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47 JANUARY 2002
ドライバー任せの温度管理
イオングループのコンビニエンスストア、
ミニストップは一五年以上前に常温、冷蔵、
冷凍の三温度帯別物流センター体制を確立し
た。 その後、コンビニをはじめ、スーパー、
量販店など小売業界で現在、主流となってい
る一括物流も積極的に採り入れてきた。
かつてコンビニ業界では弁当と惣菜、乳製
品などのチルド商品はそれぞれ別便で配送す
るというのが一般的だったが、これらを二層式
車両で一緒に配送して店舗側の荷受け負担を
減らすというアイデアを発案し、最初に実践し
たのもミニストップだった。 それまで配送ト
ラックは一回のルート配送で一五〜一六店舗
をカバーしていたが、二層式車両の導入によっ
てこの数の半減に成功。 最初に立ち寄る店舗
と最後に立ち寄る店舗のタイムラグを小さく
し、その分店舗への配送頻度を増やして、常
に新鮮な商品を店頭に並べるようにした。
現在、ミニストップの物流体制は国内店舗
数一四九五(二〇〇一年一〇月末時点)に
対して、配送センターが一七カ所。 内訳は弁
当・チルド商品を扱うセンターが十三カ所、
加工食品など常温品を扱うセンター四カ所。
自前ではセンターや車両を持たずに、3PL
企業にオペレーション全般をアウトソーシン
グするかたちで物流をコントロールしている。
商品の供給体制はほぼ完成型に近いという。
ただし、物流面で手つかずの部分がいくつ
車両動態管理システムの導入で
チルド商品の温度管理を徹底
配送トラックの現在位置や運転状況、庫内
温度状況をリアルタイムに把握できるシステ
ムを2002年2月までに全国17カ所の配送セン
ターと配送トラック230台に導入する。 温度
管理レベルを高めるのが主な目的だ。 コール
ドチェーンの構築で、添加物ゼロの弁当を消
費者に提供して他社との差別化を図ることが
最終的なゴールだという。
ミニストップ
―― 情報システム
JANUARY 2002 48
ポロの状態〞になって売り物にならず、店舗からクレームを受けるケースが過去にも何度
かあった。 弁当の温度管理の難しさにこれま
で手を焼いてきたのだという。
しかし、クレームが発生しても「原因を特
定することはできなかった。 ドライバーに問
い詰めても、きちんと温度管理していました
よ、という答えが返ってくるだけ。 改善策を
講じようにも原因が分からないので何もでき
なかった」と堀之内取締役は述懐する。
結局、こうした問題を解決するためには、
ドライバー任せにせず、配送センター側で配
送トラックの庫内温度の推移を厳密に監視す
ること以外に方法はなかった。 「統合輸配送
管理システム」の開発と導入を決めたのはそ
んな経緯からだった。
動態管理システムを全国展開
「統合輸配送管理システム」は最適な配送
ルートを自動的に設定する配送計画機能と、
配送トラックの現在位置や運転状況、庫内温
度状況をリアルタイムに把握するための車両
動態管理機能の大きく分けて二つの機能で構
成されている。 このうち、温度管理と直接関
係するのは車両動態管理機能で、その特徴は
「一般に普及している車両動態管理システム
と違って、ドライバーの操作なしでデータ送
信などが自動的に処理される。 これによって
ドライバーを運転や荷下ろしといった作業に
専念させることができるほか、誤操作でデー
か残されている。 とりわけ問題視されていた
のは弁当、チルド商品の温度管理が徹底でき
ていなかった点である。
ミニストップの物流管理会社として八八年
に設立されて以来、一連の物流改革の指揮を
執ってきたネットワークサービスの堀之内新
一取締役営業本部長は「配送センターから店
舗までの商品温度管理はドライバー任せ。 い
ったん、配送トラックが配送センターを出て
しまうと、庫内の温度がどのように推移して
いるのか、その実態を掴むことはできなかっ
た」と指摘する。
コンビニには常時一店舗当たり三〇〇〇〜
三五〇〇アイテムが並んでいると言われてお
り、そのうちの約半分を弁当、チルド商品が
占めている。 しかもこれら商品の売り上げ構
成比率は高く、弁当に至っては一日の売り上
げが全体の三割に達する店舗もあるくらいだ。
それだけに、とりわけ弁当に関しては店舗
側からの品質保持に対する要望が多いのだが、
「弁当は管理設定温度が一八度。 冬は加温し
て、夏は冷やして運ばなければならないなど
管理が難しい」(堀之内取締役)。 完璧にオペ
レーションをこなしているコンビニは少なく、
配送の温度管理上、多少ミスが発生しても店
舗側に目を瞑ってもらっているというのが実
情のようだ。
ミニストップも例外ではなかった。 夏場に
は食中毒の発生防止に気を配りすぎて庫内の
温度を下げすぎたため、弁当の米飯が?ポロ
タの不備が発生
するといった問
題も解消でき
る」(開発を担
当した光英シス
テムの葦津嘉雄
社長)点にある
という。
配送トラック
の庫内温度状
況は以下のよう
なフローで配送
センターに報告
される。
まず、配送ト
ラックの荷台部
分に設置された
温度コントロー
ラーで計測した
温度データを車
載端末で吸い上げる。 次に、車載端末からN
TTドコモのパケット通信網「DoPa
」経由
でデータセンターのサーバーに温度データを
送信。 その後、データセンターでデータ処理
が施され、インターネットを通じて温度デー
タが配送センターに送られる、という仕組み
だ(図参照)。
ミニストップではこのシステムのテスト導
入を二〇〇一年三月に開始。 数カ月間の運用
を経て、一定の効果が期待できることを確認
849
366
82
70
49
31
1
47
ミニストップの国内店舗展開
2001年10月末現在1495店舗
49 JANUARY 2002
したことから、二〇〇一年一〇月の本格導入
に踏み切った。 千葉県および東京都の一部地
域の計二六〇店舗に弁当や惣菜、乳製品など
のチルド商品を供給する千葉配送センターで
稼働中の配送トラック一九台を皮切りに、今
後他センターでも順次導入を進め、二〇〇二
年二月までには全国一七カ所の配送センター
と配送トラック二三〇台全車への導入を完了
させる計画だ。
短期間で一気に全国の配送センターへのシ
ステム導入を済ませるのは、「店舗に対し同じレベルのサービスを提供するというのがコ
ンビニの基本姿勢。 東京の店舗と青森の店舗
とで受けるサービスに差があってはならない
からだ」(伊藤友三顧問)という。
今回のシステム導入によって、ひとまず配
送センター〜店舗間の温度管理レベルが高ま
るのは間違いない。 それでも、ミニストップ
が最終的な目標として掲げている「コールド
チェーンの確立」という観点からすると、登
山でいうと六合目から七合目に差し掛かった
程度なのだという。 サプライチェーンでいえ
ば調達の部分、つまりメーカー・生産工場〜
配送センター間の物流にはまったくメスが入
っていないからだ。 この部分の温度管理の徹
底が実現できて、はじめてコールドチェーン
は完成する。
「結局、配送センター〜店舗間できちんと
した温度管理がなされていても、ベンダー〜
配送センターまでの部分で杜撰な管理が行わ
れているのではまったく意味がない。 調達か
ら店舗配送までが一本の線でつながらないと、
温度管理が徹底できているとは言い切れない」
と堀之内取締役は指摘する。
現在、例えば弁当の場合、生産工場〜配送
センターまでの物流は緊急時を除いて、すべ
てベンダー任せの体制だ。 当然、どのような
温度管理が行われているのか、その実態を把
握できていない。 ミニストップでは配送トラ
ックへの動態管理システム導入が安定稼働期
に入るのを見計らって、次は調達部分の物流
改革に乗り出す。
具体的には、今回採用した動態管理システ
ムの導入をベンダー各社にも呼びかけて温度
管理の徹底を促すつもりだという。 また、ミ
ニストップの配送トラックが生産工場に出向
き、弁当を集荷する「取りにいく物流」の導
入も視野に入れる。
添加物ゼロの弁当
これほどまでにミニストップがコールドチ
ェーンの確立にこだわっているのは、最終的
には「添加物ゼロ」の弁当を消費者に提供す
ることを目論んでいるからだ。 ミニストップ
に限らず、他のコンビニ各社も同じような志
向を以前から持っており、物流の整備を急い
でいるが、これまでのところ成功を収めてい
るケースは見受けられない。
前述した通り、コンビニにとって弁当は売
り上げ依存度の高い戦略商品の一つである。
調達から店舗配送に至るまでのコールドチェ
ーンを完成させることで、添加物ゼロの弁当
の供給が実現できれば、それは他社との差別
化要因に十分なりうる。
現在、ミニストップは売り上げ規模では業
界で七番目(二〇〇〇年度)に位置する。 添
加物ゼロの弁当で巻き返しなるか。 同社にと
ってコールドチェーン確立はランキング上昇
のためには欠かせない取り組みの一つという
位置付けになっている。
(刈屋大輔)
ミニストップ
配送センター
光英システム
通信データセンター
インターネット
Do
Pa
通信網
配送トラック
統合輸配送管理システムの構成図
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