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OCTOBER 2003 14
「冷たい路線会社」目指したキユーソー
食品メーカー・キユーピーの物流子会社、キユーソ
ー流通システムは今日の物流市場にあって数少ない
?勝ち組〞の一つだ。 七月に発表した二〇〇三年十
一月期中間決算の連結売上高は前年比一七・二%増
の五八三億円、通期では約一四%増の一〇七四億円
を見込んでいる。 九月一九日現在、同社の株価は一
四九〇円をつけている。
親会社を含めたグループ会社以外の荷主向け事業
が総売上に占める比率、いわゆる外販比率は約七二%
に及ぶ。 物流子会社の成功モデルとしても、同社は日
立物流と並び称される存在といえる。 ただし、日立物
流が自らを日本型3PLと位置付けたのに対し、キユ
ーソーは食品業界に特化した共同配送を事業の柱に
据えている。
親会社用の物流インフラをベースにして、そこに親
会社のライバル会社たちの荷物を取り込むかたちで外
部荷主を獲得。 事業収入を得ると共にインフラの稼
働率を向上させて親会社向け物流でもコストダウンを
図る――そんな物流子会社経営の定石の一つを、キユ
ーソーは着実に進めてきた。
同じアプローチで今日、他の多くの物流子会社も外
販の拡大を図っている。 しかし上手くいっているケー
スは希だ。 成否を分けている理由の一つは配送ネット
ワークにある。 通常の物流子会社は親会社の貸し切り
便の空いたスペースを共配によって埋めようという発
想に立っている。 既にその車両の運賃は親会社から収
受しているため、新たに獲得する外部荷主の運賃は、
いくら安くてもプラスになる。
理屈としては正しい。 しかし実際には、それでは儲
からない。 物量には波動がある。 一年を平均した車両
共同化事業の成功モデルを探る
キユーソー流通システム/プラネット物流/大成建設
物流業者主導の同業種共配が台頭している。 トラック1台を貸
し切るのに満たない中ロット以下の貨物輸送は、これまで特別積
み合わせ便が担ってきた。 それが共配の普及によって業界別に再
編されようとしている。 特積みと共配では、果たす役割は似てい
てもビジネスモデルは全く異なっている。 (大矢昌浩)
第1部
積載率に余裕があったとしても、繁忙期には少なから
ず傭車の使用が発生する。 配送効率を考えると、共
配の対象は親会社と納品先の重なる同業他社が望ま
しい。 しかし両社は繁忙期もぴったり重なる。 安い運
賃で獲得した外部荷主のために傭車を増やせば結局、
逆ザヤになってしまう。
配車の問題もある。 繁忙期でなくても、親会社と外
部荷主の配送を統合管理する配車の仕組みがない限
り、車両の積載率を上げることはできない。 たとえ安
い運賃でも、いったん受注した以上、空きスペースが
ないからといって運ばないというわけにはいかない。
配車に失敗すれば、やはり逆ザヤ覚悟で傭車を使わざ
るを得ない。
これに対してキユーソーは、親会社の既存インフラ
に頼るのではなく、共配用の新しい全国配送ネットワ
ークと、それを統合管理する配車システムの開発に長
い時間をかけて取り組んできた。
七五年に当時のキユーピー倉庫に初のプロパー社員
として入社し、現在運送事業本部長を務める佐々木
健二取締役は、これまで同社が目指してきたものを
「冷たい路線会社」と表現する。 実際、同社の協力運
送会社約一〇〇社で組織する「キユーソー会」の配
送インフラは特別積み合わせ(特積み)便、かつての
路線便のネットワークそのものだ。 キユーソー会の会
員運送会社が所有する拠点間には大型車の幹線輸送
が定期的に運行し、四トン車を主力とした約三〇〇
〇台の集配車が毎日全国を走っている。
そこで使用される車両は座席後部のベッドを撤去す
ることで積載重量を確保し、車両価格を下げた独自
規格の専用車。 この車両を含めタイヤ、燃料などの設
備は会員会社で組織する共同組合「キユーソー事業
共同組合」で一括購入している。 組合を通して会員
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契約の貸し切りか、あるいは自家配送しか選択肢がな
かった。
もちろん常温商品で大型車一台分に満たない荷物
については、キユーソーも長年、路線便を利用してき
た。 しかし、そのサービス品質は満足できるものでは
なかった。 実際、納品先からのクレームの大部分は路
線便で納めた荷物だった。 加えて路線便では納品条
件の細かい指示ができない。 決まった送り状を使用し
なければならないため、受領証の問題もあった。
こうした既存の路線便の欠点を補うことのできるネ
ットワーク作ろうという狙いから、キユーソーの「冷
たい路線便」計画は出発した。 しかも同社は自分では
資産を持たないノンアセットを基本にして配送ネット
ワークを構築しようと目論んだ。 資本を投下した地域
配送子会社も一部には抱えているものの、主力は各地
域の強い運送会社を組織化することでリソースを確保
した。
会員会社の選定ではサービス品質と並んで、その会社の経営力を重視した。 実際、会員会社は地場運送
とはいっても、いずれもキユーソー以外に主要荷主を
持ち、都道府県単位で見れば中堅規模以上の運送会
社ばかり。 現在のキユーソーの連結売上高は一〇〇〇
億円余りだが、キユーソー会のメンバーの売上高を合
計すればその数倍に上る。 これは西濃運輸、福山通運
といった準大手路線業者に匹敵する。
会員会社が他にも仕事を抱えていれば、キユーソー
の都合ばかりを優先するわけにはいかなくなる。 それ
でも佐々木取締役は「当社の仕事が、その会員会社
の売上高全体の三割を超えないようにチェックしてい
る」という。 定温食品は他の商材に比べれば一年を通
して物量が安定している。 しかし繁閑差は必ずある。
キユーソーの仕事だけに依存しているような会員会社
会社は高速道路料金の大口割引も享受している。
キユーソー会は法人格が会員会社に分散しているだ
けで事実上、一つの路線業者として機能している。 た
だし、そのネットワークは通常の路線便と違って、冷
凍・冷蔵・常温の三温度帯を扱うことができる。 しか
も運賃は路線便より安い。 それでも十分ペイできる。
最終的な納品先が食品メーカーの顧客となる小売りや
卸に集中しているため、配送効率が格段に高いのだ。
現在、キユーソーではこの「定温路線便」を一歩進
め、「定温宅配便」の拡大を図っている。 「キユーソー
スルー便」の名称で宅配便のセールスドライバーよろ
しく、会員会社のドライバーが既存の荷主や納品先に
対して集荷営業を展開している。 定温だけでなく常温
も扱う。 大手宅配会社や郵政公社のクール便がB
to
CやC
to
Cを主体としているのに対し、スルー便は
B
to
Bに対象を限定している分、配送効率が高い。
これまでキユーソー会の会員会社はキユーソーが獲
得した荷物を下請けとして運ぶという立場にあった。
これを改め会員会社のドライバーが直接荷物を獲得し、
それを全国ネットワークで運ぶことで、キユーソー会
全体の集荷力を高めようという発想だ。 これによって
事業をスタートした二〇〇〇年十一月期に約一四億
円だったスルー便の売上規模は今期七五億円まで拡
大する見通しだという。
ノンアセット型の路線業
八二年にキユーソーが冷蔵・冷凍食品の共同輸送
を開始するまで、日本に定温貨物の小口配送を扱う
物流業者は存在しなかった。 路線便の扱いは常温に
限られていた。 しかも九〇年に「物流二法」が施行さ
れるまで、規制によって混載輸送は路線業者だけにし
か許されていなかった。 結局、定温商品の配送は長期
キユーソー流通システムの
佐々木健二取締役運送事業本部長
●共配の領域(本誌作成)
規格化
サービス
業界別
サービス
荷主別
サービス
路 線 宅 配
共 配 共 配
貸切便 貸切便 貸切便
大
サービス/ロット
小 ロ
ッ
ト
路線便
宅配便
共 配
貸切便
大
価格/ロット面
小 ロ
ッ
ト
共 配
大
小
価格
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では物量の波動に対応できないという判断だ。
八二年のサービス開始と同時にキユーソーの定温路
線便は大ヒットした。 開始に当たってキユーソー会で
は六〇〇台を一気に増車したが、それでも集まった荷
物を処理しきれない。 事務所は配送依頼を断るのに精
一杯。 受注プロセスとオペレーションを整理するまで
の一年以上にわたり、現場は混乱状態が続いた。 それ
だけ荷主の反響は大きかった。
拡大する業界別共配事業
車両やドライバーなど、配送実務に関する資産を持
たないかわりに、キユーソー自身は配車を管理する情
報システムには積極的に投資を行っている。 共配事業
を開始した翌年の八三年には荷主とのオンライン化を
開始。 さらに八四年には全国の協力会社の配車の一
元管理に着手した。 その後、九二年に貨物追跡シス
テム、九五年に自動配車システムを開発。 これが現在
は「QTIS」と名付けた求車求貨システムへと発展
している。
ノンアセット型の全国配送ネットワークと、それを
一元管理する配車管理システム。 この二つがキユーソ
ーにあって他の物流子会社にないインフラだ。 全く同
じアプローチでゼネコンの大成建設と中堅運送会社の
中越通運は今、医薬品業界の共配に乗り出そうとし
ている。
医薬品工場や物流センター向けエンジニアリングで、
大成建設はトップシェアを握っている。 物流コンサル
ティング事業でもゼネコンとしては最も古い歴史を持
つ。 一方の中越通運は新潟を地盤とする老舗路線業
者・中越運送のグループ会社で、社名の通り通運と
して出発しながらも近年では3PL事業への傾斜を強
めている。
両社は今年、共同出資でネットワーク・アライアン
ス(NAC)を設立した。 医薬品業界を対象にした
3PLと共同配送の運営がその目的だ。 NAC自身
はアセットを持たない。 配送ネットワークはキユーソ
ーと同様、各地の運送会社をパートナーとして組織す
る。 そのために八月にはパートナー候補の運送会社を
集めて説明会を開催した。
NACの専務に就任した大成建設の舘康太郎エン
ジニアリング本部ロジスティクス計画グループグルー
プリーダーは「大成建設の持つ医薬品物流のノウハウ、
そして中越通運の配車管理能力を活かした共同配送
ネットワークを薬品メーカーや卸に提案していく。 既
に複数の荷主との交渉も進んでいる」という。
薬品業界の共配には日立物流も名乗りを挙げてい
る。 今年四月に発表した中期三カ年計画のなかで同
社は「物流プラットフォーム事業」と銘打って、荷主
業界別の共同物流事業を拡大する方針を打ち出して
いる。 当面は薬品、家電、日用雑貨品などが対象だ
という。 既に東北地区で日雑商品の共同化トライアル
も開始された(本誌一八ページ参照)。
こうして業界別の共同配送が拡がっていくことで、
従来型の路線便は足元を浸食される。 もともと路線
便は鉄道貨物輸送に代わる小口貨物の混載輸送手段
として出発した。 その後、宅配便が開発されたことで
路線便のドメインは小口貨物から中ロット貨物に狭ま
った。 いわば路線業の最後の砦となっている中ロット
貨物を今度は共配が直撃する。
共配の普及によって路線便の役割は低下していく。
既に老舗路線業者の業績は悪化傾向を辿っている。 本
来であれば共同配送は、路線業者が主導できるはずだ
った。 不特定多数の荷物を混載する路線便は共同配
送の原型とも言える。 しかし路線業者は今日の共配の
ビジネスモデル設計 荷主起点 納品先起点
ネットワーク ハブ&スポーク ルート集配
運行 定時運行 随時運行
サービス 規格化 納品先別
料金体系 個建てタリフ 荷主別
成功のカギ インフラ稼働率 車両積載率
特積み vs 共 配
●特積みと共配のアプローチは全く逆(本誌作成)
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ニーズをとらえることができなかった。
従来の路線便と今日求められている共配は、混載
輸送という点では同じでも、ビジネスモデルは全く異
なっている。 従来の路線便は大手メーカーを主要荷主
として、そこから大量に出荷される商品を全国に配送
するプッシュ型の物流を基本としてきた。 これに対し
て今日の共配は納品先を起点にして、そこから遡って
物流チャネルを再構築するというアプローチをとる。
プラネット物流が直面する課題
荷主としてのメーカーは、既にほとんどの産業でサ
プライチェーンの主導権を失っている。 そのためにラ
イオンやユニ・チャームなど日雑メーカー一〇社によ
る共同出資でスタートしたプラネット物流は現在、大
きな岐路に立たされている。 同社は先行して事業を開
始した業界VAN(付加価値通信網)会社のプラネ
ットの成功を受け、情報だけでなく物流も共同化しよ
うという目的で設立された共同物流会社だ。
八九年に中部と東北にメーカーの共同倉庫を建設
したのを皮切りに、九八年に九州、九九年に北海道、
二〇〇二年には南関東に拠点進出を果たした。 来年
は関西地区にも拠点を新設する計画だ。 現在の年商
は約四七億円。 設立から三年で黒字転換を果たし、そ
の後は利益が一定水準を超えると料金値下げによって
荷主に還元するというサイクルを繰り返してきた。
同社はメーカー共配の成功事例として知られている。
実際、九五年には日本ロジスティクスシステム協会の
ロジスティクス大賞、九八年には日刊工業新聞の流
通システム大賞を受賞している。 しかしプラネット物
流の古賀明郎社長は「従来の当社のビジネスモデルは
もはや通用しない。 新たなモデルを模索する必要があ
る。 そもそも当社が設立された八九年はバブルの最盛
期。 将来も右肩上がりで物量が伸びることが前提にな
っていた。 しかし今や状況は全く変わってしまった」
という。
もともとプラネットおよびプラネット物流には?反・
花王連合〞という色合いが強い。 その成り立ちは、メ
ーカー販社を全国に設置し、卸を排除して小売りとの
直接取引に乗り出した花王に対し、卸チャネルを堅持
する他のメーカーたちが団結するという格好だった。
そのため物流面でも卸中抜きは暗黙のうちにタブーと
され、プラネット物流の守備範囲もこれまでメーカー
〜卸間に限定されてきた。
しかし、過去一〇年の間に日雑業界のサプライチェ
ーンは一変した。 中間流通では吸収合併が活発化し、
パルタックとあらたという二大卸が誕生。 チェーンス
トアの一括物流センターの乱立によって、物流上は工
場直送が当たり前になった。 さらには大手外資系流通
業の日本市場参入で小売りとメーカーの直接取引も
拡大傾向にある。
メーカーは在庫の集約に躍起だ。 プラネットの拠点
進出が地方から始まったのは、物量のまとまらない地
域では共同保管のメリットが大きくなるからだった。
メーカーが地方在庫を中央に引き上げることで、その
前提が崩れてしまう。 空いたスペースは現地で荷物を
獲得するしかない。
古賀社長は今後の展開のカギを3PLにあると見
ている。 「ハードを用意したので、それを使って下さ
いというのではなく、3PLとして荷主の懐に入り込
み、合理化を進めるなかで、一つの手段として当社の
インフラを使っていただく。 そういうアプローチが必
要だ」。 メーカーだけを見ていては、もはや共配は立
ち行かなくなった。 サプライチェーン全体を視野に置
いてモデルを練り直す時期が来た。
プラネット物流の
古賀明郎社長
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