ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年4号
現場改善
急成長物流企業M社の人材育成

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 代表 青木正一 77 APRIL 2005 を行っているという程度の零細企業だったが、チ ェーンストアのセンター運営事業を手掛けるこ とで飛躍を遂げた。
しかし、急激な成長は会社 のどこかに必ず歪みをもたらす。
M社の場合に は人材面にそれが現れていた。
規模の拡大に伴 い、数的には管理職を補充していたものの、質 的な向上が置き去りにされていた。
聞けばM社は現在の年商八〇億円規模になる まで、「研修」と名のつく取り組みを一度も行っ たことがなかったという。
資格の取得や外部セ ミナーへの参加はもちろん、コンサルタントの活 用さえも初めてのことだった。
S社長自身、学 校を卒業後、そのままM社に入社したため、育 てられたという経験がない。
他の会社がどのよ うな教育・研修を行っているかを知らなかった。
しかし、M社にとって管理職の育成は待った なしの課題であった。
それなしには成長も維持 できないことを、S社長ははっきりと認識して 第27回 下請け仕事中心の零細物流企業を創業者の父から受け継いだ二 代目社長。
事業領域をチェーンストアのセンター運営に拡げること で、売上規模を急拡大させた。
しかし会社の成長に人材の育成が追 いつかない。
社長は強い危機感を持っていた。
やり手の二代目社長 「このカリキュラムはウチには合わない」。
そう言って、中堅物流企業M社のS社長は、 我々NLFが提案した人材育成プランを突き返 した。
M社の実態を理解し、社員のレベルに則 した教育カリキュラムになっていないという判 断であった。
S社長は研修自体の目的化や形骸 化を懸念していた。
教育の?実践〞に強くこだ わっていたのだった。
M社は東京・大阪を中心に冷凍・冷蔵・チル ドの配送、センター運営業務を展開している。
現 在の年商は約八〇億円。
この分野としては一定の 存在感を持ち得る規模といえる。
ここ数年、大手 コンビニや外食チェーンなどを主要荷主として、 毎年一〇億円のペースで売上高を拡大させている。
S社長は創業者を父に持つ二代目社長だ。
会 社を引き継いだ時には細々と輸配送・保管業務 急成長物流企業M社の人材育成 いた。
それだけに教育カリキュラムの内容に対 する思い入れも強かった。
コンサルティングの 最終的な合意を得るまでに、S社長と我々は冒 頭のような交渉を何度も重ねることになった。
経営数字の公開は両刃の剣 正式に契約を提携し早速、教育・研修の対象 となる管理職社員約二〇人へのヒアリング調査 を行った。
研修の実施に当たって、まず対象者 の意見を吸い上げる。
そして吸い上げた意見を できるだけ反映して具体的な教育カリキュラム や職務基準書を作成する。
それはS社長が強く 望んだことだった。
M社にとって過去に経験の ない取り組みであっただけに、抵抗感をできる だけ抑えたいという配慮だった。
実際、個別にヒアリングを進めていくなかで、 我々の当初の提案が拒否された理由も痛切に感 じることができた。
予想以上に管理職のレベル APRIL 2005 78 は高すぎる、本社が経費を使いすぎているなどと、 目的とは逆の反応が出てしまうことが少ないない。
そのため具体的には、?ドライバーの給料な どが主となる項目は大枠で「人件費」や「総人 件費」として表わし、現場が自ら着手できる「燃 料・油脂費」「修理費」「タイヤ・チューブ費」 「高速費」などはそのまま勘定科目で表わすとい った工夫が必要になる。
同時に経理担当者など を介して、数字の意味の説明や見方を伝えるな どの基礎教育を行わなくてはならない。
プロパー幹部の現状肯定 M社の個別ヒアリングは大きく、本社の担当 部長クラスと、現場の所長/センター長の二つ が低かったのである。
管理職の仕事が、どうい う内容であるべきかを理解できていない。
成り 行きで日々の仕事を処理する受身の姿勢が目立 っていた。
自分達の手掛けている仕事が黒字な のか、赤字なのかも把握できていなかった。
もっとも、このうち最後に挙げた収益性に対す る認識の低さは、経営に関する数字をオープンに してこなかった会社側にも責任の一端があった。
会社の目標や改善すべき内容を定性的な「こと ば」だけで伝えるには無理がある。
人材を育てて いくためには本来、数字の公開が不可欠だ。
ただし経営数字の公開は両刃の剣ともなる。
一 般的に言って、社員たちが経営に関する基礎教 育を受けており、会社を良くしたいという認識が 浸透している会社でにあれば公開は?吉〞と出 る。
しかし、そうでない場合には、誰それの給料 に分けて実施した。
このうち本社の担当部長か らは、?部下の管理方法と、?現場とのコミュ ニケーション方法に関する研修の要望が強かっ た。
一方、現場の所長/センター長からは、? ヒトの管理方法がわからない、?自分の職務範 囲が不明確といった声が聞かれた。
また、このヒアリングによって、先代からの M社のプロパー幹部と途中入社組とでは、現状 認識に大きな違いのあることが明らかになった。
プロパー幹部たちは過去に体系的・継続的教育 を受けてこなかったことから、「現状で良し」と 時期 ステップ 進め方 狙い/目的 1月 2月 3月 オリエン テーション ステップ 1 ステップ 2 M運輸における教育・研 修の意義、目的の確認 担当部署に基づいたケ ーススタディ・ロールプ レイング実施による実 践訓練 管理職としての 基本知識の習得 管理職研修?〈基本編〉 (3回・計9講座) 教育・研修開催にあたって (対象:部長) 管理職研修?〈応用編〉 (3回・計9講座) ステップ 3 管理職としての 基本知識の習得 各部別落し込み実務指導  (2回/月×3ヵ月計6回指導) ●各担当部下の成長イメージ、キャ リアアップイメージの抽出 ●当「教育・研修」と連動して現場 へ伝えていくべき内容の抽出 ●上記研修。終了後、職務基準書概 要発表 ●概要書の読み込みと担当部署業務 とのすり合わせ ●各部、各管理職の管理スキル・レ ベルのチェック ●部別職務基準書の作成(各部長) ●具体的運営方法の決定 図1 
猶人△砲ける体系的教育・研修プログラム 4月 〜 6月 図2 ステップ1:管理職研修 M運輸における 今後の方向性と 将来ビジョン 目標の在り方と 設定方法 管理職の位置づけと その役割 数値管理、 損益管理の方法 数値把握による 現場改善の進め方 現場・関連部署との コミュニケーション・ 連携の在り方 ヒトの管理内容と 効率的運営方法 部下の指導と 育成方法 管理職の業務内容 質疑応答・ディスカッション 第1講座 90分 第2講座 90分 第3講座 90分 第1回 第2回 第3回 報・連・相の徹底 【部長クラス】 【センター長・所長クラス】 基本編 ▼ ▼ ▼ 図3 ステップ2:管理職研修? 応用編 ▼ ▼ ▼ 第4回 第5回 第6回 総評と改善点の抽出 各テーマにおける 前回のポイント確認 課題提示によるグル ープデスカッション とワーキング 各グループより発表 日本ロジファクトリー からの評価・指導 今までの管理職 これからの管理職 センター別損益算出の (車輌別損益)ポイント M運輸の a管理職として行って いること b行わなければならな いこと c今後、挑戦していき たいことを抽出 (役職別グループ) 弊社条件設定、数値設 定により実際に算出作 業をグループで行う (部別グループ) ランダムに2名ずつのペア をつくり、上司・部下の関 係で「ある事柄」について 相談・指導を行うロールプ レイング (ランダムペア) 部下への伝達・指導の ポイント 中間管理職から5名を選出 しロールプレイングの感想・ 自分の課題などを発表 復 習 作 業 発 表 45分 75分 75分 まとめ 45分 休    憩 各グループの代表より発表 79 APRIL 2005 する意識が強かった。
一方、途中入社組の幹部 たちからは「会社の明確な方向性とビジョンが 必要である」あるいは「教育による若手の底上 げが急務である」といった声が上がっていた。
危 機感が強かったのである。
我々から見る限り、M社の管理職は?管理す る人〞の呈をなしていなかった。
これまでの急 成長はS社長の強いリーダーシップとトップダ ウンだけに支えられていたと考えるしかなかった。
ヒアリングから一カ月後に我々は職務基準書 のほか「体系的教育・研修プログラム」(図1)、 「管理職研修?〈基本編〉」(図2)、「管理職研修 ?〈応用編〉」(図3)といった具体的なカリキ ュラムを提示した。
このうち基本研修と応用研修の内容はそれほ ど特殊なものではないが、研修の事前に行われ るオリエンテーションは特に重視した。
最初に 教育・研修の意義・目的を参加者全員がしっか りと確認する。
さらに、何をもって研修の成果 とするかという具体的な着地点を明確にする。
そ のために、各部長に担当部署の職務基準書を自 ら作成するという課題を出した。
こうした事前オ リエンテーション や動機付けの実施 は、大企業では忘 れられがちなプロ セスだ。
実際、研 修の最終成果の設 定、効果測定、受 講側からのフィー ドバックを実施し ている会社は希で、日程を消化することで?育成〞 が図れていると勘違いしている会社を多く見受 ける。
一方通行型研修で自己満足してしまって いるのである。
研修成果と副作用 M社の研修は現在も進行中である。
しかし既 に多くの変化が現れている。
事前オリエンテー ションで、S社長はM社の将来ビジョン・目標 をはっきりと語った。
これによって会社に対す る帰属意識の薄かった若手の一部幹部候補者の 志気が上がった。
また、これまでM社では違う 部門の社員と接する機会があまりなかったが、こ の研修をきっかけに「あいつには負けたくない」 とライバル心を燃やすものも出てきた。
応用研修では基本研修の内容に基づいたケー ススタディ、ロールプレイングを行った。
ここで も大きな収穫があった。
ランダムに選出した二 名を一つのペアとして、?上司〞と?部下〞に設 定。
荷主からの誤配クレームに対して部下から 報告、相談を行い、それに基づいて上司が指示、 指導を行うといった演習を行った。
全体の傾向として、このロールプレイングで は、「書く」、「例を用いる」などの表現力に長け た人材が、現場の若手幹部に多く見られた。
た だし若手幹部には、数字意識の希薄なものが少 なくなかった。
一方、部長クラスのベテラン幹 部は、数字意識は比較的持ち合わせているもの の、表現が精神論中心で方法論のない?説教〞 になっていた。
研修によって最も大きく変化したのは三〇歳 から四〇歳台前半までの若手幹部たちだった。
「初めて研修というものを受けた。
これから業務 に活かしていきたい」、「私の考え方、やり方は 間違っていなかった」など感想は様々であった が、いずれも研修から大きな刺激を受けたこと が確認できた。
一方で研修の?副作用〞もあった。
意識改革 型の教育・研修には?出血〞の伴う場合がある。
M社の場合も例外ではなかった。
社歴三五年と いうプロパーの部長が最終プログラム直前で会 社に辞表を提出したのだ。
理由は「今から自分 のやり方を変えていくのはムリである」とのこと であった。
変化が起きれば当然、組織は揺らぐ。
船の舵 取りのように、その角度が急であればあるほど、 海に投げ出される人も多くなる。
過去の成功体 験が染みついたベテラン幹部にとって、体制の 変化は自己否定を強いられていることを意味す る場合がある。
新しい体制に耐え切れない幹部 は行き場を失う。
これは物流業に限らない企業 人の宿命である。
しかし、研修を通してM社には将来の幹部が しっかり社内に存在していたことも確認できた。
こうした現場の若手管理職が本社の部長クラス へと成長していくのに伴い、M社は成長の第二 ステージを駆け上ることになるだろう。
あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産 業大学経済学部卒業。
大手 運送業者のセールスドライ バーを経て、89年に船井 総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチ ーフを務める。
96年、独立。
日本ロジファクトリーを設 立し代表に就任。
現在に至る。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp 著者新刊 『経営のテコ入れは 物流改善から』 明日香出版社 1,890円

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