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AUGUST 2003 14
ICタグの本当の実力
ICタグのSCM活用で最も有望視されているのが
アパレル業界だ。 商品単価が高く、ICタグの導入に
必要なコスト負担力があるのに加え、従来の物流に多
くの人手を要していたことから、投資効果も大きいと
目されている。 しかし先端情報工学研究所の高橋取
締役は「私の知る限り、物流管理用のICタグを実
際にビジネスベースで使っているのは、アパレル業界
でも当社だけ。 海外の事例を含めて他の取り組みは全
て実験の域を出ていないようだ」という。
同社のクライアントの顔ぶれを見ると、いずれも製
造小売り(SPA)と呼ばれる垂直統合型の企業ば
かりであることに気付く。 つまり一つの会社内の閉じ
た世界で、ICタグを繰り返し使うモデルであれば現
在でも成り立つ。 しかし複数の企業から構成される通
常のサプライチェーンでは、最も有望視されているア
パレル業界でさえ、今のところ成功事例はないのだ。
これまでアパレル業界におけるICタグの実証実験
でリーダー的役割を務めてきたオンワード樫山の佐竹
孝SCM推進部長は「ほんの一年前まで私は熱心な
ICタグ推進論者だった。 バーコードと違って書き込
みのできるICタグを使えばSCMに革命が起きると、
周囲にも盛んに吹聴していた。 しかし今は違う。 IC
タグを実用化できるのは、だいぶ先の話だと考えるよ
うになった」という。
もちろん理由の一つは標準化だ。 今のところどんな
周波数のICタグでも読み込めるというリーダーはな
い。 複数のサプライヤーと取引する小売業者はICタ
グの標準化が進まないと設備投資に踏み切れない。 そ
れに加えてICタグ自体にも基本的な課題が山積して
いることが実験を重ねるうちに明らかになってきた。
夢のSCMの実現可能性
その大きな可能性とは裏腹にICタグは当面、物流管理のツールとし
ては限定的にしか利用できない。 従来のバーコードを置き換えるだけ
の推進力には乏しい。 ブームに踊らされて新しいツールの導入を検討
する前にクリアすべき課題は山積している。 (大矢昌浩)
米国でオートIDセンターが発足した九九年にオン
ワード樫山は店頭の商品管理にICタグを活用する
実験に着手している。 その後、現在に至るまで同社は
日本アパレル産業協会の中心メンバーとして継続的に
実験に取り組んできた。 多数の商品を一括してチェッ
クできるICタグは、検品や棚卸しなどの作業効率を
飛躍的に高めるという期待があった。
「ところが現実には、我々が求めているレベルでの
活用はまだまだ実現できないということがだんだんハ
ッキリしてきた」と佐竹部長は言う。 ICタグは二つ
重なっていると読めない。 角度によっても読みとり率
が下がる。 さらに箱を締めたまま中身のタグを読みと
ろうとしても、現状では八〇〜九〇%程度しか読みと
れない。 当然、現場のオペレーション方法は制約を受
ける。
箱から出して一つずつ読みとる形でもバーコードと
比較すれば作業効率は二〜三割向上する。 しかし、投
資コストがそれを上回ってしまう。 一個約一〇〇円の
ICタグを同社の全ての商品に付けるとなると年間二
〇億円近くかかる。 タグを回収して繰り返し利用する
方法も検討した。 しかし、それもロス率と回収コスト
を試算すると算盤が合わない。
「結局、タグの値段が現在の一〇分の一、一〇円程度
になれば、オペレーションの工夫によって実用化も可
能になるだろう。 しかし一〇〇円ではどこの業界でも
使えないはずだ。 ICタグもいつかは普及する。 我々
も夢を持っている。 しかし今は時期尚早だ」と佐竹部
長は結論付けている。
ICタグの値段に関してオートIDセンターは二〇
〇五年には「チープ・タグ」と名付けた五セント以下
の安価なICタグを実用化することを謳っている。 た
だし、チープ・タグは書き込みのできないタイプで、
第2部
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しかも大量生産が前提になっている。 ちなみにタグの
値段を一〇円以下にするには月間数億〜一〇億個の
生産が必要だと言われる。
オートIDセンターでは、これまでのバーコードを
全てICタグに置き換えることで大量生産の需要を確
保できると見込んでいる。 しかし、それをうのみには
できない。 一次元バーコードが開発されてから、世間
に広く普及するまでには約二〇年掛かった。 現在は二
次元コードの活用も拡がっているが、複数の企業で使
用する場合は一次元と二次元を併記しているケースが
多い。 二次元コードのリーダー装置のない企業でも読
みとることができないと、使い道が限定されるからだ。
ましてやICタグともなると、中小企業にリーダー
が普及するまでには、かなりの時間が掛かるのは必至
だ。 その間はバーコードとICタグを共存させる必要
が出てくる。 しかも、チープ・タグが読み込み専用で、
オートIDセンターの主張するように、一つのシリア
ル番号しか持たないものであるとしたら、そこにチッ
プを使う意味がどれだけあるのか疑問が残る。
大手物流業者もそっぽ
国土交通省は二〇〇一年の「新総合物流施策大綱」
に「RFIDの導入・普及の促進」が加えられたこと
を受けて、同年一〇月に航空貨物を対象にしたIC
タグの実証実験を行っている。 ICタグ約五千枚を荷
物に添付。 航空フォワーダー、通関、航空会社という
複数の事業者が同じタグを読み書きして作業を効率
化しようというプロジェクトだった。
しかし、実証実験の結果、検討は一年で中止され
た。 タグの読みとり精度や破損、コストなどの問題に
加え、そもそもタグに新たなデータを書き込む必要性
自体が乏しいと分かったからだ。 大手物流会社の幹部
は「二次元バーコードでさえ現状では導入を見送って
いる。 ましてやICタグなど使い道がない。 新商品や
大幅な値上げが可能になるのでもない限り、ICタグ
を導入するメリットはない」という。
UPSやフェデックスなどの国際宅配業者は現在、
二次元バーコードをベースにしたシステムを運用して
いる。 日本の物流業界でも日本通運を始め二次元コ
ード導入の検討は進められている。 しかし、現状では
普及の見通しは立っていない。 少なくとも国内のオペ
レーションに関して、一次元バーコードでカバーでき
ないほどのデータを物流業者は必要としていない。 I
Cタグは二次元コードよりもさらに遠い存在だ。
欧米の物流センター事情に詳しいサン物流開発の
鈴木準代表は二〇〇一年五月、スウェーデンの医薬
品卸の物流センターを訪問した。 ICタグを物流管理
に役立てているという触れ込みだった。 確かに医薬品
を詰め込むオリコンの底の部分にICタグが埋め込ま
れていた。 ピッキングエリアを流れてきたオリコンは、ICタグによってピッキングすべきラックの前で停止
する。 当然、ラックのデジタル表示器がピッキングす
べき商品の種類と個数を知らせてくれる仕組みになっ
ているのだろうと予想した。 ところがピッカーは紙の
リストを見ながらピッキングしている。
「何だ、この程度かとガッカリした。 バーコードを
使った仕組みと何ら変わりがない。 そもそもICタグ
のデータは人間の目では読みとれない。 バーコードの
ように下に数字が書いてあるわけでもないので、破損
や汚れが合った時に手入力することもできない。 それ
をどうやって実際に物流現場で使うのか。 私には理解
できない」と鈴木代表はいう。
現場の運用から出発しない限り、ICタグは恐らく
使い物にならない。
特集 ICタグ狂想曲
オンワード樫山の
Auto ID Center 佐竹孝SCM推進部長
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