ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年1号
特集
世界水準のロジスティクス グローバル組織の進化論

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

横文字嫌いのアナタのための アングロサクソン経営入門《第10回》 JANUARY 2002 32 課題は「統合」と「多様化」の両立 ――グローバル・ロジスティクスに関しては、欧米企 業と日本企業にかなり大きな開きがあるように思いま す。
日本企業の大部分はいまだに社内の在庫でさえ、 一元管理できない状態にあるようです。
入江 そうですね。
日本企業はまだまだですね。
最近 のグローバル・ロジスティクスというテーマは実際に は大部分がヨーロッパの問題なんです。
グローバルな 管理組織となると普通はアメリカ、日本を含めたアジ ア、そしてヨーロッパの三極体制になります。
このう ちアメリカは一つの国だし、アジアもオペレーション で言えば日本市場が八割を占めている。
そうなると在庫のロケーションで一番問題となるの はヨーロッパといっていい。
EU統合で、今まで国別 に持っていた拠点を、ヨーロッパ全体で統合する。
在 庫もSKUも統合して、ヨーロッパ全体で在庫管理す るという形にする部分がグローバル・ロジスティクス の焦点になっている。
――EU統合というのは、どうも身近に感じないなあ。
入江 地理的にも話としても遠いからね。
――ところで、何でグローバル・ロジスティクスは普 通、三局体制なんですか。
一極体制ではダメなの? 入江 へっ? アナタ面白いこといいますね。
それは、 もちろん全体としては一極で統合して管理するけれど、 その次のレベルでどうやって統合するかという議論が 必ずあるからですよ。
いきなり国ごとに落とすのか、 もしくはエリアごとにするか。
エリアにするなら実質 的な経済圏は一般的には三つに分かれるということで しょう。
ただし、アフリカやインドを三極のどこに入 れるか、アジアをどこで区切るかという問題はあって、 それについては会社によって判断が分かれます。
アジ アと日本を分けて四極というケースもある。
――そうやって区切りを決めたら、エリア内のロジス ティクスはエリアに任すという形になるのですか。
入江 そのあたりのグローバル・モデルの議論は九〇 年代ぐらいから出てきていて、既にいろいろなモデル が検討され、実践されています。
――それを教えてください。
入江 え〜っと。
まずグローバル・ロジスティクスに 対しては、大きく二つの要求があります。
「統合」と 「多様化」です。
この二つを同時に実現しなくてはな らない。
この点はグローバル組織についての議論が盛 んだった九〇年代も現在も、全く変わりはありません。
具体的には、事業計画や投資計画、部品や製品の 標準化、調達、品質管理などはグローバルに統合しな ければならない。
一方、市場ニーズや政策、規制、さ らに慣習や言語などについては、各地の環境に適応さ せる必要がある。
つまり多様化が必要になるわけです。
――分かります。
グローバル組織の四つのモデル 入江 それで、問題はそれをどういうモデルで解決す ればいいかということなのですが、それを考える上に は簡単な図を作ると理解しやすい。
(図1)「世界規模 の統合」と「地域別の多様化」という二つの軸でマッ プを作ると、全体が四つのセグメントに分割されます ね。
この四つのセグメントにそれぞれ典型的な戦略と モデルがある。
―― それが「ドメスティック/インターナショナル 戦略」「グローバル戦略」「マルチナショナル戦略」「ト ランスナショナル戦略」の四つですね。
一つずつ解説 して下さい。
まず、統合の必要性が低く、多様化も少 ないという「ドメスティック/インターナショナル戦 入江仁之 キャップジェミニ・アーンスト&ヤング副社長VS 本誌編集部 グローバル組織の進化論 市場の多様性に適応しながら、統合によって効率性を 高める――。
そんなグローバル組織の命題に対する一つの ソリューションが「トランスナショナル戦略」だ。
業務プ ロセスをグローバルに統合する「シェアード・サービス」 が、その中心的手法の1つである。
第5 部 33 JANUARY 2002 略」のセグメントが、最も原始的なモデルになります ね。
これは事実上、国内だけで商売をしている場合に 当たるのでしょうか。
入江 日本ではそうなりますね。
国内だけで商売をす るドメスティックなモデルです。
ただし、アメリカの 場合は少し違ってきます。
アメリカの場合は国内マー ケット自体が巨大ですから、海外への輸出といっても ボリュームの点で国内市場の「おまけ」的な扱いにな る場合が多い。
つまり、日本の場合の国内集中型にあ たる「ドメスティック戦略」が、アメリカでは「イン ターナショナル戦略」としても適用される。
そういう違いはありますが、戦略としてはあくまで 本国中心であり、本国で開発された技術を世界規模 で適用するという場合に有効なモデルです。
石油化学 などの素材に近い産業や、ハリウッド映画に代表され る音楽・映画産業などがそうですね。
要するに同じ製 品を世界的に展開できる。
――そこでいう「インターナショナル」は、「グローバ ル」とは全く違うわけですね。
入江 違います。
「グローバル戦略」は「インターナ ショナル戦略」と同じように「多様化」の度合いは低 いけれど、「統合」が高い戦略です。
世界各国にビジ ネスが広がっていくと、ある段階で「統合」が課題に なってくる。
それを実現しようというのが「グローバ ル戦略」です。
本社がグローバルなハブになり、各国の組織がその 下に横並びになる中央集権型のモデルです。
商品は世 界同一の標準品で生産も世界的に集中させる。
各国 の活動も本部で集中管理する。
半導体メーカーのよう に巨額な設備投資が必要で、スケールメリットが重要 になる産業に有効です。
多くの日本企業が歴史的に 「グローバル戦略」をとってきました。
この「グローバル戦略」と対照的なのが「マルチナ ショナル戦略」です。
「多様化」の度合いは高いけれ ど、「統合」は低い。
ファッションや食品など、地域 性や民族的な嗜好性の強い商品が、これに当てはまり やすい。
ただし、ファッション業界のなかでも、ユニ クロやベネトンなどは、「グローバル戦略」に近いと いうことになります。
「マルチナショナル戦略」は各地の多様なマーケッ トに合わせて多様な製品を供給するため、生産は現地 生産。
意思決定も本社ではなく、現地で行う。
権限 の分散した連合体という形になります。
「マルチドメ スティック」とも呼ばれます。
――グローバルに「統合」されていないわけですね。
入江 「統合」しない。
本社の役割は財務管理に限定さ れる。
現地から財務状態および経営成績を報告させて 管理するだけ。
オペレーションは全部、現地に任せる。
多くのヨーロッパ企業が歴史的に「マルチナショナル 戦略」を多く採用してきました。
目指すは「トランスナショナル」 ――なるほど。
で、最後の「トランスナショナル戦略」 ですが。
入江 「グローバル戦略」と「マルチナショナル戦略」 には、それぞれメリットとデメリットがある。
それを 「良いとこ取り」したのが「トランスナショナル戦略」 で、グローバル組織の最終的な目標になります。
ちな みにこの手の議論というのは必ず対立した概念があっ て、それをハイブリット化したものが、いつも回答に なるんだよね。
――いわゆる「アウフヘーベン」というやつですな。
入江 すなわち各地域の環境に合わせて「多様化」さ せて、なおかつグローバルに「統合」する。
図1 世界戦略と組織機構 オプション ドメスティック/ インターナショナル戦略 グローバル戦略 マルチナショナル戦略 トランスナショナル戦略 製品戦略 地域間同一 標準製品 地域間同一 標準製品 各地域対応 多様製品 各地域対応 多様製品 世界戦略生産 製品輸出 製品輸出 現地生産 独立経営 多国 ネットワーク オペレーション 組織機構 本国中心の戦略、本 国で開発された技術 の世界規模での適用 グローバル規模の製 造統合、各国活動の 集中管理 各国対応の多様化実 現のため、意思決定 は各国で完結、本社 は財務管理に限定 本社の戦略で、最 も高い競争優位の 得られる場所でオ ペレーション。
世 界規模で多様化/ 統合の最適化 調整を通じた連合 中央集権型ハブ 権限分散型連合 統合ネットワーク 高 世界規模の統合要因 低 高 地域別の多様化と要因 低 JANUARY 2002 34 ――ずいぶん都合の良いモデルですね。
入江 それが可能だし、必要になっている。
とくに顕 著なのが、自動車業界、そしてハイテク業界です。
地 域別の多様化というファクターが競争上必要である上、 グローバルのスケールメリットも追求しなくてはなら ないという環境に置かれています。
――昔はそうでもなかった? 入江 日本の自動車業界や電機業界が輸出を本格化 させた初期の頃は、基本的に「貢献利益」がある限り、 値段は下げても輸出したほうがいいという判断でした。
それがダンピングとして米国などから非難されました よね。
そうやって日本企業は規模を追求したわけです。
ところが従来の「規模の経済性」から「ネットワー クの経済性」に時代がシフトしたことで、有効なモデ ルも変わってしまった。
同一製品を海外にも展開する 「グローバル戦略」をとっている企業が「多様性」を 求められるようになり、また「マルチナショナル戦略」 をとってきた企業が「統合」によるメリットを求めら れるようになったんです。
――「マス・カスタマイゼーション」や価格破壊に直 面したというわけですね。
入江 そうです。
具体的には業務プロセスを統合して、 最も競争優位の得られる業務に資源を集中し、同時 に世界で最も高い競争優位を得られる場所でオペレー ションを行う。
そして全体をネットワーク化するんで す。
つまり一つのビジネスとして機能できるようにプ ロセスをコネクトするわけです。
――となると、「統合」という抽象的な言葉の意味す るところの一つは、業務プロセスのグローバルな統合 ですね。
入江 そこで重要になるのが「シェアード・サービス」 です。
事業の効率化とコスト削減を実現するためにグ ループ会社や社内カンパニー、現地法人の間で業務を 共有するわけです。
実際、「シェアード・サービス」と いう言葉を使っているかどうか別にして、自動車や製 薬の先進企業がどうやって世界で統合しているのかを 見ると、皆そうやっています。
――そこでいう「統合」とは、一カ所に集中すること ですか。
入江 いや。
最近は一カ所とは限らないんです。
複数 の場所に分散しながら、バーチャルで業務処理を共有 する。
これを「バーチャル・シェアード・サービス」 と呼んでいます。
例えば、製品開発でも複数の場所に 分かれていながら、バーチャルにデータを共有して開 発を進めるという形になっている。
これが最近は、社 外のニーズも含めて共同開発するようになってきてい ます。
実際、巨大企業といえどもシーズ(種)が全部 社内に取り込まれているかといえばそうではない。
ニ ッチなベンチャー企業など色々な会社の技術を組み合 わせて新たな製品を作っていくという環境になってい ますからね。
――開発はそうかも知れませんが、他のプロセスでも 同じことが言えますか。
入江 例えば、今や調達もグローバルになっています よね。
当然、受注する側の窓口もグローバルに統合さ れていることになります。
経理や財務もそう。
シェア ード・サービスで最もメリットの出やすい分野です。
これまでの事例を見ても、二〇〜四〇%のコスト削減 が実現できている。
――間接部分だからかな。
入江 今や間接部門だけでなく、直接部門でさえシェ アード・サービスの対象になっている。
何を直接部門 と定義するかという問題はあるけれど、受注や生産な どは従来、多くの企業がコア・コンピタンスとしてき 図2 業務運用体制の評価手法 全社における政策、 管理、統制について 責任のあるサービス 競争優位を提供する 特集のサービス 集約化にスケール メリットのある サービス 共用サービス及び 非付加価値サービス 役割とサービス の分類 特集サービスと 集約化可能サー ビスの分類 付加価値サービ スと共有サービ スの分類 ●担当組織及びサービス体系 ●業務運用体制の評価 本  社 事業部 シェアードサービス アウトソース Yes No No No Yes Yes Yes ターゲットの分類 シェアードサービス シェアードサービス またはアウトソース 事業部または限定的 シェアードサービス 本社または事業部 付加価値 戦略的重要性 高 高 低 低 35 JANUARY 2002 た分野ですからね。
例えばサプライチェーン計画の部 分でもシェアード計画センターなどが実現されていま す。
もっとも、実際にモノを扱う生産や物流は「バー チャル・シェアード・サービス」にはなりませんけれ どね。
シェアード・サービスを導入する ――物流はどういう形になるんですか。
入江 基本的には地域ごとのプロセス委託ではなく、 グローバルに3PLに委託するという形になるでしょ うね。
――なるほど。
ちなみに、あるプロセスにシェアード・ サービスを導入したほうがよいのか、それとも別の形 態のほうが良いのかという判断は、どうやって行うの ですか。
入江 それには四つの判断基準があります。
まずは 「?全社における政策、管理、統制についての責任の あるサービス」かどうか。
責任のあるサービスであれ ば、本社で担当する必要がある。
次に「?競争優位を 提供する特有のサービス」かどうか。
そうであれば、 事業部で担当しなくてはならない。
この二つ以外のものがシェアード・サービスの対象 になるわけですが、このうち「?集約化にスケールメ リットのある付加価値サービス」についてはシェアー ド・サービスを導入し、「?共用サービスおよび非付 加価値サービス」についてはアウトソーシングに回す。
――付加価値があるか、ないかという部分の判断は? 入江 社内で共有して効率化するのと、外部から調 達する場合を比較して判断します。
これをまとめると、 まず付加価値があるか、ないかという軸。
もう一つは 戦略性が高いか、低いかという軸で、これまた四分割 できる(図2) ――しかし、先ほどシェアード・サービスで最も効果 を上げやすいと言われた経理は、顧客から見たときに、 直接価値を生んでいませんよね。
つまり、シェアー ド・サービスよりアウトソーシングした方がいいよう に思いますが。
入江 実際、経理は外部委託が増えています。
――ということは現実問題として、いきなりアウトソ ーシングとなると、既存スタッフの処遇という問題も 出てくるから、まずはシェアード・サービスを導入し て、段階を踏んでアウトソーシングに回すという形に なるのですか。
物流部門にもバッチリ当てはまりそう ですが。
入江 結果として、そうなる場合も多いと思いますが、 今説明しているのは手順の問題ではなく、あくまで最 終的な判断です。
ただし、シェアード・サービスの判 断基準には付加価値だけではなく、戦略的に重要かど うかという判断基準がありますので、必ずしも間接部 門がアウトソーシングされるわけではない。
また、付加価値が低かったとしても、それが外部か ら調達できない場合、適切なサービス提供者がいない 場合には、外に出したくても出せない。
従って、シス テム部門などの有力なアウトソーシング先がいるよう な分野がまずはアウトソーシングの対象になる。
物流サービスについてもそうですね。
それこそが3 PLや、以前(二〇〇一年四月号で)ご紹介したL LP(リード・ロジスティクス・プロバイダー)、J OM(ジョイント・オペレーティング・モデル)にな るわけです。
――なるほどね。
入江 分かっていただけましたかな。
――おそらく。
入江仁之(いり え・ひろゆき) キャップジェミ ニ・アーンス ト&ヤング副社 長。
製造・ハイ テク自動車産業 統括責任者。
公認会計士合格後、 約20年にわたり経営コンサル ティングを行う。
とりわけサプ ライチェーン・マネジメント分 野では国内屈指のスペシャリス トして評価が高い。
ハーバード 大学留学を経て、都立科学技術 大学大学院、早稲田大学大学院 などで客員講師をつとめる。
著 書訳書多数。
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