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佐高信
経済評論家
49 JUNE 2003
四月二十二日付『毎日新聞』の「03
列島ナ
ビ」という?随時掲載〞に注目した。
北海道網走支庁留辺蘂
る
べ
し
べ
町で導入した「地域
通貨」の試みである。 「財務省に粘り勝ち」と
いう大見出しに、「何度でも使え、換金も可」
の全国初の挑戦とある。
人口九〇〇〇人余りのこの町はデフレに沈
む地域経済の再生をめざして、これを流通さ
せようとしている。 額面五〇〇円と一〇〇〇
円の二種類あるこの地域通貨は一般の商品券
型と違って何度でも使え、町指定の金融機関
で現金に換えることもできる。
仕掛け人である同町の企画財政課長、中川
功は、
「地域通貨は購買力の流出に歯止めをかけ、
それが商店街の活性化につながる」
と力説しているというが、最初、町は「構
造改革特区」に認定してもらって、これを導
入しようとした。
しかし、財務省はそれを突っぱねる。
「加藤寛さん(前政府税調会長)も地域通貨
のデフレ克服効果を認めています」
と中川が財務省の担当者に言うと、
「あの学者は信奉するに値しない」
と一蹴されたとか。
さんざん利用して、こう退ける財務官僚の
狡猾さには呆れるしかない。
加藤は俗に?政府お抱え学者〞といわれる
が、小泉は?財務省お抱え首相〞だから、財務省にノーとは言えないのである。
しかし、中川はあきらめず、「留辺蘂の通貨
が東京で流通することなどあり得ない」と強
調する意見書を内閣官房に提出し、財務省も
次の二つの条件つきで、ようやく、地域通貨
の複数使用を認めたという。
?登録した業者の間に限り、複数回流通し
てもよい
?換金は登録事業者か指定金融機関で行う
長野において田中康夫が知事となったこと
に象徴されるように、変化は地域から起こっ
ている。 言うまでもなく、それは国への不信
が背景にあるのである。 「地域通貨」など、ま
さに「国家通貨」への不信以外の何ものでも
ない。
私はこうした動きを歓迎する。 一九九八年の
一〇月一日、NHKの「課外授業 ようこそ先
輩」で放映された「ホンモノを見抜く眼」と
いう私の卒業校(山形県酒田市立琢成小学校)
での授業もそうした意図に基づくものだった。
私は、小学六年生の後輩たちにお札をつく
ってきてもらうことから授業を始めた。
「このお金は悪いことにつかうと自然に消滅
します」
と書いてあるお札とか、いろいろユニーク
なお札があった。
私の似顔絵が表に描いてあり、
「だいじに使えよ。 ふけいきなんだから」
と裏書きしてあるのもある。
しかし、彼らがつくったお札は通用しない。
ある生徒が言ったように「国が認めてない」
からである。 ただ、国が認めたホンモノのお
札でも、インフレが進めば、ニセ札化する。
私は、一九二七(昭和二)年の金融恐慌の
時、政府があわててつくった「裏白紙幣」を
紹介した。 裏に印刷する暇がなく、表だけの
印刷で二〇〇円札を発行してしまったのであ
る。 それを知らずに警察がこれを使った人を
捕まえたりした。
この裏白紙幣はホンモノだけれども、ニセ
モノに見えるものであり、それがホンモノか
どうかは、形だけ見て信ずるのではなく、疑
うことが必要になる。
「もともと地元で買い物をする人が地域通貨
を使ったところで経済効果ゼロ」
と財務省の幹部は留辺蘂の挑戦を冷ややか
に見ているらしいが、町民たちが地域通貨の
方を信頼するようになったら、どうするのか。
財務官僚たちは、あまりに、自分たちに向け
られている不信の眼を知らない。
地域通貨で露わになる国家通貨への不信
ホンモノを見抜く眼が官僚国家を変える
’
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