ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年5号
特集
調達が変わる 自動車業界における「取りに行く物流」

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2003 14 商品価格と物流費を分離 近年、物流部門において、従来は着手しにくかった 調達物流の改善に注目が集まっている。
調達物流の コスト削減策には、物流共同化や共配センターの設置 などさまざまな手法がある。
本稿では自動車業界の事 例を検証しながら、とくに調達側が自ら物流業務を担 う「取りに行く物流」について論じていく。
これまでの日本の商習慣における調達物流では、売 り手がトラックを仕立てて、買い手に部品を納入する 形態が一般的だった。
当然、輸送事業者に物流コス トを支払っていたのは売り手の側だった。
これに対し て「取りに行く物流」では、買い手の仕立てたトラッ クが、売り手の出荷地まで集荷に赴く。
いわば従来と は逆の発想に基づくもので、ここでは買い手側が直接、 輸送事業者に物流コストを支払う。
売り手が物流コストを支払っていた従来型の調達 物流の問題点は、表面的には売り手が一方的に物流 コストを負担しているように見えても、実態としては 部品の納入価格のなかに物流コストが織り込まれてい る点にあった。
このことが物流コストを実際に負担し ているのが買い手であるにもかかわらず、買い手によ る改善が難しいという矛盾につながっていた。
ところが「取りに行く物流」では、買い手は物流コ ストを分離した新たな価格で部品を仕入れるようにな る。
言い換えると、「取りに行く物流」における買い 手の調達コストは、物流コストを取り除いた純粋な部 品コストと、輸送事業者に支払う物流コストの二つに 分かれることになる。
従って、それまで売り手が輸送事業者に支払ってい た物流コストより、安く買い手が部品を運ぶことがで きれば、買い手が負担する調達コストの総額を削減で 自動車業界における「取りに行く物流」 コスト削減のターゲットとして調達物流が注目されている。
とりわ け自動車業界では、調達業務の効率化は競争力強化に欠かせない至上 命題だ。
日産自動車やいすゞ自動車の導入した“取りに行く物流”は、 そのための有効な施策といえる。
本レポートでは各社の事例研究を通 じて、自動車業界における調達物流改革の取り組みを紹介する。
あおぞら銀行審査部田中彰夫 寄稿 きる(図1)。
そして実際、買い手が調達物流をコン トロールする方が、競争購買の導入と大量化の原理が 働くため物流コストの抑制につながっている。
以下、本稿では「取りに行く物流」を実現した事 例として、いすゞ自動車、日産自動車、日本精工の 三社の取り組みを見ていくことにする。
いすゞ自動車…他社に先駆けて実施 ◆きっかけは多頻度小口調達への対応 いすゞ自動車は、自動車業界の中にあって、いち早 く一九九四年に調達物流改革に着手した実績を持つ。
その背景には、同社が主戦場としてきた商用車の販売 台数の大幅な落ち込みがあった。
市場縮小期に利益 を確保するためにはコストの削減が欠かせない。
とり わけ組み立てメーカーである同社にとっては、原価の 過半を占める部品調達コストの削減が必須だった。
そうでなくてもいすゞは、それ以前から調達物流に 関する切実な悩みを抱えていた。
同社の主力商品であ る商用車は、多品種少量生産のために部品が多様化 してしまっている。
このためサプライヤー単位では荷 量がまとまらず、JIT納品に取り組みにくいという 側面があった。
サプライヤーごとに納入トラックを仕 立てる従来の調達手法では、必然的に調達コストは 高止まりにならざるを得なかったのである。
そこで同社は九四年から、二段階にステップを分け て調達物流改革を実施した。
この改革の目玉が、い すゞ側が仕立てた車両がサプライヤーを訪れて部品を 集荷する「取りに行く物流」だった。
第一段階として、九四年七月に栃木地区のサプラ イヤーを対象とする調達物流改革に踏み切った。
まず 栃木工場から一キロメートルほど離れた場所に部品デ 15 MAY 2003 ポを設置。
そこから栃木工場、川崎工場、藤沢工場 の主要三工場への納品の共同化を開始した。
従来、サ プライヤー各社は、いすゞの各工場に個別に部品を直 接納入していた。
これを第一段階では、サプライヤー はいすゞが設置した部品デポに納入し、ここでいすゞ が部品集約と積み替え作業を行ってから各工場に納 入するように変更した。
また、当初から課題として掲げていた物流費の分離 についても、サプライヤーから過去の費用明細を開示 してもらい、純粋な部品費に加える掛け目分を類推。
これを除外した価格を新たな部品の仕入価格とするこ とで実現した。
この第一段階の取り組みによって、い すゞは調達分野における物流共同化の効果と、単価 分離の具体的な手段を確定することに成功した。
◆ミルクランの導入 翌年七月からは対象エリアを関東全域に拡大し、調 達物流改革の第二段階に着手した。
藤沢工場の隣接 地に部品デポを新設し、さらにいすゞ側が仕立てた車 両でサプライヤーを回って部品を集荷する?ミルクラ ン〞の機能を新たに付加したのである。
それまでは荷量の少ないサプライヤーの部品は、ト ラックの積載効率の観点から頻繁に輸送できなかった。
それがミルクランによる集荷を始めたことで、近隣の サプライヤー各社の部品を積み合わせることが可能に なり、頻度の高い効率的なJIT納品を実現するこ とができた。
この段階で同社のミルクランへの参加サ プライヤー数は約三〇社であった。
なお一社単独でトラックを頻繁に利用できるだけの 荷量を持つサプライヤーに対しては、単独でデポに納 品してもらうか、あるいは従来通り工場に直接納入し てもらうという形態を維持することとした。
いすゞの基本的な調達物流の手法は、現状でもこ の第二段階の開始時と変わっていない(図2)。
同社 は国内に関東三カ所、北海道一カ所で計四カ所の生 産工場を持つ。
同社が取り引きしているサプライヤー は関東に集中しているため、国内四工場のうち北海道 工場を除く三工場(栃木工場、川崎工場、藤沢工場) に調達物流改革で実現した仕組みを導入している。
工場への納品に関しては、工場のライン近辺に部品 を納めるため、例えば藤沢工場だけでも二十数カ所の 納品場所がある。
このため部品デポは単なる中継基地 ではなく、工場の納品場所と納品時間別に部品を積 み替える機能も担っている。
工場納品には基本的に一 〇トントラックを使用している。
いすゞは「取りに行く物流」の実施にあたり、子会 社の「いすゞライネックス」を物流元請としている。
この調達物流改革のなかで、いすゞライネックスはマ ネジメントに徹しており、部品を運ぶ輸送事業者を選 定している。
このように組み立て加工メーカーが物流管理を担うと、輸送事業者の見直しや集中によるスケ ールメリットを追求しやすくなる。
しかし、あえて同 社は輸送事業者の過度の見直しはせず、サプライヤー が従来利用していた輸送事業者と再契約しているケー スが多い。
事業者の多くがいすゞトラックのユーザー だったことへの配慮もあるが、中小事業者の方がコス ト競争力に優れていたという事情があったようだ。
現在、いすゞは一一三社の部品サプライヤーとの間 で、「取りに行く物流」および部品納入価格からの物 流費の分離を実施している。
これは主要取引先数の 約三割、物量の約四割にあたる。
一連の取り組みによ って以前は六割程度だったトラックの積載効率は、平 均で八割程度まで上昇。
環境への貢献に寄与すると 共に、合理化効果としてトータルコストも約二割削減 ●●●〈特集1〉調達が変わる●●● 部品仕入コスト 部品仕入コスト 物流コスト? その他のコスト 部品コスト 従 来 組立加工メーカー 主体による物流 物流コスト? その他のコスト 部品コスト 輸送事業者 への支払い サプライヤー への支払い 図1 部品の仕入れにかかわるコストの概念図 ?>?ならば、トータルの部品コストは軽減される 図2 いすゞが実施している「取りに行く物流」 サ プライヤー いすゞ自動車 直送 デポ経由 ミルクラン 栃 木 栃木工場 藤 沢 川崎工場 藤沢工場 MAY 2003 16 することができた。
今後は関東エリアで購入している 部品コストの六割程度の取り扱いを目指して、さらな る合理化効果を得ようとしている。
ところで調達物流の改革には、調達部門と物流部 門の相互協力が不可欠だ。
大企業になるほど各セクシ ョンの思惑によって部門間の連携が難しくなってしま い、こうした改革は頓挫しやすい。
いすゞの場合は、 井田義則社長が当時、調達部門と物流部門の担当取 締役だった。
井田氏が両部門を統率してプロジェクト を推進してきたことが成功要因の一つと考えられる。
日産自動車…調達改革を全社展開 ◆リバイバルプランで長年の懸案に本腰 過去にも日産自動車は、調達分野で様々なコスト 削減策に取り組んできた。
九〇年代初めには主要サプ ライヤーと輸送事業者を対象とする共同物流も実施 している。
にもかかわらず日産の調達分野の取り組み で最も有名なのは、九九年三月のルノーと資本提携で 社長に就任したカルロス・ゴーン氏の主導した改革で あろう。
本稿でも、九九年一〇月に発表された「日産 リバイバルプラン」に基づく調達費削減の取り組みを 中心に紹介する。
同社はリバイバルプランが具体化する少し前から、 調達分野におけるある改革構想を進めていた。
その一 つが工場への納品トラックの積載効率を改善するため に、九八年十二月に栃木工場内に設置した集配セン ター(Lセンター)だった(図3)。
同センターの設置 によって、日産は栃木地区と栃木以北の荷量の少な い輸送ルートについては、部品をいったん集配センタ ーに運び込むように変えた。
ここで必要に応じて積み 替え、物量をまとめることで積載効率を高めるためだ。
ところが同年一〇月に対外的に発表したリバイバル プランで物流部門は、こうした既存の施策とはまった く異なるレベルで調達コストを削減することを厳しく 要求された。
そこで物流部門は透明性に欠けていた従 来の調達物流コストにメスを入れることを決断した。
その具体的な手法が「取りに行く物流」の導入と、同 社が物流費を管理することで仕入価格の中に埋もれて いた物流費を分離する取り組みだった。
日産は二〇〇〇年三月に、すでに集配センターを 設立済みだった栃木地区で、物流費の分離によるコス ト削減に着手した。
さらに同年十二月には全国で同 様の取り組みをスタート。
調達物流改革を本格化した。
現在、日産は副資材を除く全部品に関して、全サ プライヤーを対象に「取りに行く物流」と物流費の分 離を実施している。
同社は国内に東北一カ所、関東三 カ所、九州一カ所の計五工場を持っている。
生産を委 託しているグループ企業の拠点を合わせると国内一〇 工場で生産活動を行っている。
九八年に栃木地区で 初めて稼働した集配センターは現状では八カ所まで増 え、輸送効率の維持向上に役立っている。
◆成功の秘訣は緻密な事前準備 日産の調達物流の輸送形態は、?サプライヤーから の工場直送、?集配センター経由で工場へ、?ミルク ラン後に集配センター経由で工場へ、?ミルクラン後 に直接工場へ、の四種類からなる(図4)。
九八年以 前は各サプライヤーが個別に工場に直納するパターン が九五%を占めていた。
それが現状では物量や部品の 物流特性に応じて四タイプの納品形態を使い分けてい る。
いずれの形態でも物流費の分離を実施している。
同社はこれらの輸送の実務を担う車両をエリアごと に入札で選び、複数の企業に委託した。
日産がサプラ 図3 日産が設置した集配センター(Lセンター) 栃木地区、及び栃木以北 の一部のサプライヤー 日産自動車栃木工場 各工場 集配センター 工場ライン 図4 日産の調達物流の4形態 サプライヤー 日産自動車 日産自動車が仕立てたトラック 集配センター(8カ所) 各工場( 10 カ所) ? ? ? ? 17 MAY 2003 イヤーに代わって輸送事業者を仕立てているため、納 品に関する細かな指示や情報は日産が自ら輸送事業 者に出している。
この点は調達改革に欠かせない業務 分担の変更として留意しておく必要があるだろう。
日産の取り組みで特筆すべきは、効率的な輸送を 実現するために、物流形態とルートの設定に多くのエ ネルギーを割いた点だ。
一連の調達改革の取り組みを、 同社はまず部品サプライヤーの出荷地の確認と、荷量 の基礎データの収集といった事前調査から始めた。
千 数百カ所に及ぶ各サプライヤーの出荷地を地図上に記 載して、日々の物量がどの程度あるかを詳細に調査し た。
地味な作業だが、この段階で手を抜くと後々への 影響が大きいため細心の注意を払う必要があった。
次に集荷物量のまとまり具合と、デポの立地を考慮 しながら、各ルートの物流形態を前述した四形態の中 から決定した。
仮に集荷物量がトラック一台分に満た なければ、複数のサプライヤーの荷をまとめる必要が ある。
この場合、具体的には「デポ集荷」か「ミルク ラン」を実施するか、またはこれを組み合わせた「ミ ルクラン後にデポ集荷」といった形態の中から選ぶ。
ミルクランを選択するかどうかは、サプライヤー同 士が一定の範囲内に立地しているかで判断した。
荷量 の少ないサプライヤー同士を組み合わせることは有効 な施策だが、そのために走行距離が伸びてしまうとか えって輸送は非効率になってしまう。
また、ミルクラ ンの対象にするときには、部品の引き取り時間と納入 時間のタイミングを吟味し、どの順番で集荷するのが 望ましいかもルート別に詳細に検討した。
日産は小型トラックの製造をグループ企業四社に委 託している。
そこで現在では、日産車体、日産ディー ゼル、愛知機械工業、日産工機の四社五工場に委託 生産するための部品調達の効率化を進めている。
日産 でやったのと同様、「取りに行く物流」の導入によっ て輸送効率の向上を推進している。
日本精工…社内物流網を活用 ◆合理性の追求で複数の課題を克服 ベアリング最大手の日本精工は、相反する三つの課 題を克復する解決策の一つとして調達物流の改革に 取り組んできた。
第一の課題は「コストの削減」で、 二〇〇二年度から三カ年で一五%以上の調達コスト 削減を目指している。
第二は在庫削減のためにサプラ イヤーに要請している「多頻度納入の負担軽減」、そ して第三は「環境への配慮」である。
三つの課題は、個別に改善を進めると他の課題への 負担が増大しかねないという関係にある。
これを避け るには、まとめて改善する解決策を見つける必要があ った。
そこで同社は本社内の物流統括部門であるコー ポレート経営本部IT業務企画部の企画立案のもと、フォワーダーで一〇〇%出資の物流子会社「NSK ロジスティックス」(以下、NLKと表記)を活用し た物流改革に乗り出した。
そして調達物流網に加えて 社内物流網と販売物流網をトータルで活用することに よって、前述した三つの課題を同時に改善してきた。
日本精工は生産子会社を含めると国内に一〇カ所 の工場と、製品在庫を保管する五カ所のロジスティッ クスセンター(LC)を持っている。
そして各拠点を 結ぶ社内物流網と完成車メーカーなどへの販売物流 網は、すでに確立されている。
だが部品サプライヤー からの調達物流網は複雑で、かつ各サプライヤーが個 別に手配・運用していたため改善の余地が大きいこと は明らかだった(図5)。
ここに販売物流網を有効に 活用できれば、新たなコストの発生を最低限に抑えな ●●●〈特集1〉調達が変わる●●● 図5 日本精工の調達物流網は複雑に入り組んでいた サプライヤー 社内物流と販売物流 日本精工工場 日本精工LC ユーザー (自動車メーカーなど) 日産自動車が仕立てたトラック 調達物流 複雑に入り組んでいた調達物流 整理されていた工場以後の物流 MAY 2003 18 がら調達コストを削減できると同社は判断した。
そこで日本精工は、 A 積載効率向上:社内/販売物流網への統合・吸収 B 稼動効率向上:調達物流網内での統合再編 という二通りの観点から、調達物流改革を進めた。
まずAの「積載効率」については、社内物流網にお ける幹線の活用と、販売物流網(ローカル線)の活用 が挙げられる。
いずれも部品の調達物流を、買い手の 輸送網を使って効率化するという意味で「取りに行く 物流」の一形態とみなすことができるだろう。
図6は幹線の活用例である。
関東地区のあるサプラ イヤーは、従来、日本精工の関西所在の工場に自社 で車両を仕立てて直接輸送していた。
そこでNLKは 日本精工の幹線を活用した物流コストの削減策を提 案した。
そして実際に日本精工のLCまではサプライ ヤーが持込み、LCから工場までは日本精工の幹線の 帰り便を活用するようにした。
ただし同社の場合、現状では物流コストは分離して おらず、NLKが運営者としてサプライヤーに輸送コ ストを請求している。
この取り組みを二〇〇二年度よ り開始したことによって、日本精工は物流コストを三 〜四割削減できた。
その効果はサプライヤーがすべて 得られるようにしているのだという。
図7はローカル線の活用例である。
LCからユーザ ーへの販売物流では、ユーザーに製品を届けた段階で トラックはパレットなどを除くと空荷の状態になる。
この帰り便を空荷のまま走らせるのは、積載効率や環 境の観点から好ましくない。
そこでサプライヤーの部 品を取りに行くことを開始した。
いわば帰り便を利用 したミルクランである。
例えば、大阪のLCを出発したトラックが高松で製 品を降ろす。
その帰りに岡山で部品を積んだ後に、L Cを経由して各工場に納入する。
こうした物流を機能 させるには、高松での製品納入、岡山での集荷サイク ル、自社工場への納品・製造のタイミングなどに配慮 しながら、輸送ルートの再編成やダイヤ変更に取り組 む必要があった。
◆元請け業者の活用 Bの「稼動効率向上」の取り組みでは、積載効率 を向上させるだけでなく、貸し切りトラックの稼働率 を高めることに注力した。
日本精工の主力製品である ベアリングは前工程の加工を他社に委託しているケー スが多い。
そうした委託サプライヤーと日本精工のオ ペレーションは同期化されているが、これまで物流は 各サプライヤー任せだった。
日本精工は、こうした業務のコスト構造を把握した うえで物流を見直すことが重要と判断した。
そして一 つの事例として、鍛造、切削加工、熱処理といった他 社に加工委託している前工程間の物流の一貫運用に 着手。
二〇〇二年度後半より業務をスタートした。
図8にあるように、前工程のサプライヤーは同社の 滋賀工場から離れて立地している。
また、各サプライ ヤーから委託された複数の輸送会社が個別に輸送して いたため、運行車両一台あたりの稼働効率は低かった。
そこで同社は福島と滋賀間の輸送?を、製品の幹線 輸送ルート?に吸収・統合して、輸送コストの削減と 多数回納入化を図った。
さらに社内/販売物流ルートと重ならない他の物流 ルートについては、各ルートの原価分析とターゲット コストを設定した上で効率化を図った。
各サプライヤ ーや委託輸送会社の協力を得ながら、すでに一部では 各物流ルートの統合(例えば?+?+?)を実現して いる。
運行車両一台あたりの稼動効率を向上させるこ 図6 幹線輸送網を調達物流に活用した事例 サプライヤー 日本精工工場 日本精工LC 日本精工工場 製品輸送 持ち込む物流 取りに行く物流 従 来 製品輸送 日本精工LC 図7 販売物流網を調達物流に活用した事例 A工場向け サプライヤー (岡山) ユーザー (高松) B工場向け サプライヤー (岡山) 日本精工 A工場 スタート 日本精工LC (大阪) 日本精工 B工場 19 MAY 2003 とで一輸送区間あたりの運行コスト低減が図れ、加え て委託輸送会社の集約により大量化効果を実現した。
日本精工の取り組みでは、全体の元請け業者とし てNLKが運用管理を担っている。
これによって既存 の社内物流と販売物流も含めた継続的な物流改善活 動を進めることが可能になっている。
まとめ:成功のポイント 最後に「取りに行く物流」を成功させるポイントに ついて、「関係者の理解」と「運営」の二点から考え てみたい。
「取りに行く物流」を実践するためには売り手から の情報開示が不可欠だ。
しかし、なかには自社の情報 開示を拒む売り手もいることだろう。
売り手の中には、 部品価格と物流コストを明らかにすると?のりしろ〞 を失うと考える企業があるためだ。
従来であれば、買 い手からの部品価格の引き下げ要求に対して、売り手 は物流コストの削減として輸送事業者に転嫁すること も場合によっては可能だった。
しかし「取りに行く物 流」では、そうした行為は許されなくなる。
さらに「取りに行く物流」では、買い手が輸送事業者 を指定するため、売り手は輸送事業者との既存の契約 を解除する必要が生じる。
長らく取引してきた輸送事 業者との関係を断ち切るのは容易なことではない。
特 にその売り手の出す荷物への依存度が高い中小輸送事 業者のなかには、契約解除が死活問題に直結するケー スも出てくるはずだ。
こうした決断を下すのは心理的 にも難しい。
かと言って、力関係の優位性に頼って買 い手が「取りに行く物流」を強引に実施すれば、後々 に禍根を残すことになる。
双方のメリットを十分に理 解し合うことが重要だ。
また、調達物流の改革には調達部門と物流部門の 相互協力が欠かせない。
大企業ほど各部門の思惑か ら部門間の連携は難しいのだが、改革を頓挫させない ためには経営者の強力なリーダーシップが必要だ。
そ して調達改革プロジェクトを推進するときには、両部 門を統括する役員や、SCMの推進を統括する部門長 を責任者に配置するなどの配慮が望まれる。
こうした 社内体制を構築したうえで、社内外の「関係者の理 解」を得ることが成功のポイントになる。
次に「運営面」では、「対象部品の設定」と「物流 費の分離方法」がカギになる。
これまでに見てきた通 り、「取りに行く物流」の導入でトータル物流コスト を引き下げられる可能性は高い。
しかし、個別の部品 によっては逆に物流コストが増大してしまうケースが ある。
一例としては、異なる部品や原材料との混載が 難しい油モノなどが挙げられる。
また一般市場での需 要が大きいものもコストが増加しかねない。
例えばタ イヤやバッテリーのように全国的な販売ネットワーク が確立されている部品では、それを活用するほうが自ら集荷するより安くつくはずだ。
「物流費の分離」も独特のノウハウを要求される取 り組みだ。
一般に買い手は、売り手が支払っている物 流費を掌握していないため、物流費の分離額をどう算 定するかが大きな課題になる。
分離の方法としては、 売り手から過去の費用明細を入手し、そこから類推し た価格を新たな部品仕入価格とすることも一案である。
その他の手法をとるにしても、取引先との信頼関係を 壊さずに物流費を明らかにする工夫が問われる。
「取りに行く物流」の実現には、従来の取引慣行に メスを入れるなどの困難がともなう。
しかし、調達物 流費を分離することは、仕入価格の改善を促し、利益 増加につながる。
今後、コスト削減のためのますます 有力な選択肢になっていくと思われる。
●●●〈特集1〉調達が変わる●●● たなか・あきお1989年、慶應義 塾大学経済学部卒。
同年、日本債券 信用銀行(現、あおぞら銀行)入行。
業務企画部、情報ネットワーク室、 調査部などを経て、現在、審査部調 査役。
物流/流通/ネットビジネスな どの調査を手掛け、著書に「B2Bネ ットビジネス最前線」(2001年、共 著、工業調査会)などがある。
図8 「取りに行く物流」と既存物流網を組み合わせた A社(大阪) 日本精工 滋賀工場 日本精工 関西LC 日本精工 福島工場 ルートの統合 B社(石川) 前工程 C社(静岡) D社(滋賀) E社(福島) ? ? ? ? ? ? ?製品輸送に混載 ? ?+?+? ?+?+? 新ルートの設定 ?(引取り+製品輸送に混載) ※編集部注‥‥本稿で掲載した図表は、すべ てあおぞら銀行審査部が作成したものです

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