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DECEMBER 2003 12
ドイツポストのDHL買収をサポート
――これまでに手掛けてきた欧米でのM&A(企業の
合併・買収)事例で代表的なものを挙げてください。
ジョン「そのうちの一つにドイツポストがDHLを買
収した案件があります。 守秘義務の関係で詳しいこと
は話せませんが、我々はDHL株を大量に保有する、あ
る有力な個人株主の代理人として、ドイツポストとの
交渉にあたりました。 ドイツポストはその数年前に日
本航空(JAL)が所有するDHLの株式を買い取っ
て二五%を保有する大株主となっていましたが、さら
に支配力を高めたいと考えていた。 そのため個人株主
たちにアプローチを掛けていたのです。 我々はドイツポ
ストと個人株主の間に入って、両者にとって最も良い
条件で取引ができるよう調整する役割を担いました」
――結果はどうでした?
ジョン「広く知られている通りです。 ドイツポストは
DHLの持ち株比率を四九%に高めることに成功し
た。 そして個人株主たちも最も良い条件で保有株を手
放し、売却益を得ることができました」
――日本にラザードの現地法人があるにもかかわらず、
今回わざわざあなた方が来日した目的とは。 クライア
ントである欧米の3PL企業に頼まれて、日本の買収
候補を探しにきたのでは?
ジェームス「買収先を選定するための材料を集める目
的で来日したというのが正しい。 我々のクライアント
企業に限らず、いま世界中の有力3PLが日本の3
PLとジョイントベンチャーを立ち上げたり、パート
ナーシップ関係を築くことを望んでいます。 我々は欧
米のどの3PL企業が、どういった分野に強い3PL
のM&Aを検討しているかといった情報をたくさん持
っている。 欧米3PLのそうした意向を日本の3PL
に伝えることも今回来日した目的の一つです」
――日本での訪問先を教えてください。
ジェームス「具体的な企業名は出せませんが、物流子
会社とその親会社、倉庫会社、航空フォワーダー、陸
運会社など色々なタイプの物流企業を訪問させてもら
いました」
――各社の印象は?
ジョン「今回の訪問はラザードがどんな会社でどんな
サービスを提供しているのかを知ってもらうことに重
点を置きました。 M&Aに関しての具体的な話にはほ
とんど触れませんでした。 日本の3PLの印象? よ
うやく海外にも目を向け始めていますが、まずその前
に日本における業界再編を済ませておくべきだという
認識の方が強いようです」
ジェームス「日本の3PL市場は欧米のそれよりもプ
レーヤーの統合に時間が掛かっている。 M&Aが本格
的に動き出すのはもう少し先、二〜三年後になりそう
だな、という印象を受けました」
――欧米の有力3PLの経営トップは皆インタビュー
で「日本は有望なマーケットだ」と指摘する。 しかし、
これまで欧州3PLが日本の3PLを買収したという
話はほとんど耳にしない。 日本の3PLが買収に対し
て抵抗しているのでしょうか?
ジョン「欧州と日本では3PLの収益率に大きなギャ
ップがあります。 つまり日本の3PLの収益率があま
りにも悪い。 そのことが本格的な日本進出に対して欧
州3PLが二の足を踏んでいる原因の一つになってい
ます」
ジョン「これまで日本の3PLをM&Aするチャンス
がなかったのも事実です。 しかし最近は違います。 か
つて日産自動車の物流子会社であったバンテックを、
投資会社のスリーアイが売却すると決断した際にも、
「日本に3PL会社を買いに来た」
米有力投資銀行のラザードが日本市場での活動を本格化しよう
としている。 このたび3PL企業の買収戦略を担当するコンサル
タント2人が来日。 日本の物流会社を精力的に訪問した。 2人は
欧米の有力3PLの日本市場参入の意向を受けている。 3PLの
グローバル競争の影響は近く日本にも及ぶ。
(聞き手・刈屋大輔、夏川朋子)
ラザードジェームス・L・ケンプナーマネージングディレクター
ジョン・ハウエルズアソシエイト
日本の3PL 成功事例に学ぶ上手な活用法
特集
13 DECEMBER 2003
我々は多くの欧米3PLと話し合いの場を持ちました。
欧米3PLはバンテック売却のアナウンスにとても驚
き、そして興味を示した」
日本の3PL再編は雪崩的に起こる
――日本での3PL再編にはまだまだ時間が掛かりそ
うですか?
ジェームス「必要なのは一つの成功事例です。 一社が
成功すれば他の3PLのM&Aに対する考え方も変
化してくるでしょう。 欧米とは異なり、日本の文化に
はM&Aが浸透していない。 現状ではジョイントベン
チャーやパートナーシップに終始している。 しかし、
成功事例さえ生まれれば、一気に日本でもM&Aが
拡がっていくはずです」
ジョン「ただしM&Aはそんなに簡単な話ではありま
せん。 従業員の処遇をどうするか、資産の問題をどう
処理していくかなど、どんな企業でも克服すべき課題
を抱えている。 こうした問題を解消できずに結局、M&
Aまで至らずにジョイントベンチャーやパートナーシ
ップのレベルで終わってしまうケースも少なくないの
です」
ジョン「ジョイントベンチャーやパートナーシップに
は大きな問題点があります。 それは結局どちらかの企
業が主導権を握るようになり、関係がうまくいかなく
なることです。 M&Aでは当然、買収する側が主導権
を握るわけですから、そういう問題は発生しません。
M&Aのメリットです」
――欧米3PLによる日系3PLのM&A、日本市
場内でのM&Aが実行される可能性は?
ジョン「いくつかの案件は現在、話し合いがもたれて
いる段階だと思います。 この三〜六カ月のうちにニュ
ースがリリースされるかもしれません。 日本の場合、
欧米3PLと日系3PLという組み合わせよりも、日
系3PLによる日系3PLのM&Aのほうが受け入
れられやすいでしょうね」
ジェームス「私は欧米3PLと、ある日本企業が売却
についてすでに話し合いを始めていると聞いています。
欧米3PLが日本の3PLの親会社に積極的にアプ
ローチしている。 一年以内に話がまとまると見ていま
す」
――米UPSなど早い時期に日本上陸を果たした欧
米の物流企業は、その後日本市場の攻め方を改めてい
ます。
ジョン「当初UPSはパートナーのヤマト運輸にドメ
スティック(日本国内)の業務を委ね、自らは海外輸
送を中心に手掛けてきました。 しかし、そのうち日本
市場に馴染んでくると自社集配を始めるようになった。
彼らは明らかに対日本戦略を変えてきています」
――グローバル規模での大型案件は?
ジェームス「アジアでの案件になるかどうかは分からないが、欧州では大きな案件が持ち上がるでしょう。
欧州と米国の巨大3PLによる統合が起きても不思
議ではない状況にあります」
ジョン「ある3PLがそのような話に興味を示してい
ることは確かです」
――欧米、そして日本で3PLの再編が動き出すこと
はラザードにとってビジネスチャンスの拡大を意味し
ているのでしょうね。
ジェームス「今回の日本訪問で日本の3PLもM&
Aに興味を持っていることが掴めました。 これが一番
の収穫です。 日本でも将来必ず3PLのM&Aや業
界再編が起こる。 今から日本の3PLと良好な関係
を築いておけば、我々にとって大きなビジネスチャン
スになることは間違いないでしょう」
ジェームス・L・ケンプナー
マネージングディレクター
ジョン・ハウエルズ
アソシエイト
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