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AUGUST 2003 24
トレーサビリティにすぐ対応できた理由
――三年前に雪印が食中毒事件を起こした後、キユー
ピーはトレーサビリティを本格化しました。
「あのとき、うちのトップから、『赤ちゃんに与える
ベビーフードは、まかり間違っても事故を起こすな』
と言われました。 それで僕がトレーサビリティシステ
ムを作りたいと申し出て、鳥栖工場のベビーフードの
生産ラインでシステムを構築したのが最初です。 ただ
当社がこれを実現できたのは、それ以前に一〇年くら
いかけてFA(ファクトリー・オートメーション)の
仕組みを構築済みだったからです」
――FAシステムというのは?
「一九八九年当時、うちの情報システムは経理系と
工場の製造系、そして物流系の三つに分かれていまし
た。 各地の製造工場にも入っている経理系のコンピュ
ータは全社的にネットワークでつながっていたのです
が、製造現場でロボットや機械を自動制御しているコ
ンピュータとは一切つながっていなかった。 経理と現
場のやりとりは全て紙ベースでやっていた」
「これをネットワークでつなごうと考えて、八九年
からFAシステムを作りはじめました。 まず生産管理
の仕組みから作り、九二年からは現場の作業ミスを防
ぐための事故防止システムを構築。 そして工程管理シ
ステムを作りました。 ここに二〇〇〇年に手を加えて、
トレーサビリティのシステムを作っただけです」
――FAシステムに関する話も、三年前までは門外不
出だったそうですね。
「一切、社外には公開していませんでした。 それが、
たまたま三年前に農水省に報告書を出したら農林水
産大臣賞をもらってしまった。 実はFAシステムが社
内で初めて評価されたのもこのときです。 それで初め
「それでもラベルはなくならない」
キユーピーのトレーサビリティシステムに対する評価は高い。 二次
元バーコードと独自の製品識別番号を組み合わせることによって、消
費者からの問い合わせに迅速に回答できる情報システムを構築してい
る。 この仕組みを、ほぼ一人で作り上げてきた同社技術開発部の高山
勇部長に話を聞いた。
高山勇キユーピー技術開発部部長
てカタログを作って対外的に発表しました」
――キユーピーには、情報システムのための専門部署
があります。 どうしてITの専門家でもない高山さん
が、FAシステムの構築を手掛けてきたのですか。
「僕はアウトローなんです。 入社したとき最初に仙
川工場の工務課に配属されました。 次に五霞工場に
行き、それから本社に異動してきた。 もともと工場の
工務ですから、ロボットの自動制御のようなことばか
りを手掛けていました」
「八九年にFAシステムを作ろうと一枚のレポート
を書きました。 最初の三年間で三億円の投資が必要
で、しかも効果が出るかどうかは分からないという内
容だった。 にもかかわらず、僕の上司だった人が、社
長に掛け合ってくれてOKが出たんです」
すべての原点は製造現場での業務改善
――九二年に「小分け作業」のミスを防ぐ事故防止シ
ステムを構築したのも現場からのスタートだった。 「あれは、あるパートさんから『(小分けの分量)を
間違えたのではないかと思うと夜も寝られない』と言
われたのがきっかけです。 それまで現場で原料を小分
けする作業はすべてパートさんの手作業だった。 すべ
て手作業で分け、どの原料を、どの製品に何グラムを
使うといった情報も手書きで記録していた」
「それが一日に数千個もあったため、彼女たちは常
に自分は間違ったのではないかというプレッシャーに
さいなまれながら作業していたんです。 それを聞いて、
僕は自分でプログラムを開発しようと思いました。 そ
のとき初めてバーコードの利用を思いついて、独学で
勉強しました。 それで秋葉原でケーブルを買ってきて、
パソコンとシークエンサーとタッチパネルと秤(計量
器)とプリンタとバーコードリーダーを六点セットで
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つないだ。 それから三カ月かけて自分でプログラムを
書き、一次元のバーコードを使って小分け作業を管理
する仕組みを作ったんです」
――周囲の反応はどうでしたか。
「現場を知らない人たちは、『そんな難しいシステム、
パートさんが使ってくれるものか』と冷ややかに見て
いましたよ。 でも実際にシステムが完成すると、パー
トさんたちは大喜びで使ってくれた。 バーコードをピ
ッと読むだけで、間違っていれば警告が出るし、自動
的に記録まで残してくれるようになったわけですから
ね。 判断を人間に委ねて、責任を持たせる方が、彼女
たちにとってはずっと辛かったんです」
工程管理を二次元バーコードに変更
――となると二〇〇〇年以前のキユーピーは、どうや
って製品の履歴を遡っていたのですか?
「加工食品メーカーというのは、お客さんの問い合
わせに製品の由来を答える義務があります。 ですから
自分たちの加工した製品情報を溯ることは、どこの会
社でも可能です。 しかし、そこは通常、紙ベースで管
理している。 当社の場合もFAシステムを作る以前は、
問い合わせに答えようとしたら一週間から一〇日はか
かっていました。 膨大な書類の中から、製造日を限定
して履歴を溯っていく必要がありましたからね」
――それが今やコンピュータ端末を叩けば即答できる
ようになった。 三年前に何をやったのでしょう。
「僕はトレーサビリティの本来の目的は、『問い合わせ
への迅速な対応』と『出荷済み製品の物流情報の追
跡』と考えています。 そこには二つの面がある。 特定
の製品に関する問い合わせがあったときに情報を原料
にまで溯れることが一つ。 そして、もう一つは、出荷
後のトラッキング(貨物追跡)です」
「トレーサビリティをやることになったとき、現場で
使っていた一次元バーコードを、原料情報を迅速に把
握するために二次元に変えました。 そして原料メーカ
ーにも、納品時に二次元バーコードを添付してもらう
ようにお願いしました。 さらに我々自身も原料メーカ
ーの顔を持っているため、出荷する段ボールの外面に
二次元バーコードを印字するようにしました」
「ここに従来から印字してあったITFには、企業
コードと商品コードしか入っていない。 それが新たに
入れた二次元バーコードでは、製造日や製造時間、賞
味期限などの情報まで全部入っている。 しかも数列な
どではなく日本語で伝達できる。 ただし、お客さんが
二次元バーコードを見ても分かりませんから、製品に
は問い合わせのための『QAナンバー』を直接印字す
るようにした。 これは我々のデータと特定の製品をヒ
モづけするための最小限の文字列です」
――そのときICタグの利用は考えなかったのですか。
「なぜ二次元バーコードだったかというと、元々そこにはラベルが貼ってあったからです。 ラベルの余白
に二次元バーコードを追加するだけなら、ほとんどコ
ストがかからない。 つまり、すでにあるものを利用し
ただけなんです。 将来、どんなにICタグの導入が進
んでも、人間が目で見て管理している以上、ラベルは
無くならない。 だったら、そこに情報を書き加えた方
が安上がりというのが我々の考え方です」
――御社のトレーサビリティは完成に近いのですか?
「まだベビーフードと、マヨネーズだけしか実現して
いません。 プリンタなどへの投資が必要のため全製品
に導入するのは難しい。 もっとも僕はすべてをシステ
ム化する必要はないと思っています。 生産量が少なけ
れば原料の管理も紙ベースで可能です。 そこはバラン
スをとって考えればいい」
特集 ICタグ狂想曲
原料メーカーは
原料に、二次元
ラベルを貼り付
けをして納入す
る内容はメーカ
ー、製造日、ロッ
ト等
工場入荷時、そ
れを読み込んで
ロット、賞味期
限をデーターベ
ースに保存する
製品充填時その時間
を製品に印字し、原
料との紐付けを行う
お客様はこの番号で
問い合わせする
製品工場出荷時ハ
ンディターミナル
でパレット二次元
コードを読み込み
出荷履歴を保存
お客様が製品を購入し、それ
の問合せに対しデータベース
から検索してお答えする
原料メーカー 荷受け管理 製品製造 製品追跡システム
工場FAサーバー
ベビーフードのトレーサビリティ
入庫
出荷 販売店
お客様相談室
製品出荷先 配送センター
二次元コード 追跡コード
製品1個毎
番号刻印
お客様
問合せ番号
040311FCEB
040311FCEB
お客様
購入
お客様
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