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AUGUST 2003 12
ICタグを巡るバブルと混乱
――近くバーコードはICタグに置き換えられる。 そ
れによってSCMが画期的に進化するという話が盛り
上がっています。
「騒ぎ過ぎ、煽り過ぎだと思います。 バブルですね。
とくにベンダー側が舞い上がってしまっている。 もち
ろんRFIDはとても重要な技術です。 しかしSCM
に関して今言われているようなことを実現するには、
少なくても三年は掛かる。 それも三年ぐらい経てばモ
ノになり始める取り組みもいくつか出てくるかも知れ
ない、というレベルです。 すぐにビックビジネスにな
るような話ではない」
「食品のトレーサビリティに関しても、現状で最も
リアリティのあるツールはRFIDではなく、二次元
バーコードでしょう。 工場内の工程管理や原価計算に
使う分にはRFIDにもリアリティがありますが、少
なくとも今注目を浴びている、バーコードの置き換え
としてのRFIDという話は、かなり遠い」
――狭義の物流管理についても同じですか。
「コンテナやパレット単位でRFIDをつけて、繰
り返し使うというレベルでなら成り立つかも知れない。
しかし、単品管理を超えた『個品管理』という世界の
話は、とても興味深いテーマではあるけれども、実用
化はやはり遠い」
――普及の具体的なスケジュールを、どう読んでいま
すか。
「一次元バーコードの普及には約二〇年掛かったそ
うです。 それを考えると、RFIDがバーコードに置
き換えられて、個体管理が可能になるのはかなり先の
ことになるでしょう。 何しろ、今は読みとり率が低す
ぎて使い物にならないのではないかと心配されている
「個品管理が可能にする究極の商物分離」
ICタグとトレーサビリティを巡る現在の議論は混乱し、バブルの
様相まで呈している。 それでもICタグが新しいビジネスモデルを可
能にすることには疑いがない。 完全な個品管理の実現は循環型経済
を強力にサポートすることになるだろう。
國領二郎 慶応義塾大学 環境情報学部教授
ような状態ですからね」
「ただし、それを前提としたコード体系やデータベ
ースの設計は今、直面しているテーマです。 今日のト
レーサビリティの仕組みが、一次元バーコードや二次
元バーコードをベースに作られるとしても、そのコー
ド体系やデータベースの設計には後々まで縛られるこ
とになる。 それを将来、RFIDに置き換えることが
できないような形にしてはいけない」
――RFIDとトレーサビリティの議論には混乱も見
られるようです。
「タグ、電波、セマンティクス(コード体系)とい
った全くレイヤーの違う標準化の話が一緒くたに議論
されている。 結局、皆が違うことを話しているので議
論がかみ合わない」
「用語も混乱しています。 『トレース・バック』、『ト
レース・フォワード』、『トラッキング』の話がそれぞ
れ滅茶苦茶に使われている。 川下の視点に立って、そ
の商品の履歴を参照するのがトレース・バック。 川上
の視点で、どこへ供給されたか追跡するのがトレー
ス・フォワード。 そして貨物追跡がトラッキングです」
「つまり、もともとトレーシングには追跡という概
念と遡及という概念がある。 そして通常は遡及のほう
をトレースと呼ぶ。 ところがトレーサビリティという
用語のもとに、多くの人が追跡の話をしている。 とく
に経済産業省にそれが目立つ。 そこから様々な混乱が
生まれている」
ビジネスモデルが変わる
――実務家は何に注目して考えておくべきでしょうか。
「ビジネスモデルとして何が大事なのか。 トレーサビ
リティについて先日、石井食品にお話を伺いましたが、
彼らは消費者に大量の生産履歴情報を提供すると同
13 AUGUST 2003
時に、品質に問題があった時に廃棄する量をできるだ
け少なくしようと考えている。 今はロットで管理して
いるけれど、管理単位をち密にしていって、トラブル
が起きた時に廃棄しなければならない量を絞り込んで
いく。 それが目標だそうです」
――RFIDの可能性自体については、どう評価され
ていますか。
「本当に動き出したら利便性はとても大きい。 これ
までのバーコードのように、リーダーをかざさないと
読めなかったものが、通過させるだけでいいとなると、
作業効率に与えるインパクトだけでも大変なものです。
そのことがもっている意味の大きさとなると計り知れ
ない」
「一個一個のモノがリアルタイムに全て把握できる
となると何が起こるのか。 ロジスティクス分野の言葉
に当てはめると、『究極の商物分離』が可能になりま
す。 物理的なロケーションと所有権を切り分けられる
ようになる。 例えば今は一万円札を落としてしまうと、
それが誰の一万円札なのか分からなくなってしまう。
しかし、それが分かるようになる。 そうなってくると、
例えば流通在庫を担保にするといったビジネスが可能
になる」
外部経済の内部化が可能に
――RFIDがビジネスモデルを変えていく?
「そもそも私がこのテーマに興味を持ったのは、R
FIDが実用化されると、これまでは実現できなかっ
た様々なビジネスモデルが可能になってくると考えた
からです。 世の中のモノに全てシリアルコードがつい
て、その入出力が簡単になり、かつデータベースと接
続するとなった時、非常に大きなブレークスルーが起
きる」
「その一つが先ほどの商物分離です。 それが例えば
循環型経済を強力にサポートすることになる。 抽象的
な言い方になりますが、外部経済の内部化が起きる。
情報化社会の大きな問題の一つは、価値のあることを
した人に利益が還元されず、外部経済に全て流れてし
まうことです。 逆に公害のように悪いことも、やはり
本人に還ってこない。 外部経済という一つの方向にし
かモノが動かない」
「この問題を解決するには、一方向ではなくモノが
還ってくる仕組み、静脈物流のような仕組みを構築し
なければならない。 そのためにはモノのモニタリング
が必要です。 そこで例えばリサイクルに、RFIDを
使えばモニターしやすくなる。 またレンタルのような
ビジネスもやりやすくなる。 そんなアプローチで考え
たわけです」
――これまでの「モノを売る」という商売が、リース
やレンタルのようなモデルに変わってくる可能性があ
るわけですね。 「環境面を考えれば、レンタルモデルは売り切り型
より絶対的に優れている。 しかし、なぜそれができな
いかと言えば、管理コストが高いからです。 ユビキタ
スにネットワークがつながり、個体識別ができるので
あれば管理コストは大幅に下がる」
「さらに、それが本当に実現されると、パブリック
セクターとプロフィットセクターを完全に融合するこ
とまで可能になるかも知れない。 政府が経済活動に手
を出さなければならないのは、支出のリターンが外部
経済に流れて回収できないからです。 しかし、誰が何
をやったのかを完全に把握することができて、それが
本人に戻ってくるような仕組みができるのなら、政府
による経済サポートは必要なくなるはずです。 そんな
ことも考えています」
特集 ICタグ狂想曲
石井食品の商品に印字された品質保証番号を同社のホー
ムページで検索すると詳細な生産履歴情報を閲覧できる
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