技術的に統合的に支援することで、
個々のプロバイダーでは実現し得ないユニークかつ包
括的なロジスティクスに対する解決手段を創造するも
のである。
4PLの解決手段の開発によって、サプライチェー
ンに対して包括的解決手段を提供することを目的に、輸
送統制業者、技術サービス・プロバイダー、ビジネス・
プロセス管理者の持つ能力を集約的に、裁定的に活用
できるようになった。
1―3 推奨政策措置
?グローバル化とロジスティクスの趨勢を促す
政策措置開発の必要性
グローバル化、ロジスティクスにおける趨勢、eコ
マースに代表されるICTの発展が組み合わされるこ
とで、世界貿易パターン、ひいては物的貿易フローの
再編が起こりつつある。
こうした再編が進む中で、経済は成長し、資源配置
は改善され、ひいては消費者の選択の自由が拡大しつ
つある。 ロジスティクスとグローバル化のダイナミズム
を抑制してしまうような政策措置が断じて選択肢とな
らないのは明らかである。 逆に政府はこうした発展を
支援できる基礎的枠組みを提供することによって、よ
り公正な形で厚生を普及させ、総体的な向上を実現で
きるだろう。
従って、グローバル・ロジスティクス・ネットワー
クの主要な構成体として、各地域の確立を図る政策が
開発され実行に移される必要がある。 こうした政策の
立案にとって主課題となるのは、環境への配慮、IC
T適用に際しての一貫性と相互運用性確保のための枠
組み開発を含めた情報技術の戦略的活用、規制の設定
と緩和、通関手続きの削減、ロジスティクスの効率的
な価格設定、マルチモーダル輸送の促進、人的資源の
開発である。
?グローバル化とロジスティクスの
負の側面に対する認識の必要性
グローバル化とロジスティクスにおける趨勢はダイ
ナミズムを持ち、地域や産業分野によっては、負の影
響を持った構造的変化を必要とするだろう。 世界規模
で事業を展開する企業の場合、たとえEUにおいても
地域的権限当局による規則に必ずしも従うものではな
いだろう。
生産工程はより?根無し草的〞になっている。 特定
市場の選択と併せて、生産活動はサプライチェーン構
築において最も重要な要素である。 従って、市場と生
産立地の選択が財の物的フローの地理的方向性を規定
し、地域間での不均衡をもたらす可能性がある。
産業および企業の調達額は、総売上高の五〇〜六
〇%を占める。 情報技術を活用することによって、企
業は最終顧客からの注文に、より適切に対応し、調達
を同時化しうるよう生産活動計画を立てることができ
る。 この点から企業対企業(B2B)と企業対消費者
(B2C)は相互関連づけられる。 B2BとB2Cとの
間の調整は、フロー管理において鍵を握る要素である。
しかしながら、この発展に伴う輸送需要の拡大は、イ
ンフラと環境に均一に圧力を掛けるわけではなく、必
ずしも効率的な結果をもたらすものではない。
都市部での道路を走る輸送機関の数は、長い間拡大
傾向にあった。 現在、貨物輸送量は、都市部での輸送
機関による全輸送の一五〜二〇%を占める。 現在のe
コマース形態は宅配機能に基づいている。 これは配送
の統合性を低下させ、貨物輸送量を増大させることに
なろう。 配送の効率性は著しく落ち込み、それによっ
て事業コストが大幅に上昇することになる。 社会に対
して環境面、社会面で影響し、コスト的にも大きな懸
念材料を与えるだろう。 この段階でeコマースのもた
らす影響は、企業がその貨物の集約化を進め積載量を
改善し、輸送の数を減らすことができるかどうかに掛
かっていると言える。
国際的フォワーダーのような大規模輸送企業を中心
とした、輸送サービスの統合がもたらす問題には、I
CT活用によって反競争的慣行を促すことのないよう
政府による慎重な監視が必要である。 そのために場合
によっては当該分野の全てのプレーヤーに関係する政
府支援のタスクフォースを作ることが必要になる。 同
様に、競争政策上、こうした反競争的な慣行が発展し
ないよう、これに対抗的な緊急避難制限措置が用意さ
れるべきである。 また競合企業間の協力による輸送調
整が制約されないようにもすべきである。
?ロジスティクスの完全理解に基づいて
政策を開発する必要性
政策立案者がロジスティクス概念と現在の慣行を理
MAY 2003 84
解することが重要である。 ベスト・プラクティスは何
かを決定する際に、先進のロジスティクスに対する考
えを明確にしておくことが大切である。 そうして初め
て、ロジスティクス管理のマクロ的影響を完全に評価
することが可能となる。 しかしながら、政策立案者は
マクロ・レベルの政策的決定に反映させる、ミクロ・
レベルで生じる個別企業のベスト・プラクティスを推
測することの危険性には気づく必要がある。
サプライチェーン再編に関して、製品の価値密度は
ロジスティクス全般にわたって変化している。 また同
時に資材密度は情報密度化している。 グローバル・ロ
ジスティクスの効率的な統制には、貨物移動の追跡と
そのための情報通信システム、税関手続きでのデータ
処理、倉庫およびヤードでの在庫を決定する管理シス
テムが不可欠である。 この変化により、流通パターン
にも大きな変化があったが、これは今後も続いていく
であろう。 すなわち、積み荷の数が増加する一方で、そ
の規模は縮小化しているのである。 さらに、このこと
は公的なインフラの開発にも大きな影響を与えるだろ
う。
ロジスティクスの発展に関する正確な情報を入手す
ることにより、政策の刷新に重要なそうした要素を識
別することになるであろうし、生産とロジスティクスの
グローバル化の中で、貨物輸送の効率性と信頼性を確
保しうる政策の開発が可能となるだろう。
?広範な文脈で輸送政策を開発する必要性
保管コスト、労働/生産コスト、調達コストに対し
て、輸送コストがトレードオフ関係にあるとした場合、
サプライチェーンは輸送コストに依らないことが多い。
総輸送コストは、ロジスティクスの文脈の中で分析さ
れるべきである。
企業は生産を合理化し、広範な地域から財を調達し、
大規模な市場に供給することを求める。 従ってその財
の輸送距離は長くなる。 これは貨物輸送需要を拡大し、
輸送面、環境面で問題をもたらしている。 しかしなが
ら、計画化要件、租税体系、労働供給、規模の経済性
が、企業側の決定において重視されるため、そこでは
貨物輸送政策が影響することはないであろう。 すなわ
ち貨物輸送需要に最も影響する決定は、貨物輸送政策
とは関係なくなされるケースが多い。
各国政府が経済の輸送集約性の低減に効果的に関わ
っていきたいのであれば、とりわけ財政計画、労働政
策、環境政策、地域計画を含めた広範な政策枠組みの
一部として、輸送需要の問題に取り組んでいくべきで
ある。
?効率的グローバル・ロジスティクス・ネットワーク
開発に向けた協力と協働の必要性
ロジスティクス・ネットワークがグローバルに拡張
するのに伴い、輸送ハードウエア、情報インフラ、グ
ローバル・ロジスティクス・ネットワークの発展を支
える諸システムの開発を統合的に進めるうえで、社会
的要素を慎重に考慮することが求められるようになっ
ている。
グローバル・ロジスティクス・ネットワークに影響
する公共政策的課題の範囲は自らの輸送部門の実績改
善にしか責任を持たない、関心対象の狭い政府の代理
機関の管轄を越えて、広く拡大している。 国、地域間
でロジスティクスを構成するプレーヤーは多様であり、
そこには規制、情報要件、経済的利害、市場条件、文
化における相違にいかに対処するかという課題が存在
する。 個別政府が、ロジスティクス・ネットワークの
開発に関わる度合はまた、国家間で多様である。
オランダのケースは、国家レベルから地域レベルへ
の移行過程での工業団地の空間的な計画化の過程で、
工業団地から可能となる貨物輸送とロジスティクスと
の(将来的な)統合の一例を与えてくれている。
現在まで、オランダには潜在的買い手への土地請求
権の付与方法に市議会間で大きな相違があった。 例え
ば、市議会によっては、単にロジスティクス・プロバ
イダーの一平方メートル当たり雇用が十分でないとい
う理由で、彼らに請求権の割り当てを認定しない。 ま
た市議会によっては、ロジスティクス・プロバイダー
がロジスティクスの結節点として自己増殖的であると
いう理由から、彼らを選好するかもしれない。 このこ
とは、産業および企業に対しサプライチェーンを準最
適なものにしかしないし、主要基盤へのアクセス可能
性を十分なものにしない場合が多い。
国境を越えたところでだけでなく、その中の様々な
レベル(国、州/県/省、市)での政策立案において
も、効率的なサプライチェーンを求めた統合された政
府の政策を実施に移していくことが、より効率的な貨
物流通ネットワークにつながるであろう。 民間企業、政府、国際機関の間での建設的な協力と協働が、効率的
なグローバル・ロジスティクス・ネットワークの発展
には必要である。
?政策開発における
柔軟かつ迅速なアプローチの必要性
ロジスティクス・チェーンの諸活動を促進する政策
も組織の開発も不十分である。 ロジスティクスが企業
間で機能上の障壁を崩しているのであるから、また政
府も伝統的な政府部門間で機能的な責任の壁を崩し、
政策開発面での柔軟性を求めなければならない。
またロジスティクスおよびサプライチェーン計画の
変化において、ICTが重要な役割を果たすのは明白
である。 このことは各国政府によって開発され、基礎
をなす政策枠組みは、産業、社会どちらのニーズにも
85 MAY 2003
柔軟で、感応性の高いものである必要性を示唆してい
る。
?統計改善の必要性
ロジスティクスをよりよく理解するには、貨物の流
通に関する統計上の記録を改善することが重要である。
例えば、多くのヨーロッパ諸国で(形態ごとの、国内
および国際的)貨物輸送データ、貿易データ、生産デ
ータを総括するのは、ほとんど不可能である。 (価値に
基づき)ロジスティクスの視点から、これらデータに
関する様々な分類計画を刷新することは、政策立案者
を啓発するであろうし、政策の開発もより信頼できる
情報に基づいて行うことを可能とするであろう。
?国家間の多様性を認識する必要性
各国は多様な社会的、地理的特性を持ち、経済発展
段階にも違いがある。 そのため国によって輸送システ
ムと事業構造は大きく異なる。 この点は、ロジスティ
クス政策開発において認識される必要がある。
ヨーロッパのEU輸送政策の開発において、各国間
で企業によるロジスティクスの活用方法が相違してい
る点は軽視されるべきではない。 この相違は、ヨーロ
ッパの中枢に属さない諸国(周辺地域および東欧)に
は脅威となる。
アジアでは、輸出志向型政策により、貿易量が大幅
な拡大を見せた。 この地域は、国内経済のグローバル
化に向けた動きを加速化してきた。 域内そして圏域を
超えて多国籍企業活動が拡大してきたことがその背景
にある。 生産とロジスティクスのグローバル化に伴い、
貨物輸送の信頼性を確保するうえでもまた、アジア諸
国の国内輸送の改善が重要な課題となっている。
しかしながら、ロジスティクスに関わる法と規制は、
アジア各国できわめて多様である(OECD、二〇〇
〇)。 また、その経済発展水準、産業構造、そして輸送、
通信といったインフラの開発水準は、国家間で異なる。
アジア諸国の中には、時代遅れの活動と非効率な組
織が効率的なロジスティクス活動を実現する能力を制
約し、将来の洗練されたロジスティクスの開発を妨げ
る恐れのある国もある。 発展途上国のほとんどが、ロ
ジスティクス政策とロジスティクス研究に欠けている。
効率的なグローバル・ロジスティクス・ネットワー
クを開発するためには、こうした多様性が認識される
必要がある。 しかしながら、このような相違に起因す
る非効率性の源泉を最小化し、可能な限りシームレス
な輸送実現に向けて、ロジスティクス・システムの機
能面での特徴を標準化する方向で政策展開していくこ
とが重要である。 そうでなければ、全体的に複雑でコ
スト高となるそうした取引環境には産業は根付かず、関
係各国の立場を後退させる可能性がある。
第2章
ロジスティクスを支援する
情報通信技術(ICT)の開発
2―1 情報社会におけるロジスティクスの進展
一九七〇年代から八〇年代かけて、LAN(ローカ
ル・エリア・ネットワーク)やWAN(ワイド・エリ
ア・ネットワーク)といった情報技術が、孤立した形
で、リンクとノード(node:
結節点)の管理のために導
入された。
ジャスト・イン・タイム・マネジメントが製造の分
野で支配的となるのに伴い、他の企業職能の中にロジ
スティクスを組み入れたトータル・クオリティ・マネ
ジメント(TQM)が要求されるようになった。 それ
により、リンクとノードの管理は革新的な情報ネット
ワーク技術を活用した全体的な経営管理アプローチの
一部となった。 しかしながら、この段階では特定の企
業が情報ネットワークを大きく支配していた。
九〇年代には、TQMはロジスティクスに進化し、ま
た同時にインターネット革命が結実した。 グローバル
な規模で、ドア・トゥ・ドア輸送を効率的に管理する
ことが必要となった。 このことにより、サプライヤー、
ディーラー、パートナー企業、子会社、提携相手を含
める方向での企業の情報ネットワークの統合的拡張が
促された。 サプライチェーン上のロジスティクス活動
の統合が必要とされ、それは情報技術の進展によって
可能となった。
インターネットは、オンラインでの商業的サービス
とeコマースを可能とすることから、急速に強力なビ
ジネス・ツールとなってきている。 インターネットはす
ぐにでも、企業が取引を行い、契約を行い、データと
情報を交換し、設計について議論し、部品の所在を知
らせる、仲介的な機能となりうる。
また、輸送にICTを適用させることでインテリジ
ェント・トランスポーテーション・システム(ITS)
が出現することとなった。 ITSは先進の情報技術の活用によって輸送に関わる個別要素を関連づけ、一つ
のシステムにまとめあげる。 効率的で安全な、そして
環境に優しい輸送システムの実現に向け、ITSは様々
な技術と制度的機能を統合する。 それは既存の物理的
インフラからさらなる能力を引き出すことで、輸送シ
ステム活用の効率性改善の潜在的可能性を与えてくれ
る。
輸送インフラの伝統的な設計思想で、ロジスティク
スに伴うダイナミックなステータスの変化を考慮に入
れるのは本質的に困難である。 このギャップを克服す
るには、ロジスティクス活動を動態的に統制すること
が必要である。
この場合、インターネットを通して統合される、グ
ローバル・ポジショニング・システム(GPS)、IT
MAY 2003 86
S、電子データ交換(EDI)、電子商取引(EC)の
ような革新的情報の戦略的適用が不可欠であろう。 高
い実績を誇る情報インフラの存在が、国あるいは地域
のロジスティクス能力を決定づけるだろう。 こうした
複雑で洗練された情報インフラにより、ロジスティク
ス活動に相互作用的な過程がもたらされるだろう。
2―2 先進の情報技術と技術革新が
ロジスティクスに及ぼす効果
2―2―1 ロジスティクス成果の改善
ICTの活用はサプライチェーンに関わる情報交換
の改善につながり、ひいては統合生産・ロジスティク
ス管理システムの開発、これによる様々なサプライチ
ェーン成果の改善がみられた。
商取引の流れと物的流通は分離される。 EDIは、
商取引の管理手法を劇的に変えてしまった。 こうした
システムでは、伝送に時間を浪費し誤りを含むことが
多いハードコピーの紙ではなく、コンピュータ間の連
結が使われる。
ICTによって支援される情報交換システムの持つ
優位性は次のものである。 すなわち、速度と信頼性の
向上、貯蔵能力の増大、透明性の改善、トランザクシ
ョン・コストの低減、世界規模でのカバー範囲の充実
である。
リアルタイムでの輸送機関のルーティング・スケジ
ューリング・システム同様、財と輸送機関の追跡シス
テムが、ロジスティクス管理を変えた。 もはやほとんど
世界のどこであろうとも、リアルタイムで貨物を識別
し、追跡し、予定を組むことが可能である。 また、ロ
ジスティクス施設内での機械化と自動化が進み、品質
管理、倉庫管理技術は改善されている。
EDI、機械化、自動化、輸送機関の最適ルーティ
ング・システムの導入によって、リードタイムは短縮
化し、過剰な在庫水準を低下させることが可能となっ
た。 インターネットの発展により、グローバルに製品、サ
ービス、取引規制に関する情報を収集、組織化、配信
することの利便性が高まった。 インターネット上での
財の企業間取引は拡大を続け、取引のグローバル化に
より平均輸送距離は増大するであろう。 企業の中には、
インターネットをパートナー間でのサプライチェーン・
プランニングのための交換メカニズムとして利用する
ところもある。
主要な貨物輸送サービス・プロバイダーは、世界市
場を使った二四時間容易にアクセスできるサービス、ス
ケジュール、運賃に関する情報の提供に際し、インタ
ーネット上のウエブ・ページを頼みとしてきた。 さらに、
進んだ貨物輸送業者では荷主とフォワーダーからの貨
物追跡要求に相互作用的に対応できるようになってい
る。
このような発展は、ロジスティクス・プロバイダー
間での競争を激化させてきた。 スピーディで多頻度の
信頼できるサービス、ジャスト・イン・タイムでの製
造、保管、配送、マルチモーダル輸送によるドア・ト
ゥ・ドア・サービス、貨物追跡サービス等の先進の情
報関連サービスに明確に示されるように、競争によっ
て荷主側の輸送要件は変わってきた。 荷主側の要求に
対する輸送業界の反応は、現在趨勢となっているサプ
ライチェーンの統合、戦略的パートナーシップ/提携、
3PL、施設の共有、ペーパーレスでの情報交換に帰
結する、高品質の付加価値サービスをもたらしてきた。
またグローバルな規模での多様な企業間での競争の
激化は、革新の速度を速め、価格の下方圧力をもたら
すであろうし、これにより厚生の向上に貢献する可能
性を秘めている。
2―2―2 新たなサプライチェーン構造の可能性
ICTの急速な発展は、サプライチェーンの成果に
影響しただけでなく、産業構造を変え、新サービスを
生んだ。
サプライヤーと実際のユーザーにとって情報へのア
クセスが容易になったことで、直接取引が拡大してき
た。 サプライチェーンを構成する全てのパートナーが、
容易に情報を利用できる状況は、伝統的に希少な情報
へのアクセスから生活の糧を得ているパートナー(例
えば、代理店)には脅威に映る。 サプライチェーン上
の特定の仲介的役割は余分となる可能性がある。 その
ビジネスの大部分が、需要と供給のマッチングから生
じていることを考えると、フォワーダー、倉庫業者、小
売業者は、インターネットという販売チャネルにより、
さらに厳しい競争に直面することになろう。
しかしながら、インターネットは新しい非資産型の
ビジネスを生み出した。 「ヴァーチャル・ロジスティク
ス・チェーン」と呼ばれる特定のサービスが出現している。 ヴァーチャル・ロジスティクス・チェーンは、ロ
ジスティクス活動のあらゆる局面を統合する、データ
ベースを集中化した、インターネットを基礎とする通
信システムである。 パートナー間で、関心を持ったこ
とに関連するロジスティクス情報を調べ、リアルタイ
ムでコミュニケーションを取るためにアクセスできる。
サプライチェーンのさらなる改善を可能とし、マル
チモーダル輸送の機会を与えてくれるのは、物理的サ
プライチェーンから販売チャネルを分離した部分であ
る。 例えば、製品が物理的に存在する必要のないイン
ターネット・ベースのヴァーチャル・オークションでは、
不必要に迂回したり輸送したりしなくとも、売り手か
ら買い手に直接製品を交換渡しすることができる。
顧客と輸送サービス・プロバイダー間での情報の伝
送を担う付加価値ネットワーク(VAN)企業は、貨
87 MAY 2003
物の位置や購買注文等の情報を確認するデータバンク
の機能を持つことで統合主体としての役割を果たして
いる。
これに関するヨーロッパでの例は、PARIS(輸
送モード間プランニング・ルーティング・システム)で
ある。 これは荷主と輸送会社を数社ずつ束ね、港と後
背地との間のコンテナ輸送を同時に計画することで、輸
送効率を上げようというものである。
アメリカでは、インフォメーション・クリアリング・
ハウス(ICH)と呼ばれる新しい3PLの形態が登
場している。 これらサービス提供企業は、加盟トラッ
ク運送会社の利用できるトラック運送をリスト化した
ウエブ・サイトを作り、トラック運送会社と申し込み
を行った荷主との間の運送調整を可能としている。
これによりトラックの積載能力に満たない輸送を減
らすことができるため、積載の効率性は高まり、環境
に優しい輸送につながる。 近い将来、このようなサー
ビスは、入札方式によって多様な輸送モードを単体で
も複合でも活用できて、最適な輸送を実現できる方向
に拡大するであろう。
2―2―3 輸送モードのシフトと
マルチモーダル輸送への貢献
ロジスティクスと輸送技術の発展は、マルチモーダ
ル輸送の競争力を高め得る。
輸送機関およびその統御技術の新たな開発は、多様
な貨物輸送モード間での統制費用を低減させ、輸送パ
ターンを変化させる可能性を持つ。 例えば、ヨーロッ
パでは短距離の海洋路に高速フェリーを導入すること
で、同ルートに従う確立された長距離トラック輸送サ
ービスに競争を吹き込むことになった。 同様に、荷主
は需要に応じた製品配送のための流通拠点を活用し、こ
れに鉄道を組み合わせて主要路線の鉄道車両を使った
輸送も可能となっている。
サプライチェーンにICTを適用することで、輸送
指示情報と積み荷情報を早い段階で入手できるように
なる。 これにより輸送統制の中継時点をよりよく管理
できるようになることで、マルチモーダル輸送を含め、
以前には不可能であったような新しい輸送機会が生ま
れることを意味している。
効率的な情報技術は、処理時間とその費用を削減し、
連結をシームレスなものにすることによってマルチモー
ダル輸送を促進してきた。 3PL企業は、多様な輸送
モードシステムを連結するサービスを開発してきた。 貨
物の識別、追跡へのICTの活用によって、輸送モー
ド間の統制を図るケースはこれまでにもかなりあった。
ICTとITSの適用によりマルチモーダル輸送を改
善する過程で、ジャスト・イン・タイムでの在庫管理、
配送といったコンセプトが形成されてきた。 こうした
改善はいつでもマルチモーダル輸送の効率性を向上さ
せる。
2―2―4 貨物輸送需要に対する効果
技術によって財の輸送ニーズが低減することはない
だろう。 財の無形化とインターネットを通じたその流
通は、ビデオやソフトウエアといった製品の直接配送
を拡大させている。 しかしながら財の無形化と「情報
製品」の電子的流通によるネットでみた貨物輸送量の
減少幅は非常に小さい。 インターネット取引により強
まってきている財の調達先の拡大によって新たに創出
された貨物輸送分が、その低減分を上回る傾向にある。
2―3 推奨政策措置
サプライチェーンへのICTの活用は、すぐにも大
きな拡大が起こりそうな状況にある。 こうした技術は、
ロジスティクスとサプライチェーン・プランニングを変
化させるのに重要な役割を果たしてきたし、これから
もその役割は変わらないであろう。 従って、グローバ
ル・ロジスティクス・ネットワークの成果を改善させ
るための政策の開発において、ICTは重要な関心分
野となるだろう。
?ICTの戦略的活用促進の必要性
多くの企業がICTを十分には活用していなかった
り、そのICT投資から利益を手にするほどにはうま
く位置づけられないでいる。 企業の置かれている特定
の状況に、この技術を最もよく合うように意志決定す
るための枠組みを経営者が持っていないこと、新技術
をいかに管理し、業務手続きにいかに適合させるかと
いったことが理解されていないことが多い。 情報の共
有がサプライチェーン全体の利益となることは明白で
あるが、多くの企業が対外的な関係に関心を払う前に
内部処理の最適化に手を着けている。
マルチモーダル輸送を含む先進のロジスティクス・
システムは、ICTを戦略的に活用することで実現しうることは理解しておく必要がある。 この技術の持つ
潜在的利益を顕在化させるには、情報インフラを新た
に整備するだけでなく、制度面でのリエンジニアリン
グや新しい組織文化の醸成といったことが必要であろ
う。
?将来のロジスティクス・プランニングにおいて
ICTの急速な発展を考慮に入れる必要性
ICTは、技術変化が激しいことで特徴づけられる。
そしてその設計、活用されるシステムは単一ネットワ
ーク化してきているが、また多様な文脈に容易に適応
し得るだけの柔軟性を備えている。 ICTの変化の速
さは、政策立案者とこの技術のユーザーにとって挑戦
的な課題となっている。
MAY 2003 88
eコマースは急速に発展している。 eコマースの継
続的な発展には、貨物がきわめて厳しい時間枠の中で、
低コストでグローバルに配送されることが不可欠であ
る。 従って、流通パターンはグローバルにも、ローカル
にも変化するきらいがある。
ロジスティクスに先進的、革新的ICTを導入する
ことによる貨物輸送の特徴上の変化は、将来のプラン
ニングに重要な意味を持つであろう。 通常、革新的な
情報技術が先進のロジスティクス・ネットワークに導
入されるのは、輸送に関わるハード・インフラと関連
施設の開発がしっかりとなされている場合だけである。
しかしながら、革新的なICTは非常に洗練されて
おり、ロジスティクスの統制パターンを戦略的に再編
するための強力なツールとして利用できる。 従って、将
来的にハード・インフラを拡充させていくうえで、情
報インフラのアーキテクチャー、そして先進の戦略的
ロジスティクス・ネットワーク向けに設計、開発され
た情報システムの特徴を考慮しなければならない。
企業が先進のICT技術を理解する際に直面する大
きな壁の一つは、投資リスクの上昇である。 こうした
リスクは、一方ではICTに大規模投資をが必要なと
ころから生じているが、他方ではこの技術を特徴づけ
る変化の激しさに対して、ソフトウエアとシステムの
充足に長期間を要するところにある。
これは民間部門がICTに積極的に投資しようとす
るところに多大な不確実性を課してしまう危惧すべき
点であり、特に政府の通信政策と周波数(spectrum
)割
り当てに関して不確実性が存在する場合に当てはまる。
従って、政策立案者はICTの急速な発展に遅れを
取らないようにし、民間部門のロジスティクス・プラ
ンニングを支援できる安定した通信枠組みを開発する
必要がある。
?ICTの負の側面を改善する必要性
ICTの活用によって、先進のロジスティクス・シ
ステムを実現する機会が与えられる。 サプライチェー
ン構成の素早い変化も起こってこよう。 しかし、そこ
には起こりうる負の側面が考慮に入れられていない。 そ
こで、政策介入が必要となろう。
例えば、eコマースとそこへのダイレクト・コンシ
ューマー・ロジスティクスの適用は、積み荷のサイズ
を小さくし、配送回数を多くするだろう。 電子的に購
買される製品のサイズが小さく、二次元的なもの(例
えば、郵便箱に投函できるような製品)なのであれば、
流通システムはほとんど変更しないで済むことが多い。
しかしながら、サイズが大きかったり、三次元的な貨
物の場合、流通構造の改変を余儀なくされるだろう。
これは特に都市部において、輸送の効率性と持続可
能性に負の影響を持つだろう。 負の影響を改善するに
は、輸送需要の増加が必ずしも輸送の増加につながら
ないように統合能力と流通の効率性を高めた新しいロ
ジスティクス・システムの出現を後押しし得る政策が
必要となる。 従って、意図しない輸送需要の増加を避
けるには、経済の他の部門での規制改善が必要となろ
う。
?調和と協力の必要性
ICTとeコマースの発展はグローバル性を持って
いる。 そのために、情報システムの開放性と相互運用
性が、サービスとシステムの浸透にとって重要となる。
インフラに基づく技術を拡充させるために、各政策活
動の統合と調和の実現のための協力枠組みを各国政府
に与えることに対して、国際機関(EU、OECD、W
TO、ISO、UNCTADといった)の果たす役割
は重要である。 国際機関は、これによって貿易とロジ
スティクスの効率性を阻害する技術的障壁が創り出さ
れないよう努めるだろう。
しかしながら、この技術分野で考えられるアプリケ
ーション・メニューは広範で、非常に予想が難しく、事
前に十分に決定できるものではない。 従って、標準化
においては、厳格で柔軟性に欠ける標準ではなく、多
様な文脈に容易に適用できる包括的で機能的な標準が
趨勢となろう。
標準化を進めるにあたって、いまだに情報システム
の近代化と3PLおよびヴァーチャル・ロジスティク
ス・チェーン・システム開発の途上にある諸国に対し、
先進国側からの技術的支援が必要である。
?R&Dの必要性
ICTにおける革新は進歩的になされており、今な
お研究段階にある技術もある。 R&Dを推進していく
際に、市場サイドの経済活動と技術サイドのR&D活
動との間の相互作用プロセスが革新の創出を誘発して
きたことは心に留めておくべきである。
ロジスティクスに対する効率的な循環体系として、I
CTに基づくロジスティクス・ネットワークを開発す
るためには、多様な制度、国家、地域を越えて、また
企業を越えて形成される特定の組織構造とメカニズム
を通して、両サイド間での適正な相互作用とフィード
バックを確保することが必要である。
技術進歩によりもたらされる機会を最大限享受する
ために、政府は、民間部門のR&D活動を支援するだ
けでなく、技術的解決手段の文章化を促し、生産性改
善のために情報の普及を進めていくべきである。
*次号〈後編〉に続く
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