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FEBRUARY 2002 90
二〇〇三年度に供用開始予定の北九
州港・ひびきコンテナターミナル(以
下、ひびきCT)の整備・運営にはP
FI(プライベート・ファイナンス・
イニシアティブ)が導入される。 PF
Iとは公共施設の整備・運営に民間の
資金やノウハウを活用する公共事業の
手法で、日本では九九年に「民間資金
等の活用による公共施設等の整備等の
促進に関する法律」(PFI法)が施
行されて以来、採用が進んでいる。 港
湾施設では茨城・常陸那珂港がPFI
方式で運営されているという。
PFI方式の採用のほかに、事業の
優先交渉権者としてシンガポールのタ
ーミナルオペレーターで、全世界でタ
ーミナル運
営を行って
いるビッグ
ネームであ
るPSAコ
ーポレーシ
ョンを筆頭
とする企業グループを選出した点も
「ひびきCT」の特徴と言える。 外資
系のターミナルオペレーターが日本港
湾に参入する初のケースとなるからだ。
PSAグループを構成するのは、新
日鉄や国内港湾運送事業者(上組、日
通、山九、日鐵運輸)など一七社で、
出資予定比率はPSA六〇%、北九州
市一〇%、その他の企業三〇%となっ
ている。 北九州市は、近年コンテナ取
扱量の伸びが著しい釜山(韓国)、高
雄(台湾)など近隣諸港に対して競争
力を持った「環黄海圏ハブポート」と
して、この「ひびきCT」を機能させ
たい意向。 日本の港湾としては珍しく、
積み替え貨物であるトランシップ貨物
にターゲットを絞るという。
出資企業の予想外の反発
北九州市はPSAと基本協定の締結
に向けた交渉を進めてきたが、途中で
大きな壁にぶつかってしまった。 港湾
労組が国内近隣港に雇用不安が生じる
として「ひびきCT」計画の中止を主
張。 さらには、日本港運協会の尾崎睦
会長(上組社長)も、?トランシップ貨
物がメーンという計画には信憑性がな
く国内港の貨物を奪うことになる、?
血税を投じて外資を潤すのは許せない、
?同市が掲げる「港費が安く、二四時
間・三六五日稼動の港湾」は根拠のない
前宣伝である――という理由で、同CT
計画に反対する姿勢を表明したのだ。
そもそも、日本の港運事業者の一部
はPSAグループに名を連ねている。 そ
れだけに、予想外の港運業界の反発は
関係者を驚かせた。 関係筋によると、
尾崎会長の反対表明と前後して、上組
と日通がPSAグループから脱退する
意思を、同グループの日本企業を取り
まとめた新日鉄に伝えたという。 上組
と日通の「ひびきCT撤退」のニュー
スは業界紙で一斉に報じられたが、北
九州市にとっては寝耳に水。 以来、両
者の調整は膠着状態に陥った。
状況打開のため、北九州市の末吉興
一市長は昨年夏、尾崎会長を数回訪ね
て理解を求めたが、進展はみられなか
った。 その後も北九州市、日港協、新
日鉄など関係者間の調整が続き、最終
的には、「ひびきCT」の荷役作業を
日本の港運事業者による共同作業会社
が請け負う条件をPSAがのむことで、
尾崎会長が同CT計画を了承した。
二〇〇一年十二月、北九州市とPS
AはPFI事業の基本協定を締結。 二
〇〇二年七月末日までに、出資協定を
締結して運営会社を設立し、事業実施
協定を締結することを確認している。
こうして、ようやく目途がたった
「ひびきCT」計画だが、PSAの参
入以前に、そもそも「この場所に新たな大水深CTが必要なのか」と疑問を
抱く関係者も少なくないという。
しかし、韓国では釜山新港などの新
ターミナル整備が急ピッチで進められ
ており、日本港湾はなんらかの手を打
たなければ、?韓国の地方港〞という
位置付けになる可能性もある。
港湾関係者の底力に押し切られるか
たちとなった「ひびきCT」。 近隣諸
港に比べ遜色のない競争力のある港湾
施設になるかどうかは微妙だ。
FOCUS
北九州港・ひびきCT(コンテナターミナル)プロジェクトは外資系
ターミナルオペレーターが日本港湾に参入する初のケースとして注目を
集めた。 だが、外資に対する港湾労組や業界団体の反発でプロジェクト
は一時、膠着状態に陥ってしまった。 最終的には、同CTでの荷役作業
を日本の共同作業会社に委託することを条件に、計画は承認される運び
となったが、「近隣諸港に対して競争力のある港湾施設になる」という
当初の目的を達成できるかどうかは微妙だ。
とん挫しかけた「ひびきCT」計画
?国益維持〞が決まって再始動へ
KEY WORD
港湾
ひびきコンテナターミナル概要(第一期整備計画)
供用開始年次 2003年
岸壁
水深15m
水深10m
2バース
2バース
コンテナ取扱量
コンテナターミナル面積
関連施設面積
50万TEU/年
約43ha
約97ha
91 FEBRUARY 2002
トラック運送事業規制のうち、九〇
年に制定された物流二法でそれまでの
認可制から事前届出制へと緩和された
運賃・料金規制は、今回さらに事後届
出制へと緩和される。 国交省が実施し
たトラック事業者アンケートの結果に
よると、運賃交渉の方法は「荷主が提
示する運賃を基に交渉」する事業者が
六〇%を占め、「届出運賃を示して交
渉」は一五%にとどまるなど規制が形
骸化している実態が浮き彫りとなって
いる。
事後届出制とは、実施後一定期間内
に国へ届け出る義務を課すもので、事
業者のなかには「届出義務が残るぐら
いなら、いっそ規制をなくしてしまっ
た方がいい」という意見もあったほど
だ。 規制を残すことにしたのは不当な
運賃に歯止めをかけるためだが、ダン
ピングに対して届出運賃収受違反を適
用できないなら、規制が形骸化してい
ることに変わりはない。
営業区域規制にしても、実情は運賃
規制と似たようなものだ。 事業者アン
ケート結果では、拡大営業区域取得の
効果について「新たな荷主獲得・市場
拡大が実現した」と答えた事業者が二
五%、「効率よく帰り荷を獲得できる
ようになった」が二二%と制度を評価
する事業者がある一方で、「特に変化
なし」が四七%を占め最も多く、営業
活動に大きな影響を与えていない実態
が明らかになっている。
都道府県単位の営業区域規制はそも
そも、需給調整規制のための単位とし
て設定されたものだが、すでに物流二
法制定の際に、安全な運行管理を担保
するための規制と位置づけられていた。
しかし、荷主からの輸送依頼に対して、
「営業区域ではないので運ぶことはできません」と断る事業者はいないだろ
う。 事業の実態にそぐわず、守られて
いないケースもあるなど運賃規制と同
様に、形骸化しているのが実情だ。
このため、営業区域規制は廃止する。
加えて、拡大営業区域取得の要件だっ
た最低車両台数十五台という垣根も取
り払う。 五台あれば、全国どこでも輸
送できるわけだ。 適切な運行管理が行
われているかどうかは、安全規則のな
かで直接的に見ることになる。
安全規制を重視
経済規制の緩和・廃止の一方で、業
界からの要望が強かったのが「社会的
なルールを守らせた上で平等に競争で
きる環境を整えてほしい」というもの
だった。 雇用保険や社会保険にさえ加
入していないような事業者が安い運賃
を提示して競争に勝ち、結果的に生き
残ってしまうという矛盾を解消するた
め、新規許可の審査をきめ細かくする
など事前チェックのほか、監査や行政
処分を強化し、さらに業界の自主的取
り組みである適正化事業実施機関を強
化して取締りの体制を強化しようとい
うのだ。
輸送の安全面の担保を営業区域や
運賃規制といった事業規制に求めるの
ではなく、安全面はより直接的に安全
規制で見る、という今回の国土交通省
の決断は高く評価したい。 ただし、事
前規制で安全面をも担保するという間
接規制の手法は、実はより少ないコス
トで行政目的を達成できるという利点
もある。 これに対して、安全面は安全
規制で担保する直接規制となれば、事
後チェック、つまり取締りとなり、そ
れだけ手間がかかる。 事前規制と同じ
効果を得ようとすれば、従来以上に行
政コストがかかることになる。
国交省では七月から地方運輸局に自
動車業務監査指導部や業務監査指導
課を設けて事後チェックのための組織
を整えるとしているが、人員は現在の
監査関係の職員がほぼそのまま移行す
るだけだ。 果たして同じ人員で十分な
事後チェック体制を築けるのか、はな
はだ疑問である。 「行革の流れのなか、
とても定員増要求など出せない」とい
う国交省の感覚もわからないではない
が、真に必要な予算・人員であれば、
堂々と財政当局に要求すべきだ。
(芹江亜太郎)
物流二法改正で事業規制緩和へ
事後チェックの効果に疑問符も
トラック運送事業法と貨物運送取扱事業法のいわゆる物流二法が、
施行から十二年を経て初めて改正される。 国土交通省は今年三月を目
途に改正法案を国会に提出し、二〇〇三年度からの実施を目指す。 事
業規制をさらに緩和するとともに、公平な競争条件を確保するために、
すべての事業者に社会的ルールを守らせるよう事後チェック体制を強
化するという。
KEY WORD
物流行政
FEBRUARY 2002 92
国土交通省によると、扇大臣が提示
した再拡張案は空港の南東沖に現行の
B滑走路と平行して、二五〇〇メート
ルの滑走路を新設するというもの。 こ
れに対して、東京都は新滑走路の北側
に二〇〇六年以降の完成を目指し、四
八〇ヘクタールの廃棄物処理場(処分
容量一億二〇〇〇立方メートル)を建
設中であることに加えて、再拡張案は
航空機と船舶が接近するなど安全性に
問題があるとして、定期航空協会とと
もにC滑走路の沖合いに平行する新滑
走路を建設する案を提示していた。
しかし今回、国土交通省が多摩川の
河川管理上支障をきたさないとして、
新滑走路を建設する位置を南に三〇〇
メートル動かす考えを表明。 東京都が
これを受け入れたことで、四本目の滑
走路着工が大きく前進した。
羽田の再拡張計画に関してはこれま
で、国土交通省から調査を依頼された
「航行影響調査会」や、同省が主催す
る「空港検討会」などで検討されてき
た。 その際、国土交通省航空局から調
査範囲をB案に限定するとの考えが示
されたが、専門家の委員からは東京港
第一航路に重大な影響を与えるB案の
安全面での根本的な問題が指摘された。
また、「航行影響調査会」の設置の目
的を考慮し、「空港検討会」では東京
都、定期航空協会からそれぞれ示され
たC案による場合の影響も合わせ比較
検討した上で、相対評価を行う手法の
方が信頼性が高いなどの意見が寄せら
れた、としている。 しかし、昨年八月
に開催された「航行影響調査会」の第
二回会合では、航空局はあくまでB案
ありきで、また「空港検討会」と「航
行調査会」は直接リンクしているわけ
ではない、とのスタンスだったという。
これを受けて、日本船主協会は昨年
八月、崎長保英会長が「(従来の)B
滑走路平行案では、明らかに東京港第
一航路の船舶航行に支障をきたし、しいては首都圏経済を支える大動脈たる
東京港の機能を著しく低下させる恐れ
がある」との談話を発表。 また、空港
検討会と航行調査会での検討が反映さ
れないのは、両者の存在意義を考える
と不自然だ、などと航空局を批判した。
船協によると、東京港は、年間三万
五二〇〇隻(沖合いを含めれば三六万
隻)の船舶が航行する。 同港が一年間
に取り扱う荷物は、二〇TEUコンテ
ナ二五〇万個以上で、東京湾全体のコ
ンテナ取扱量の半分を超える。 このた
め、同協会では首都圏空港の整備、拡
充について、わが国の経済・社会の発
展を維持するためには、船舶航行の安
全性確保が大前提と主張してきた。
国土交通省は今回、従来計画より南
に三〇〇メートル建設位置を動かすも
のの、B滑走路平行案をベースとして
いる。 C案を提示していた都、定期航
空協会ともこれを承認した。 一方、船
主協会は昨年十二月、「世界最大のコ
ンテナ船など多数の船舶が往来する東
京港特有の制約の下で、B案により航
路の距離が大幅に伸び、現状よりも安
全性、利便性が低下する」との考えを
あらためて示した。
その上で「狭い航路内で大型船が転
針しなければならないということ自体、
大きなリスクを伴うものであり、安全
性、効率性の観点から、変更後の航路
は本来直進が望ましい」として、第一
航路の支障になりかねない海面処分場
の建設計画の一部修正を期待しつつ、
B案に同意する意向を発表した。
しかし、東京都都市計画局はこれに
対し、「すでに建設に着手してしまっ
ており、これから修正を加えようとす
れば、これまで施工したものがすべて
無駄になる」と、ゴミ処理場の建設計
画の修正には難色を示している。
国土交通省は、廃棄物処理と港湾機
能の確保を前提とし、第一航路についてはシミュレーションの結果などを生
かしたいという。 まず滑走路の位置を
優先的に決め、安全な航路の確保とい
う課題の解決は、これからのようだ。
貨物航空会社の幹部は、「B案に否定
的だった石原都知事が、なぜ受け入れ
たのかわからない」とした上で、「仮に
当初の案よりも三〇〇メートルずらし
たとしても、安全面で問題があること
には変わりない」としている。
(宮崎 台)
東京国際空港(羽田空港)の四本目の滑走路に関する着工の条件が
整った。 扇千景国土交通相が、現行のB滑走路と平行する新滑走路の
建設位置を南に三〇〇メートル動かす計画を提示。 それを石原慎太郎
東京都知事が受け入れた格好となった。 しかし、東京港が船舶の過密
エリアであることから、新滑走路完成後の船舶の安全性を疑問視する
声も聞かれる。
羽田空港の滑走路新設決定も
東京港の航路の安全性に課題あり
KEY WORD
航空
FOCUS
93 FEBRUARY 2002
鴻池運輸が導入したのは、配送トラ
ックに搭載した情報端末が、ドライバ
ーに配送順序や最適な配送ルートを指
示するシステム。 カーナビゲーション、
インターネット、携帯電話の各技術を
活用するかたちで構築されているもの
で、二〇〇一年十一月に試験運用を開
始した。 首都圏の六営業所(東京南、
江東、国立、東京北、船橋、横浜北)
を対象としている。
システムの概要はこうだ。 まず荷主
からEDI(電子データ交換)で受注
データを配送日前日の一七時一〇分
までに受け取る。 その受注データを東
京南営業所に設置したメーンサーバー
を通じて、全営業所のパソコンへ送信
する。
各営業所には配送管理者が数人配置
されており、その管理者が毎日、ドラ
イバーごとに配送計画を設定。 EDI
とのリンクによって配送先が印字され
た地図が自動的に出力される「マッピ
ングシステム」を利用して、ドライバ
ーごとの配送計画を作成する。 従来、
配送管理者は電話やファクスで取り寄
せた受注データと地図を机上に並べ、
表計算ソフトを使って手入力で配送計
画を組んでいたという。
続いて、「マッピングシステム」で作
成された配送計画を、各ドライバーが
所有するメモリーカードにダウンロー
ドする。 各ドライバーは、そのメモリ
ーカードを持って配送トラックに乗り
込み、車載端末に差し込む。 すると、
カーナビゲーションの機能によって、
最適な配送順序や配送経路が指示され
るという仕組みだ。
車内のカーナビ画面は、様々な情報
を参照するためにも利用される。 例え
ば、各配送先の詳細データを参照でき
る。 「名前」「住所」「配送個数」「希望
配送時間(午前/午後)」といった一般的な顧客データのほかにも、「備考」
として同社オリジナルの?軒先情報〞
を検索できるのだ。 「この会社は不在
がちだが、隣の会社で荷物を預かって
もらえる」「この会社の付近は路上駐
車の取り締まりが厳しいので注意」―
―などといった個別具体的な情報を参
照することができる。
一方、営業所ではインターネットを
介して、ドライバーの現在位置と作業
状況を把握できる。 車載端末にはGP
S(全地球測位システム)が内蔵され
ており、人工衛星を利用して得た位置
情報を数分に一回の割合で発信する。
位置情報は、NTTドコモのドゥーパ
網を通じて、今回のドライバー支援シ
ステムを開発した富士通のデータセン
ター(群馬県館林市)に蓄積される。
また、突発的な配送受注などによっ
て配送計画を変更する際には、営業所
からパソコンで情報配信すると、車載
端末がドライバーに音声で知らせる仕
組みになっている。
投資総額四五〇〇万円
さらに、車載端末には「デジタルタ
コグラフ」の機能も内蔵されている。
走行速度、走行時間、アクセル開度、
使用しているギアなど、ドライバーの
一日の運行状況をメモリーカードに随
時記録する。 ドライバーは営業所に帰
ってから運転日報を書くことが法律で
義務付けられているが、このメモリー
カードを営業所のパソコンに差し込む
だけで運転日報が作成できるようにな
った。 「従来は毎日三〇分ほどかけて
運転日報を手書きしていた」(古池建
一取締役)という。
今回導入したシステムの総額は約四
五〇〇万円。 配送トラック一台当たり
のランニングコストは月額九〇〇〇円
(富士通のASPサービス使用料が約
四〇〇〇円、NTTドコモのドゥーパ
使用料が約五〇〇〇円)。 トラック一七台を対象とした小規模
な取り組みからすれば、小さくはない
投資額だ。 古池取締役は、「始まった
ばかりの取り組みで導入効果の検証は
これから。 今回の試験運用で成果が得
られれば他の配送エリアへの活用も検
討する」としている。 納得できるだけ
の投資効果が得られるか。 見極めには
もう少し時間が掛かりそうだ。
(石井教子)
配送順序を指示する車載システム
ドライバー支援で鴻池運輸が導入
新人ドライバーでもすぐに熟練者並みの仕事ができるようになる――
こんな情報システムを中堅運送会社の鴻池運輸(本社・大阪市)が、首
都圏で稼働中の配送トラック一七台を対象に試験的に導入した。 効果を
検証したうえで他エリアへの拡大も検討するという。
KEY WORD
IT物流
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