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三月十二日――。 三一年前のこの日、大手
ハンバーガーチェーン、モスフードサービス
が一号店をオープンした。 現在では一五〇〇
店余りのハンバーガーショップを全国にフラ
ンチャイズ展開している同社は、この三月十
二日を「モスの日」と呼んでいる。
今年の記念日にモスは、金蓮花(きんれん
か=ナスタチウム)の栽培セットを来店客に
プレゼントした。 直径八センチの小さな鉢植
えだが、実はこのイベントにはユニークな仕
掛けが施されていた。
野菜くずを鉢植えの培養土に
モスは今年二月から「食品一括配送・回収
システム」と呼ぶ取り組みを仙台で実施して
いる。 店舗に食材を配送する際に、厨房で出
た野菜くずを回収。 これを堆肥の原料として
再利用するというシステムである。
「モスの日」のイベントで配られた金蓮花の
栽培セットには、野菜くずから作った堆肥が
培養土の一部として使われていた。 店舗で発
生した残渣(ざんさ)が培養土
に生まれ変わる
?循環型リサイ
クル〞を、同社
はこのイベント
で実演して見せ
たのだ。
モスはこのリ
JUNE 2003 54
食品の一括配送回収システムを構築
野菜くずの循環型リサイクルで協業
モスフードサービスと味の素物流が、仙台
で「食品一括配送・回収システム」を試みて
いる。 モスの店舗に食材を配送する際に、厨
房で発生した野菜くずを回収。 これを堆肥の
原料として再利用する。 物流の効率化で環境
負荷を抑えながら、食品リサイクル法への対
応も図るという一挙両得を狙った取り組みだ。
モスフードサービス&味の素物流
――静脈物流
野菜くずからつくった堆肥を培養土に
使ったナスタチウムの小鉢
サイクルの仕組みを、味の素物流とともに構
築した。 モスにとっては「食品循環資源の再
生利用等の促進に関する法律」(食品リサイ
クル法)に対応して、食品の循環型リサイク
ルを実現するという狙いがある。 また、パー
トナーの味の素物流にとっては、食品分野で
新たな静脈物流のビジネスチャンスを探るチ
ャレンジだ。
二〇〇一年五月に
施行された「食品リ
サイクル法」は、資
源の有効利用などを
通じて廃棄物を減ら
し、環境への負荷の
少ない循環型社会を
実現することを趣旨
としている。 食品廃
棄物が大量に発生す
る一方で、処理施設
の確保が困難になっ
ている現状に対応す
るための法律である。
同法は食品メーカ
ーや流通業者、外食
チェーンなどの食品
関連事業者に、生
産・流通過程で発生
する食品廃棄物の抑
制努力を求め、同時
に飼料や肥料の原料
55 JUNE 2003
として再生利用することを促している。 具体的な目標として、再生利用の実施率を二〇〇
六年度までに二〇%に向上させるという基本
方針も定めた。
食品廃棄物は、食品メーカーの製造段階で
排出される「産業廃棄物」と、流通業者や外
食産業、家庭から排出される調理くずや食べ
残しなどの「一般廃棄物」とに分類される。
農林水産省が厚生省(現厚生労働省)の資
料などから行った推計によれば、食品廃棄物
の年間発生量は産業廃棄物が三四〇万トン。
これに対して一般廃棄物は一六〇〇万トンと
五倍近くあり、このうち一〇〇〇万トンが家
庭系で、六〇〇万トンは外食チェーンなどが
排出する事業系となっている。
産業廃棄物は全体の四八%が肥料や飼料
などに再生利用されているが、一般廃棄物は
九九・七%が焼却・埋め立て処理されており、
再生利用率は極めて低い。 三年後に二〇%と
いう目標数値との開きは非常に大きく、流
通・外食産業にとってはリサイクル・システ
ムの構築が急務となっている。
配送車で?有価物〞として回収
もっともモスの場合は、店舗で顧客の注文
を受けてから調理する?アフター・オーダ
ー・システム〞をとっていて作り置きをしな
いため、もともと生ゴミの発生は少ない。 リ
サイクルの対象となるのは主に、調理の際に
発生する野菜くずなどの残渣だ。
この残渣の再生利用率を二〇%に高めるた
めにモスは、店舗に食材を配送する帰り便で
野菜くずを回収し、リサイクルする「食品一
括配送・回収システム」を考案した。 また、
これとは別に昨年六月からは、実験的に小型
の生ゴミ処理機を四店舗に導入し、店舗で減
量化し再生利用を図る試みも続けている。
同社の「食品一括配送・回収システム」は、
残渣を回収する車両に生ゴミ処理機を装備し
て、回収しながら同時に減量化を行うという
考え方をとっている。 しかもこれを店舗への
配送車両でまかなうところが最大のポイント
だ。
過去にモスは、店舗への納入車両を減らす
ために数々の物流施策を講じてきた。 全国十
三カ所に物流センターを設けて、食材ベンダ
ーからの納品を集約し、各店舗に一括配送す
るシステムを早くから導入。 さらに八年前か
らはドライ(常温)、チルド(冷蔵)、フロー
ズン(冷凍)を一台で管理できる配送車両を
導入し、三温度帯の食材を一緒に配送するこ
とによって車両台数を減らしてきた。
配送車両を使ってリサイクルを行う発想も、
このような施策の延長線上でうまれた。 「リ
サイクルを実施するにあたり、一台の車両が
動脈物流と静脈物流を担う。 仕組みを構築す
ることによって、同時に環境への負荷軽減を
図ることを狙った」とモスフードサービスの
堀田富雄商品本部長は説明する。
モスの取り組みは、回収する残渣を?生ゴ
今年2月から仙台で実施した実証実験の概要
・店内グリーン化
・花壇用用土
・モズポッド
店舗にて
配送と回収
MOS店舗 仙台物流
センター
堆肥工場
回収品を搬送中にリ
サイクル装置で裁断
モスの日(3月12日)
小鉢プレゼント
商品 有価物
物流センターに戻ったら車両
のリサイクル装置で乾燥処理
販 社 製品加工 ・花壇用ブロック
・鉢
・栽培セット土壌
・農家
・花栽培
味の素物流では、「食品専門の物流事業者として静脈物流にも関心を持ってきたが、今
回の(一括配送・回収システムという)画期
的なアイディアによって、具体的なビジネス
チャンスを与えられた」(小田川晶味の素物
流取締役低温事業部長)として、この新ビジ
ネスに前向きに取り組んでいる。
両社はこのシステムを、食品流通システム
協会の委託を受けるかたちで、農林水産省の
補助金による食品物流基盤技術確立事業の
実証実験としてスタートした。 配送・回収車
両は三菱ふそうトラック・バスと新明和工業
が開発。 四トン車仕様で荷台が冷蔵・冷凍の
二室に分かれており、シャシーの前部にリサ
イクル装置を積んだ特殊車両だ。
実験は今年二月三日から三月二〇日までの
期間、仙台市の了解を得たうえで、市内にあ
るモスの五店舗を対象に実施した。 店舗配送
の際に野菜くずを回収し、移動中にリサイク
ル装置で攪拌・裁断しながら減量化。 物流セ
ンターに戻ってから車両のリサイクル装置を
使って過熱処理を施す。 こうして乾燥チップ
にしたものを、最終加工工場である静岡県内
の指定工場に持ち込んで堆肥にする。
仙台での実験期間中、五店舗で一日平均
八〇キロの野菜くずを回収した。 二月三日か
ら二八日までの単月実績で、総重量一六八七
キログラムの野菜くずをリサイクル装置で攪
拌・過熱処理し、一一〇キログラムの堆肥原
料に加工した。 重量ベースで九三%を減量で
きたことにな
る。 ほぼ目標
通りの数字だ
った。
実験期間
が終わった後、
両社は改めて
仙台市環境
局の了解を得
て、四月一日
から一年間を
設定して事業
を再開してい
る。 そもそも
二月から行った実験はリサイクルシステムの
普及を図ることを目的とするもので、実験後
の継続は当初からの予定だった。 今後、一年
かけて本格的に事業化を進めるための課題を
整理し、ビジネスとしての可能性を検証する。
リサイクル装置のコンパクト化が課題
実証実験を通じて、いくつかの課題が見え
てきた。 一つは車両の積載効率だ。 配送と回
収を同時に行うため、車両にはリサイクル装
置を積む必要がある。 その分、配送車として
積載可能な物量は減ってしまう。
今回、試験導入した車両では、荷台の約二
分の一をリサイクル装置が占めている。 標準
的な配送車なら四トン仕様の車で三・二五ト
ンまで積載可能だが、この車両には一・二ト
JUNE 2003 56
ミ〞ではなく?有価物〞として扱うことを前
提としている。 ?生ゴミ〞は一般廃棄物にあ
たり、回収業務を行うには「廃棄物の処理お
よび清掃に関する法律」(廃棄物処理法)の
規定によって一般廃棄物収集運搬業の許可が
必要だ。 許可のない配送業者に回収業務を委
託することはできない。
モスと味の素物流が共同で構築した「食品
一括配送・回収システム」では、回収する野
菜
く
ず
は
堆
肥
の
原
料
と
な
る
。 ?
生
ゴ
ミ〞ではなく?有価物〞として扱うことがで
き、一般廃棄物の収集運搬業の許可を持たな
い味の素物流が回収業務を受託することが可
能だ。 つまり同システムでは?有価物〞であ
る野菜くずを店舗から有償で引き取り、これ
を一次加工したうえで最終加工工場に納めて
製品化している。 こうすることで廃棄物処理
法の適用を受けないシステムを実現した。
パートナーを務める味の素物流は、これま
で食品分野を中心に三温度帯の一貫物流ネッ
トワークによるサービスを手がけてきた。 低
温部門としては全国に十二カ所の拠点を設け、
三六五日・二四時間体制で外食チェーンの店
舗配送やメーカー一貫物流を展開している。
味の素物流とモスとは十年来の取引がある。
全国に十三カ所あるモスフードサービスの物
流センターのうち、仙台を始め六カ所の業務
を味の素物流が受託。 モスの取引ベンダーか
ら納品される食材の在庫管理と、各店舗への
配送業務を行っている。
?石狩低温物流センター(北海道)
?盛岡低温物流センター(岩手)
?仙台物流センター(宮城)
?東扇島低温物流センター(神奈川)
?関宿低温物流センター(千葉)
?つくば低温物流センター(茨城)
?岡部低温物流センター(静岡)
?小牧低温物流センター(愛知)
?舞洲低温物流センター(大阪)
?広島低温物流センター(広島)
?香川物流センター(香川)
?福岡低温物流センター(福岡)
味の素物流の低温事業全国ネットワーク
ンしか積むことができない。
モスの通常の配送業務では、一台の車両が
一日に十三〜一五店舗を回っている。 ところ
が実験車両は積載スペースに制約があるため、
一度に七店くらいまで回るのが限度だ。 仙台
地区に一七店舗を構えるモスは、今後もリサ
イクルの対象店舗を増やしていく方針だが、
そのためにはリサイクル装置のコンパクト化
などによる車両の改良が欠かせない。
また、実験車両は一日に最大で一〇〇キロ
グラムまで野菜くずを処理できる設計になっ
ている。 一つの店で野菜くずを回収してから、
次の店へ配送に向かう間、リサイクル装置は
わずか一五分ほどで野菜くずを五分の一に減
量する。 かなり高機能で現状でまだ能力に余
裕があり、このリサイクル装置をどこまでコ
ンパクト化できるかが事業化を探るうえで一
つのポイントになる。
味の素物流
では、すでに
メーカーとの
間で実用化に
向けた改良を
めざして検討
を進めており、
「技術的には
かなりのコン
パクト化が可
能になるので
は」(小田川
取締役)と期待している。 ただし、実用化には価格面の壁もある。 特注車両のため台数が
増えないと価格は下がらない。 それには対象
エリアの拡大など、システムの普及が前提に
なる。
共同化も視野に入れて
前述した通り、両社が仙台で実施した取り
組みは、循環型の食品リサイクルシステムを
確立するための実証実験で、システムの普及
を目指すものだ。 このためモスと味の素物流
では、店舗数の拡大や共同化を視野に入れて
システムの構築に取り組んできた。
二〇〇六年度までに再生利用の実施率を二
〇%に向上させるという目標に対して、外食
チェーンを始め、ホテルやレストランなどさ
まざまな業態が共通の課題を抱えている。 従
って両社では「一括配送・回収システム」へ
の潜在ニーズは高いと見ている。 また、シス
テムの確立には一社単独ではなく共同化を前
提とする仕組みが必要とも考えている。
同システムでは、店舗にリサイクル装置を
設置する必要はない。 食材配送の車両に装備
した装置で走行中に減量を行い、物流センタ
ーに戻ってから電源を入れるだけで一次加工
を済ますことができる。 人手がいらず、環境面
でも申し分のないシステムといえる。 このシ
ステムの共同利用が進めば、社会システムとし
ての広がりをもつことも可能になるはずだ。
ただし、共同化を進めるには、いくつかの
ハードルを乗り越える必要がある。
今回の実験では、堆肥の原料となる有価物
として野菜くずだけを回収の対象に計画を立
て、仙台市から運用の了解を得ている。 この
ため現状のままでは、ほかの外食チェーンな
どに共同化を呼びかけても、売れ残りや食べ
残しを回収することはできない。
また一般に食品リサイクルの考え方や、リ
サイクル物資についての解釈は、自治体によ
って多少異なる。 「一括配送・回収システム」
のような新しい取り組みを広げるまでには時
間を要する可能性が高い。
これまでにも外食チェーンが、店内で調理
した売れ残り商品を?返品〞として扱って回
収している例はある。 だが今回のように野菜
くずをリサイクル物資と位置づけて、食品リ
サイクルに真正面から取り組んでいるケース
は他に例がない。 リサイクルの基盤を整備す
るために、業界に先駆けて動脈物流と静脈物
流を組み合わせた共同配送という社会システ
ムを構築しようという挑戦でもある。
モスでは今後、日本フードサービス協会な
ど業界団体でのリサイクル関連の協議の場で、
システムの有効性をアピールしていく方針だ。
さらに「関係省庁と調整しながら、共同化の
可能性を探るための実験を今後も引き続き行
ってシステムの普及をめざしたい」という。
循環型リサイクル実現への突破口を開くこと
ができるか注目される。
(フリージャーナリスト・内田三知代)
57 JUNE 2003
4トン車のシャシー前部にリサイクル装置を装備
した特殊車両
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