ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年2号
SCC報告
SCMからBRSへ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

FEBRUARY 2001 86 誤解されたSCM 過去数年間にわって日本に紹介されたSC M(サプライチェーン・マネジメント)は、 あまりにもソフトウェア&システムツールと しての側面ばかりが強調され過ぎている。
こ れによる業界関係者の混乱は決して小さくな い。
そう筆者は考えている。
そもそも、?真の〞SCMとは「サプライ ヤーのサプライヤー」から「カスタマーのカ スタマー」までのサプライチェーン全体を最 適化する経営手法であるはずだ。
それは資 材・原料の「調達(Source )」「製品製造 (Make )」「受注&納入=販売(Deliver) )」と 連なるプロセスを、いかに全体として「計画 ( Plan )」するかという経営戦略そのものの構 築を意味している。
しかしながら、筆者が米国より帰国した九 九年春当時、これを正しく理解し、導入を試 みていると判断できる企業は稀だった。
ほと んどの企業がSCMを流行の横文字言葉の一 つと理解していた。
SCMとは言いながら、 実際には部門ごとに「ERP/SCP Tool 」の導 入を検討するといったレベルに留まっていた。
年が明けて二〇〇〇年になると、今度はe ビジネス、EC(電子商取引)時代の到来だ とばかりに、SCMの時代は終わったかのよ うな風潮も出てきた。
しかし、筆者がコンサ ルティングを手がける企業等を見る限り、む しろ二〇〇〇年春頃になって、改めて?真 の〞SCM構築を、経営トップ自らが危機感 を持って導入・検討・着手に動く企業が増え てきたという印象を持っている。
実際、フォレスターリサーチ等米国の調査 機関でも現在、改めてSCMという経営手法 導入の必要性と、それを補完するIT(イン ターネットを駆使したビジネス展開)、ロジ スティクス(デリバリー能力)の重要性が訴 えられるようになっている。
こうした動きに歩調を合わせて、当社のS CM推進チームもまた、周囲から期待される 役割が、これまで日本で狭義に理解されつつ あったSCMに加え、BPRや、電子調達、 CRM、ブランド・マネジメントと多岐にわ たってきた。
そこで、これらの改革コンセプトを相互に 連関させて、一つの大きなグランドデザイン 戦略を立案するための共通フレーム(=?真 第11回 「SCMからBRSへ」 三井物産戦略研究所 事業変革支援室 岡本竜馬 主席研究員 SCMの目的はサプライチェーン全体の最適化だ。
ITの側面ば かりに目を奪われていると、その本質を見失う。
そこで三井物産戦 略研究所では、「BRS(Business Revolution Support )=事業構造 の変革支援」という新たなコンセプトを打ち出している。
87 FEBRUARY 2001 の〞SCM構築)として「BRS(Business Revolution Support )=事業構造の変革支援」 という表現を用いることにした。
具体的には 二〇〇一年五月にSCM推進チームを事業変 革支援(BRS)室と名称変更した。
これまでのSCMはコスト削減のツールと して理解されてきた風潮がある。
しかし、実 際には図1の通り、企業経営の全ての機能は 連関している。
必要なのはコスト削減による 「守り」だけでなく、収益と顧客満足度を増大させるための「攻めの」経営手法である。
それを「BRS」というブランドの中で力説 し続けていきたいと考えている。
BRSのキーワード 以下にBRSのカギとなるキーワードをあ げてみた。
これら四つのキーワー ドは既に二〇〇一年から取り組 みが開始されており、?真の〞S CM導入を補完する概念として、 今年はさらに大きな意味を持って くるはずだ。
?EMS=Make Electronics Manufacturing Service 米ソレクトロン社に代 表される電子機器の生産受託サ ービス ※製造業がそのコアである製造 ( Make )部分をアウトソースす る時代に入った。
? eProcurement= Source 企業の自社専用購買サイト構 築による調達業務改革 ※調達戦略の設定、従来資材購 買部門の戦略部門化 ? Brand Management=Plan (経営戦略) 企業のコア、経営戦略を確立する手法と実 践として社長直轄のブランド・マネジメント 室発足の動き ※従来の広報部によるPRの時代は終わり、 企業ブランドを明確に伝えるIR戦略の重 要性が高まってきている。
?CPFR (SCP/APSの最高峰と呼ばれている 概念) Collaborative (協働)、Planning (計画)、 Forecasting (予測)、Replenishment (補充) ※米国リテール業界ではSCMの最高峰と呼 ばれており、従来のCRPを凌ぐものとし て日本でも導入が検討されている。
製造業の力点変化 図2に「Plan-Source-Make-Deliver 」とい うSCMの四つのプロセスと、日本の製造業 の力点変化を相関させた。
これを見るとわか るように、今日の製造業者は従来と比して人 的、設備投資的な力点を大きく変化させつつ ある。
それが?真の〞SCM導入の引き金に なっている。
?今日の製造業者は本来コアであるはずの製 造(Make )に関しても、その差別化要素 となる部分以外はアウトソースする(EM S)傾向にある。
?同時に、調達こそ重要という判断の基に、 Plan-Source-Make-Deliver 連関 SCM/BPR/eBiz/CRM/ブランドマネジメント 調達戦略=eProcurement 調達プロセスのBPR “業務改善”でなく“業務改革” 顧客満足増大に向けたCRM対策 消費者の視点にたって企業として 提供出来る最大サービス(コア) は何か 図1 戦略研ブランド/SCM基軸 事業変革支援コンサル 守り(コスト削減) 攻め(収益拡大) Plan ?CPFR ?ブランドマネジメント SCOR Model サプライヤのサプライヤ サプライヤ 企 業 顧 客 顧客の顧客 ・自社業務改革(BPR) ・ERP/SAP導入 →戦略的ERP実践が肝要 ・CRM ・B2B4C, B2C ・最終消費者対策 ・Logistics戦略 ・戦略パートナー模索 Copyrigh(t C)2001 MGSSI All Rights Reserved 販売 調達 製造 販売 Source Deliver 調達 製造 販売 購買 Make ?EMS 経営戦略 ・調達プロセスのe化 ・?eProcurement SCOR Ver.4.0 FEBRUARY 2001 88 eProcurement の構築(Source )に傾注し ている。
?さらに、顧客満足度を増大させる差別化要 素は、製造部分ではなくLogistics 戦略 ( Deliver )と認識している。
すなわち決め られた時間に決められたモノを、きちんと 顧客に届ける能力である。
地味なようだが、 それが実際にできていると言える企業は極 めて少ない。
実際、デルコンピュータやア スクル等、それができている企業は強い。
?何より大事なのは、設計開発(R&D)で あり、それを差別化するためにも、市場動 向とニーズをしっかりと汲み取るだけのマ ーケティング戦略が必須となっている。
?そしてこれらの仕組みを個別に稼働させる のでなく、全体経営計画の中で、Chain で つなぎ、横串を通す(Plan )必要に迫られ ている。
これがないと結局、全体が機能し ない。
これは前述の?真の〞SCM構築と同義だ。
さらに、筆者がコンサルティングを展開中の 企業を見ると、こうした事業構造改革という 視点でのSCM導入を、トップダウン型で推 し進める企業が多くなっているという印象を 受ける。
これは製造系からリテール系等の業 種を問わずに言えることだ。
SCMとロジスティクス SCMを構築していく上での大きな差別化 要素となるのが、ロジスティクスの構築であ Chain Execution )と呼ばれる部分を担おう とするプレーヤーは、3PL会社、宅配会社、 倉庫会社等の物流事業会社群がその中心とな っている。
デルの場合、この部分をFedEx と いう勝ち組3PL会社に委託している。
日本市場においても物流業者は荷主企業に とって、物ができたからそれを運ばせるとい うだけの下請け的関係でなく、荷主企業のロ ジスティクス戦略を担う戦略パートナーとな SCMの4つのプロセス 製造業のSCMにおける力点変化 Plan (全体計画) Source (調達) (製造) (受注・納入) Make Deliver 全体経営計画 4 3 2 1 〈Plan〉 Source Make Deliver R&D Manu facturing eProcure Logistics Marketing ment Copyrigh(t C)2001 MGSSI All Rights Reserved 図2 る。
(特にその差はDeliver 部分で顕著に表れ る)一部にはSCMとロジスティクスを同義に解釈する風潮もあるが、それは違う。
図3 にあるように、SCMとロジスティクス、そ してeビジネスは以下のように連関している。
?最終消費者あるいは企業の総務&資材部門 担当が、インターネットあるいは自社専用 購買サイトを利用して、購入したい商品に 対しクリックする。
?SCM先進企業は見込生産で在庫を保有 することは好まず、(理想形ながら)注文 を受けてから、製造し、即座に出荷する。
?その出荷から、顧客(企業あるいは、最終 消費者)に届けるまでのDelivery 能力。
こ れが最大の差別化要素となる。
例1 米国の九九年末のクリスマス商戦では、 インターネットを使ってプレゼントを 購入したものの二四日、二五日にプレ ゼントを届けられなかった。
例2 アスクルが好調なのは、価格や品揃え より、今日頼めば「明日来る」を企業 ブランド名通り達成していることが大 きい。
他社が三〜四日掛かって配送し ているものを明日届けてくれるという サービスレベルは十分差別化要素とな りうる。
これらのDeliver 部分、つまりSCMの定 義によればSCPに対するSEC(Supply るべきだ。
そのためには、もちろん荷主の意 識変革も必要だ。
物流業界そのもののステー タスが米国並み(米国は戦争経験などの影響 か、基本的にロジスティクスのステータスが 高い)に上がることが必須となる。
こうしたロジスティクス戦略を企画立案す る部隊を米国では「リード・ロジスティク ス・ プロバイダー(LLP:Lead Logistics 89 FEBRUARY 2001 Provider )」もしくは「4PL」と呼んでい る。
ロジスティクス・プロバイダーのハブとして、顧客から見て機能を分割して発注する 必要のないワンストップソリューションサー ビスを提供するのである。
これもまた今後の キーワードの一つといえる。
現在、日本にはLLPや4PLと呼べるプ レーヤーがほとんど存在しない。
それだけに、 この領域におけるサービス提供ができれば非 常に強い事業基盤を確立できる。
荷主とアセ ットを持った物流会社との間に、LLP機能 が加わることで、非常に高いレベルの Delivery 能力が実現できるのである。
LLPは具体的には、はじめに物があるこ とを前提に、それをどう効率よく配送するか という物流最適化を実現するためのSCE機 能のみならず(この部分が上記、3PL、配 送会社、倉庫会社等が自社アセットを駆使し て鎬を削っている領域)、その上位概念まで 踏み込んだサービスを提供する必要がある。
すなわち、製造拠点、物流拠点をどこに設 置して、出荷すればよいかというグランドデ ザインを、定性・定量両面から戦略的に分析 診断するネットワーク・モデリング(最適ロ ジスティクス診断機能)を備えていなければ ならない。
成功のポイント SCMやBPRといった「言葉の意味する 正しい定義と狙い」を個々人が勝手に解釈し、 異なった理解の人が集まってプロジェクトを 進めようとしてしまう風潮が、日本企業ない し日本人には非常に根強い。
そのことが、過 去数年来のSCM、BPRやERP導入が、 期待されたような成果が出せないでいる根本 的弊害にもなっていると筆者は考える。
SCM先進企業に共通して言えるのは、最 新システムツールの優位性やその比較検討の 前に、何よりも「概念や哲学の正しい理解と 啓蒙」つまり「社長以下社員の意識変革= Change Management 」部分に最も多くの時 間を割くということだ。
これが即ち、筆者の主張する?真の〞SC M導入の意図するところである。
当社の事業 変革支援室(Business Revolution Support ) は、そうした真の?SCM〞を導入しようとする企業の推進組織にとっての潤滑油、支援 部隊として機能しているつもりである。
図3 E-Biz/SCM構築におけるLogisticsの重要性 商品のSUPPLIER 戦略的&最適 Logisticsコンサルティング (Network Modeling) ?LLP/4PL  Logistics総合管理  コンサル&Engineering ?3PL  最適シュミレーション  物流計画 倉庫会社(WMS) 宅配会社(Trucking System) 運送会社(配車計画) Supply Chain Execution (最適Operation/Deliver) 商品発注情報 商  品 Copyrigh(t C)2001 MGSSI All Rights Reserved 出 荷 製 造 受 注 EC SITE C l i c k ! 顧 客 (おかもと・りゅうま)三井物産戦略 研究所・事業変革支援(BRS)室主 席研究員。
米国三井物産、米国 SCM/Logisticsコンサルティング&エ ンジニアリング会社での研修を経て 現職。
現在、三井物産・eMitsui事業 部と兼務し、社内外向けコンサルテ ィング活動を通じて総合商社の SCM/Logistics戦略立案に尽力して いる。
PROFILE

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