ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年11号
特集
流通問題の解答 難航する卸主導のメーカー物流改革

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2003 14 参加七社、出荷量一八〇〇ケース 「見てください。
最近ではなかなかお目に掛かれな い広さのセンターでしょう?」――そう言われて案内 されたのは食品業界の二大卸、国分と菱食が昨年八 月に折半出資で設立した物流会社フーズ・ロジスティ クス・ネットワーク(FLN)の「関東物流センタ ー」(群馬県太田市)だ。
施設は敷地面積約七万平方 メートル、延べ床面積約一万八〇〇〇平方メートル の平屋建て。
東京ドームがすっぽりと入ってしまうほ どの大きさだ。
同センターは最大保管能力五〇万ケース、一日当 たり五万ケースまで出荷できる機能を有している。
し かし、現時点ではその能力を十分に発揮できていない。
今年四月の稼働以来、出荷量は一日平均一八〇〇ケ ース。
最高でも三一〇〇ケースにとどまっている。
商 品保管用のラックは当初計画していた数の四分の一 程度しか組み立てられていない。
現場の作業員は一〇 人にも満たない。
野球やサッカーチームに開放したら 喜ばれそうなくらいセンター内はガランとしている (次ページ写真参照)。
「規模が大きいだけに一日平均で三万ケース程度の 出荷量がないと、この拠点は採算が取れない。
とりあ えず来春までには一万ケースに引き上げる計画だが、 果たしてどうなることか‥‥。
苦戦を強いられている のは確かだ。
現在、荷物の確保に向けて当社の営業 部隊がメーカー行脚で全国を飛び回っている」とFL Nの宮沢親史関東物流センター長は説明する。
昨年、国分と菱食はメーカー物流の共同化を両社 主導で推進していくという構想を打ち出した。
もとも とメーカーはトラックのチャーター便や路線便を活用 して、それぞれ卸に商品を納品していた。
これをメー 難航する卸主導のメーカー物流改革 国分と菱食の二大食品卸がぶちあげたメーカー共同物流事 業の雲行きが怪しい。
今年4月、関東地区に大規模な共同物 流センターを開設したものの、参加メーカーが思うように集 まっていない。
しかし、プロジェクトがとん挫したとしても、 二大卸にダメージは少ない。
二大卸が名を捨てて実を取ると いう結果になりそうだ。
(刈屋大輔) カー各社が共同物流センターに商品を集めて、そこか ら一括して卸に納品する体制に改める。
それによって 納品トラックの数を削減したり、卸側の荷受け業務を 簡素化するというものだ。
関東物流センターはメーカ ー〜卸間で展開される一括物流のオペレーション部分 の受け皿として用意された。
一見、構想は理に適っているようだが、「工場」→ 「卸」というサプライチェーンに、新たに「共同倉庫」 というクッションが加わることになる。
流通の段階は 一つ増加する。
拠点が増えれば当然在庫も膨らむ。
そ れだけに構想が発表されると、メーカー側はすぐに強 く反発する姿勢を示した。
「二社は小売りから要求されているセンターフィー をさらに上流のメーカー側に押しつけようとしている だけだ」、「卸にとってのメリットは大きいが、メーカ ーが得るものは何もない」――。
本誌の取材に対して 複数メーカーの物流担当者がこうコメントを残してい る。
ただし、国内の最有力食品卸二社に正面を切ってモノ申すことができるメーカーはいない。
こうした力関係からほとんどのメーカー、とりわけ 発言力のない中小零細メーカーは共同物流への参画 を余儀なくされると見られていた。
ところが、蓋を開 けてみると、二社の思惑通りには進まなかった。
現在、 関東物流センターに商品を預けているメーカーは食品 五社と酒二社。
計七社にすぎない。
FLN発足時に 掲げていた「参加メーカー三〇社」という目標とは大 きく乖離している。
当時、FLNでは第一弾の関東地区に続き、関西 地区などにも共同物流センターを設置する計画を打ち 出していた。
しかし「関東地区でのプロジェクトの現 状がこの通り。
次の地域でのセンター立ち上げ? ま だそういうことを検討する段階にはないと思う。
関東 第2部 15 NOVEMBER 2003 物流センターを軌道に乗せることが先決だ」と宮沢セ ンター長は力説する。
メーカー主導の共同化が加速 もっともFLNではメーカー共同物流が浸透してい かない事態をさほど深刻には受け止めていないようだ。
当初からメーカーは半ば強制的にセンター利用を要請 されると戦々恐々としていた。
これに対して、もとも とFLNサイドはメーカー自身で物流の効率化を進め ることができるのであれば、それでも構わない。
でき ないメーカーだけが共同物流に参加してくれればいい というスタンスだった。
さらに、参加の意向を示すメ ーカーに関しても情報システムの摺り合わせなどの準 備があるため、実際に立ち上がるまでには相応の時間 を要するとも見ていた。
構想がとん挫した場合を想定したリスクヘッジも十 分だ。
実は第一号センターとなった関東物流センター は自社物件ではない。
トラックメーカーの日産ディー ゼル工業とリース契約を交わしている物件である。
同 センターはかつてミッションの組み立て工場だった。
その施設に床のコンクリートを張り替えるなどの改良 を加えたうえで、物流センターとして転用している。
具体的な賃料は明らかではない。
しかし「組み立て 工場だったこともあってお世辞にも綺麗だとは言えな い」(宮沢センター長)施設であるため、破格の賃料 が設定されているのは間違いなさそうだ。
FLNでは こうしてセンターへの投資を最小限に抑えることで、 少ない通過金額でも十分ペイできるような体制を構築 しようとしている。
共同物流への参加企業が伸び悩んでいる一方で、今 回の構想が浮上したのをきっかけにしてメーカー主導 による物流の共同化は加速している。
昨年夏以降、経 営規模の大きいメーカー同士はもちろん、中小零細メ ーカー同士が物流共同化に乗り出したというニュース が経済紙誌を賑わしている。
卸主導のメーカー共同物 流は、メーカーの重い腰に業を煮やした卸からの逆襲 だった。
これに対して、メーカー側は自己防衛策とし て自らの共同物流を立ち上げるようになった。
メーカーにそうした動きが出始めただけでも今回の プロジェクトは成功を収めたと言えるのではないかと FLNでは判断している。
そもそも黙っていればメー カーは何もアクションを起こさなかった。
土日祝日、 年末年始は定休日のまま。
在庫負担などのしわ寄せを 受けるのは卸だけ。
事態打開を図るために、卸を代表 して国分と菱食が一肌脱いだ格好だ。
FLNの共同物流への参加メーカーが七社と低迷 しているのを聞き、メーカーサイドには鬼の首でも取 ったかのような勢いの物流担当者もいる。
「昨年九月十一日に開かれた説明会では全てのメー カーが共同物流プロジェクトの対象に含まれると随分強気だったが、一年後の結果はその程度か。
卸主導の 共同物流は発想そのものに無理があった。
そうは問屋 が卸さないという言葉があるが、そうはメーカーだっ て卸さないわけだ」 果たしてFLNはメーカー〜卸間における物流の主 導権争いに敗れたのだろうか。
FLNの関係者は「三 六五日体制で注文・納品を受け付けるようになったメ ーカーが増えている。
FLNの資本金は一億円で、一 社当たり五〇〇〇万円だった。
用意した物流センター は賃借物件。
投資による負担はほとんどない。
少ない 投資でメーカーの物流効率化を一歩進めることができ た。
こんなに安い買い物はなかった」と指摘する。
結 果を見る限り、メーカーよりも卸のほうが一枚上手だ ったようだ。
FLNの関東物流センター

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