ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年8号
特集
ICタグ狂想曲 ICタグ活用で進化するECR

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2003 28 メーカーと小売業の協働事例がズラリ 二〇〇三年五月十三日〜十五日にドイツのベルリ ンで第八回「ECRヨーロッパ大会」が開催された。
ECRの最先端の取り組みを紹介する恒例のイベント である。
ヨーロッパにおけるECRは、九三年にイタ リアでその取り組みが始まったのを皮切りにその後、 またたく間に各国に広がった。
研究推進機関として 「ECRヨーロッパ」が設立され、九六年には第一回 のECRヨーロッパ大会が開催された。
ECRヨーロッパでは、協働(コラボレーション) プロジェクトとして、小売業、メーカー、コンサルテ ィング会社が一緒になってECR実現のための手法の 研究・開発およびパイロットを行っている。
その成果 は、ガイドブックにまとめられ、発行されると同時に、 毎年春に開催されるECRヨーロッパ大会で発表され てきた。
本連載の第八回(二〇〇三年六月号)でも紹介し たが、ECRでは小売業と製造業のそれぞれを代表す る二人の共同委員長を置く形式をとっている。
現在、 ECRヨーロッパ全体の共同委員長を務めるのは、こ の六月に日本への進出を決めた英国小売業テスコの CEOのテリー・リーヒ卿(写真1)と仏の食品メー カーであるダノン・グループのCEOのフランク・リ バウド氏である。
ECRの取り組みと同様に、大会のプレゼンテーシ ョンも、同じプロジェクトに携わった小売業の担当者 とメーカーの担当者が必ず一緒にプレゼンテーション を行う。
日本ではなかなか見られないスタイルだ。
小 売業では、カルフール、テスコ、メトロといった日本 でも知られるようになった国際的な小売業が事例発表 を行っていた。
ICタグ活用で進化するECR 『2003年度ECRヨーロッパ大会』報告 今年のテーマは、「On the shop floor (together) 」。
あえて意訳すると「売場での協働」ということにでも なるだろうか。
このテーマの通り、売場作りに関する トピックスが多かった。
CRMや、顧客分析を一段と 深めたカテゴリー・マネジメント、店頭欠品の削減に 関する施策など、店頭活性化の新技術に関するもので ある。
今年新しいガイドブックが出されたテーマとしては、 「協働CRM(Collaborative Consumer Relationship Management) 」という、クラブカード(会員カード) からのデータを活用した販売戦略の手法と、「POS データの協働管理(Collaborative POS Data Manage ― ment) 」があった。
「協働CRM」はカテゴリー・マネジメントをベー スにして、より個々の買い物客に焦点を当てた店頭施 策の実現を目指したものである。
一方「POSデータ の協働管理」はECRの基本ともいえるPOSデータ の活用について、改めて整理するという内容であった。
また過去七回の大会ではあくまで事例発表が中心 であったが、今回は「Future Store (写真2)」とい うテーマで、ICタグや無線LAN技術を活用した近 未来型店舗システムの展示が、ユーザー企業である地 元ドイツの流通業のメトロ社を中心として行われてお り、今大会の大きな目玉となっていた。
転換期迎えた無線ICタグ ICタグについてはグローバルなECRのための標 準化推進組織「GCI(Global Commerce Initiative) 」 においてインテリジェント・タグというテーマでとり あげられており、ECRヨーロッパでは二〇〇〇年の イタリア大会からセッションのテーマに入っていた。
しかし、これまでの議論は、それが何かということか 第5部 ロジスティクス・リーダーシップ論―特別編 ECR(Efficient Consumer Response:効率的な消費者対応) の推進団体「ECRヨーロッパ」では毎年春に年次総会を開催してい る。
今年はドイツのベルリンが会場となった。
そこでも無線ICタグ の活用は大きなトピックスとなっていた。
同大会に参加した楢村氏 がECRとICタグの最新情報を報告する。
楢村文信 P&G ECRネットワーキング・マネージャー 29 AUGUST 2003 ら、技術的課題や応用可能性などのコンセプト中心の 話であった。
それが今大会では実用可能な形で、デモ が展示されていた。
このテーマは一つの転換期を迎えたといえる。
今後 ICタグに関しては、実運用でどれくらいの成果が上 げられるのか、また費用対効果といった実用性が焦点 となってくる。
実際、この大会の直前には、米国ジレ ット社はタグの大量購入を発表し、独メトロ社は 「 Future Store 」と未来型店舗の実験店を実際にオー プンさせ話題となった。
さらに大会後にはウォルマート社が主要サプライヤ ーに物流管理のためにパレットとケースへのタグの採 用を二〇〇五年までに実現するように求めるなどの動 きがあり、ICタグの実用化は目の前の課題となって いる。
現在、ICタグの実用面で研究が進められているの が「e ―PC(e-Product Code: 電子商品コード)」だ。
従来の商品バーコードに変わるものとしての活用法が 進められている。
e ―PCの活用によって店舗内部で の商品の動きがわかるようになるほか、ロット管理に よる品質管理など、様々な可能性が検討されている。
これは日米欧に共通して言えることだが、現在の技 術では実際に店頭にある在庫をリアルタイムで正確に 把握することが困難である。
近年は売り場作りの中で、 関連購買の高い商品群をまとめて並べることが多くな っている。
その結果、同じ商品が店内の複数の場所に 置かれるようになっている。
同じ商品が一カ所に置かれているのであれば、入荷 データとPOSによる販売データから、店内での在庫 状況がある程度は把握できる。
しかし複数カ所に分か れてしまうと人手でチェックしなければ把握できない。
店内の一カ所で売り切れても、別の場所に商品が残っ ていれば、「在庫あり」というステータスになってし まう。
特売品でも似たようなことが起きる。
山積みし ている場所に商品がなくなっても、通常販売している 定番の棚には残っているケースがある。
スマートシェルフの威力 店頭の棚からは刻々と商品は動いていく。
売れてい くのに加えて、万引きやオペレーション上のミスなど の様々な理由がある。
「スマートシェルフ」(写真3) と呼ばれる、e ―PCを読み取るセンサーを組み込ん だ棚を用いることで、どの場所の棚にどの商品がどれ だけ在庫されているかが常時把握できるようになる。
つまりリアルタイムに棚卸できるようになるのである。
またe ―PCを使った分野では「セルフチェックア ウト」の仕組みや、自動検収システム(写真4)など のデモも行われていた。
セルフチェックアウトとは、 買い物客が自分で精算する仕組みだ。
買い物客が携 帯スキャナーで買った商品を自分でスキャンして登録し、クレジットカードで精算することで、レジを通過 しないで済む。
あるいは無人レジで、買い物客が自分 で商品をスキャンしてカード精算という方式もある (写真5、6)。
このシステムを使う買い物客は、事前に登録してお く必要がある。
もともとレジ待ちの時間というのは、 買い物客から見れば顧客サービスという点でマイナス 要素である。
そのため欧米ではセルフチェックアウト と同様のサービスが比較的多くの小売業で実施されて いる。
しかしスキャンミスや、万引きなどの問題がそ こには常につきまとう。
e ―PCが導入されれば、そ ういった問題が解消され、顧客サービスの質を高める ことができる。
さらに顧客サービスという点では、ショッピング・ 特集 ICタグ狂想曲 写真2 Future Store 展示風景写真1 テスコCEO テリー・リーヒ卿のスピーチ AUGUST 2003 30 カートに端末を備え、顧客カードと組み合わせること でのセルフチェックアウトや、クーポンの提供や、売 場の検索などのデモも行われていた。
この顧客カード にもICタグが使われている。
会場でも、参加者のネ ームバッジにICタグが付けられており、セッション 来場者のデータがわかるようになっていた。
今後はCRMの手法が進化することで、顧客ごとに カスタマイズされたサービスが実現できるようになる であろう。
今年の大会では、従来のO2Oカテゴリ ー・マネジメントをベースにしてCRMを実現する方 法論として「協働CRM」が紹介されていたが、この 手法については、e ―PCのような新技術も視野に入 れた研究・実証が続けられると考えられる。
それに伴いロジスティクスの守備範囲も変わってく る。
従来の感覚ではロジスティクスの仕事は店舗の荷 受場に商品を届けるまでで、店内の管理は基本的に 管理範囲の外に置かれていた。
しかし、このような新 技術が普及することによって、店頭への商品供給まで の管理責任は、ロジスティクス部門が持つようになる だろう。
実際、技術面での進歩が進む中で、サプライチェー ンの現在の課題と改善策に関する研究・実証も盛ん になっている。
例えば九九年からECRヨーロッパで は「Shrinkage (理論在庫と実在庫のギャップ)」に 関する分析が行われている。
二〇〇一年に最初のレポ ートが発行されたが、今回は解消策の実験についての レ ポ ー ト が 発 行 さ れ た 。
ま た 「 Optimal Shelf Availability (店頭での棚在庫の最適化)」というレポ ートも出されている。
現実に目を向けた施策へ 着目すべき点は、e―PCへの関心は、技術主導で はなく、現実のビジネス上の問題点に対する具体的な 認識と、その解決策という角度から関心を持たれてい る点である。
ECRにしても、欧米共にその出発点で はコスト削減の効果や顧客の抱えている問題を可視化 するところから始まっている。
そういった過程を踏ま ないと、どのぐらいの投資を行うべきかの判断もつか ない。
いたずらに新技術やツールに振り回されてしま うことになりかねない。
そのためRFIDのような近未来の技術への関心が 高まる一方で、もっと現実的なIT施策にも目が向け られている。
ドット・コム・バブルの崩壊によって、 最近はITやB2Bという話題が影を潜めている感が ある。
しかし実務の世界では再挑戦が始まっているの である。
多様化、変化の速さ、グローバリゼーション など、業界を取り巻く変化は変わることなく進行して いる。
その具体的な解決策としてはITの活用以外に 有力な手段などないといっていい。
ECRは現実的な解決策である。
その実務に携わ ってきた筆者としては、ECRが登場したことによっ て、情報システムの本当の活用の仕方が企業経営者 や実務家たちに理解されるようになったと感じている。
そしてインターネットが普及した頃から、熱狂的とも 言える勢いで、IT活用の矛先がB2Bへと向かって いった。
しかし、B2Bはよく「Back to Basic (基本に返れ)」 だとも評される。
基礎の固まっていない企業が高いレ ベルの取り組みをいきなり実現しようとするのは無理 な背伸びというものである。
むしろ、近年は一時期の 熱狂から醒めて、現実に目が向けられるようになった 感があり、安心させられたような思いでいる。
さて今年のECRのテーマの中で、e ―PCのよう な先端技術と並んで筆者が注目させられたのは、「P 写真4 自動検収システムのデモ写真3 スマートシェルフのデモ 31 AUGUST 2003 O S データの協 働 管 理 (Collaborative POS Data Management) 」である。
ECRにおけるSCMやカ テゴリー・マネジメントを行う上で基礎となるのが、 POSデータである。
しかし日常的にPOSデータを 活用しようとなると、様々な課題に直面するのが実状 だ。
これはデータ同期化のプロジェクトなどでも同じだ が、インターネットをベースとしたB2Bのデータ活 用では、取り組みが進めば進むほど、基本情報の精度 が重要になってくる。
間違った情報がネットで広がっ てしまうと、どれほど信頼度の高いサプライチェーン のオペレーションも、その有効性を発揮できなくなる。
それどころか、大変な問題さえ引き起こしかねない。
POSデータの活用を再検討 ECRのレポートによると、「データ」を分析した ものが「インフォメーション」であり、この意味する ところを理解して「ナレッジ」となり、そこからアク ションを起こして初めて「利益」が得られる。
この起 点にあるのがPOSデータだ。
そのためECRでは、 POSデータを活用するために、サプライヤーと小売 業がどのように協働すればよいかについて繰り返し検 証を行っている。
そこから、POSデータの共有による活用を上手く 行うために重要となる六つの要素が導き出されている。
この六つとは、「データの質」、「データの量」、「スタン ダード(データおよびデータ交換の規格)」、「テクノ ロジー(IT)」、「協働体制」、「法的要件」である。
こうした要素が取り沙汰される背景には、カテゴリ ー・マネジメントやCPFRの取り組みが進み、デー タ活用の機会が増すと同時に、データウェアハウスや WEBサービスの技術によってデータの管理や交換が 行いやすくなっているのに、簡単にはデータ活用が進 まないという現実がある。
例えば販売履歴の分析でも、商品リニューアルなど によって新旧の商品コードが変わっているのに、コー ドの紐付けが行われていないと、過去との比較ができ ない。
また、そこに業界標準商品コードが用いられて いないと、具体的な商品名を見つけ出すのに大変な手 間がかかってしまう。
その結果、分析の精度が下がっ てしまうといった問題が起きている。
とりわけ日本ではPOSデータは小売業にとっての 戦略的情報と考えられており、取引パートナーへの開 示にも消極的だ。
これに対して欧州では、むしろ取引 パートナーと協働でPOSデータを管理するべきだと いう考え方に向かっている点にも留意しなければなら ない。
これはそのことで得られるメリットの方が大き いことが明らかになったからである。
e ―PCが導入されると、ますます多くのデータが 入手されるようになるが、それだけでは単なるデータの洪水で終わってしまう。
投資に対するメリットが得 られない恐れがある。
新技術を導入する前に、もう一 度データ管理に関する基礎を固めなおす必要がある。
グローバルなデータプールの同期化 近年、ECRやGCI(グローバル・コマース・イ ニシアチブ)のリーダー企業が積極的に進めているの が「グローバルなデータ同期化のプロジェクト(Global Data Synchronization )」である。
現在、取り組みが 進められているのは、取引の基本となる商品マスター データの同期化である。
ヨーロッパでは、国レベルで 「商品データプール」と呼ばれる業界共通の商品デー タベースが構築されている。
これをグローバルに連携 させようとするものである。
特集 ICタグ狂想曲 写真6 買物カート用無線端末写真5 セルフチェックアウト用レジ 特集 ICタグ狂想曲 AUGUST 2003 32 すでに米国では、「UCCネット」と呼ばれる仕組 みを通じて、米国内の商品データプールの連携が行わ れ始めている。
基本的にはデータ提供者に当たるメー カーが、自社で決めた一カ所のデータプール(商品カ タログサービスのデータベース)に商品データを登録 すれば、レジストリーを経由して、リンクされている 全てのデータプールに更新の情報が送られるという仕 組みである。
この情報を元に、データプールに複製を作成したり、 直接リンクさせることで、業界内のリンクしている全 てのデータプールから最新の商品情報が入手できるよ うになる(図1参照)。
新商品発売の際の発注などに 使うマスターデータへの登録作業の自動化にもつなが る。
このような場合、全得意先への情報の伝達や入力 作業に労力がかかっており、自動化することで省力化 も図れる。
発注精度の向上やデータ質を高めるなど質 的向上も実現される。
CPFRなどを実現するためには、このような商品 データベースの存在が必須であると言われる。
店頭で の販売はユニット(個)単位だが、店舗からのセンタ ーへの発注はケース単位である。
そして小売りのセン ターからメーカーへ発注する場合はパレット単位やト ラック単位などに発注単位が変わっていく。
その際、 商品データに不備があれば当然、オペレーションは破 綻する。
商品の容量や入り数のデータが、商品の切り替えの 際に新旧できちんと紐付けされていないと、需要予測 と発注予測の間で誤差が生じてしまう。
一ケースの入 り数が変わって、仮に二割増しになったときには、販 売個数が二割増えると予測されたら、発注上のケース 数は変わらない。
しかしデータの紐付けが正しく行わ れていないと二割多く発注してしまう、というような ことが起こる。
コードを十四桁で標準化 こうしたマスターデータの同期化と並行して、商品 データプールのコア情報である商品コードの体系を、 二〇〇五年をメドにグローバルに統一しようとする動 きも活発化している。
米国の「サンライズ2005」 という業界プロジェクトがそれで、「GTIN(Global Trade Item Number )」と呼ばれるコード体系に対 応するように各社がシステムの変更を進めている。
現在、米国で使われている商品コードは十二桁で、 欧州や日本では十三桁が使われている。
商品の外箱な どについているITFコードは日本では十六桁だが欧 米では十四桁である。
これらを全て十四桁を基本とす る「GTIN」の体系に整理し直し、世界中で共通 に使えるようにしようとしている。
このような標準化 が実現すると、小売業はグローバルな商品調達が容易 になる。
品揃えで差別化しやすくなるのである。
今回の大会にはヨーロッパを中心に約三〇〇〇人 の参加者が集まった。
第一回以来年々参加者は増え、 ここ五年は大体三〇〇〇人前後の参加者がコンスタ ントに集まっている。
常に新しい顧客満足のための手 法にチャレンジし、それを実現させ続けているからこ そ、これだけの人数が参加し続けているのであろう。
日本市場では現在、欧米の有力小売業の参入が続い ており、色々な議論がなされている。
欧米の有力小売 業は本国でのこうした努力の積み重ねにより、優れた ビジネスモデルの構築を一歩一歩進めている。
彼らが どのようにして日本市場で優位性を発揮できるビジネ スモデルを構築していくかは注目すべき点である。
写真提供:Fishbone グローバル レジストリー データ プールC データ プールA データ プールB データ プールD データ 受領者DB データ 受領者DB データ 受領者DB データ 受領者DB データ 受領者DB データ 受領者DB データ 受領者DB データ 受領者DB 3.通知 2.グローバル レジストリに 自動登録 4.通知 1.データプールに商品登録 5.データの取得  グローバル・レジストリーを介して、企業間で共通に持つ データが最新のものとなるように同期化がグローバルに行わ れる。
図1 グローバルなデータ同期化

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