ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年4号
値段
日本航空

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2005 58 日本航空(JAL)は二〇〇二年一〇月 の旧JALと旧日本エアシステム(JAS) の統合によって航空業界で世界最大級の売 上規模を確保できる体制を整えた。
しかしイ ラク戦争やSARS(重症急性呼吸器症候 群)、鳥インフルエンザなど海外旅行を手控 えさせる要因による売上減が響き、二〇〇三 年度に約七二〇億円の経常損失に転落する など業績は低迷している。
二〇〇四年度も年半ば以降の急激な燃料 費の高騰が収益を圧迫する状況が続いた。
従 来からの課題であるバランスシートのスリム 化など財務体質の改善が進まないことに加え、 今後も同社が事業環境の変動に対応できな いまま赤字転落のリスクを抱え続けていく点 を市場は懸念していると見られる。
株価も現 在、昨年六月末の三五〇円前後の水準を下 回っている。
もっとも、JALの最大の特徴である国際 旅客分野(売上高全体に占める割合は二〇〇 三年度で約二九%)と国際貨物分野(同約 八%)の見通しは決して暗くない。
まず国際 旅客については、中期的に輸送需要の拡大が 見込まれている。
国土交通省は二〇〇〇年か ら二〇一二年にかけての国際旅客輸送量が年 率四%の成長を続けると予想(二〇〇二年時 点)。
さらにJTBが今年一月に発表した「二 〇〇五年の海外旅行人数見通し」も前年比 三・六%増の一七四〇万人と、二〇〇〇年の 一七八二万人に次ぐ過去二番目の高い水準と なっている。
日本旅行業協会(JATA)で も二〇〇七年に海外旅行者数を二〇〇〇万 人に増やす「二〇〇〇万人特別プロジェクト」 を推進しており、日本人の海外嗜好は今後よ り一層強まるものと考えている。
国際貨物の優位性を追求 貨物事業は競合相手の全日本空輸(AN A)との差別化が図りやすい分野である。
二 〇〇三年度のANAの国際貨物の売上高全 体に占める比率は約四%、国際旅客も約一 五%にとどまり、JALに比べて海外への露 出は見劣りする。
航空貨物の半分(重量ベー ス)が旅客スペースの下に位置する、いわゆ る「ベリー」(貨物室)に搭載されることを 踏まえると、JALの圧倒的な国際線ネットワークは大きな比較優位であり続けよう。
航空貨物を取り巻く環境も魅力的である。
日本発着の航空貨物輸送量は貿易の拡大や ハイテク製品の高付加価値化、製品輸入の 増加に伴い、過去一〇年間で二倍、過去二 〇年間で六倍に増加している。
この中でJA Lは日本発中国向け(電子部品、自動車部 品、半導体など)、中国・東南アジア発米国 向け(ハイテク商品、パソコン、デジカメ等) の需要拡大によって、二〇〇四〜二〇〇六 年度に年率三〜四%の成長を見込み、JA Lインターナショナルの社内カンパニーの位 置づけにあるJALカーゴを主体にした以下 の四本のマーケティング戦略を進めている。
第11回 日本航空 日本航空の株価が低空飛行を続けている。
燃料費の高騰や、 財務体質の改善の遅れが懸念されているためだ。
国際分野では 旅客と貨物ともに今後の需要拡大が見込まれているなど事業環 境は好転しつつある。
充実した国際ネットワークを武器に収益 力を回復させるためには、まずはコスト構造改革に本腰を入れ る必要がある。
中島伸 ゴールドマン・サックス証券 投資調査部 ヴァイス・プレジデント 59 APRIL 2005 ?供給戦略:稼働機数を二〇〇三年度の九 機から二〇〇六年度には十一機まで増加 させる。
このうち欧州での騒音規制に対応 して747 ―400Fを四機投入する一方 で、同200Fを二機退役させる。
? J-PRODUCTS: 最速最優先輸送の提供や 搭載、取り扱い面における様々な独自サー ビスの提供により差別化を図る。
? J-PARTNER: フォワーダー業者、海運業 者など他の貨物事業者との提携によって荷 主のニーズに対応し、新規ビジネスの獲得 も目指す。
なおJALの貨物の直送とフォ ワーダー比率は一対九程度。
?WOW:二〇〇二年七月にグローバル・ア ライアンスの「WOW」(ルフトハンザ航 空、シンガポール航空、スカンジナビア航 空)に加盟したことで、グローバル・ネッ トワークが完成した。
アライアンスによっ て豊富な商品提供が可能になり、マーケテ ィング上の優位性を追求する。
このうち、とくに提携戦略の先行きに注目 している。
先月六日付の日本経済新聞による と、日本版インテグレーターにあたる佐川急 便の新しい航空貨物会社にJALが出資・ 提携するという。
佐川急便は今年四月をめど に新しい航空貨物会社を設立し、二〇〇六 年三月から自社のフレーター一機(リースま たは中古機購入)で羽田〜新千歳、羽田〜 北九州の路線で夜間の国内航空貨物事業を 行う計画である。
新会社には佐川急便が五 〇%以上出資。
JALは商社などとともに 新会社に出資した上で、機体の運航や整備 の支援をするとしている。
詳細は未確認であるが、仮にこの報道が事 実であった場合、国内において佐川急便の自 社専用機を運航すると見られる点から、JA Lへの収益は受託料などにとどまり、短期的 な収益貢献は限定的であろう。
しかし、新貨 物会社が成長分野である日中間の物流など アジアにおける国際貨物事業に進出すること も想定され、将来はJALとのコードシェア や機材チャーターを実施するシナリオも考え られ、そうなれば収益貢献は高まっていこう。
燃料高は死活問題に JALの二〇〇四年度第3四半期決算(四 〜十二月累計)は営業利益が約八三〇億円、 経常利益が約一〇八八億円となった。
このう ち、3Q(一〇〜十二月)の国際旅客のR PK(有償旅客キロ)は前年同期比一・四% 増、四〜十二月累計RPKは同二〇%増と 順調に回復している。
ただし、高い原油価格という恒常的な収益 圧迫要因をJALが抱え続ける点は変わりな い。
ヘッジなしの状態でジェット燃料価格 (シンガポール・ケロシン)が一ドル変動す ると年間利益が約五〇億円変動するという 高いセンシティビティを有するJALにとっ て、燃料高への対策は市場の信頼を勝ち取る 上で死活的問題とも言える。
楽観は禁物であるが、当社では恒常的な原 油高が結果的にJALの体質改善に拍車を 掛ける役割を果たす可能性があると見ている。
実際、その兆しは見え始めている。
例えば、 二〇〇六年度に持株会社の日本航空と事業 会社の日本航空インターナショナル(旧JA L)、日本航空ジャパン(旧JAS)を合併 させる計画はその一つである。
恵まれた国際ネットワークをさらに生かす ために、緊急避難的なコスト抑制策のみに頼 らない構造的なコスト改善策を早急に提示で きるかどうかが同社株を見る上で最も重要な ポイントになるだろう。
日本航空の過去5年の株価推移 なかじま のぼる 九一年早稲 田大学法学部卒。
コロンビア大 学院修了(国際関係論)。
NH Kに記者として七年間勤務後、 米国留学を経て二〇〇〇年七月 にゴールドマン・サックス証券 に入社。
二〇〇一年四月より運 輸セクターを担当。
著者プロフィール ※JAL、JAS合併前の株価推移は省略

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