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奥村宏 経済評論家
第14回 りそな国有化の悲劇
JULY 2003 54
りそなホールディングスが国有化された。 何の合理的根拠もないドタバタの
合併劇を繰り返した果ての結末だ。 経営者は退任するだけで責任を果たさず、
企業は失敗から何も学ばない。 判断力を欠いた無責任経営が続く限り、日本は
立ち直れない。
危ない銀行を放置
大和銀行とあさひ銀行が合併し、そしてあさひ銀行から旧埼
玉銀行が分離して埼玉りそな銀行になる。 その上で、近畿大阪
銀行、奈良銀行を含めてこれらすべてを総括する持株会社とし
て、りそなホールディングスを作る。
このような複雑な銀行統合がやっと実現したと思ったら、そ
れから二カ月もしないうちにりそなホールディングスは国有化
されることになった。
日本の銀行が合併の失敗を繰り返してきたことは本シリーズ
の第一回目の「合併の失敗から学べ」で書いた通りだが、それ
にしても今回のりそなグループの合併ほどぶざまなものはなか
った。
りそなグループ国有化の方針を決めた竹中平蔵金融担当大臣
の判断もまた、重大な失敗として野党だけでなく、自民党内部
からも批判されている。
「竹中なんていい加減な学者が小泉改革を引きずり回すと、日
本はおしまいだ」――これは一年半も前に亀井静香・前自民党
政務調査会長が新潟県での講演で言った言葉だが、亀井氏の言
ったように、本当に「日本はおしまい」になりそうだ。
竹中氏にちゃんとした考えがあって、りそなグループを国有
化したのではない。 この銀行が危ないということは天下周知の
事実であって、いつかはこうなるのではないか、と多くの人が
思ってきた。
しかし竹中氏、そして金融庁の役人には、だからどうするの
か、という方針が全くなかった。 無為無策だったのである。 そ
れが突然、国有化を決断するに至ったのは繰り延べ税金資産の
会計処理をめぐる監査法人間の対立によるといわれる。
その結果、りそなホールディングスの自己資本比率が四%
を割り込むということになり、あわてて二兆円もの国民の税
金を投入して、この銀行を国有化するということになったの
である。
ドタバタ救済劇
銀行の国有化はこれまで外国にも多くの例があるが、それは
革命によって社会主義政権ができた時、あるいは金融危機が起
こった時である。 前者は一定の思想の上に立って行われたもの
だし、後者は危機対策である。
ところが今回のりそな国有化はそのどちらでもないという。
もちろん小泉内閣は社会主義を信じて銀行の国有化をしたので
はない。
では危機対策なのか。 竹中氏は、日本は金融危機ではないし、
この国有化は危機対策ではないと言う。 では何のために国有化
したのか。 それは「りそなホールディングスの自己資本比率が
四%を割ることになったからだ」と言うのだ。
りそなグループの内容が悪いことは天下周知の事実なのだが、それを放置して合併させ、それから二カ月もしないうちに国有
化するというのだから、これは無為無策で放置してきた銀行の
内容が悪いことが知られるようになったので、あわてて国有化
したということで、全く合理的根拠のない銀行救済策というし
かない。
朝日監査法人と新日本監査法人がりそな銀行の繰り延べ税
金資産の評価をめぐって対立し、朝日監査法人が降りたあと新
日本監査法人もまた繰り延べ税金資産で判断を変えた。
そこからりそなの問題が突然、表面化して、政府があわてて
公的資金の導入を決めたといわれるが、これをあたかも監査法
人の変心によって問題が起こったかのようにりそなホールディ
ングスの勝田泰久前社長は言う。
自分の内容の悪いのを監査法人のせいにするのは、いかにも
無責任な話だが、一方の監査法人にしても、これまで顧客であ
るりそなホールディングスに都合の良いような監査をしてきた。
それがエンロン事件でアンダーセンがつぶれたことから、急に
態度を変えて厳しくせざるを得なくなった。
そこでりそな問題が突然、表面化したというわけだ。
55 JULY 2003
無責任な経営者と政府
あさひ銀行は協和銀行と埼玉銀行が合併したものだが、この
合併自体が不自然で、合理的根拠がないものであった。
そのあさひ銀行が今度は三和銀行、東海銀行との三行合併を
計画し、その方針が決まっていたが、途中で三和、東海に逃げ
られ、三和、東海だけ合併してUFJ銀行になった。
そこで取り残されたあさひ銀行が、こともあろうに大和銀行
と合併した。 これがりそな銀行だが、このような「ドタバタ劇
で方向転換するのは、危ない綱渡りに等しい」、という先の私
の「週刊現代」のコメントを今、りそなホールディングスの経
営者はどう考えているのだろうか。
失敗を繰り返し、公的資金を二兆円も投入されながら、経営
者は退任するだけで、責任を取ったことになるのだろうか。
大和銀行はニューヨーク支店の国債先物取引での一〇〇〇億
円もの損失を出したことに対して株主代表訴訟を起こされてい
るが、旧大和、旧あさひ銀行の経営者たちは合併の失敗につい
て株主から訴えられてもおかしくない。
それというのも経営者たちが責任を取らないから失敗を繰り
返すのである。 このような無責任経営が銀行だけでなく日本の
大企業の間にはびこっているのだが、それを直さない限り日本
の企業は立ち直らない。
それと同時に今回のりそな事件で改めて痛感するのは経営者
の判断力がいかに欠如しているかということである。
大和銀行の経営者とあさひ銀行の経営者はどういう根拠で合
併を決めたのだろうか。 どう考えても合理的な判断をしたとは
思えない。
そして小泉首相や竹中金融担当大臣はどういう判断をして、
りそな銀行に二兆円もの公的資金を投入することを決めたのか。
ここでも正常な判断力があったとは思えない。 ドタバタ劇で急
にそうなっただけである。 これでは二兆円もの税金を使われる
国民がたまったものではない。
不合理な合併
問題の出発点は、そもそも大和銀行とあさひ銀行が合併した
ところにある。 マイナスの銀行とマイナスの銀行が合併してプ
ラスになるはずがない。 合併によって不良債権は減るはずはな
く、自己資本比率が上がるはずもない。
この至極当然のことが当事者には分かっていなかったのだ。
「合併すればなんとかなる」と、単純に考えていたとしか言い
ようがないが、それが公的資金投入という事態を招いたのであ
る。
ここで私に関連した話をしたい。 大和銀行とあさひ銀行の合
併が発表されたとき、「週刊現代」から私はコメントを求めら
れた。 それは「週刊現代」二〇〇一年十二月一日号に載ってい
るが、この合併には合理的根拠がなく「ドタバタ劇で方向転換
するのは危ない綱渡りに等しい。 空中分散する危険性を多分に
含んでいる」と発言している。
これに対して、あさひ銀行代表取締役岩城勝良なる人物から
講談社気付け奥村宏あてに「これは当行の名誉を著しく毀損す
るものである」として謝罪文を「週刊現代」に掲載せよ、とい
う通知書が内容証明郵便で送られてきた。
株式を公開している銀行について、その合併が誤っていると
批判したことがなぜ名誉毀損になるのか。 このような常識はず
れの抗議にこちらの方が驚いたが、別に取り合う必要もないと
放置していた。
そしていよいよ合併が実現して、それから二カ月もたたない
うちにこの銀行は国有化された。 この合併が失敗であったこと
は明らかだが、当時、これに対して批判しただけでこのような
異常な行動に出たということ自体、この銀行はどうかしている
と思わざるを得ない。
当時の大和銀行、あさひ銀行の経営者はいったい何を考えて
いたのだろうか。 全く判断力を持っていなかったとしか思えな
い。
おくむら・ひろし 1930年生まれ。
新聞記者、経済研究所員を経て、龍谷
大学教授、中央大学教授を歴任。 日本
は世界にも希な「法人資本主義」であ
るという視点から独自の企業論、証券
市場論を展開。 日本の大企業の株式の
持ち合いと企業系列の矛盾を鋭く批判
してきた。 主な著書に「企業買収」「会
社本位主義は崩れるか」などがある。
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