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NOVEMBER 2003 30
高島屋が導入を進めている「指定納品代行
制」とは、商品の調達先であるメーカー・卸
が、高島屋の指定する納品代行業者を経由し
て売り場へ直接納品する仕組みのことを言う。
最近、この納品方式を採用する百貨店が増え
ている。
従来、高島屋は店舗展開に合わせて納品を
集約するため、自前の物流センターを各地に
設けてきた。 取引先からの納品をセンターで
受け、店舗別に仕分けを行って店に配送する。
この場合、センターに納品するまでのコスト
を取引先が負担し、センターでの仕分けと店
舗までの配送費は高島屋が負担する。
こうしたセンターを関東地区では横浜、船
掘(東京都江戸川区)。 関西地区では大阪南
港(KRC)、西ノ京(京都)、豊成(岡山)、
日置江(岐阜)などに構えている。 そして、
これらのセンターの運営は、すべて高島屋の
物流子会社のティー・エル・コーポレーショ
ンが担ってきた。
発注から売場納品まで四日間
だが、自社センターを経由する、この調達
方式にはいくつか不合理な点があった。
メーカー・卸などの高島屋の取引先は、セ
ンターへの納品業務を納品代行業者に委託し
ているケースが多い。 その場合の作業は、ま
ず納品代行業者がメーカー・卸から商品を集
荷し、業者の拠点で百貨店別の仕分けなどを
施してからセンターへ納品するという流れに
センター納品廃止し指定納品代行制へ
店舗納品のリードタイムを大幅短縮
調達物流の合理化を目指して、高島屋が
「指定納品代行制」の導入を進めている。 自社
センターへの納品をやめ、同社の指定する納
品代行業者を経由して売り場に直接、商品を
納めるように変える。 発注の翌日には商品が
入荷するため販売機会ロスを防止でき、コス
ト削減も可能になる。 今年3月に関東地区で
導入し、来年1月からは関西地区でも新体制
をスタートする。
高島屋
―― 調達物流
31 NOVEMBER 2003
なる。
センターでは、納品代行業者による検収
(メーカー・卸側による納品の確認)と、高
島屋の子会社による検品(百貨店側による受
品の確認)を行う。 そしてセンター内で店別
に仕分け、各店舗へ配送する。
検収と検品の両方の作業を行うのは百貨店
業界に根付く長年の慣行だが、ここでは明ら
かな作業の重複が発生していた。 また、この
フローでは、納品代行業者の拠点と、高島屋
のセンターの二カ所を経由するため、どうし
てもリードタイムが長くなってしまう。
売り場から取引先に対する発注は週に二回、
月曜日(または火曜日)と金曜日に行ってい
る。 月曜日(または火曜日)に発注した商品
は、その週の金曜日に入荷する。 そして金曜
日の発注分は、翌週の火曜日に入荷するとい
うサイクルになる。 つまり商品を発注してか
ら売り場に入荷するまで四日間かかっていた
わけだ。
通常、百貨店の発注業務は、販売員かまた
は取引先の派遣店員が、店頭の売り上げと在庫をチェックしながら行っている。 この「週
に二回発注」のサイクルでは、月曜日(また
は火曜日)の発注は、直前の週末(土曜・日
曜)の売上実績を見ながら、次の週末の販売
数量を予測して実施することになる。
四日間のタイムラグがあるため、どうして
も発注の精度は落ちる。 しかも月曜日の時点
では、三日前の金曜に発注した商品がまだ入
荷しておらず、販売員がうっかりダブリ発注
をしてしまう可能性もゼロではない。 さらに
売り場にとって不都合なのは、商品が一日の
うちのどの時間帯に入荷するのかが分からな
いことだ。
百貨店のセンターには、取引先が業務委託
している納品代行業者や特別積み合わせ業者
などが随時、納品にくる。 そして荷受け・検
品を終えたものから順次、店舗へと搬送して
いく。 これまでセンター〜店舗間で一日二五
便のピストン輸送を行っていた例もある。 店
舗への配送は計画的なものではなくて、納品
の集中する時間帯などに積み残しが出る一方
で、積載率が著しく悪い便もあるというのが
実状だった。
店舗側の負担も大きかった。 センターから
の納品車両が日に何度も着くため、売り場で
はその都度、開梱・品出し作業を行わなけれ
ばならない。 しかも商品がどの便でくるのか
わからず、販売員のワーキング・スケジュー
ルが立てにくい。 接客で最も多忙な夕方の時
間帯に納品が集中することも多く、品出し作
業が後回しになるなどの問題を抱えていた。
コスト負担の区分を見直す
これらの問題点を改善するため、高島屋は
自社センターへの納品を廃止して、「指定納
品代行制」を導入することを決めた。
「指定納品代行制」では、納品代行業者が
取引先から集荷を行い、自分たちの拠点で仕
分け・検品をして各店舗へ搬送する。 従来は
二カ所に分散して行われていた作業が、納品
代行業者の拠点一カ所に集約され、ここで取
引先の検収と、高島屋側の検品の両方を業者
が代行して行う。
これに伴って、納品にかかわる取引先のコ
図1 新調達物流の概要(関西地区)
各 お 取 引 先 様
集
荷
納
品
着
荷
配
達
返
品
納 品 代 行
商品管理
仕入検品代行
流通加工
入荷作業
出荷作業
入荷作業
店別仕分
買取・消化仕分
出荷作業
検 収 検 品
返品検品代行
入荷作業
買取・消化仕分
お取引先様仕分
出荷作業
検 収 検 品
保 管
ピッキング
値付け作業
商品検査・加工
大 阪 店
和 歌 山 店
堺 店
泉 北 店
京 都 店
洛 西 店
岡 山 店
岐 阜 店
米 子 店
高島屋各店舗
高島屋・百貨店事業本部の佐久間
保人営業企画担当部長
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スト負担も、従来の「センターまで」から
「売り場まで」へと変わる。 従来、取引先は
「集荷」から「検収」、「センターへの納品」ま
でに掛かる費用を、「納品代行手数料」とし
て納品代行業者に支払っていた。
これが「指定納品代行制」では、「集荷」
「仕分け・検収」「各店舗への配送」および
「店舗での館内搬送料」まで含めた手数料と
して納品代行業者に支払うことになる。 従来、
高島屋が負担していた「店舗への配送料」と
「館内搬送料」が取引先の負担に変わるかた
ちだ。
ただし、取引先の一方的な負担増とならな
いように、高島屋と取引先および納品代行業
者の三者間で新しいビジネス・フローに基づ
くコスト負担の区分についての見直しを行っ
た。 「指定納品代行制」の導入によって、二
カ所で行われていた作業が納品代行業者の拠
点一カ所に集約され、取引先にとっての検収
と高島屋にとっての検品が行われる。 検収も
検品も作業の内容は同様のため、一人の作業
者が同時に行うことができる。
だが今回の取り組みでは、検収・検品の費
用を取引先も高島屋もそれぞれ従来通り支払
う。 つまり納品代行業者は一つの作業に対し
て取引先と高島屋の双方から料金収入を得る
ことになる。 その増収分で、新たに「納品代
行料金」のなかに加わる業務の費用を吸収し
てもらうという考え方だ。
店舗配送を、従来のセンターへの納品に代
わるものとすれば、新たに発生する費用項目は、これまで高島屋が負担していた「館内搬
送料」だけだ。 「館内搬送料」とは、店舗の
納品所などに届けられた商品を各階の売り場
まで搬送する費用を指す。
そして、このサービスは従来どおり子会社
のティー・エル・コーポレーションが担う。
取引先から収受する「納品代行手数料」のな
かから、納品代行業者が料金をティー・エ
ル・コーポレーションに支払うかたちで、事
実上、納品代行業者がコストを負担すること
になる。 これが三者間の基本的なコスト分担
の考え方だ。
開店前の店舗に翌朝定時納品
「指定納品代行制」によって高島屋の店舗
への納品体制は一新する。 まず、納品は一日
一回となり、開店前の定時に、各売り場の指
定する場所まで届けることになる。 これによ
って売り場では、開梱・品出し作業を開店前
に集中して行い、開店後は販売業務に専念で
きる。
従来は売り場ごとに台車でまとめて搬入さ
れ、その都度、販売員が自分の持ち場の商品
を取りに行っていた。 これが新体制では、メ
ーカー(ブランド)別に仕分けをしたうえで
各メーカー(ブランド)の売り場近くの指定
場所に搬入されることになり、陳列作業が容
易になる。 そして開店前に効率よく品出し作
業を終えることができれば、一日のワーキン
グ・スケジュールを立てやすくなり、販売効
率の向上につながる。
さらに新体制では、発注してから売り場に
入荷するまでのリードタイムを、従来の四日
から大幅に短縮し、発注の翌朝には売り場に
商品が届くようにする。 高島屋のセンターを
経由しないことによって、その分リードタイ
ムが短くなるためだ。
これに併せて、高島屋では発注の回数を増
やしていく考えだ。 「納品代行手数料」は、商
品によっては一点につきいくらという「点数
建て」で設定されるため、納品の回数が増え
てもコストは変わらず、取引先の負担増には
図2 新しい調達物流における料金負担
お取引先様負担
お
取
引
先
様
倉
庫
納品代行集荷
路線便集荷
集荷運賃 店舗搬送料 館内搬送料
納品代行センター
買取商品
仕分
検収
検品
消化商品
仕分
検 品 検収手数料
各
店
へ
の
搬
送
高島屋負担
荷 下 ろ し
縦持ち(納品場から各階へ)
横持ち(エレベーター前から売場へ)
売 場
高島屋店舗
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ならないと同社では見ている。
高島屋・百貨店事業本部の佐久間保人営
業企画担当部長は、「納品代行業者の仕組み
を取引先が共同で利用することで、コストを
かけずに多頻度納品を実現することが可能に
なる。 頻度が高まり、リードタイムが短くな
れば、欠品やサイズ切れなどによる売り逃し
を防ぐことができる」とメリットを強調する。
すでに同社では今年三月に関東地区の九店
舗で、この「指定納品代行制」をスタートし
ている。 食料品と高級呉服、宝飾品など一部
の商品を除く全売り場が対象だ。 納品代行業
者には東京納品代行、南王、浪速運送、アク
ロストランスポートの四社を指定した。
続いて十一月には関西地区でもテ
スト運用を開始し、
来年一月には九店
舗で本格的にスタ
ートする予定だ。
指定納品代行業
者には、関東の四
社に同社の子会社
ティー・エル・コ
ーポレーションを
加えた五社が決定
している。
関西地区の場
合、全体の七割の
商品を関東地区
から調達している
ため、四社を指定
することで一貫性
を持たせる。 また
関西では、これま
で子会社が取引先
からの集荷まで手
掛け、関東地区に
おける納品代行業
者の機能を果たし
ていたという経緯
から、五社目の指
定業者として加え
た。
集 荷 当 日 集 荷 翌 日
図3 開店前納品スケジュールの一例
大阪店・京都店の場合
12時 16時 18時 20時 3時 7時 8時〜9時半
近畿圏買取消化
売場発注
納代集荷
集荷搬送
店舗搬送
館内搬送
検品
(買取のみ)
出荷作業
売場着
首都圏買取消化
売場発注
集荷搬送
店舗搬送
館内搬送
検品
(買取のみ)
東西搬送
出荷作業
売場着
発注の翌日に、開店前に売り場に納品する
というリードタイムは、関西でも同じだ。 こ
のために関東地区で調達する商品については、
店着時間から逆算して、例えば正午までの発
注に対して取引先が午後四時ごろまでに出荷
作業を終えなければならない。 そして、これ
を納品代行業者が集荷し、夜間のうちに関西
地区の拠点へ搬送。 検品をすませて翌朝納品
する、という流れになる。
「値札レス」でさらに時間短縮を
ここでリードタイム短縮のもう一つのポイ
ントとなるのが「値札レス」だ。 百貨店の値
札を廃止し、メーカーのブランド・タグに商
品管理を一本化しようというもの。 これまで
取引先は、受注した商品に百貨店値札の作
成・取り付け作業を行ってから出荷するとい
うのが一般的だった。 値札が廃止されれば出
荷にかかる時間の短縮が可能になる。
「値札レス」については、日本百貨店協会
のBPR推進委員会が、収益性向上をめざし
たSCM構築による業界の構造改革モデルの
一つとして取り組み、今年五月にガイドライ
ンを出している。 それによれば、メーカーの
ブランド・タグに百貨店と取引先の共通の商
品識別コードとしてJANを印字することが
「値札レス」の条件とされている。
これまでメーカーと百貨店は、それぞれ独
自のコード体系で商品管理を行ってきた。 メ
ーカーのブランド・タグや百貨店の値札には、
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それぞれのコード体系で商品の価格や売り場、商品分類などの情報が入っている。 従って、
一方の百貨店値札を廃止するためには、この
情報をメーカーのブランド・タグで共有する
必要がある。
そのキーコードとなるのがJANだ。 「値
札レス」システムでは、メーカーがブラン
ド・タグにJANをソースマーキングし、J
ANをキーに商品マスターと照合しながらS
KU(Stock Keeping Unit
)単位で商品管
理を行う。 商品マスター作成などの費用が新
たに発生するものの、値札の台紙購入費や印
字・取り付け費用の削減額がそれを上回り、
リードタイム短縮だけでなくコストメリット
も大きい。
高島屋では「指定納品代行制」の導入にあ
たって、ガイドラインに沿った「値札レス」
も積極的に推進していく考えだ。
同社は数年前から、販売機会ロスの防止と
業務の効率化を目的に「QRシステム」とい
うJANを使った単品管理システムを独自に
導入してきた。 販売時にJANを入力してP
LU(Price Look-up master file
)マスター
をもとに売り上げを管理、さらにASN/S
CMシステムによって仕入れ情報(在庫情
報)を管理する仕組みだ。
ASN/SCMシステムでは、取引先から
送られた事前出荷明細(ASN)とひも付け
されたSCMコードをスキャンしながら仕入
れ計上と検品を同時に行う。 ここでもJAN
による情報共有が前提になっている。 この
「QRシステム」を同社は「値札レス」で運
用している。 すでに、取引先二〇社との間で
「QRシステム」を導入済みだ。
百貨店協会によるガイドライン作成の動き
を背景に、独自システムで店頭の売り上げ管
理を実施してきた大手メーカーも、「値札レ
ス」が可能なJANの導入に前向きになって
きている。 このため高島屋では「これを機に
QRシステムの導入が本格的に進むのでは」
(佐久間部長)と期待している。
同社ではまた、昨年秋に三越と始めた「e
マーケット・プレイス」による電子商取引の
メニューに、「受発注支援サービス」を加え、
インターネット経由のデータ交換で「QRシ
ステム」を運用できるようにした。 これによ
って「QRシステム」導入の裾野を広げよう
と狙っている。
そして「指定納品代行制」という新しい調
達物流の導入も、取引先に「QRシステム」
への参加を促すための基盤整備の一つだ。 今
後、納品代行業者の拠点やシステムを活用し
たASN/SCMシステムの運用も考えられ
る。 ASN/SCMシステムなら検品を簡素
化でき、効率化がいっそう進むことになるは
ずだ。
長い間の慣行だった?自社のセンターで検
品をすること〞へのこだわりを捨てたことで、
高島屋は自らの調達物流に新次元を開いた。
(フリージャーナリスト・内田三知代)
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