ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年9号
CLO
転換期を迎えた日本の食品流通

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2003 48 パターン(同七番)の二種類が現実的 な選択肢になる。
いずれにしても中間 流通の拠点を一カ所だけにすることが、 現在の日本でサプライチェーン上のコ ストを論理的に最も安くできる選択で あることは間違いない。
にもかかわらず、現実の日本の食品 産業のサプライチェーンが極端なまで に多段階なのはなぜか。
この疑問を突 き詰めていくと、市場の寡占化が進ん でいないという現実に行き着く。
では、 なぜ日本では寡占化が進まなかったの か。
よく指摘される歴史的な経緯も無 視できない要因だが、これだけでは近 年の市場競争の結果として欧米では寡 占化が急速に進んだのに、日本はそう ならなかった説明がつかない。
私は、日本で多段階の流通が温存さ れてきた理由を、日本人特有の?魚食 最も効率が高くなる。
実際、巨大な売上規模を持つ米ウォ ルマートのような小売業者は、既に一 部の商品ではこうしたサプライチェー ンまで実現している。
もちろんメーン は中間一カ所の拠点でクロスドッキン グするというパターンだが、同社のよ うに市場をエリア単位で制覇する戦略 をとっていると、特定の地域における 販売力はシェアが示す以上に強くなる。
だからこそメーカーの工場と店舗を直 結させることすら可能になる。
ただし、こうした中間流通は、現在 の日本で真似のできるものではない。
当面の日本で最適なサプライチェーン の形態は、中間流通に物流拠点を一カ 所だけ設置するというものだ。
その際 の中間拠点は、卸が管理するパターン (図1の六番)と、小売りが管理する CLO(ロジスティクス最高責任者) は、何はともあれ?店からの発想〞を 忘れてはいけない――。
前回はこの点 を、欧米の中間流通やロジスティクス の先進事例を挙げながら説明した。
し かし、言うまでもなく日本と欧米の流 通事情は違う。
日本市場の特徴をきち っと整理しておかなければ、欧米と比 較すること自体がムダになってしまう。
欧米とは異なる日本の流通事情 今回は食品のサプライチェーンを例 にとりながら、日本の流通の特徴を説 明する。
次ページの図1に示した通り、 近代の食品産業の物流パターンは概ね 八つの型に大別できる。
商品在庫を保 有するD/C(ディストリビューショ ン・センター)の数が中間流通に少な いほど、効率のいいサプライチェーン ということになる。
欧米の先進的なサプライチェーンは、 ほとんどが四番目以降の形態になって いる。
一方、日本のそれは、先進企業 も含めて大半が一番目から三番目のど れかに当てはまる。
日本では中間流通 における在庫拠点が多い分、サプライ チェーン全体をみると明らかにムダな コストが費やされているということに なる。
中間流通に求められる機能は、日本 でも欧米でも基本的に同じだ。
メーカ ーが作る製品を効率よく市場に供給で きるのであれば、中間拠点の数は少な いほどサプライチェーン全体のコスト は下がる。
究極的には、メーカーの工 場から出荷した製品を、直接、小売り の店舗に納品する八番目のパターンが 味の素ゼネラルフーヅ 常勤監査役 川島孝夫 転換期を迎えた日本の食品流通 《第10回》 49 SEPTEMBER 2003 文化〞の影響が大きいと考えている。
先進国のなかで日本人ほど魚をよく食 べる民族はいない。
最近でこそ、かな りの部分を輸入に頼っているが、もと もと日本人は近海モノの魚だけを食べ ていた。
しかも生食するため、これを 商品として移動できる範囲は極端に狭 かった。
このことが日本人の食生活に 強い地域性を生み出した。
いまだに関 西だけで通用する?明石の鯛〞のよう な魚のブランドが根強いのは、その名 残といえるだろう。
魚ほど極端ではないが、日本では肉 や野菜を含む、いわゆる生鮮三品のそ れぞれに多かれ少なかれ地域性がある。
これは欧米にはない日本市場の特徴と 言っていい。
だからこそ日本では、ご く小さな商圏で成立する魚屋、肉屋、 八百屋などの専門店が歴史的に発展し た。
そして、そうした小売店を支える ために複雑な中間流通が形づくられて きた。
むろん欧米にも食文化の地域性はあ るが、それは生食を好む日本ほど根深 いものではない。
一般的な食材そのも のは広域に流通しているケースが多く、 だからこそ欧米では大規模小売りチェ ーンが発達し市場の寡占化が進んだの である。
日本でABCは時期尚早 日本の流通に関する右記の理解が正 しいかどうかは別にしても、現実に日 本では一部の「総合小売りチェーン」 への極端なシェアの集中は起きなかっ た。
現に大手GMSといえどもシェア は数%に過ぎない。
小売りの寡占化に 対抗するようにメーカーの再編が進ん だ欧米とは、日本の流通は明らかに異 なる進化を遂げてきた。
現在の日本のように寡占化されてい ない市場では、小売業者は数百社もの メーカーから商品を仕入れる必要があ る。
これを小売りが自ら管理していて は効率が悪いため、卸売業者が不可欠 の役割を担うことになった。
当初は欧米でも同じ状況だったのだ ろうが、法規制や物流、情報の制約条 件が緩和されるに従って、欧米では広 域化や大規模化による流通の再編が進 んだ。
結果として台頭したのが米ウォ ルマートや仏カルフールといったグロ ーバルリテーラーであり、彼らが主導 して流通の効率化を加速し、SCMや ECRも発展してきた。
これに対して日本では、いまだにメ ーカーが小売り業者と直接取引できる 土壌はない。
仮にメーカーが一部の小 売業者との直接取引に踏み切っても、 それ以外の大半の小売りとは従来通り 卸経由の取り引きを続ける必要がある。
つまりメーカーにとっての主要顧客は あくまでも卸であり、その卸の反発を 押し切ってまでして一部の小売りと直 接取引を積極化する理由を、メーカー は持ち合わせていない。
市場の寡占化という切り口は、日本 の流通のさまざまな問題点を明快に説 明してくれる。
日本で標準化が進まな い理由もその一つだ。
欧米のように市 場が寡占化して、皆が論理的に最も効 率のいいサプライチェーンを目指すよ うになると、その究極的な形態はほと んど同じものになる。
ここで「過去にそうだったから」な どという理由で独自の仕組みにこだわ っていたら、たちまち相対的なコスト 競争力を失ってしまう。
寡占化の進ん だ市場では、流通の標準化も市場原理 によって進まざるを得ない。
翻って日本では寡占化が未発達のため、標準化を強力にリードする牽引役 が不在だ。
このため業界団体や公的機 関が標準化を進めようとしてきたが、 図1 食品メーカー物流パターン パターン メーカー 工場 メーカー D/C 卸 D/C 小売り D/C 小売店 1 2 3 4 5 6 7 8 SEPTEMBER 2003 50 その内容は先進的な事業者にとっては 物足りず、中小事業者にとってはハー ドルが高いという中途半端なものにな りがちだった。
しかも日本には、IT や物流の仕組みを他社と違えることが 差別化要因になるという妙な誤解があ る。
このことが日本における標準化の 進展を阻む一因となってきた。
ABC(Activity Based Costing ) が日本で定着しないことにも、同様の 理由を見出すことができる。
欧米のよ うにCPFR(Collaborative Planning Forecasting and Replenishment )を本 格化しようとすれば、関係企業にとっ てABCは必須だ。
自らの原価を厳密 に把握することなしに、取引相手と原 価交渉をすることなど不可能だからだ。
そして、CPFRのような取り組みで は、取引規模が大きいからこそ双方の メリットも顕著になる。
一方、卸を介して数百もの小売り業 者と付き合っている日本の食品メーカ ーが、個別の取引先ごとに緻密な原価 交渉などをしても手間ばかりかかって 割に合わない。
もちろん企業間の取り 組みを強化しようとしたら、自社のコ ストをある程度まで正確に把握しなけ れば本来は話にならない。
だが、厳密 に把握すればいいという話でもない。
営利企業が原価割れまでして特定の 取り引きを続けるなどという愚かな行 為は、言うまでもなく止めるべきだ。
そして、この判断は必ずしも厳密なA BCを実施していなくても可能だ。
日 本企業が従来から行ってきた標準原価 計算のままでも大まかな作業コストは 算出できる。
少なくとも私は、ごく一 部の顧客の要請に応えるためだけに、 食品メーカーが本格的なABCを導入 するのは時期尚早と考えている。
そんな差し迫っていないニーズに血 道を上げるよりも、大半の日本の食品 メーカーが着手すべき喫緊の課題は、 多段階の流通構造にメスを入れること だ。
これを温存したまま、各段階の取 引コストを最適化しようとしても徒労 に終りかねない。
そして、その際には、 中間流通の物流拠点を一カ所に近づけ ていくということが基本になる。
マーケティング戦略を理解せよ こうした前提に立ち、さらに?店か らの発想〞で中間流通のあり方を考え ていくと、小売り店舗のタイプによっ て必要な中間流通の機能が違ってくる ことが分かる。
前述したように、ウォ ルマートのように大規模な店舗を持つ小売業では、工場と店舗を直結させる ことが究極的な形態になる。
また、コ ンビニエンスストア(CVS)のよう に小規模な店舗を持つ業態では、巧み に卸を活用した中間流通の構築が欠か せない。
つまり、製品を、どういった小売り 業態の、どのようなタイプの店舗で販 売してもらうかによって、流通の上流 で備えるべきロジスティクスの機能や 中間流通の形態は変わってくる。
だか らこそメーカーのCLO(ロジスティ クス最高責任者)は、自社のマーケテ ィング戦略を、将来的にどう変化する 可能性があるのかまで含めて理解する 必要がある。
そのうえでロジスティク スの構築に取り組まなければ、変化に 対応できる仕組みにはならない。
そのためにも、まずマクロの視点か ら日本の流通がどのように変化してい くかを見極めておく必要がある。
欧米 に比べて著しく寡占化の遅れた現状は、 今後どうなっていくのだろうか。
結論から言ってしまうと、私は日本 の流通は、欧米とは異なる道を歩むこ とになるのではないかと考えている。
GMSやコンビニチェーンのなかで生 き残っていく企業が、今以上にシェア を伸ばすことはあっても、欧米のよう に一部の大手小売業者に極端にシェア が集中する状況は今後も生まれないの ではないか。
確かに魚屋や肉屋などの専門店の数 は近年、急速に減っている。
だが彼ら のなかで生き残った事業者の多くは、 食材を総合的に品揃えする「食品スー パー」への業態転換を果たしてきた。
ここで言う食品スーパーとは、商業統 計にある店舗面積が二五〇平方メート ル以上、食品の取り扱いが総売上の七 〇%以上ある小売り業者を指す。
食品スーパーの多くは、過去に専業 者として培ってきたノウハウから、特 定の生鮮分野に強みを持っている。
し かも商圏の広さや品揃えの面で、GM Sとは大きく異なる戦略を採用してい る。
このため、かつて大規模小売りチ 51 SEPTEMBER 2003 ェーンが地域の専門店をどんどん廃業 に追いやったように、食品スーパーを 飲み込んでいく可能性は低いのではな いか。
実際、近年の食品スーパーの伸張ぶ りには目覚ましいものがある。
八〇年 代末の食品スーパーという業態のシェ アは、主に食品を扱う小売業全体の約 二割に過ぎなかった。
それが九九年に は四割に倍増しており、その後も食品 スーパーの勢いは一向に衰える気配が ない(図2)。
こうした状況を考えると、食品メー カーは従来通りGMSやCVSのニー ズに対応していくと同時に、今後は食 品スーパーのニーズにも応えていく必 要がある。
これはマーケティング戦略 上の重要なテーマと言って差し支えな いだろう。
典型的な食品スーパーの売上構成は、 生鮮三品が六割、惣菜などの調理済み 食品が二割、そして残りの二割が加工 食品や日用雑貨品などのドライグロサ リーとなっている。
つまり多くの食品 スーパーにとってドライグロサリーは、 ついでに品揃えをしているだけの商品 に過ぎない。
彼らの多くは、生鮮三品 ではGMSやCVSにない独自のノウ ハウを持っている一方で、加食や日雑 を扱う経験には長けていない。
このため食品スーパーのなかには、 生鮮三品で稼いだ利益を、ドライグロ サリーの稚拙な管理ではき出している 企業すら少なくない。
もちろん食品ス ーパーのなかで勝ち組と言われている 企業は、加食や日雑の分野でもきちん とした管理をしている。
だが一般論と しての食品スーパーの多くはドライグ ロサリーの管理に手を焼いている。
?店からの発想〞で食品スーパーの 中間流通を考えると、なるべくまとめ て店舗に納品するという明らかなニー ズがある。
ところが現実には、構成比 わずか二割の加食と日雑でさえ、まったく別々に納品されているケースがほ とんどだ。
こんな状況が、いつまでも 続くとは考えにくい。
こうした状況から、日本の食品流通 は現在、歴史的な転換期を迎えている と私は考えている。
食品スーパーへの対応は、食品メー カーのロジスティクス担当者にとって の重要な課題だ。
新たに台頭してきた 顧客に対応できるかどうかで、過去に 構築してきたロジスティクスの真価も 問われることになる。
次号では、食品 スーパーの流通に求められるロジステ ィクスの機能について、詳しく考えて みたい。
( か わ し ま ・ た か お ) 66年 大 阪 外 語 大 学 ペ ル シ ャ 語 学科卒業・米ゼネラルフーヅ(GF)に入社し人事部 配属、73年GF日本法人に味の素が50%を出資し合弁 会社「味の素ゼネラルフーヅ(AGF)」が発足、76 年AGF人事課長、78年情報システム部課長、86年情 報物流部長、88年情報流通部長、90年インフォメー ション・ロジスティクス部長、95年理事、2002年常 勤監査役に就任し、現在に至る。
日本ロジスティク スシステム協会(JILS)が主催する資格講座の講師 や敬愛大学経済学部講師などを多数こなし、業界の 論客として定評がある。
図2 食品関連小売業の業態別店舗数及び年間販売額の構成割合の推移 資料:経済産業省“商業統計表” 100 80 60 40 20 0 食品スーパー 食料品中心店 食料品専門店 コンビニエンス ・ストア 〈店舗数〉 〈年間売上額〉 平成 3年 6年 9年 11 年 3年 6年 9年 11 年 注:1)食品スーパー:売り場面積250平方メートル以上、食品の取扱額70%以上、セ ルフ方式の店。
2)食料品中心店:食品の取扱額が50%以上の商店。
3)食料品専門店:特定食品(例:鮮魚、青果物)の取扱額が90%以上の商店。
4)コンビニエンス・ストアー:食料品を扱っている売り場面積が30平方メートル 以上250平方メートル未満、セルフ方式、14時間以上営業の店。
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