ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年9号
やらまいか
赤字仕事を見分ける方法

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2003 66 3PLってなんじゃ? 3PL? いったい何のことだ。
読売ジャイ アンツの清原や桑田が通っていた野球の強いあ の高校のことか? サードパーティー・ロジス ティクスの略らしいが、まったく意味が分から ない。
しかし、英語であることだけは間違いな いようだ。
そのくらいオレにだって分かる。
どうも話を聞いていくと3PLというのは 「お客さんに代わって物流センターの運営や配送 を引き受けること」みたいじゃないか。
そう説 明してくれれば理解できる。
どうして欧米かぶ れの経営コンサルタントや大学の先生たちはわ ざわざ難解な言葉に置き換えようとするんだ? 誰かを煙に巻くためか。
まあいい。
物流が流通の仕事の一部を肩代わりするので あれば、3PLなんて言葉を使わず、簡単に 「物流通業」でいいじゃないか。
おお、こりゃい いな。
何となくイメージも湧いてくる。
しかも 日本語だ。
このほうがお客さんだって理解しや すいはずだ。
よしこれでいこう。
物流センター 事業は「物流通業」で決まり。
実は「物流通業」という言葉はこんな感じで 生まれたものだった。
3PLなんて洒落た言葉を使わずに「物流通 業」という言葉を用いて営業を展開したのは正 解だった。
ヨーカ堂の物流センターを立ち上げ て以降、お客さんから仕事の依頼が殺到した。
物流センターの運営から配送までを一括で請け 負ってもらえないかという打診だ。
小売業に限 らず、あるゆる業種からそうした要請が寄せら れるようになった。
ちょうどバブル崩壊で、どこの会社もコスト 削減に精を出し始めた頃だった。
経済新聞を開 けば「センター運営と配送を一括委託して物流 コストの大幅削減に成功した」なんていう見出 しが躍っていた。
「物流通業」を本格化しようと していたウチにとってはこうした新聞記事も追 い風となった。
ただし油断は禁物だ。
依頼があったからとい って、ホイホイと仕事を引き受けるわけにはい かない。
一般に「物流通業」はお客さんと複数 年の契約を交わす。
いったん安い料金で契約す ると、それを見直すのは至難の業だ。
きちんとコスト計算したうえで契約を結ばないと、契約 期間中、赤字を垂れ流すことになってしまう。
実際、周囲には採算の合わない「物流通業」 の仕事を引き受けてしまい、苦労している運送 屋が少なくなかった。
ババをひいたら大変だ。
儲 かる仕事でないとダメだ。
儲かる仕事とそうで ない仕事をきちんと見極める必要がある。
その際にとても役に立ったのが「収支日計表」 だった。
文字通り一日当たりの収支を計算する 表だ。
オレは倒産の危機に追い込まれた時から、 これを使い始めていた。
その仕事が儲かるのか、 そうでないのかが一発でわかる。
収支日計表の おかげで、ウチの会社は「物流通業」でもババ 第6回「 赤 字 仕 事 を 見 分 け る 方 法 」 イトーヨーカ堂の仕事を受注して以降、物流センター運営 の依頼が殺到した。
ただし闇雲に引き受けるわけにはいかな い。
ババをつかまされたら大変だ。
きちんと利益の出せる仕 事だけを選ばなければ。
そこで役に立ったのが「収支日計表」 だった。
大須賀正孝ハマキョウレックス社長 ――ハマキョウ流・運送屋繁盛記 《前回までのあらすじ》 単に荷物を運ぶだけのトラ ック業者は生き残れない。
そう判断して物流センター 事業に注力することに決めた。
初の大型案件となった ヨーカ堂の仕事は「日替わり班長制度」の導入が奏功 し、無事軌道に乗った。
物流センター運営プラス配送 の業務を「物流通業」と呼ぶことにした。
67 SEPTEMBER 2003 をつかまされずに済んだ。
逆に収支日計表がなかったら、儲かっている のか、損しているのか分からない。
お客さんに 対して見積書すら出せない。
ところが不思議な ことに、周りを見ると収支日計表をきちんとつ けている運送屋など当時ほとんどいなかった。
ど うやって仕事を引き受けるべきかどうかを判断 していたのか? 恐らく勘だったのだろう。
か つてのオレのように。
運送屋が用意している資料といえば、お客さ んに提出する運賃の請求書とドライバーに支払 う給料の明細書くらい。
月にどれだけの荷物を 運んだのかを示す輸送実績データすら用意して いない会社もあった。
収支日計表のような手間 の掛かる資料なんてとんでもない。
前にも説明したように、ウチの会社だって昔 はどんぶり勘定だった。
お客さんからもらう運 賃からドライバーの人件費や燃料代を引けば、 残ったカネはすべて利益。
そう思い込んでいた。
実際には人件費や燃料代のほかにも保険代や償 却費用などのコストが発生するのに、そんなこ とはまったく無視していた。
そのため、いくら働いても利益が残らない。
お かしいぞ。
でも本当はおかしくも何ともない。
儲 かっているはずの仕事が実は赤字だったのだ。
コ ストをきちんと把握せずに運賃を決めていたわ けだから無理もない。
収支日計表をつける習慣を身につけていなけ れば、今頃は会社が消えてなくなっていたに違 いない。
そもそも収支日計表を始めなければ、 銀行は融資を認めてくれなかったはずだ。
ウチ の会社がここまで大きくなれたのは収支日計表 のおかげだといっても過言ではない。
誰でも作れる収支日計表 収支日計表と聞くと何だが小難しそうで、し かも面倒臭そう、という印象を受けるかもしれ ない。
ところが実際にやってみると、これが意 外と簡単だ。
紙と鉛筆さえあれば誰でも使いこ なせる。
難しい知識は必要ない。
試しにやって みるといい。
いや本当は運送屋に限らず、どん な会社も収支日計表をつけるべきなんだ。
まず紙切れを一枚用意する。
ノートでも新聞 の折り込み広告の裏面でも何でもいい。
次にそ の紙切れに定規で横線と縦線を引いて、マス目 を作っていく。
トラック一〇台で商売をしてい るのであれば、縦のマス目が一〇個必要だ。
そ して、その左端のマス目にはドライバーの名前 を記入しておく。
横軸のマス目の上端には運賃収入(営業収 入)と各費用の項目を用意する。
左端が収入で、 その次のマス目からが費用の項目だ。
費用に関 するマス目の数は自分たちで決めればいい。
右 端は利益を書き込むためのマス目として空けて おく。
参考までに紹介しておくと、ウチの会社では 費用の項目として、?固定費、?燃料費、?タ イヤ・チューブ費、?修繕消耗費、?人件費、 ?有料高速代、?食事代、?管理費――などを 設けている。
このくらいあれば十分だろう。
も ちろん、これ以上用意しても構わない。
おっと、費用項目の詳細を説明しておく必要 があるな。
ウチの場合は固定費とはトラックの 償却費用、管理費は営業で必要となる書類の費 用などを指している。
残りの項目はその名の通 り。
人件費はドライバーの給料。
修繕消耗費は トラックの修理代だ。
ここまでくれば収支日計表の下準備は、ほぼ 完了。
あとは記入方法を覚えるだけ。
それも難 しいことはない。
左から順番に実際に発生した 費用の数字を書き込んでいけばいい。
そして最 後は引き算。
運賃収入から各費用を引いていき、 利益の数字を記入すれば、できあがり。
どうだ 簡単だろう? 完璧じゃなくても構わない 収支日計表で面倒な作業といえば、費用を日 割り計算することくらいだ。
例えば、固定費で は一年間に掛かるトラックの償却費用を三六五 日で割っておく必要がある。
人件費も同じよう 最近は講演会などを通じて収支日計 表を紹介する機会も増えてきた SEPTEMBER 2003 68 に、ドライバーの月給を稼働日数で割っておか なければならない。
しかしこの作業だって電卓を叩けばあっとい う間に終わる。
しかも例えば償却費用であれば 一度計算しておけば、次からは同じ数字を書き 込んでいけばいいだけの話。
毎日同じ数字が入 る項目については予め数字を入れておいて、そ の紙をコピーして使うようにすると、とても便 利だ。
わざわざ日割り計算しなくてもいい項目もあ る。
例えば燃料費と有料高速代。
燃料費は給油 した日のみ、高速代も高速道路を利用した日の みコストとして計上する。
給油や高速利用がな かった日にはマス目にゼロと書き込む。
本来で あれば、燃料費や高速代も日割り計算すべきな のかもしれない。
しかし、そこまで厳密に計算 しなくても用は足りる。
忘れてはならないのは事務作業を担当してい る社員のコストを管理費に盛り込むことだ。
運 送屋で実際にカネを稼いでくるのはドライバー。
事務職の社員は収益を生まない。
「いや〜今月 は儲かったなぁ」と満足していたら、実は事務 職のコストを計上していなかったなんてことが しばしば起こる。
タイヤ・チューブ費や修繕消耗費のように、 どのタイミングで費用が発生するかがはっきり しない項目には前年実績をベースにした概算値 を入れておけばいい。
要するにタイヤ・チュー ブ費や修繕消耗費というコストの存在を明確に しておくことに意味があるのだ。
収支日計表の目的は完璧を追究することでは ない。
このところを勘違いしてはならない。
自 分の担当している仕事が儲かっているか、それ とも赤字なのかを社員一人ひとりに理解させる ことが真の狙いだ。
習慣として長続きさせるた めには適度な手抜きも必要だということを頭に 入れておくべきだ。
一つだけ使い方にコツがある。
収支日計表は 社員全員で作ったほうがいい。
そして作成した ら全てを公開する。
社員は自分の仕事が儲かっ ていれば、会社に貢献しているという自信が深 まる。
さらに頑張ろうという気持ちになる。
反 対に赤字ならば何とか挽回しようと色々な策を 練るようになる。
こんな出来事があった。
ある年配ドライバー は高給取りのため、どうしても自分の担当する 仕事の収支が赤字に陥りがちだった。
給料の安 い若手ドライバーたちはきちんと利益を上げて いる。
いつも引け目を感じていた年配ドライバ ーはどういう行動に出たか。
驚いたことに、自分の仕事を終えた後、若手 ドライバーの仕事を手伝うようになったのだ。
自 分のマイナス分を補填するためだ。
このように 収支日計表には事業所のドライバーたちの間に 連帯感が生まれるという効果も期待できる。
収支日計表をオープンにすることは横領など の不祥事を未然に防ぐことにもつながる。
日々 の数字を事業所の社員全員で管理するため、経 理操作ができない環境になる。
すべての数字を ガラス張りにしておくことが大切だ。
ガラス張 りにできない会社には何か後ろめたいことがあ るんだろうな。
ウチの会社は自慢じゃないが、情報の何もか もがオープンだ。
社員は皆、オレが給料をいく らもらっているかを知っているはず。
もちろん 一番多い。
社長だからな。
しかしその分、ほか の誰にも負けないくらい働いているという自信 がある。
前にも宣言したが、会社の中で仕事量 が一番でなくなったら、すぐに社長のイスを誰 ズラリと並んだ収支日計表のファイ ル。
全国の事業所から寄せられるデ ータを本社で一括管理している 69 SEPTEMBER 2003 かに譲るつもりだ。
「トラック動かすな」のウソ 収支日計表をつけ始めるようになって、オレ はトラック運送業界に昔からある通説が大きな 間違いであることに気づいた。
「仕事がなければ トラックとドライバーを休ませれば損はしない」 ――。
これはまったくのウソ。
どんぶり勘定で 経営している企業の発想だ。
やはりトラックは 遊ばせることなく稼働させたほうがいい。
税金、保険代、償却費などでトラックには一 日当たり一万三〇〇〇円程度の費用が発生する からだ。
新車のトラックだとその額が一万六〇 〇〇円に跳ね上がる。
つまり「休ませれば損は しない」と考えている会社はこうした費用を見 落としてしまっているのだ。
何を隠そう、ウチの会社もかつてはそういう 運送屋の一社だった。
しかし、収支日計表を通 じてこの通説が誤りであると知ってからは極力 トラックを遊ばせないよう努力した。
だからと いって何でもかんでも仕事を引き受ければいい わけではないよ。
コストに見合う運賃・料金が もらえることが前提だ。
ウチの会社が収支日計表をつけ始めるように なってから既に三〇年以上が経過している。
ス タート当初は手書きだったが、トラックの保有 台数が増え、計算の作業に時間が掛かるように なったため、二〇年前からはコンピュータを使 って作成するようにしている。
コンピュータっ ていうのは本当に便利だ。
毎日の計算作業に負 担を感じることもなくなった。
オレはかつて、各事業所から提出される収支 日計表に毎日欠かさず目を通すようにしていた。
さすがに現在では事業所の数が増えたため、そ うするわけにもいかなくなったが、それでも週 単位や月単位でのデータを必ずチェックするよ うにしている。
収支日計表を眺めれば、どの事 業所がどんな仕事を行っていて、今どんな悩み を抱えているかが一目瞭然だ。
問題のある事業 所には素早く適切な指示を出せる。
ウチの様子を見て、収支日計表をつけ始めよ うとする運送屋から様々な質問をぶつけられる。
先日も「収支日計表の数字と最終的な決算の数 字が大きく乖離することはないか」という質問 を受けた。
答えはノーだ。
不思議なことに費用の項目に 概算値を当てはめていても、数字に大きなズレ が生じることはない。
だいたい誤差は一億四〇 〇〇〜五〇〇〇万円という数字に対して四〇〜 五〇万円程度だ。
このことには大抵の業者が驚 く。
収支日計表をつけ始めるようになってから決 算も楽になった。
月ごとの決算を出すまでの日 数は大幅に短縮された。
現在、各事業所から 決算が提出されるのは締め日の翌日か二日後 くらい。
経験が豊富な事業所になると、締め日 の翌日午前中には本社に提出を済ませている。
今、ウチは日本一決算の早い会社なんじゃない か?   以上で収支日計表の付け方とそのメリットに ついての解説は終わり。
なんだこの程度かと拍 子抜けしたでしょう? でも本当にこの程度な んだ。
しかし残念ながらトラック運送業界では この収支日計表がまだまだ浸透していない。
ウ チの取り組みを参考にして導入が進んでくれれ ば嬉しいかぎりだ。
ウチの会社は外向けにも情報をオープンにし ている。
物流センターの見学は大歓迎だ。
オブ ザーバーとして経営会議に出席してもらった会 社もある。
たいしたことをやっているわけでも ないから会社の内部を見られても全然平気なん だ。
この記事を読んで収支日計表に興味を持たれ た方はいつでもウチに連絡してくれれば、ノウ ハウを教えるつもり。
捌ききれないくらい殺到 しちゃうと困るけど、できる限り対応させても らう。
もちろん無料だ。
ただしお互いにとって プラスになるよう色々と情報交換できる相手じ ゃないと。
ギブ・アンド・テイクってやつ? オ レの英語もなかなかでしょう? (以下、次号に続く) おおすか・まさたか 一九四一年静岡県 浜北市生まれ。
五六年北浜中卒、ヤマハ 発動機入社。
青果仲介業などを経て、七 一年に浜松協同運送を設立。
九二年に現 社名の「ハマキョウレックス」に商号変 更した。
二〇〇三年三月に東証一部上場。
主要顧客はイトーヨーカ堂、平和堂、フ ァミリーマートなど。
流通の川下分野の 物流に強い。
大須賀氏は現在、静岡県ト ラック協会副会長、中堅トラック企業の 全国ネットワーク組織であるJTPロジ スティックスの社長も務めている。
ちな みにタイトルの「やらまいか」とは遠州 弁で「やってやろうぜ」という意味。

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