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OCTOBER 2003 18
全く新しい商品を開発する
――日立物流は今年四月に発表した向こう三カ年の中
期経営計画で「物流プラットフォーム事業」と銘打っ
て共同物流事業の拡大を打ち出しました。 それを聞い
て、なぜ今になって共同物流なのかと、意外に思いま
した。 親会社のベースカーゴを活かした共同物流事業
は物流子会社にとって一つの定石と言えます。 それな
のに、どうして日立物流はこれまで共同物流に手を付
けてこなかったのでしょう。
「まずお断りしておきたいのですが、私は当社を物
流子会社だとは考えていません。 もちろん日立ブラン
ドの会社ではあるけれど、子会社という意識はない。
確かにかつては当社も親会社の仕事が全てだった時代
がありました。 しかし、社名を変更した一九八五年を
機に、当社は今でいう3PL会社への転身を図ってき
ました。 今期、当社は恐らく3PL事業で九四〇〜
九五〇億円の売り上げを計上することになるはずです。
これは日本の3PLとしては他に例のない規模だと思
います」
「また、これまでの共同物流と現在、弊社が進めよ
うとしている物流プラットフォーム事業は恐らく違う
ものだと思います。 共同配送によって積載率を上げる、
あるいは共同保管でコストを下げるといった、ハード
から発想して、ハードの効率を上げようという切り口
の共同物流に関しては、当社も従来から手掛けてきま
した。 実際、それで多少は効率も上がったはずです。 し
かし、そうした共同化はあくまで物流業者にとっての
ソリューションであって、クライアント、荷主企業にと
ってのソリューションではなかった。 これまでの共同
物流は輸送モード別のソリューションに過ぎなかった」
「当社は物流プラットフォーム事業で全く新しい商
品を作り出そうと考えています。 もはや輸送モードか
ら仕組みを考える時代ではありません。 荷主にとって
最適な輸送手段を選ぶ。 そのオプションとして共同物
流、物流プラットフォーム事業がある。 物流プラット
フォーム事業は、あくまでも3PLのメニューの一つ
という位置付けです」
――3PLと共同物流は基本的に正反対の性格を持
ったサービスです。 3PLは顧客ごとにカスタマイズ
したソリューションが売り物です。 これに対して共同
物流はサービスを規格化せざるを得ない。 この二つを
同じ物流業者が提供するのは恐らく容易ではないはず
です。
「確かに特定企業に最適な仕組みを作ることが3P
Lの役割です。 しかし、それは業界の最適な仕組みを
作ることと矛盾しません。 例えば物流プラットフォー
ム事業の最初の案件として現在、当社は東北地区で
トイレタリー製品の共同化を進めています。 ここでク
ライアントになっているのは、これまで当社が3PL
として改革をお手伝いし、既に合理化が高いレベルに
達している企業ばかりです。 一企業内の合理化では限
界が見えてきた3PLの荷主に対し、当社はオプショ
ンのサービスとして、次のステップとして共同物流を
提案しているのです」
「最初に箱モノを作って共同化を図るというアプロ
ーチは従来からありました。 理に適った展開ではある
けれど、事業としてなかなか成り立っていなかった。
物流業者側が主導して共同化を成功させるには結局、
荷主の物流を総合的に代行する立場にないと難しいん
です。 そう判断して当社は、3PLから共同物流とい
うアプローチをとるわけです」
――業界プラットフォームの具体的なモデルとしては、
複数のメーカーが大型物流センターを共有し、そこか
「3PLの新しいアプローチに挑む」
日立物流が共同物流事業に本腰を入れる。 ただし、そのアプロー
チは従来の定石とは全く逆だ。 先にインフラを用意して広く利用を
促すのではなく、3PLのクライアントに対し、共同物流というオ
プションを提案。 そこから出発して必要なハードを組織するという
展開を目論んでいる。 (聞き手 大矢昌浩)
日立物流 山本博巳社長
19 OCTOBER 2003
ら顧客へ共配するという形を想定しているのですか。
「実際にはそれほど単純ではありません。 例えば当社
が現在、一括物流センターを受託運営しているイオン
さんの場合、NDC(ナショナル
ディストリビューシ
ョン
センター)という全国に商品を供給する大型在庫
拠点の他に、RDC(リージョナル
ディストリビュー
ション
センター)という地域をカバーする拠点、さら
には在庫を持たずにクロスドックを行う拠点など、機
能の違う複数の物流センターを使い分ける形で全国を
網羅しています」
「同じように業界プラットフォームも、それほどシン
プルなモデルにはならない。 先ほど説明したように当
社が荷主とするのは既にそれぞれ合理化を進めてきた
企業です。 白紙のキャンバスに絵を描くわけではない。
当社が業界プラットフォームとしてのセンターを建設
しても、そこに荷主が全ての物流を移すとは考えられ
ない」
「ただし、同じ業種でも中小や新興企業となると別
です。 当社がプラットフォームを用意すれば、それを
全面的に利用していただくことも不可能ではない。 そ
の結果、仮に同じ業界内に大手メーカーA社、大手
メーカーB社、そして中小向け共同物流センターとい
う三つのセンターができたとする。 次に当社はこの三
つのセンターの配車を統合して最適化する。 配送部分
でも共同化を進めるわけです」
業界別に仮想プラットフォーム
――本来は複数メーカーの工場と複数の小売店の間を
結ぶ場合、一カ所だけ中間物流拠点を置いた時、トー
タルコストが最小化するはずですが。
「理論的には確かにその通りです。 しかし現実には
それでは上手くいかない。 繰り返しになりますが、今
まで物流には全く手をつけてこなかったという荷主な
ら、それでいいかも知れません。 しかし、そうでない
会社に対して『当社が業界プラットフォームとして新
しい倉庫を建設したので、既存の倉庫を廃止して当社
の倉庫を利用して下さい』といっても誰も納得してく
れません。 全く新しく生まれた業界でもない限り、必
ずそうなります。 そのため中間物流拠点は一カ所には
ならない。 しかし複数のセンターの管理を、一カ所の
センターのように仮想的に統合することはできる。 い
わば『仮想プラットフォーム』としての運営を考える
わけです」
――ターゲットとする業界は?
「もちろん全ての業界が対象になりますが、当面の
ターゲットとしてはトイレタリー、家電、そして薬と
いった業界になりそうです」
――現在、日本のチェーンストアもまた一種の共同化
に乗り出しています。 一括物流という形で、自社専用
センターを設置し、各ベンダーがバラバラに納品していた体制を集約しようとしている。 この一括物流セン
ターと日立物流が想定するプラットフォームは事実上、
バッティングすることになるのでは?
「バッティングはしません」
――現在の小売りの一括物流は、日雑からアパレルか
ら加工食品まで全てを一括する方向で進んでいます。
これに対して、業界プラットフォームは業界ごとの共
同化です。 となると、これは工場→業界プラットフォ
ーム→一括物流センター→小売店というモデルを作る
ことになりませんか。
「そうなる場合もあるでしょう。 ここまで小売りの
一括物流センターが増えると、その全てに対して工場
から直送するのは難しい。 実際、一括物流センターに
は夥しい数のトラックが納品にきている。 そこに人手
店舗
店舗
店舗
●物流プラットフォーム事業のモデル
A社工場
B社工場
A社倉庫 店舗
店舗
店舗
B社倉庫
C社、D社
共同倉庫
C社工場
D社工場
?工場 → ?業界プラットフォーム → ?一括物流センター → ?店舗
仮想プラットフォーム
メーカーA社 チェーンストアA社
チェーンストアB社
メーカーB社
メーカーC社
メーカーD社
店舗
店舗
店舗
(取材を基に本誌が作成)
チェーンストアC社
OCTOBER 2003 20
がかかる上、積載効率の低いトラックもたくさんある。
そこで工場と一括物流センターの中間に業界単位で
括った共同のプラットフォームを設けてはどうかとい
う提案です」
――イオンのように、将来の規模確保を前提としてい
る場合には、小売りが専用センターを設置するのも分
からないではありません。 しかし現状では必要な規模
を確保できない中堅以下のチェーンストアまで軒並み
専用センターの建設に動いています。 トータルで見た
ときに、サプライチェーンのコストは従来と比べて悪
化しているはずです。 それでも小売り専用センター建
設の動きはまだ進むとお考えですか。
「進むでしょう。 現在のチェーンストアの一括物流
は、当然ながら店舗運営の効率化を目指しています。
店舗のレイアウトに沿った形で納品することで、商品
を棚に陳列するための時間やコストを抑えようとして
いる。 例え中堅以下のチェーンストアであっても、店
舗運営を効率化したいのは同じです」
卸
vs
3PL
vs
一括物流
――中間物流拠点の担い手としては小売りや物流業者
のほか、卸も手を挙げています。 日用雑貨品で言えば
パルタックと、あらたという二大勢力がまさしく業界
プラットフォームの構築を図っている。 こうした卸と
日立物流の業界プラットフォームは、どういう位置関
係になるのでしょうか。
「一般論になりますが、卸は文字通り卸売りが本業
です。 物流は付随的なサービスに過ぎない。 最終的に
は?帳合い〞を獲得することが卸の狙いだと思います。
私が卸の経営者であっても、やはり自分の商売にとっ
て最適な物流を目指すでしょう。 しかし当社は物流そ
のものの改革を本業としています。 卸とは全く違う」
――しかし、結果として出来上がるものは大きくは違
わない。 プラットフォームとしての機能は極めて似た
ものになるはずです。
「物流機能としては確かに似てくる。 そのため卸と
競合する場面も出てくるでしょう。 一方で当社は卸を
荷主としたビジネスもたくさん手掛けている。 卸との
関係は場面によって違ってくる。 当社としては、あく
まで最適な物流を組むことが狙いであり、荷主が誰に
なるかは別の次元の問題です」
――日用雑貨品の共同物流となると、日立物流より先
にプラネット物流が手掛けています。 アプローチに違
いはありますか。
「繰り返しになりますが、当社の場合は『始めに3
PLありき』です。 3PL事業を通して既に実績も信
頼関係もある荷主企業を対象にしています。 個別の物
流に限界を感じている荷主、これ以上の合理化を進め
るには共同化が避けられないという認識に立っている
荷主企業を母体にします。 最初に器と仕組みを用意
するというやり方ではありません」
――家電はどう仕掛けますか。 メーカー同士のライバ
ル意識が強いだけに共同化は難しいはずです。
「そうでもありません。 日立の家電製品の場合、関
東地区に工場が集中しています。 そのため関東から関
西へ、完成品輸送が定期的に発生します。 しかし帰り
荷がない。 そこで松下さんや三洋さんなど関西系の家
電メーカーの完成品を関東に輸送するのに当社の帰り
便を使っていただいている。 これはあくまで物流業者
間の合理化というレベルですが、そうした共同化も既
に一部では実現しています」
「しかも家電の場合、流通経路が近年、急速に変化し
ています。 かつての家電はメーカー系列の特約専門店
がメーンの販売チャネルでした。 しかし今や量販店が
る。 3PL導入には、そうした負の側面もつきまとい
ますね。
「それは否定しません。 これまで当社が手掛けた3
PL案件でも、その荷主企業が抱えていた既存のリソ
ース、協力会社やスタッフを、できる限りその後も使
うようにしてくれと求められることが少なくはありま
せんでした。 我々も可能な限り、そうした要望に応え
るようにしてきた。 しかし全てを残せるわけではない」
――とりわけ管理系物流子会社の機能やスタッフは必
要ないはずです。
「その通りです。 実務系の子会社やグループ会社で
あれば、新しい仕組みの中に当てはめることもできる。
しかし管理系の物流子会社は3PLの導入で終わっ
てしまう。 親会社も、そうした意志決定をするように
なっています」
「共同物流も同じです。 同じ業種のメーカーであれ
ば、最終的には小売店の同じ棚に商品は並ぶ。 その物
流を各社がバラバラにやるより、一緒にしたほうが合理的なことは誰が考えても分かる。 しかし、頭では分
かっていても、実際にそこに踏み込むのは、これまで
簡単ではなかった。 しかし今は荷主企業がそういう発
想に立つようになってきた。 機は熟したと判断してい
ます」
――日本の物流市場の物流子会社の時代が終わって、
3PLの時代が来るというお考えですか。
「八〇年代の後半以降にできた物流子会社の多くがバ
ブル崩壊以降、解散の危機に晒されているのは事実で
す。 しかし、3PLとして生き残る物流子会社も必ず
数社は出てくる。 物流子会社ではない物流専業者も
今は3PLの拡大に躍起になっていますが、人材がま
だ育っていない。 その点で物流子会社にはその成り立
ち故に、一日の長がある。 一概には言えません」
21 OCTOBER 2003
七〜八割のシェアを持っている。 当然、物流も全く変
わりました。 共同化を提案するには、うってつけの時
期です。 シェアを落としたとはいえ、街の専門店は今
後もなくならない。 一定の役割を今後も果たしていく。
そこを共同化するわけです」
「家電業界に関わらず、これまで物流はモノ作りサ
イドから考えられてきましたが、今や消費者サイド、
小売りサイドから物流を考えなければならない時代に
なっています。 下流から遡って上流を設計しないと効
率的なサプライチェーンは実現できない。 そこにチャ
ンスがあると考えています」
――幹線輸送ならともかく、松下の系列店に日立物流
のトラックが納品するとなると、まだまだ抵抗がある
はずです。 また日本の家電メーカーのほとんどが物流
子会社を持っている。 彼らが自分の仕事を容易に手放
すとも思えない。
「それは認識が古い。 確かに二〇年も前なら、日立
物流のトラックが松下の工場に入れば『何だ!』と言
われたかも知れない。 未だにそう思い込んでいる人も
少なくない。 しかし、もはやそんなことを言っていら
れるような環境にないことは、メーカー自身が一番良
く分かっている」
「物流子会社だって、永遠に存続させるとは限らな
い。 家電業界に限らず、日本では大手メーカーの多く
が物流子会社を持っている。 そのうち六〜七割は実務
部隊を持たない管理会社です。 そして、ほとんどは親
会社の仕事だけをやっている。 事実上、親会社の余剰
人員の受け皿になっているところも少なくない。 それ
を要らないと判断する親会社が出てくるのも今や当然
の成り行きでしょう」
――日立物流のような3PLを使うとなると、荷主企
業は既存の子会社や社員を整理しなくてはならなくな
●顧客業種別売上構成
2002年度 2005年度
小売
12%
小売
卸 12%
11%
卸
11%
生活用品
アミューズメント
生活用品
アミューズメント
20%
9% 18%
13%
10%
6%
その他
42%
770
億円/年
1,300
億円/年
その他
26%
流通
43%
流通
51%
情報・通信
医療・福祉
情報・通信
医療・福祉
●日立物流「中期経営3カ年計画」の連結売上高目標
3500
3000
2500
2000
1500
1000
500
0
2002年度 2005年度
(億円)
770
2530
3000
510 620
1300
1250 1080
3PL
国際物流
その他
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