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DECEMBER 2003 10
成長を続ける欧米3PL市場
3PL市場の拡大が止まらない。 二〇〇二年の米
国市場の規模は前年比六・九%増の六五〇億ドル(約
七兆一五〇〇億円)に達した。 国の経済成長をはる
かに上回るペースでの拡大が続いている(米アームス
トロング&アソシエイツ社調べ)。 欧州市場でも二〇
〇二年の3PL大手二〇社の総売上は四四三億ユー
ロ(約五兆七六〇〇万円)に上っている。
そして日本でも、3PLは着実に市場に根付き始
めている。 日立物流の3PL事業に当たる「システム
物流」の二〇〇三年三月期の売り上げは、七七〇億
円で前年比一六%増だった。 今期は二三%増の九五
〇億円を見込んでいる。 ここには日立製作所を含めた
グループ会社向けの売り上げは含まれていない。 同社
の売上高に占めるグループ会社向け以外の事業収入、
いわゆる外販比率は九九年に五〇%を超えた。 そして
今期は一般荷主向けシステム物流の売り上げがグルー
プ向けを上回ることが確実だ。 これによって、3PL
を主業とする大手物流会社が、ようやく日本にも登場
することになる。
3PLは九〇年代初頭に欧米で開花した物流ビジ
ネスの新しいモデルだ。 輸送や保管といった単機能の
業務委託ではなく、荷主企業のロジスティクス活動全
般の管理運営を丸ごと代行する。 中核機能以外をア
ウトソーシングすることで本業への集中を図る荷主企
業のパートナーとして、欧米の大手企業を中心に一気
に導入が広まった。
日本には九〇年代の中頃に、そのコンセプトが紹介
された。 従来から現場実務よりも管理業務を主として
きた物流子会社や、物流コンサルティングから始まる
「提案営業」を標榜する物流専業者がまず反応した。
日本の有力物流企業が3PLの事業収入を公表し始め
た。 そのシェアは周囲の予想を遙かに超えている。 しかも、
毎年10%以上のペースで事業は拡大を続けている。 低迷
する日本の物流市場にあって3PLは既に最大の成長分
野となっている。 (大矢昌浩)
日本でも市場の拡大が始まった
続いて資産効率による欧米流の企業評価を迫られた
日本の荷主企業にも3PLは意識されるようになった。
そして今日、3PLは低迷する日本の物流市場に
あって最大の成長分野になっている。 老舗の特別積み
合わせ事業者として知られる第一貨物では、二〇〇
二年度の売上高約七一六億円のうち、3PL事業が
約一〇〇億円を占めた。 ここ数年、3PL事業は年
率一〇〜一五%の伸びを続けているという。 港湾運
送大手の山九でも、昨年度の3PL事業の売り上げ
二四〇億円を、今期は三二〇億円に拡大する目標を
掲げている。
日本の3PL市場規模
これまで日本では、3PLの具体的な市場規模や
その成長率を測定することができなかった。 理由の一
つは日本の3PLがいずれも?兼業〞だったからだ。
欧米の有力3PLは、いずれもベンチャー企業か大手
物流会社の別会社として運営されているため、市場規
模も弾きやすい。 これに対して日本の場合、既存の物
流業者がそのままサービス範囲を拡大するかたちで3
PLを手掛けている。 従来型の事業と3PL事業の
線引きはやっかいだ。
近鉄エクスプレスは二〇〇三年三月期から3PL
事業の収入を決算書で公表する計画だった。 狭い範
囲でとらえると同社の3PL事業収入は前期で連結
売上高の八%、約一六〇億円程度になるという。 た
だし、これには海外事業が含まれていない。 さらには
3PL案件で管理している荷主企業の支払運賃をど
う計上するか。 異論が多く、容易に方針は定まらない。
結局、集計方法についての結論が出ず、公表は翌期
に持ち越しとなった。
最大手の日本通運も同じ悩みを抱えている。 同社
解 説
日本の3PL 成功事例に学ぶ上手な活用法
特集
11 DECEMBER 2003
は今年春のアナリスト説明会で3PL事業の収入を
一三〇〇億円強と初めて公表した。 同社の本店営業
部で管轄する事業のうち、荷主企業から包括的な業
務委託を受けている案件を抜き出した数字だという。
近鉄と同様、海外事業分はそこに含まれていない。
日通の田宮一昭営業企画部専任部長は「3PL案
件は国内よりむしろ海外事業のほうが活発だ。 海外を
含めると3PL事業は既に当社の総収入のうち、かな
りのシェアを占めていることになる。 しかも、毎年そ
の割合はぐんぐん高まっている」と説明する。
これら日本の有力3PLの売り上げも来年には出
揃う。 その結果、日本の3PL市場が既に周囲の想
像を遙かに超える規模にまで拡大していたことに気付
かされるはずだ。 今後、日本の景気が回復しても、物
流センターを自前で建設する荷主企業が増えることな
ど考えられない。 もはや後戻りはない。
ただし、3PL市場拡大のシナリオと3PL導入
のスキームは、欧米市場と同じではありえない。 これ
まで日本の3PLユーザーは、外資系企業か物流子
会社を持たない中堅企業、新興企業に限られていた。
物流子会社や物流部門の既存スタッフの処遇が制約
になって、大手荷主企業は3PLの活用には踏み切
れないでいた。
九七〜九八年頃から、一部の大手メーカーは物流
子会社の売却を3PLに打診するようにはなっている。
とくに二〇〇〇年以降、その数は加速度的に増えて
いる。 物流以外の分野では事業統合や工場売却が日
本でも既に日常茶飯事だ。 大手荷主の営業権を獲得
できるのであれば、既存従業員の受け入れも辞さない
という3PLも少なくない。
しかし3PLによる荷主スタッフの吸収は同じ業種
同士の事業統合とは勝手が違う。 移籍後の待遇は3
PLの規定に合わせることが条件になる。 多くの場合、
荷主時代の待遇は維持できない。 具体的な交渉に入
ると、移籍問題はいつも暗礁に乗り上げる。
ソフトランディングのスキーム
突破口を探る試みが、松下電工と日通によって進
められている。 両社は二〇〇二年二月、共同出資でナ
イス・ロジスティクスを設立した。 松下電工で物流管
理業務に当たっていたスタッフ約一五〇人がナイス・
ロジスティクスに出向。 日通からも一〇人余りが出向
し、松下電工のロジスティクス改革に取り組んでいる。
当初は日通が一〇〇%出資して、松下電工のロジス
ティクスを一括して請け負う3PL会社を設立すると
いう案も検討された。 しかし、それでは松下電工は既
存スタッフの雇用を保証できない。 日通にとっても実
質的な支配権のない子会社を作ることになってしまう。
結局、日通の出資比率を四八%に抑え、松下電工
が五二%の株式を持って支配権を握るジョイントベンチャー方式で両社は合意した。 自社運営と3PLの
中間を行くモデルだ。 CEOは松下電工の役員が兼
務。 COOを日通が派遣することで、雇用を維持しな
がら合理化を進める「日本型3PL」を目指すという。
プロセス改革によるコスト削減を先行させて人員の削
減を先送りする、極めて日本的なソフトランディング
といえる。
親会社が過半数の株式を握るナイス・ロジスティク
スはサードパーティーとは言い難い。 最終的なゴール
に到達するのも時間もかかる。 しかし、それを許す経
営的な余裕が親会社にある場合は、本格的な3PL
導入までの移行期のモデルとして、有効に機能する可
能性がある。 これを成功させることで日通は同じモデ
ルを他の大手荷主にも展開したいと考えている。
$70
$60
$50
$40
$30
$20
$10
$0
1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 (年)
図1 米国の3PL市場は一貫して拡大している
米国3PL市場規模の推移(単位10億ドル)
30.8
34.2
39.6
45.3
56.6
60.8
65
図2 とくに輸送管理とセンター業務が伸びている
米国の3PL/コントラクト・ロジスティクス市場の規模
米アームストロング&アソシエイツ社調べ
3PLセグメント 2002年総売上 前年比成長率
国内輸送管理――アセットベース 90億ドル 2.5%
国内輸送管理――ノンアセットベース 195億ドル 3.6%
国際輸送管理 166億ドル 7.5%
付加価値倉庫/配送 169億ドル 13.3%
ソフトウェア 30億ドル ― 25%
合計 650億ドル 6.9%
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