ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2003年7号
SCMの常識
目標と指標(KPI)の設定

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SCMの常識 講 座 ▼講師 理論編・実践編とも 杉山成正 ベリングポイント ディレクター JULY 2003 64 今回は、SCM構築の第1のステップとして、 SCMの目的と目標の設定について紹介します。
SCM改革の標準的なアプローチは、下の 図1 のようになります。
まず事業戦略があり、その 重要成功要因を明らかにします。
次にその達成 に向けた目標と指標を改革テーマとともに詳細 に展開していくことになります。
■■事業戦略とSCM戦略 SCMを構築するには、まずは対象事業の戦 略を正しく認識することが必要です。
一口に事 業戦略といっても企業によってその内容はまち まちですが、SCMでは次のような内容を確認 することが重要です。
我々の○○事業は、 だれに(市場、顧客) なにを(商品、サービス) どのように(価格、品質、流通チャネル) 提供することであり、 △△において他社より優位に立ち、 収益をあげる ことである。
たとえば、「我々のパソコン(PC)事業は、 PCの知識を有する個人客に、その用途に応じ て簡易にカスタマイズされたPCを、安価かつ 短納期で直接お届けすることである」となりま す。
同じPCであっても、「我々の既存の法人顧 客に対して、社員に配布する情報インフラ用P Cを提供する。
デザインよりも基本性能、耐久 性、保守の容易性を重視し、アフターサービス においても優位性をもつ」という事業戦略もあ り得るでしょう。
こうして事業戦略が明確になれば、次にこの 戦略を具体化するためにSCM戦略を検討して いくことになります。
■■重要成功要因の特定 右のPCの例で、前者と後者は事業戦略が 異なっています。
そのためにSCM戦略も異な るものが必要となることはお分かりいただける と思います。
前者では、個人客とのチャネルお よびATO(Assemble to Order )の仕組みが ポイントとなり、後者では法人顧客管理とアフ ターサービス体制がポイントとなります。
この ように事業戦略を実現するための、つまり事業 を成功に導くための「重要成功要因」を特定し なければなりません。
■■目標と指標の設定 事業戦略とこれを実現するための成功要因が 明らかになれば、それを具体的な目標に展開し、 指標を設定することになります。
先ほどのPC の前者の例では、競合他社と比較して優位に立 つために、提供する商品の機能とそれに対する 目標と指標(KPI)の設定 ? 理論編 KPI ルール KPI ルール KPI ルール KPI ルール KPI ルール 企画・ 開発 購買 物流 販売 CS IS/ITインフラストラクチャー ビジネスプロセスモデル 事業戦略 図1 重要成功要因 目標評価指標(KPI's) 重要改革テーマ 〈第2回〉 65 JULY 2003 価格(他チャネルとの比較)、納入までの日数 (納入リードタイム)について具体的な目標の 設定が必要となります。
適切な目標を設定すれば、その達成度合いを 測る指標も自ずと明らかになってきます。
主な SCM指標(KPI)を 図2 に示します。
ここで、筆者が特に注意する点は、目標に直 結した指標と、間接的に設定した指標との混同 です。
たとえば、価格について目標を設定した 場合、その実現方法はいくつかあります。
在庫 を削減し、流通コストを下げることもあり、調 達コストを下げる、生産コストを下げるなどの 方法もあります。
いずれの方法を採用するか、またいかに組み 合わせるかは、その時々の状況を前提とした判 断によって変わります。
したがって、SCM全 体の指標としては、シンプルかつ目標と直結し た指標を設定するのが望ましいのです。
■■重要改革テーマの設定 次に、SCMの目標を達成するために、「何 を」「何に」変えていくべきかを検討します。
た とえば市場需要の変化は把握しているものの、供給が追いつかないような場合には、需給計画 サイクルの短縮とともに、需要の変化に柔軟に 対応できる生産体制の確立が求められます。
生 産計画、調達計画の週次化、生産現場の多品 種少量かつ混合生産への対応などがあげられま す(詳細は第五回で紹介する予定です)。
■■ビジネスプロセスと指標(KPI) 重要改革テーマにそって、新しいビジネスモ デルを設計していくことになります。
このとき、 開発、調達、生産などのビジネスプロセスごと に、業務ルールおよび評価指標を設定します。
この指標作りは、各ビジネスプロセスがSCM 全体の目標達成に対して、最適にその機能を果 たすためにはとても重要です。
この指標が、各ビジネスプロセス内での最適 化指標であってはいけません。
たとえば、生産 部門における指標が、製品一個あたりの生産コ ストだとすると、生産部門はなるべくまとめて 生産を行い、製品一個あたりの製造コストを下 げようとします。
しかし、それでは在庫が膨ら んでしまう恐れがあります。
売れる商品を売れるときに供給する仕組みを 目指すのであれば、生産部門は一個当たりの生 産コストではなく、生産計画の変更に対して、 どこまで素早く応えることができたかを示す 「生産能力柔軟性」あるいは「生産計画遵守率」 を指標とすべきでしょう。
SCMプロジェクトを進めるものは、「合目 的でない間違った評価指標(KPI)は、間違 った行動を引き起こす」ことを肝に銘じるべき です。
■■SCM改革の成果を図る指標と 改革をドライブする指標 SCM改革において設定すべき指標は大きく 二つに分類できます。
その成果を測る指標と改 革をドライブする指標です。
経営者からすれば、 どうしても成果を測る指標に目を奪われがちで す。
しかしSCM改革を推進して全社に定着さ せるには、改革をドライブするための指標がぜ ひとも必要です。
販売計画を月次から週次したからといって直 ぐに在庫が減るわけではありません。
需要予測 システムを導入したからといって、すぐに販売計画の精度が向上するわけではありません。
少 しずつ確実に改革が進んでいるのに、他部門や 経営者にはそれが見えないことが多いのです。
需要予測システムを入れることにより、販売 計画と実績の乖離がすばやく把握できるように なったとします。
さらに、その分析にかける時 間と分析レベルが確実に向上しているのであれ ば、SCM改革は確実に進んでいると言えます。
しかし、このことはなかなか成果としての指標 には現れません。
ここで「労多くして効果なし」と誤った判断 をしてしまうと、SCM改革は頓挫することに なります。
経営者が正しく実態を評価すること で改革の動きが加速していくのです。
この指標 については、次号でも続けて解説します。
図2 SCMで重要な5つの評価属性と 評価指標(KPI) ◆オーダー充足サイクルタイム ◆資材納入サイクルタイム ◆生産リードタイム ◆資金回収期間 ◆完全オーダー達成率 ◆サプライヤー完納率 ◆生産/調達計画達成率 ◆需要予測精度 ◆サプライチェーンレスポン  ス時間 ◆調達能力柔軟性 ◆生産能力柔軟性 ◆出荷能力柔軟性 ◆販売管理コスト ◆ロジスティクスコスト ◆品質コスト(返品含む) ◆キャッシュ・トゥ・キャッシュ  ・サイクルタイム ◆在庫日数 ◆資産回転率 応答性 信頼性 柔軟性 コスト 資産効率 JULY 2003 66 前号でご紹介したように、営業部門、生産部 門、物流部門、調達部門が集まり、カンカンガ クガクの議論の末、ようやく全社体制のSCM プロジェクトを立ち上げることができます。
次 はいよいよ関連部門が集まってのSCMのコン セプトと改革のテーマの決定です。
この議論の場としては、ワークショップ形式 が多くなります。
それぞれ異なる立場の人間が、 互いの意見を聞き、コンセンサスを形成するに は、自由かつ活発な議論の場が必要となるから です。
さて、ワークショップの最初のテーマは、我々 の事業戦略を確認し、これに適したSCMの目 的と目標を設定することです。
これは自分の会 社のビジネスモデルの確認と言い換えることが できます。
営業部門「SCMをやるからには、注文を受け たら生産計画をすぐさま見直し、翌日には出荷 できるような仕組みが必要だ。
そうすれば在庫 を減らすこともでき、お客を逃がすこともなく なる。
需要予測なんて当たるわけがないのだか ら」 生産部門「我々の商品はほとんどが量販店で売 るものなのだから受注生産よりも、量販店と良 く情報交換をして精度の良い販売計画を立てる べきではないのか。
だいたい我々の商品は先端 技術を駆使した魅力ある商品なんだから、もっ と強気の営業ができないのか」 調達部門「先端技術はいいけれど、パーツも特 殊なもので調達に苦労するんだよ。
生産計画も 販売計画も気楽に変えないで欲しいよ」 ビジネスモデルが明確でない場合には、この ようなやりとりが多くなります。
一見すると部 門間の相互理解の不足が原因のようですが、そ れだけではありません。
自社のビジネスモデル が明確でないことがその根っこになっています。
そこで、我々から次のような問いかけをさせ ていただくことになります。
「どのような商品をどのように顧客に届けてい くのか?」 「顧客に対する自社の優位点は何なのか?」 「自分の会社が利益をあげ存続していくために は、どのようなSCMが必要なのか?」 このような一見馬鹿げた質問は、第三者で あるコンサルタントだからできることで、社内 の人間だと、今さら恥ずかしくてできないと思 われるかもしれません。
しかしこの一見簡単な 問いに答えることが実際にはかなり難しいので す。
果たして、あなたの会社の経営者はこの答 えとなる明確な事業戦略を示しているでしょう か?  この問いに明確な答えを出さない限り、ワ ークショップもSCMプロジェクトも迷走して しまいます。
この問いは、自社のSCMのあ るべき姿を考える時に、つねに頭に置いておか なければなりません。
実際、この問いはその後 のワークショップにおいて繰り返し問いつづけ ることになるのです。
ビジネスモデルを考える 改革の現場から 実践編 講座SCMの常識

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