ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年7号
リーダーシップ論
コラボレーションのための体制構築

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2003 74 ITを活用した企業間でのコラボ レーション(協働)が進み、それによ って顧客満足度を向上することで、バ リューチェーンを構成する企業の競争 力を効率的に高めることができる。
し かし、ITやそれを前提としたビジネ スプロセスを導入しさえすれば企業間 のコラボレーションが実現するという ものではない。
パートナー企業とのコ ラボレーションという新しい仕事のや り方に則した組織体制やルールが必要 となってくる。
ちなみにコラボレーションという言 葉は消費財業界では以前から「協働」 と訳されているが、最近では企業同士 が協力するものを広く「コラボ」と略 して呼ぶ傾向がある。
しかし、従来の タイアップとあまり相違のないケース や、コスト削減のための単純な共同化 など、その多くは単発的なものである ようだ。
SCMにおいて目指すべきコラボレ ーションは、共通の顧客に対して、よ り高い価値提供を行い、顧客満足を 高めることでビジネスを長期的に持続、 成長させる基盤となるものである。
従 ってコラボレーションの体制も戦略的 かつ長期にわたってしっかりと維持で きるものにする必要がある。
そのため には、企業文化から仕事のやり方まで、 いわゆるマネジメント全般にわたる幅広い変革が必要になってくる。
コラボレーションの原則 ECRでは、「コラボレーティブな マネジメント」がその原則としてあげ られている。
そのECRの重要な施策 となっているカテゴリーマネジメント のガイドブックには、「カテゴリーマネ ジメントにおけるコラボレーションの 原則」と題して、カテゴリーマネジメ ントを成功させるために必要となるパ ートナーとの協力関係を構築するため の一〇の原則が掲げられている(図 1)。
企業間の関係を根本的に見直すこ との必要性は、ECRが米国で導入 され始めた当初から盛んに指摘されて いた。
ECRのツールとして、従来か ら知られているものもあったが、実際 にはあまり使われていなかった。
理由 の一つは、そうしたツールを使用する 前に、企業間の関係を改革が必要で あり、そのためにはまず取引ルールを 変更しなければならなかったからであ る。
C R P ( C o n t i n u o u s Replenishment Program )の成功な どは、そのような企業関係の変革によ コラボレーションのための体制構築 楢村文信 
弌G 
釘達劵優奪肇錙璽ング・マネージャー 企業間のコラボレーションには、なにより信頼関係が必要だ。
パートナ ー企業との信頼関係を構築するうえで、日本特有の不透明な取引制度は 大きな弊害になる。
取引上の駆け引きが続く限り、コラボレーションは機 能しない。
オープンで公平な取引制度の導入が求められている。
﹇第9回﹈ 図1 カテゴリーマネジメントにおける    コラボレーションの原則 消費者が共通の焦点 パートナー同士で合意した目標・戦略・戦術・実績評価 基準 報奨制度は共同のビジネス目標を支援するように 相互関係と信頼は勝ち得るもので、与えられるものでは ない 情報の共有は不可欠 一方の取組パートナーの知識・技術だけで、CMを成功 させることはできない 小売業、サプライヤー、消費者の全員にとっての、Wi n-Win-Winを目指す 部門横断的なアクセス、およびコミュニケーション 従来からの態度や関係を変えることのできるオープンな 姿勢 リーダーシップが何より求められる 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10. 75 JULY 2003 って実現した。
ECRではオープンで インタラクティブな企業関係を構築す ることが求められるが、そのための企 業文化の変革に関するラーニングの事 例報告などをみると、コラボレーショ ンの実現の柱は次の四つに整理するこ とができる。
1:パートナーとして信頼関係の構築 2:戦略レベルでのアライアンス 3:情報やデータの共有 4:協働プロセスの確立 1:パートナーとしての 信頼関係の構築 パートナーシップの中で最も難しい と言われるのがこの信頼関係の構築だ。
信頼関係の構築には、非常に時間が かかる。
しかし、これを実現しなけれ ば、戦略的な情報の共有や投資は行 われない。
本当の意味でのコラボレー ションは望みようもない。
では、どうすれば信頼関係を構築で きるのであろうか。
カテゴリー・マネ ジメントのコラボレーションの原則に よると、信頼とは誰かから与えられる ものではなく、「勝ち得るものである」 と表現されている。
ここでは特にプロ フェッショナルな姿勢や、客観的な意 思決定、顧客志向の姿勢、変革への 障害へ立ち向かっていく意思、長期 的なコミットメントなどが重要な要素 としてあげられる。
これは個人が周囲の信頼を得るた めに必要なこととそれほど変わりはな い。
必要なのは発言に責任を持ち、終 始一貫した姿勢をとる、といったシン プルなことである。
ただし、このよう なシンプルなことも、個人単位ではな く会社組織単位となると、担当者が 変わった、会社の方針が変わった、な どという話が出てきて難しくなる。
企業間の信頼構築は本来、担当者 レベルの問題ではない。
関連部署、経 営陣に至るまで信頼されるような組織 体制が築けるかどうかにかかっている。
実際、担当者は誠心誠意、仕事に取 り組んでいるのに、同じ会社の別部署 には適当にあしらわれたということな ど決して珍しいことではない。
それで は企業レベルでの信頼関係は築けない。
また、この信頼関係の構築に大き な影響を与えるのが、取引ルールの問 題である。
相手から自分が一番大切 にされていると思えば、誰だって喜ぶ。
その反面、理由もなく自分より他の誰 かが大事にされていると分かれば良い 気持ちはしない。
自分は損をしている のではないかと、相手に対して不信感 を持ってしまう。
交渉による駆け引きを行った場合 にも、一度きりの取引であればそこで 勝ち取った成果は自分のものになる。
しかし、これが長期的な取引となった 場合には、交渉で不利な結果を得た 方は、次回の交渉で相手の裏をかこ うとするようになる。
いったん価格が 決まっても、損をしたと思っているほ うは、売買条件以外の部分で、とく にサービスの点で損を取り戻そうとす る。
延々と駆け引きが繰り返され、泥 沼にはまってしまう。
WIN ―WIN どころではなくなってしまう。
そこで無益な駆け引きに陥らないた めの取引ルールの変革が必要になる。
この問題については後ほど改めて詳し く論じたい。
2:戦略レベルでのアライアンス 信頼関係の上に成り立つのが戦略 レベルでのアライアンスである。
EC RやSCMの導入には、常に新しい システムの導入やBPRなどが伴う。
そのための手間や投資回収を考えると、 ある程度長期にわたる取り組みが前提 とならない限り、思い切って改革に踏 み込むことができない。
そこから戦略レベルでのコラボレー ションに関する合意が必要となってく る。
具体的には、戦略的目標の共有 や、経営陣レベルでの合意、中・長 期での経営上の方向性の共有を行う 必要がある。
ECRの場合はマーケティング活動 を消費者起点のプル型のモデルに転換 することが大前提となる。
パートナー とECRに取り組むということは、多 くの場合、マーケティング戦略上の転 換をも意味するということである。
このような戦略的な枠組みの下に両 者による予算・人材などが投入され て、初めて本格的なコラボレーション が実行可能になる。
さらにコラボレー ションを定着させるためには、経営陣 の継続的な参画を含め、最終的には コラボレーションに適した組織構造や、 それを促進するような報奨制度を導入 する必要が出てくるのである。
3:情報やデータの共有 情報やデータの共有は、最もわかり やすいコラボレーションの姿だろう。
しかし、これもパートナー間の信頼が なければ十分機能しない。
そのために 欧米では企業間で機密保持契約を結 ぶことが多いが、これは日本の流通業 界では商習慣としてはあまり一般では ないようである。
データ共有というと一般的にはPO S・販売データや、在庫データを対象 とする場合が多いが、カテゴリーマネ ジメントには市場データや消費者の購 買動向に関するデータも必要になって くる。
社内の業務プロセスに関する情 報もそこに含まれる。
例えばCPFR(Collaborative Planning Forecasting and Replenishment )を行う場合には、メ JULY 2003 76 ーカーあるいは卸のサプライヤー側と 小売業の間で、販促方法や価格など のプロモーションに関する詳細な情報 を数カ月ほど前から共有することが理 想とされる。
そして、この情報を適時 更新していくことが必要となる。
これにカテゴリーマネジメントの取 り組みが加わると、棚割や新製品の導 入など、双方がこれまで社内の他部署 にも開示しなかったような情報をパー トナー企業と共有するようになってく る。
相互の能力向上のための知識共有 という意味で、研修プログラムを共有 する企業もある。
これが広がった結果、 欧州のある小売業は自分たちのサプラ イヤーを対象とした研修プログラムを 提供している。
このように企業間でインタラクティ ブに情報が行き来するようになれば、 企業間関係は同盟関係から、仮想企 業体へと確実に近づいていると言える。
補足するなら、このようなインタラク ティブな企業関係が出来上がるように なると、必然的にコミュニケーション を支援するためのITが必要となり、 その導入が進むようになるのである。
4:協働プロセスの確立 前号ではIT活用という観点から 協働プロセスの必要性を述べたが、コ ラボレーションを特別なプロジェクト から日常業務に落とし込む、すなわ ち業務プロセスをパートナー企業間 で統合されたものへと変えていく上で も、協働プロセスの確立は重要であ る。
このプロセスが確立できれば、や がてはコラボレーションが「当たり前 の仕事のやり方」へと変わっていくの である。
右に上げた四つの柱のうち、どれか 一つが欠けてもコラボレーションは成 り立たない。
日本では、現場レベルで 差し障りのない範囲で、情報やデータ を共有する取り組みから、コラボレー ションを始めようとするケースが多い。
しかし、その大部分は経営戦略レベル での合意やサポートを取り付けるとこ ろまで至らず、組織に定着することな しに、いつの間にか消滅してしまうの である。
重要なのはリーダーシップの存在で ある。
とりわけ自社だけでなく企業文 化の異なる相手企業に対してもリーダ ーシップを発揮するのは容易ではない。
社内であれば、役職や肩書きで押し切 れることも、取引先相手となるとそう はいかない。
事実に基づいた客観的な 提案能力や、異なる部門をまとめる能 力、多様性を受け入れる能力、意志 の強さなどが求められる。
リーダーと しての本当の実力が問われるわけだ。
それに耐えられる人材の育成も重要課 題となる。
取引ルールの改革 前述したようにパートナーとの信頼 関係構築に大きな影響を与えるのが 取引ルールである。
とりわけ複数企業 とパートナーシップを結ぼうとする場 合には取引ルールが極めて重要な問題 となってくる。
実際、日本のメーカーと流通業(卸 売業、小売業)の取引では、メーカー 側が相手ごとに違う取引ルールを適用することで、流通業側に不信感が形 成されてしまっているのが実情である。
「日本のメーカーはリベートを次々に 出す。
だから当社も商売上の競争相 手に負けないようにリベート獲得競争 を常に行い続けなければならなかっ た」。
そんな話を以前ある小売業の経 営者が語っていた。
取引関係における不信感を招く要 因の一つが、不透明で不公平な取引 制度である。
同じ企業と取引している のに、自分の競争相手のほうが理由 もなく有利な条件で取引が行われてい ると知れば、相手より有利な条件を引 き出そうということになる。
そのため 条件交渉で商談が長時間化してしま い、カテゴリーマネジメントやSCM のような施策に取り組む意欲も時間 も損なわせてしまう。
不透明な取引ルールはSCMの最 大の障害といえる。
では、どうあるべ きなのか。
基本的には取引制度は、透 明で公平であることが重要である。
透 明とは、一つには価格体系や条件が 誰の目からもはっきりと分かるという ことである。
店で値札がついていなか ったり、値札とレジでは値段が違った などということがあれば消費者は当然、 不信感を持つ。
企業間の売買でも同 じことである。
公平というのは、同じルールの適用 ということである。
この場合、合理的 な理由に基づいた違いは許容される。
最近の国内航空券の価格制度は、こ れに近い例である。
早めに変更の効か ないチケットを買えば安くはなる。
し かし、そこには様々な制約もある。
誰 にも同じようにルールが適用されるか ら、受け入れられるのである。
お客様を「平等に」という建前と、 現実には得意客を大事にしたいという 板挟みから、かつては取引ルールをブ ラックボックスに収めていたのかもしれない。
しかし、ここ数年はCRMの 普及によって、ある条件を満たした顧 客を優遇することは日本でも問題では なくなっている。
コストプラスの価格方式 取引ルールを透明にし、公平なもの にすれば、それで十分だろうか。
連載 第五回(二〇〇三年二月号)でも解 説した通り、日本で一般的に用いら 77 JULY 2003 れている「店着価格」、つまり物流費 込みの価格体系は、部分最適を招き、 企業間のコラボレーションを阻害する 要因となっている。
これに対して「コストプラス」とい う価格決定方式の考え方がある(図 2)。
売り手と買い手の間で売買に伴 って発生する業務サービスとそのコス トを価格に加えて納入価格を決定す る方式である。
この場合は、売り手が何のサービス も行わない場合に最も安い納入価格 となる。
つまり売り手の倉庫に買い手 が引き取りに来て、商品を引き渡すよ うな場合である。
逆に日本特有のピー スピッキングを行って納品をするとい うようなサービスを求めれば、ケース 単位での納品に比べて一個あたりの納 入価格は必然的に高くなる。
発 注 ロ ッ ト に も 「 E O Q ( Economic Order Quantity: 経済的 発注数量単位)」という考え方がある。
輸送コストや在庫コスト、発注コスト といった、ロジスティクス上の総合的 な観点から発注単位を設定するとい う考え方である。
このようなルールの下では、買い手 側が売り手側と協力することで、取引 に伴って発生する仕事を上手く効率 化したり、発注量の最適化によって仕 入れコストや物流コストを下げること で買い手のマージンを増やすといった インセンティブが働く。
それによって SCMや、販売政策でのコラボレーシ ョンが促進されるのである。
実際、米国の大手ホールセラー(卸 業)であるスーパーバリューは「アク ティビティー・ベースド・セリング」 という取引ルールを得意先の小売業 に提供している。
スーパーバリューが 小売業に提供するサービスに応じて、 取引価格が変わるような体系になって いる。
当然、この取引ルールは全ての 取引先に公平に適用されている。
この ような価格設定方式は、サービス・メ ニューに応じた価格という意味から 「メニュー・プライシング」とも呼ば れている。
一方でこのような取引ルールには、 コスト削減のみに目が向かってしまう という恐れもある。
それを回避するの が、カテゴリーマネジメントのような コラボレーションである。
カテゴリー マネジメントでは、商品カテゴリーご とに、サプライヤーがカテゴリーキャ プテンとして任命される。
カテゴリー キャプテンは小売業のカテゴリーマネ ジャーと一緒に、様々なデータ分析を 行い、最終的には品揃・棚割や売価 設定、販促計画を立案していく。
この時、カテゴリーキャプテンは自 社の商品ではなく、小売業のそのカテ ゴリー全体の売り上げや利益を向上 させるような販売計画を作らなければ ならない。
それでもサプライヤーとい う立場で売り場作りに参加することで、 自社の売上アップの機会を狙いやすく なる。
これは飽和市場で売り上げが厳 しい消費財業界では魅力的なチャン スである。
米国のブローカーには小売 業のためにこのカテゴリー計画を作成 することでフィーを受け取り、中間流 通サービスとしての新しい役割を確立 しているところもある。
企業間のコラボレーションを本当に 進めていくと、最終的には取引ルール に関する意識変革の必要性に行き当 たる。
これまでの企業間の取引制度は 単なる売買のルールであったと言える。
これに対してコラボレーションの取引 ルールでは、同じバリューチェーンを 構成するパートナー間での利益配分と いう見方が必要になってくる。
同じ仕事に取り組んだパートナー同 士の利益配分という考え方に立てば、 そこに透明性や公平性が必要なのは 当然と言える。
さらには仕事内容に応 じて取り分が変わるという考え方も納 得しやすいはずだ。
お互いがWIN ― WINとなるようなルールを取引に持 ち込まなければコラボレーションは定 着しないということである。
図2 コストプラスの取引ルール 仕入れサービス・ コストが明確になる サービスA サービスA サービスA サービスA サービスB サービスC サービスD サービスB サービスB サービスC サービスC サービスD サービスD サービスD 蔵出価格の 価格設定 流通価格で行われる業務サービスのコストを積み上げで、納 入価格が決定される。
受けるサービスを変えれば、納入価格 も変更される。
ならむら・ふみのぶ 
弌GでEC Rネットワーキング・マネージャー として活動するかたわら、学習院マ ネジメントスクールでDSCM(デ ィマンド&サプライチェーン・マネジ メント)コースのオーガナイザーを 務めている。
89年神戸大学経済学 部卒業。
同年、P&Gファー・イース ト・インク入社。
95年、広報マネー ジャー。
98年から現職。
日本ダイレ クトマーケティング学会理事。
PROFILE

購読案内広告案内