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NOVEMBER 2003 20
酒類卸の再編は最終段階
――セブン・イレブンやローソンがナショナルチェー
ンを前身としているのに対し、セイコーマートは丸ヨ
西尾という地域酒類卸から業態転換した希有なケース
です。 セイコーマートが創業した約三〇年前は、酒類
卸や酒販店の経営環境は安定していたはずです。 それ
なのに、なぜリスクを犯して業態を変える必要があっ
たのでしょうか。
「酒類卸の経営環境は三〇年前からキツかったんで
す。 もともと酒業界は地域卸主体のマーケットでした。
しかし、そこに国分や明治屋といった大手卸が地域に
資本を入れる形で参入してきた。 同時にチェーンスト
アの全国展開が始まった。 大手卸とチェーンストアが
手を取り合って地域に参入してきたわけです。 当然、
ローカルの卸や小売りは大きな影響を受けます。 地元
卸同士の得意先の奪い合いもそこに加わる。 決して安
定した環境ではありませんでした」
――それは比較的最近の、ここ十年ぐらいの話ではな
いのですか。
「外部から見れば最近の動きに見えるかも知れませ
んが、我々内部にいる人間にとっては、そうした動き
が長期的に進んできたのです。 つまり現在の方向性は
三〇年前から見えていた。 だから当社は業態を転換し
たわけです。 ローカル卸として大手メーカーを後ろ盾
にするよりも、地域の小売店と密接な関係を作り上げ
ることを選んだ」
「基本的に卸売業は、売れる先があれば誰にでも売
る。 しかし当社のような地域卸が誰にでも売る商売を
しても全国卸に必ず負ける。 調達価格が違いますから
当然です。 そこで当社は全国卸やチェーンストアと競
合しない状況をどうやって作れるだろうかと考えた。
その結果が小売店の組織化だったわけです」
――当時はセイコーマートの他にも、コンビニに転換
した地域酒卸がたくさんあったのですか。
「聞いたことはありませんね。 酒業界が革新を嫌う
傾向にあることは否定できません。 いまだに流通の仕
組みも配給時代のままです。 長年、地域酒類卸はメー
カーの傘下で安穏としてきました。 その結果、地域卸
の数は一貫して減り続けています。 恐らく今後数年内
に地域酒類卸はほとんどなくなるはずです」
「これは北海道だけに限った話ではなく、同じ現象
が全国で起きています。 再編は既に最終段階に入って
います。 実際、今はメーカーの卸価格がそのまま末端
の小売価格になっている。 酒のディスカウントストア
が登場し、小売りが自由化されたことでそうなってし
まった。 今や卸の中間マージンは全くありません。 酒
類卸はもはや成り立ちません」
――酒だけだったらセイコーマートでも儲からない。
「儲かっていません。 我々は酒類卸では生き残れな
いために、フレッシュフーズという別働隊を作って、
食品や総菜、野菜や乳製品を扱い、それをコンビニで
販売する形を作ったのです。 そうやって新しい収益構
造を作り上げて、一方の丸ヨ西尾は酒と飲料に特化
させた。 そして昨年、フレッシュフーズと丸ヨ西尾を
合併しました。 これによって道内最大手の食品卸が出
来上がった」
「他の地域卸も卸の能力を活かして、小売店と消費
者の接点で卸が役立つような展開をすべきだった。 卸
の本来の顧客である小売店を大事にしていれば生き残
れたはずです。 我々はコンビニという形で小売店と運
命共同体となり、消費者と接点を持ったから生き残れ
た。 三〇年前に業態転換をしていなかったら、我々も
既に消えていたでしょう」
「地域卸消滅後の市場で生き残る」
北海道の地域酒類卸からコンビニチェーンに転身。 道内全
土を網羅する強力なサプライチェーンを自力で構築した。 PB
商品の開発にも積極的に取り組んでいる。 現在、道内コンビ
ニ最大手。 ローカル市場を深耕することで、全国チェーンと
NBメーカーを相手に互角以上の戦いを演じている。
(聞き手・大矢昌浩)
赤尾昭彦 セイコーマート代表取締役副社長
21 NOVEMBER 2003
――卸を前身とするセイコーマートと、セブンやロー
ソンなどの全国コンビニとを比べた時に、本質的な違
いがあるとすれば何でしょう?
「繰り返しになりますが、我々は地域卸としてサバ
イバルするために業態を転換しました。 それに対して
全国コンビニは、この商売は儲かる、新しいビジネス
チャンスだと思って参入している。 参入動機が違うた
めに、仕組みも全く違う」
――どう違うのですか。
「コンビニというのは小売りの形態です。 それがた
くさんできたのがチェーンストアです。 チェーン本部
は小売店のストアマネジメントとチェーンオペレーシ
ョンを運営するのが役割です。 それがチェーン本部の
ソフトウエアだとすると、それを裏付ける形でハード
ウエアがあります。 商品を実際にコントロールする。
しかも最も低コストでコントロールするために物流セ
ンターがあるわけです」
「このハードウエアの部分を大多数のチェーン本部
はアウトソーシングしている。 これに対して当社は卸
という立場から出発してチェーンを運営してきた。 小
売店を組織化するのと同時に、当社は卸としての合理
化を進める必要があった。 実際、販売と物流の合理
化を自分で実践してきました。 これは通常のチェーン
ストアが入り込まなかった部分です」
――コンビニ市場では大手チェーンによる上位集中が
全国的に進んでいます。 ところが北海道だけは依然と
してセイコーマートが最大手として君臨している。 そ
の理由はハードウエア、つまり物流にあるというお考
えですか。
「当然、物流は当社の差別化要因になっています。 と
はいえ当社も決して楽な環境にはありません。 何とか
店舗網を維持しているという状況です。 ただし、競争
相手の大手も相当に苦しんでいる。 そうしたナショナ
ルチェーンと地域コンビニの当社が互角に張り合うこ
とができているとすれば、それは我々のほうがノウハ
ウをたくさん持っているからです」
「なぜセブンは北海道でだけポイントカードを導入
したのか。 それを考えれば分かります。 我々は三年前
からポイントカードの導入を地道に進めてきました。
また我々は北海道に強力な物流網を敷き、自社ブラ
ンドを作り上げてきた。 ナショナルチェーンよりも常
に一歩先に動いてきた。 今後もそうしていかなければ
なりません。 ナショナルチェーンと体力競争になれば
当社などひとたまりもない」
物流代行業の可能性を探る
――それだけノウハウを蓄積したのであれば、資本を
外部から調達して北海道だけではなく全国展開を図る
という選択も可能なはずです。
「それは考えていません。 エリアフランチャイズである我々の持っている経営資源、つまり人材、資金、ノ
ウハウといった資源では残念ながら全国展開はできな
い。 そのことを既に我々は経験から学んできました。
地域によってマーケットは違う。 北海道のノウハウが、
どこででも通用するわけではない。 全国各地域のノウ
ハウを持っていない限り、全国展開は失敗します」
――しかしコンビニ市場も既に飽和状態だと言われて
います。
「完全に飽和しました。 データにもハッキリそれが
現れています。 北海道では三年前に市場規模の拡大
がストップしています。 四三〇〇億円程度で頭打ちに
なり、その後は縮小する傾向にある。 これ以上パイが
大きくならない以上、我々は別の形で規模を拡大して
いくしかない」
特集
一九七一年 ■セイコーマート一号店が開店
一九七九年 ■「東部食品株式会社」(現:
?丸ヨ西尾セイコー
フレッシュ事業部)設立
一九八一年 ■店舗数一〇〇店達成
一九八四年 ■「ネットワークシステム開発株式会社」(現
:
セ
イコーシステムエンジニアリング)設立
一九八五年 ■「東部物流株式会社」(現:
?丸ヨ西尾セイコー
フレッシュ事業部)設立
■店舗数二〇〇店達成
一九八九年 ■北海道内の店舗数三〇〇店達成
一九九二年 ■北海道内の店舗数四〇〇店達成
一九九三年 ■「セイコーリテールサービス株式会社」設立
一九九四年 ■道内全域に二時間以内の配送を実現
■北海道内の店舗数五〇〇店達成
一九九五年 ■「東部食品株式会社」を「セイコーフレッシュフー
ズ株式会社」に、
「東部物流株式会社」を「セイコー
グロッサリー株式会社」に社名変更
■ホットフード(現:
ホットシェフ)展開を本格化
■リテールブランド「セイコーフレッシュ」のア
イスクリームを発売開始
■リテールブランド「セイコーフレッシュ」のた
まごを発売、以降、惣菜、サンドイッチ、牛乳を
発売開始
一九九六年 ■リテールブランド「セイコーマート」の各種飲
料水を発売開始
■リテールブランド「セイコーマート」の米「豊
穣こしひかり」を発売、全店で米の販売を開始
■アメリカ現地法人「Seico International Trading
Company Ldt.
」設立
一九九七年 ■セイコーグロッサリーをセイコーフレッシュフー
ズに合併
■釧路配送センター稼動
■エリアフランチャイズを含め店舗数一〇〇〇店
達成
一九九八年 ■旭川配送センター稼動
■北海道内店舗数七〇〇店達成
■苫小牧保税倉庫稼動
■漬物製造会社「株式会社北香」設立
一九九九年 ■函館配送センター稼動
■稚内配送センター稼動
二〇〇〇年 ■「セイコーシーフーズプロダクツ」を「株式会社
北嶺」に社名変更
■「セイコーマートクラブカード」北海道での展開
開始
■DPE会社「北菱フォト株式会社」設立
■北海道内の店舗数八〇〇店達成
二〇〇一年 ■札幌配送センター稼動
■「セイコーマートクラブカード」関東地区での展
開開始
二〇〇二年 ■丸ヨ西尾とセイコーフレッシュフーズを合併
二〇〇三年 ■帯広配送センター稼働
セイコーマートの歩み
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――どういう形ですか。
「一つは道内のチェーンストアの物流代行業です。
我々はコンビニとスーパーを展開し、道内全土に商品
を供給するための物流網を持っている。 そのインフラ
とノウハウを北海道の他のチェーンストアに販売する
ことは可能です」
――現在、チェーンストアの多くが一括物流センター
の設置に動いています。 そこではセンターフィーとい
う形で調達先から小売りが通過額に応じたフィーを徴
収していますが、合理的とは思えません。
「確かに日本でも最近ではチェーンストアが物流セ
ンターを建設するようになりましたが、あれでコスト
が下がるとは思えません。 新たにセンターフィーを調
達先から徴収すれば結果として、それだけ卸売価格も
上がることになる。 彼らは物流を全く知らない。 実際、
投資から運営まで、商社や運送会社に丸投げしてい
る」
――センターの規模の問題もあります。 自社専用のセ
ンターを建てるのに足る規模を持たないチェーンスト
アまで一括物流センターを作っている。
「私の経験では一定の設備を整えたセンターを作る
には、通過額で最低一〇〇億円の規模が必要です。 物
流業務にロボットやスタッカークレーンを使えば確実
に運営コストは下がります。 しかし、それだけの投資
をするには物流センターの規模が必要になる。 規模が
違うことで配送センターの仕組みも全く違ってくる。
当然、生産性にも大きな違いが出てきます」
「当社は現在、通過額で五〇億円、一〇〇億円、五
〇〇億円という三つのクラスの物流センターを運営し
ています。 五〇〇億円のセンターと他のセンターでは
生産性が全く違う。 五〇〇億円規模のセンターを建
設したことで一気に生産性を向上することができまし
た」
「五〇〇億円となると一日の出荷量が四〜五万ケース
になります。 食品を扱う物流センターとしては日本で
も最大規模です。 しかし、世界を見れば、これでも最
も小さなクラスです。 私は勉強のために世界中の物流
センターを見て回りましたが、欧米では二〜三万坪ク
ラスが標準です」
「しかも米国ともなると拠点の敷地内に鉄道の引き
込み線が入っている。 つまり入庫は列車単位、あるい
は大型トレーラーの単位で入ってくる。 出荷も二〇ト
ン単位のトレーラーです。 それが物流センターと店舗
をピストン輸送している。 欧州も似たようなものです。
これに対して日本では大型と言われる店舗であっても、
バックヤードに二トン車が止まっている。 これでは絶
対にコストダウンなどできない」
――ただし、欧米の仕組みをそのまま日本に持ち込む
こともできないでしょう。
「確かにその通りです。 基本的に欧米の物流は最低
でもケース単位です。 日本のようなピース単位の出荷
はない。 当社が大規模センターを作ってみて分かった
ことの一つは、何でも集約すればいいというわけでは
ないということです。 商品によっては小規模センター
で処理したほうが良いものもある。 現在、当社の大規
模センターの出荷は、ケースものが七〜八割、ピース
出荷が二〜三割という比率です。 しかし、処理コス
トは全く逆でケースが三割、ピースが七割になってい
る」
「ひょっとすると菱食さんのようにケース出荷する
ものとピース出荷で物流センターを分けて、全く違う
仕組みを作ったほうが安く上がるのかも知れません。
ただし、菱食のモデルにすればケースとピースの物流
センターを結ぶ横持ち運賃が発生する。 それを北海道
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で展開するとなった時、どれくらいの負担になるのか。
結局、小売りの組織形態、ビジネス規模、場所によっ
て最適な物流センターの形は違ってくる。 物流センタ
ーのスタンダードはあり得ない。 最近では、そう考え
るようになってきました」
――セイコーマートが物流業に進出する場合の課題が
あるとすれば。
「配送や実際の倉庫内作業は当社ではできない。 こ
れも経験から学んだことですが、我々流通業の人間で
配送や倉庫業務を処理しようとしても採算が合わない。
人件費の単価の問題ではありません。 ノウハウの問題
です。 運送業には運送業なりの、倉庫業には倉庫業な
りの身体の使い方、働き方がある。 そのため物流セン
ターの設計は我々が行うけれど、現業の部分はアウト
ソーシングした方が得策です」
次はメーカーとして全国展開
――物流事業以外の展開としては?
「当社は長い時間をかけてプライベートブランド(P
B)商品を厚くしてきました。 カテゴリーにもよりま
すが、例えば飲料では酒類を含めて現在四五%がP
Bです。 PBに関して我々はメーカーです。 そして現
在、当社のPBは卸売や通販会社を通して全国に販
売されています。 魚や牛肉もまとめて調達して、冷凍
庫に保管しています。 それを当社のチャネルに流すだ
けではなく、他社にも販売している。 牛肉の場合、他
社への販売分が既に四〇%程度を占めています」
「そのように北海道の生産物を加工して商品化し、そ
れを全国に販売する。 それが当社の今後の方向性では
ないかと考えています。 我々が熟知しているのは北海
道のことだけです。 それならば小売りとして全国に展
開するよりも、メーカーとして展開したほうが有効だ
という判断です。 物流についても同じように考えてい
ます」
――酒卸だった丸ヨ西尾がコンビニという形で小売り
の組織化に動いた。 それが今、さらに流通の川上に移
行しようとしている。 これは垂直統合ですね。
「垂直と水平の両面です」
――現在の経営理論では多角化は否定され、コア・コ
ンピタンスへの集中が良いとされています。 それに逆
行していませんか。
「現在、当社のグループは全部で十三社あります。 そ
れぞれが全く違う機能を担っている。 しかし、これは
多角化とは違います。 コンビニと関係のない事業には
一切、出ていない。 全てコア事業を強化するために、
必要に迫られて作ったものです。 例えば従来、豆腐を
作ってきたのは小規模事業者ばかりでした。 当社の千
店舗への納品には対応できない。 だから当社が自分で
やる必要があった。 そうやって結果として当社はコン
ビニに必要な機能を全て自前で持つことになったんです」
――酒卸では生き残れないと考え、コンビニチェーン
に転身した。 そして販売力を確保しことで今度はメー
カーとしても機能できるようになった。 なぜセイコー
マートだけが、酒卸のなかで、そうした転換が可能だ
ったのでしょうか。
「もともと当社のDNAには、メーカーも小売りも
入っているんです。 当社は酒卸であると同時に昔から
酒や飲料水のメーカーでもありました。 酒卸以前には
小売りでもありました。 私自身、最初は『北の誉』と
いう酒メーカーから酒卸に移り、そしてコンビニチェ
ーンを始めた。 だから生意気を言うようですけれど、
商品の質では全国メーカーに絶対負けません。 そこは
自信を持っています」
特集
札幌、釧路、旭川、函館、稚内、帯広の道内主
要都市6カ所に全温度帯のフルラインを扱う自
社物流センターを構えている。 写真は「札幌配
送センター」
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