ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年9号
リーダーシップ論
変革に向けてのロードマップ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2003 60 ロジスティクスは変化対応型へ これまで長い間にわたって、経済環 境が変化するのに伴い、経営手法お よびマーケティング手法もまた繰り返 し改良を加えられてきた。
しかし今日 の企業は過去の手法を単に改良する だけでは対応できない変化に直面して いる。
抜本的な改革が必要になってい る。
そこから消費財業界ではECR と呼ばれるモデルが登場した。
それが 筆者の主張の一つである。
とりわけ一般消費財を扱う量販チ ェーンにとって、ECRは経営の根幹 を成すモデルといえる。
「プッシュ型 からプル型へ」とも言われるように、 売り手側の都合を顧客に押しつける のではなく、顧客の要望に上手く合わ せていく能力を組織として構築してい くのである。
これは「目の前にいる顧客の満足度 を最大化しながら、かつ個別対応する パターンを増やすことで悪化する経営 効率とのバランスをうまく調整する能 力」を作っていくということである。
この変化に伴いロジスティクスの分 野では、画一的なサービスを前提にし てコストパフォーマンスを向上させる という従来のアプローチに代わって、 「顧客ニーズに応じたサービス提供と 投資・コストの最適化」が主要課題となった。
変化対応型のロジスティク スとも言える。
変化対応型のロジスティクスを実現 するには、マーケティング活動と、ロ ジスティクス活動の戦略的な連携が必 要になってくる。
それを支えるのがオ ープン・ネットワーク型のITを使っ た情報共有だ。
情報共有において、とりわけ日本企 業が留意しなければならないのは、ネ ットワークの接続を効率的に行うため の標準化の重要性である。
標準化さ れた情報システムによるコラボレーシ ョンを活用して、業務プロセス、組織 構造、取引制度などのパラダイムを変 革しなければならない。
これが、これまでの要旨である。
変革をどう進めるか ECRに取り組むということは事実 上、経営そのもののあり方を抜本的に 見直し、変えていくことに他ならない。
そのような大規模な変革を、いったい どのように進めていけば良いのだろう か。
それが本連載の最後に触れなけれ ばならないテーマの一つである。
ECRは、元々は受発注のEDI 化から始まり、CRP(連続自動補 充)などへと進化を辿ってきたことか ら、一般には「消費財業界のSCM」 として理解されている。
ただし、その 具体的な取り組み内容は多岐に富ん でいて、そうシンプルに言いあらわすことはできない。
ECRにはカテゴリーマネジメント などの「消費者需要に応じたプル型」 を志向したマーケティング手法も包含 されているし、CPFRのようなモデ ルも組み込まれている。
近年では効率 化のための手法から需要活性化、つ まりは売上拡大のための手法まで、そ こに加えられるようになった。
こういった新しい手法を取り入れて 変革に向けてのロードマップ 楢村文信 
弌G 
釘達劵優奪肇錙璽ング・マネージャー ECRにおけるロジスティクスのリーダーシップを論じた本連載のまと めとして、最後に取り組みのロードマップと、そのツールを解説する。
か つて「ECRスコアカード」と呼ばれたツールは現在、「ケイパビリティ・ アセスメント・ツール」と名称を変え、内容を進化させている。
﹇最終回﹈ 61 SEPTEMBER 2003 いくためには、企業の戦略的な方向性 に始まり、意思決定の仕組み、組織 構造、評価制度なども変えなくてはな らなくなる。
(余談になるが、このように会社の 全てを作り直すことになるからこそ 「再構築=Restructuring: リストラク チャリング」と名付けられたわけであ る。
それがいつの間にか、雇用カット を意味する言葉となってしまったのは 残念である。
理想的には、新しい企業 の構造をデザインし、そこに必要な人 材をその能力に応じて再配置し、新 しい仕組みに適応できるように社員の 能力開発を進めながら会社を作り直 していくようなアプローチを取るべき である。
これがなければ、去るも不幸、 残るも不幸となってしまう)。
米国ECRが作成したECRロー ドマップの中では、何よりまずECR そのものへの理解が必要であると強調 されている。
その上で、「消費者志向 実現」に向けて自社の現状把握を行 い、その結果から目標を設定し、具体 的なアクションプランの策定を進めて いくべきだとしている。
それと平行して、社内教育と組織 変革を進めていかなければならない。
これはSCMやCRMでも同じことだ が、ECRの取り組みにおいても、世 間ではITの導入による成果の側面 ばかりが強調される傾向にある。
IT はあくまでもツールである。
ツールは、 それを使いこなす体制がなければ機能 しない。
体制作りが重要であることを 忘れてはならない。
またECRのガイドブックには、変 革を進める上での重要な要素として、 「SOURCE」と呼ばれるモデルが 紹介されている。
これは「戦略 ( Strategy )」、「主体性(Ownership)」、 「理解促進(Understanding )」、「報 償・インセンティブ(Reward )」、「能 力開発(Competencies )」、「実行 ( Execution )」の六つの頭文字をとっ たものである。
標準化された評価ツール ECRは企業全域にとどまらず、取 引先まで巻き込んだ幅広い、包括的 な構造改革である。
そのため取り組み の進展状況や、各種のパフォーマンス を評価するためのアセスメントも容易 ではない。
とりわけ取引先との関係を アセスメントするのは難しい。
取引上 の駆け引きが存在する場合には、双方 の思惑が入り、しばしば社内情報の開 示などが制約される。
そのためにECRでは業界標準と なる「ケイパビリティ・アセスメン ト・ツール(実行能力評価ツール)」 というものが開発され、提供されてい る(六四ページ参照)。
かつては「E CRスコアカード」と呼ばれていたが、 実体としてはECRの実行能力を評 価するものであることから、GCIに よって二〇〇〇年に国際標準版が開 発されたのを機に、現在の名称に改め られた。
ケイパビリティ・アセスメント・ツ ールは、ECR実現の上で必須とな る三七の項目に関して、その達成度 を五段階で評価することで、自社の能 力や、取引先と自社の能力ギャップ を見出し、取り組むべき課題や、EC R能力構築のロードマップ作成を支 援してくれるものである。
理想形とさ れるビジネスモデルへの転換(トラン スフォーメーション)の度合いを把握 するツールであり、同時にECR型ビ ジネスモデルの定義書と見ることもで きる。
三七の項目は、ECRのフレーム ワークを構成する四つの領域、すなわ ち「ディマンド・マネジメント(需要 動向管理)」、「サプライ・マネジメン ト(供給管理)」、「実現可能技術」、「統 合技術」について、それぞれその要素 概念を整理している。
この三七項目 は難易度から基礎領域と先進領域の 二つに分けられている。
そこには「戦略」、「組織・評価制 度」、「プランニング能力」、「オペレー ション能力」、「効果測定」、「IT活 用」といった経営管理に欠かせない要 素が全て盛り込まれている。
ECRは 経済構造そのものが変わる中で、歪み を起こしてしまった会社の仕組みを全 く新しく作り直す活動である。
そのた めに経営の主要項目を全てカバーしな ければならないのである。
また、このケイパビリティ・アセス メント・ツールは三七の項目全てにつ いて、「未計画」、「計画策定中」、「試 験導入」、「導入展開中」、「全面導入」 という切り口から、その進捗を五段階 に分類し、それぞれのレベルがどうい う状態にあるべきかについて記述して いる。
採点は一六〇〇点満点で評価する。
図1 ECRのフレームワーク ディマンド とサプライ の統合技術 ディマンド・チェーン・マネジメント サプライ・チェーン・マネジメント 基盤技術:ITとABC 消費者 企業 SEPTEMBER 2003 62 三七項目に対してECRの試算に基 づいた効果度合いに応じた加重配点 がされている。
これに、五段階に応じ た配点から、点数を計算する仕組み になっている。
これを全体や、焦点と なる分野ごとに集計することで、スコ アによる他社とのベンチマーキングに 活用できるようになっている。
米国ではECRの普及期には、「導 入展開中」、「全面導入」に達すれば ECRが実現していると考え、この段階に達している項目がいくつあるかで ECRの成熟度を評価していた。
このようにいくつかの評価の視点を 持つのは、取り組み全体のバランスを 考慮する必要があるからである。
EC Rの基礎的な分野から強化するのか。
改善効果の大きいところに注力するの か。
自社の戦略課題に応じた項目、取 引先であるパートナーとのギャップ、 あるいは業界平均からみた自社が優位 性のある部分を強化するのか、弱みを 解決するのかなど。
様々な視点から何 に取り組むか、どういった順番で取り 組むかを決めていきながらECRのロ ードマップを作成していくのである。
標準化されたツールであっても、そ れを使用する各社のロードマップは取 り組む項目を選択する視点によって異 なってくる。
ここで、競争力を発揮す るべきであると考えられている。
このツールは元々、情報システム開 発のプロジェクト管理用に開発された ものである。
ECRの基盤となるネッ トワーク型のシステム連携を管理する 目的で、アプリケーションをモジュー ル化し、段階的に構築・統合してい くためのロードマップとして米国で開 発された。
ちなみにECRにおけるIT活用 では、日本ではCRPなどの要素技 術ばかりが注目されたが、実際には図 2のような「ECRシステム」という トータルシステムがベースに存在して いる。
IT的な観点では、図2のよう な情報システムを機能させるようにす ることがECRなのである。
その後、ケイパビリティ・アセスメ ント・ツールは情報システムだけでは なくECRに必要な項目を網羅する ように拡張された。
当初は米国で実践 されたベストプラクティスの事例がベ ースになった。
その結果、開発された ツールは米国のECRベストプラクティスの要約版ともいえるものだった。
さらにECRがヨーロッパ、アジア、 南アメリカへと拡がっていくにつれ、 ケイパビリティ・アセスメント・ツー ルも各地域や国ごとのバージョンがE CR推進組織によって開発されてい った。
そして大手小売業を中心とした 国際展開が進む中で、国際的に共通 して使えるツールを求める声が高まり、 グローバル版が開発された。
図2 基本的なECRのトータルシステム 納入価格と 販売促進管理 商品マスター 管理 売掛管理 発注管理 発注量 計算 自動在庫管理 発注管理 商品マスター 管理 納入価格と 販売促進管理 輸送管理 販売予測 店舗直送 スキャン検品 (倉庫レベル) クロス ドッキング スキャン検品 (店舗レベル) 継続棚卸 システム POS スキャン POS 履歴 販売予測 店舗からの 発注書計算 店舗の品揃え 計画立案 カテゴリー& 売場スペース管理 自動倉庫管理 システム 買掛管理 カテゴリー/マネジメント CAO 物流支援 CRP 実績評価 サプライヤー 中間流通 小売店舗 63 SEPTEMBER 2003 筆者もGCIのワーキンググループ のメンバーとしてこのケイパビリテ ィ・アセスメント・ツールの開発に参 加している。
グローバル版の課題とし て感じているのは内容が概念的である ことだ。
グローバル版は、環境が異な る市場でも共通して利用できるように 敢えて概念化を進めたことで具体性 が多少、犠牲になっている。
その結果 ECRそのものへの十分な理解がない と、評価することが難しい。
しかし大切なのは全体を見渡した中 で問題を浮きぼりにすることである。
筆者はグローバル版の開発以前に、米 国版を元にした日本版のアセスメン ト・ツールを業界の研究会で開発し、 実際に使ってみたことがある。
米国の ベストプラクティスをベースにした約 一〇〇の項目を設け、小売り、メー カー、ホールセラー、ブローカー用な ど業種に応じたタイプが用意された。
米国版の各項目の内容はグローバ ル版と比較するとかなり具体的で、何 をしなければいけないかということが 明確であった。
その一方、項目数が多 いために、どうしても作業負担の増え てしまうことが導入の制約となってい た。
またグローバル版でさえ導入に相当 の労力が必要なことから、GCIでは 簡易版として約一〇〇問の質問に答 え る 形 で ア セ ス メ ン ト を 行 う 「 Intermediate (中級)編」と、約五 〇問の「Entry (導入)編」も開発さ れている。
とくにイギリスでは、大手小売チェ ーンがB2B用のインターネット型取 引システムの活用促進の一環として、 サプライヤーの能力開発目標を設定 する目的でサプライヤー・リレーショ ンシップ・マネジメントのツールに利 用している。
標準化されたツールを用 いて能力構築の成功事例を他のサプ ライヤーにも適用して、変革を加速さ せようとしているのである。
同じ目的から、毎年のECR大会 (前号参照)では、プレゼンテーショ ンの冒頭に、これから紹介する事例が アセスメント・ツールのどの項目に該 当するものなのかを示している。
このように、ECRでは改革を実際 に支援する部分まで踏み込んで取り組 みが進んでいる。
SCMのリーダーシップ実現 日本では二〇〇〇年頃に「失われ た一〇年」という言葉が盛んに使われ ていた。
その後、果たして変革は進ん だのであろうか。
その必要性は誰もが 認識していながら、実際には思うよう に変革が進んでいないように見える。
BPRに始まりSCM、CRM、B 2Bなど、新しい経営コンセプトの研 究には熱心でも、そこに至る改革方法 そのものについては、それほど議論さ れてこなかったという印象を持ってい る。
米国のECRでは企業変革に関す る各種のガイドブックのほか、前述の 「SOURCE」と呼ばれるモデルや、 組織パフォーマンス管理についての 「OPM(オーガニゼーション・パフ ォーマンス・モデル)」と呼ばれるモ デルが紹介されている。
日本でも具体 的な手法について、もっと突っ込んだ 議論が展開されることを期待している。
変革のリーダーには、とても多くの ことが求められる。
変革の必要性への 理解、どういう姿に変革するかという 具体的なビジョン、そのことから得ら れる成果とその裏付け、どうすればそ れが実現できるかという計画、そのた めに必要な個々人のスキルやツール― ―こうしたことを明確に示さない限り、 リーダーシップは発揮できない。
今日の企業には経営環境の急速な 変化に対応できる柔軟性の高い組織 が求められている。
その一つの条件が 「持たない経営」だと言える。
必要な ものを即時に調達できる体制を作るこ とで、自ら抱えるものを最小限に抑え るのである。
そのためには企業の基幹サービスに 関するロジスティクス能力の向上が不 可欠の要素になる。
企業の生面線と いっても過言ではない。
しかし、伝統 的な物流のパラダイムのままでは、今 日のニーズに対応することは難しい。
物流の領域を超え、SCMを実現で きる体制へと全社的な変革を行わな ければならないのである。
さて、本連載はこれでいったん終了 となる。
筆者は一年にわたる連載を通 じて、企業のSCMリーダーに対して、 今日求められている課題に答えるため の何らかのヒントを提供しようと意識 してきたつもりである。
自分の会社や 取引先を、より良く変革しようとする 実務家がリーダーシップを発揮する上 で、少しでも役に立てるような知識・ 視点が提供できたならば幸いである。
「ロジスティクス・リーダーシップ論」は今回 で終了します。
楢村氏には近く「ケーパビリ ティ・アセスメント・ツール」の活用法をテー マとした新企画で連載を開始していただく 予定です。
お楽しみに ! 編集部からのお知らせ SEPTEMBER 2003 64 グローバル版ECRケイパビリティ・アセスメント・ツール:配点要素 焦点分野とその概念的要素 焦点分野 概念的要素 D.需要動向管理(ディマンド・マネジメント) D1.需要動向管理戦略及び実行能力 戦略的方向性−消費者価値を実現するビジネス・モデル 戦略的方向性−カテゴリ−・マネジメント 人事及び組織 情報管理 D2.品揃えの最適化 品揃えの計画立案 品揃えの実施 品揃えの評価 D3.販促活動の最適化 販促活動の計画立案 販促活動の実施 販促活動の評価 D4.新製品導入(NPI)の最適化 新製品導入の計画立案 新製品導入の実施 新製品導入の評価 D5.消費者価値の創造 消費者に関するナレッジマネジメント 消費者のためのソリューション提供 消費者へ向けたチャネル開発 S.供給管理(サプライ・マネジメント) S1.供給管理戦略及び実行能力 戦略的方向性 人事及び組織 情報管理 S2.的確に対応する補充システム 店舗発注の自動化 連続補充 物流手法 配送の最適化 効率的なユニット・ロ−ド S3. 需要に基づく供給の統合 需要に連動した生産 サプライヤ−との業務プロセスの統合 S4. オペレーションの信頼度 店舗オペレーションの信頼度 配送オペレーションの信頼度 生産オペレーションの信頼度 E. 実現可能技術 E1.共通のデ−タ及び通信規格 商品コ−ド及び出荷ラベル用コ−ド マスタ−・デ−タの整合性 EDI(電子デ−タ交換) 電子コミュニケーション規格 E2.コスト/利益及び価値の測定 活動基準原価計算(ABC) 消費者価値の実現度の測定 I. 統合技術 I1.協働計画立案 I2.企業間(B2B)Eビジネス 基礎領域の総計 基礎領域+先進領域の総計 先進 基礎 基礎 基礎 基礎 基礎 基礎 基礎 基礎 基礎 基礎 基礎 基礎 先進 先進 先進 基礎 基礎 基礎 基礎 基礎 基礎 先進 先進 基礎 基礎 基礎 基礎 基礎 基礎 基礎 基礎 先進 基礎 先進 先進 先進 小売業 卸・メーカー 共同評価 基礎・先進領域 スコア配点表 注1)N/A=該当せず。
スコアのつけられない項目を意味します。
注2)点数換算方法: 各項目のスコア ÷ 4 × 各項目の配点 = 加重された配点 600 150 50 40 30 30 100 40 30 30 100 40 30 30 100 40 30 30 150 50 50 50 550 100 40 30 30 350 100 100 50 50 50 0 N/A N/A 100 50 50 N/A 250 150 50 25 25 50 100 50 50 200 100 100 1,000 1,600 600 150 50 40 30 30 100 40 30 30 100 40 30 30 100 40 30 30 150 50 50 50 550 100 40 30 30 250 N/A 100 50 50 50 100 50 50 100 N/A 50 50 250 150 50 25 25 50 100 50 50 200 100 100 1,000 1,600 600 150 50 40 30 30 100 40 30 30 100 40 30 30 100 40 30 30 150 50 50 50 550 100 40 30 30 250 N/A 100 50 50 50 50 50 N/A 150 50 50 50 250 150 50 25 25 50 100 50 50 200 100 100 1,000 1,600

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