ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年1号
SCC報告
ITコラボレーション時代の次世代SCM構築戦略 後編

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2002 70 「eサプライチェーン」の課題とは 日立製作所 毛利峻治 生産技術研究所主 任研究員(以下、SCC・毛利) 企業がI Tを使ったコラボレーション、いわば「eサ プライチェーン」とも呼べるものを構築して いこうとする場合、それは従来のサプライチ ェーンとどう違うのか。
本質的な違いは何な のか。
企業はどんな準備をしておかなくては ならないのか。
そこから、まずお話を伺いた い。
松島先生からお願いします。
東京大学大学院 松島克守 教授(以下、東 大・松島) ITそのものは今や大変、安く なっています。
コラボレーションのための情 報技術的な問題も既になくなった。
今、eサ プライチェーンを阻害するものがあるとすれ ば、それは既存の情報システムが古過ぎるこ とだと思います。
二〇世紀に置いてくるべき ものを二一世紀まで引っ張って使ってしまっ ている。
社外は二一世紀なのに社内は二〇世 紀という状態になっている。
そういう意味で情報システムの刷新が、一 つの大きな課題になります。
OSを含めてネ ット、プロトコル、コンテンツは全てオープ ンになった。
これに合わせて、システムもオ ープン化しなければ、当たり前のことですが、 コラボレーションにはならない。
徹底したオ ープン化が必要です。
さらに、オープン化で最大のボトルネック になるのは「心のオープン化」です。
つい 「我が社は〜」、とか「我が業界は〜」と自分 の置かれた環境の特殊性にとらわれてしまう。
心のオープン化はシステム以上に大変な、一 番の問題になっている。
SCC・毛利 コンサルタントとしてソリュ ーションを提供する立場から、JBCの安達 第10回 前号に続き、SCCの年次総会である第3回「Supply Chain World Japan, 2001 」の内容を報告する。
今回、 紹介するのは「ITコラボレーション時代の次世代S CM構築戦略」をテーマとしたパネル・ディスカッショ ンだ。
パネリストは前号でプレゼンテーションを行った 四人。
司会をSCCの毛利峻治チェアマンが務めた。
Supply Chain World Japan, 2001 ITコラボレーション時代の 次世代SCM構築戦略 後編 東京大学大学院 松島克守 教授 NEC 市原直人  生産推進部生産システム開発センター マネージャー 日本ビジネスクリエイト 安達龍治        取締役ビジネスモデル統括本部長 i2テクノロジーズ 西本広之        ソリューション営業本部 本部長 パネリスト 日立製作所 毛利峻治 生産技術研究所主任研究員 (サプライチェーンカウンシル日本支部チェアマン) モデレーター 71 JANUARY 2002 三つ目の違いは目的です。
仕組みを作って 何をするのかという問題です。
これまでの目的は、リードタイムを短くするとか、コスト を下げる、間接コストを減らすといった「効 率中心」でした。
しかし、これからは効率だ けではなく、新しい価値をどう生み出してい くかという視点で仕組みを作っていく必要が ある。
いずれにしても、今まではシステムをつなぐ という観点で仕組みを考えてきたわけですが、 これからビジネスをつなぐという観点でシス テムを作る。
それが肝要だと考えています。
SCC・毛利 NECの市原さん。
企業で実 際にSCMを担当する立場として、これから 具体的にはどのような課題をクリアしていか なくてはならないとお考えですか。
レガシーシステムが障害に NEC 市原直人 生産推進部生産システ ム開発センター マネージャー(以下、NE C・市原) 情報システムがオープン化され て、当たり前のようにビジネスで使われるよ うになると結局、コラボレーションができて いるか、いないかで、企業間の差がものすご く拡大される。
つまり情報システムを使える かどうかという話ではなく、良いコラボレー ションができるかどうか、良いビジネスモデ ルなのかどうかという部分の影響が大きく増 幅されてくると思います。
実際、当社の例でも、サプライヤーとウェ ブでつなぐという同じ施策を行ったにも関わ らず、その効果は工場によって大きく差が出 ている。
どうやればリードタイムが短くなる かというような話をサプライヤーと一緒に考 えている、お互いに工場を訪問して相手の状 態を分かっている。
そういうことができてい る工場と、ただ単にデータを投げつける、こ れまでファクスで送っていたものをウェブで 送ったら良くなるだろうという程度の認識の工場では、大きな差が出ています。
そう考えると、情報システムを導入すれば 良くなるというマインドではなく、どうやっ たら良くなるのかという価値観をサプライヤ ーと共有し、一緒にモデルを作っていくとこ ろまで踏み込んだ行動がキチンととれる。
そ ういう組織を作っていかないと、他社と同じ レベルにとどまるだけです。
従って、まずはも う一度足元を見直して、サプライヤーとお互 いの価値観を共有していくというところが、地 道なテーマですが一番重要だと考えています。
SCC・毛利 情報共有という部分では、と くにリアルタイム性やスピードが大事だとi 2の西本さんは強調されていますね。
新しい 情報インフラを導入する場合にも、サプライ ヤーと一緒にやっていくという仕組みは用意 東京大学大学院 松島克守 教授 さんいかがですか。
日本ビジネスクリエイト 安達龍治 取締役 ビジネスモデル統括本部長(以下、JCB・ 安達) 従来のSCMと今後のSCMの違い について、私は大きく三つあると考えていま す。
一つは情報の内容、コンテンツです。
今 までのコンテンツは定量的な定型の情報がメ ーンだった。
それが、これからは非定型の情 報が増えてくる。
二つ目の違いは範囲です。
システムを構築 する範囲が、これまでは社内中心だった。
そ れが社外を対象にしなければならなくなる。
社外にオープンなシステムにしなければいけ ない。
JANUARY 2002 72 されているのですか。
i2テクノロジーズ 西本広之 ソリューシ ョン営業本部 本部長(以下、i2・西本) 当社がクライアント企業の仕組み作りのお 手伝いに取り組む時には、その大前提として、 そこにどういうバリューがあるのか、どうい ったオポチュニティ(機会)があるのかとい ったアセスメントを、クライアントと共に行 います。
先ほどのお話にもありましたように、従来 のSCMはコラボレーションのための「オペ レーションコストの削減」という観点が中心 でしたが、昨今のデフレ状態にある経済環境 のなかでは、いかに最大のバリューを実現す るか。
ディマンドチェーン&サプライチェー ンに取り組む目的は何なのか。
その定義と効 果の定量化、メジャーメント(効果測定)をし っかりと持たないと、企業外とのコラボレー ションの仕組みはなかなか効果を発揮しない。
実際、当社の先進的なクライアントはいず れも実にしっかりとしたメジャーメントを持 っています。
実際に適用する前と、運用を開 始した後を比較して、どれだけ在庫コストが 減ったのか、プランニング・サイクルが短く なったのかといった目標の達成度を評価しな がら進めていきます。
さらに付け加えると、成功されているクラ イアントは対象範囲の絞り込み、スコーピン グがとても上手い。
実際の導入では、例えば プロキュアメント(調達)なら、購買部門から 見た全ての扱い部品を対象に、あれもこれも、 となりがちです。
その結果、なかなかプロジ ェクトそのものが前に進まないことが多い。
これに対してデルコンピュータなどでは、 まずはキーマテリアルだけ、例えば一〇個の 製品だけという形で行うので、数週間でコラ ボレーションできてしまう。
それから順次、 展開をかけても十分に価値はつかまえられる。
当社が提供するような仕組みを最大源、活か して頂きながら、スコーピングや展開の工夫 で大いなるバリューを得ています。
SCC・毛利 今、メジャーメントのお話が ありましたが、SCCの提唱するSCORに は「メトリクス」が定義されています。
これ もメジャーメントに使用して頂けるはずです。
松島先生の主催するビジネスモデル学会では、 そうしたビジネスモデルの評価技術について のご研究は行われていますか。
東大・松島 残念ながら、まだビジネスモデ ル学会として特に評価技術を研究するという 形にはなっていません。
今のお話を伺ってい て考えたのですが、結局、戦略の実装の基本 は、時間というリソースをどう使うかという ところにある。
時間というリソースは、平たく説明すると 五段活用できる。
まず、「縮める」。
「速める」。
「合わせる」、同期させるということです。
そ れから「先んずる」。
そして「先延ばしする」。
このうち最後の「先延ばし」は日本人の得意 なところですが(笑)、この時間ということが 非常に本質的です。
私は以前に「サプライチェーン診断」とい うプログラムを作ったことがあります。
実際にいくつかの企業に適用したところ非常に大 きな効果がありました。
しかし、やっている ことは単純なタイム・スタディなんです。
サ プライチェーンをモデル化して、そのサブプ ロセスの時間を全部測定するわけです。
そう すると何が悪いか、ボトルネックは何なのか、 たちどころに見えてしまう。
時間というものは全員に等しく与えられた リソースです。
ある意味では、水と空気以上 に当たり前のものであり、使い方だけなんで す。
それが非常に重要なポイントになる。
先 の五段活用のうち、基本的には「縮める」「速 める」という二つが一番、強いアクションに なる。
そして、その究極の目標がリアルタイ ムであり、今のITを活用すれば、それが可 能になっている、と考えています。
日本ビジネスクリエイト 安達龍治 取締役ビジネス モデル統括本部長 NEC 市原直人 生産推 進部生産システム開発センタ ーマネージャー かんばん VS EDI SCC・毛利 ここで次のテーマに移りたい と思います。
コラボレーションといえば今、 ロゼッタネットやCPFRなど、サプライヤ ーと連携をすることによって部品調達を改革 しようとする仕組みが世間で話題になってい ます。
ところが、こうした仕組みを一〇〇% 機能させようとしたら、企業の中に自動化の 徹底された極めて重いシステムがないと難し い。
このままでは実用化には、ほど遠いので はないかとも思えます。
NECの市川さん、 ご意見を頂けますか。
NEC・市原 当社の場合、サプライヤーと のEDI化率は現在、九七〜九八%です。
発 注やフォーキャスト(需要予測)については 既に当社から一方的にEDIで出す形になっ ています。
しかし、その後で例えば来週・来 月のサプライのキャパシティがどうなってい て、いつどれだけの量が供給できるかという 情報を送り返してくるのは、まだ一部のサプ ライヤーにとどまっている。
つまりEDIが 進んでいるといっても一方向に使うだけの状 態にとどまっているわけです。
また、フォーキャストを出す側としての問 題となる計画精度ですが、これは営業と工場 がキチンとつながっていることが条件になる。
つながっていないと、データ自体は共有でき ても、それを信用してもらえない。
従って、 納期も出せませんということになってしまう。
もう一つ、別の問題もあります。
当社には 73 JANUARY 2002 トヨタ生産方式を導入して「かんばん」を使っ ている部隊があります。
かんばんによって工場と工場の間のコラボレーションを行ってい るわけです。
これがEDIですと、注文が工 場に着く前にサプライヤー側の営業や受注部 隊をいったん経由します。
そこで何らかの処 理が加えられて工場にいく形になってしまう。
かんばんなら一個に対して一個という情報 のやりとりができるけれど、EDIでは発注 情報と引き取り依頼が分かれてしまうんです。
さらにサプライヤーのレガシーシステムでは 一泊二日しないとデータが工場につかないと いった問題まで出てくる。
こうした問題をクリアするには、まず当社 のほうで相手の信頼感を得られるだけのデー タの精度を出すと同時に、システムをお互い の工場同士で直接コンタクトとれば済む仕組 みにする必要がある。
そうしないとEDIを 導入しても成果は出にくい。
そんな現状にあ ります。
SCC・毛利 しかし、そうしたデータ精度 やシステムの仕組みを改善していくと結局、 コストが高くなってしまうということはない でしょうか。
西本さん、いかがでしょう。
i2・西本 コストの問題ということですが、 もともと計画サイクルを速めていく場合には、 オーダー・在庫情報などの情報インフラの整 備が必要になってきます。
実際、デルも過去 数年という期間をかけながら、インフラ投資 を進めています。
しかし、それによってデル は最大限の利益を達成している。
つまり、まずは企業として生き残るために 何をすべきなのか。
それに対して投資額を判 断する必要がある。
当然、効果があっての投 資なわけですが、平たく言えば一万円の効果 があれば九九九〇円までは許されるわけです。
投資額が高い安いかは、効果をどう見るのか によって変わってきます。
SCC・毛利 安達さんは実際にコンサルティングの立場で、コラボレーションに携わっ ているわけですが、コラボレーションの人間 系の部分の調整は依然として課題になります か。
JCB・安達 先ほど「コラボレーションを 導入するならキーコンポーネンツから」とい う話がありましたが、実際のキーコンポーネ ンツは特殊部品であることが多い。
これには 仕様をサプライヤーと相談しながら決めてい くというプロセスがありますので、かなり人 間が介在したプロセスになります。
こうした 人を介在させた仕組みは今後も残っていくと 思います。
基本的にビジネスのカギになる部品は限ら れています。
これを、どこからでも調達でき るような汎用的な部品と同じように扱うのは i2テクノロジーズ西本広 之 ソリューション営業本 部 本部長 JANUARY 2002 74 間違いです。
したがって、両者を連携させた 仕組みを作る必要がある。
SCC・毛利 つまりコストを徹底的に下げ る部分は自動化させる。
これに対してコア・ コンピタンスになる部分は人間系を使っても きちんと管理していくということですね。
次のテーマに入ります。
サプライヤーとの コラボレーションを進めていこうとすれば、 どうしてもサプライチェーン・オーナー、日 本の慣習からすると、組み立てメーカーのほ うが強くなってしまうケースが多いと思いま す。
その結果、Win ―Winとはいいつつ も結局は、コストや時間短縮のしわ寄せが全 部サプライヤー側に回ってしまう傾向がある。
今日のように分社化が進んでいくと、同じグ ループの中でさえ、そうしたことが起こって くる。
全体のバリューチェーンで見た時には 大きな課題になります。
こうしたコラボレー ションの課題について、松島先生のご意見を 聞かせてください。
ROAが悪い理由 東大・松島 私は基本的に、日本のメーカー はどんどん分社化していったほうがいいと考 えています。
現在の日本の製造業の一つの問 題点は、手持ちの経営資源の大半を工場とい う製造部門に費やしていることにあります。
もともとバリューチェーンは開発、設計から 調達、生産、販売、サービスといったプロセ スがあるわけですが、そのうち生産、すなわ ち工場に大半の資産を持っている。
だから当然、ROAが悪い。
かつて八〇年 代は生産プロセスの付加価値が最も高かった。
そのため生産に大半の資産を持っていた日本 企業は大いに儲かった。
これが九〇年代に入 ると、付加価値が工場の前後にシフトした。
工場の前は調達と商品開発。
後ろはサービス です。
それなのに一番付加価値のないところ に主力を置いたままの形でいる。
だからRO Aが悪い。
こんなことがまだ続いているのは、垂直統 合とオール・イン・ワンによって肥大化した 工場が維持できてしまっているからです。
今、 生産を切ってもP/Lは落ちませんから、自 然と付加価値の高いプロセスに経営資源は移 動します。
分社化がそれを可能にするわけで す。
SCC・毛利 そのあたり、NECではいか がですか。
NEC・市原 まさに当社もこれまで典型的 な垂直統合でやってきたわけですが、最近は 分社化を進めています。
松島先生のおっしゃ るような新しいモデルに企業全体として対応 しなくてはいけないと必死で動いています。
実際問題として現在はEMSに発注したり、 開発を海外のベンチャーと一緒にやるという 形になっている。
そこで問題になるのは、社内の各部門の役 割分担です。
社内の役割分担は歴史的な経緯 を経て作られてきたもので、キレイに分けら れない。
例えば、主力製品というのは時代と ともに常に移り変わりますので、技術者も工 場も、営業にしても、常に新しい領域に移っ て行かなくてはいけない。
ところが、各自の 役割分担が整理できていないため新しいプロ ジェクトがすぐには立ち上がらない。
同じエ ンジニアであっても事業部が違えば仕事のや り方という意味でのギャップが大きい。
そんなことで、当社では個々の部門の付加 価値は何なのかという再検討を進めていると ころです。
企業の中の各部門が、自分たちの 付加価値とは一体何なのか。
世の中が垂直統 合から水平分業になっていくなかで、自分た ちの役割ついての明確な基準を作る。
さらに 会社の外の同じような役割を果たしている組 織に対して競争力はあるのかを測定する。
そ 75 JANUARY 2002 うした準備をしないと、分社化しても凍え死 んでしまう。
SCC・毛利 分社化に関する問題について、 コンサルタントとして安達さんが企業にアド バイスすることはありますか。
分社化は避けられない JCB・安達 過去に分社化が行われた時と 今の分社化では、環境要因が全く違っている はずです。
今は分社化する、しないという議 論がビジネスモデルの命題になっている。
こ れに関してSCORの「レベル1」というモ デルがあります。
私はこのレベル1を、サプ ライチェーンに関わっているプレーヤーを全 て書き出して、それぞれが今どんな役割を果 たしているかという分析に使っています。
結果として、何のためにサプライチェーン に参加しているのか分からないプレーヤー、 価値のないプレーヤーがかなり見つかります。
サプライチェーンというのは基本的に顧客に 価値を届ける供給の鎖ですから、お客さんに 対して価値を生み出していないものは本来、 認めてはいけないはずです。
しかし、そうとは一概にいえない部分もあ る。
とくに人事問題です。
かつて分社化した 背景には、ある年齢に達したら親会社のスタ ッフを子会社にシフトしていくという狙いも あった。
それが歪みを生んでいる。
今もある クライアントで、そこにメスを入れようとして いるのですが、なかなかやっかいです。
議論 していくと、だんだん感情論になってしまう。
しかし、現状ではそこに突っ込まざるを得 ない。
また、現状のビジネスの周りにいろいろな価値が見え隠れしているわけですから、 そういうところを掘り起こして、新たな役割 を作っていく。
それが必要であり、ビジネス モデルの一つの役割だと思っています。
SCC・毛利 確かに今はとにかく人を減ら さなくてはいけないということになっていま す。
松島先生、そのあたりいかがですか。
東大・松島 一千億円単位の巨大な赤字を 出してから、初めて日本の製造業は人の問題 に手をつけたわけです。
連結で一千億円の赤 字といったら風邪どころか、既に命の危ない 状態です。
いくら日本を代表するような大企 業でも、現在の規模の赤字を続けたら三年は 持ちません。
そこで先ほどの五段活用の「先 延ばし」というオプションを使って、分社化 を進めるしかない。
これまで私もいくつかの企業変革に携わっ たことがありますが、面白いことに、こうし た企業変革には必ず二人の人が立ちはだかる。
人事部長とシステム部長です。
人事部長は高 邁な人事政策をぶってくる。
システム部長は 「できない理由」を並べ立てる。
ですから改 革はまず人事部長とシステム部長を変えると ころから始めなければなりません(笑)。
SCC・毛利 システムを担当している市原 さん(笑)。
どういうご意見ですか。
NEC・市原 そうですね。
分社化を伴う構 造改革に当社も数年前から着手していますが、 スピードが追いついていない、というのが今 回のITスランプという結果であることは否 定できない事実だと思います。
ちなみに私はシステムというより工場サイ ドに位置しているのですが、今一番危機感が 強いのは工場の人間です。
実際、工場では一 人当たりの生産性を上げるために現場改善を 必死になってやっています。
ところが、ふと 見るとその隣に一〇〇人規模の生産管理部隊がいる。
さらに本社にも生産管理部隊がある。
これは何なんだということになっています。
つまり、これまで直接部隊の改善をずっと 続けてきたわけですが、今度は間接部隊がテ ーマになる。
「管理」というけれども、管理 とは一体何なのか。
そのことを徹底的に見直 す時期に入ってきています。
そこで指向して いるのは「管理レス」です。
管理しなくても、 そこに人を張り付けなくても動く部分がたく さんあるんじゃないのか。
そこに人が張り付 くから管理の複雑さが増して結局、人がいる ということになっている。
これをビジネスモデルの話に戻すと、シン プルにモノや情報を回すという形にしないと、 情報システムに何百億円投資して複雑な管理 をさせても何ら解決されない。
そういった観 日立製作所 毛利峻治 生 産技術研究所主任研究員 トになる。
当社のソリューション自体も、各々の業界 別、テーマ別のテンプレートを用意していま す。
そこで必ずお勧めするのか、二〜三カ月 というタイミングで実行して価値を出しまし ょう。
そして、また先に進みましょうという アプローチです。
そうしたアプローチにおい て、SCORというビジネスモデルのテンプ レートは最大限有効に活用することが望まし いと考えています。
SCC・毛利 松島先生はご専門のビジネス モデル学という視点からSCORをどうご覧 になっていますか。
東大・松島 私自身についていうと、SCO Rに関しては斜め読みした程度で使っていません。
少し見た限りでは有効なツールである ように思います。
しかし、私が使わないのは 機能の問題ではないんです。
もともと今、開 発中、研究中のツールは仕事には使わないこ とにしているからなんです(笑)。
実際の業務に関してはシンプルで「枯れた」 ものを使うようにしています。
研究が終わっ て、完全に完成したものを道具として扱う。
現在は「IDEF0」を使っています。
アメ リカのT・D・ロスが三〇数年前に提唱した もので、とにかく枯れていて、ソフトも安い。
他のモデリング手法としては、ローマクラブ で有名な「システムダイナミクス」。
今はこの 二つですね。
SCC・毛利 なるほど。
今日はありがとう ございました。
て現在のビジネスの構造がある程度、見えて くる。
サプライチェーンのパートナーがどんな役割を持っていて、何をしているのかとい うことがハッキリ見えてくる。
ご存じのようにSCORは、プロセスを記 述したり、プロセスの性能を評価するメトリ クスから成り立っているわけですが、そうい う事実を見た上ではじめてモノが考えられる。
さらに、新しいビジネスモデルを実際に作っ ていくプロセスでも、SCORは役に立つ。
コミュニケーションがとりやすい。
しかも、世 界共通のツールです。
ただし、現状ではSCORは受注から納品 までの領域までしかカバーしていない。
最近 は返品なども入ってきたとは聞いていますが、 デマンド領域や商品開発といった重要な領域 がもれています。
そこを当社では勝手に自分 で作って補っています。
コラボレーションに 対しても、使う側でそうした工夫をすること でSCORは十分に使える道具になると考え ます。
SCC・毛利 西本さんは、いかがですか。
i2・西本 情報システムという観点で現在、 最大の課題になっているのは、いかに短期間 で最大の価値を出すかという問題です。
かつ てのように三年先、五年先を目標に大きな仕 組みを作るという話は、もはや成り立ちませ ん。
先ほどの分社化の話などでも、SCOR という、いわばビジネスモデルの設計図のテ ンプレートを最大限活かしながら、どう短期 間に仕組みを作り上げるかという点がポイン JANUARY 2002 76 点で現在、管理をなくす、そのためにモノを なくすといったアプローチの改革を進めてい ます。
SCORの有効性 SCC・毛利 最後になりますが私どもSC CのSCORモデルについてのご意見を聞か せてください。
まずコンサルティングの現場 でSCORを使われている安達さんから。
JCB・安達 確かに当社ではSCMを進め るときにSCORを基軸に据えて活動を進め ています。
その理由は先ほども若干出てきま したが、サプライチェーンの現状を把握する 時にSCORのレベル1やレベル2を書いて 理解するのが役に立つからです。
それによっ

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