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FEBRUARY 2002 52
小売り業者による一括物流センターの乱立
が続いている。 チェーンストアが自社専用の
物流センターを置いて、複数の調達先から仕
入れた商品を効率よく店舗に納品する。 この
取り組み自体は、欧米でも広く普及している。
だが日本ではセンターフィー問題など、一括
物流センターにまつわる弊害が盛んに指摘さ
れてきた。 (本誌二〇〇一年七月号参照)
日本市場のおける一括物流センターは、そ
の多くが在庫を持たない通過型センター(ト
ランスファー・センター=TC)として設計
されている。 そのため、小売りが専用センタ
ーを設置しても、オーダー別のピッキングは
従来通り卸もしくはメーカーが処理しなけれ
ばならない。 物流の多段階構造は解消されず、
逆に一段階増えてしまう。 それだけサプライ
チェーンのトータルコストも増加する。
日雑卸最大手のパルタックは、高機能の汎
用センターを武器に、中間流通の担い手とな
ることを目指している。 同社の山岸十郎副社
長は「小売り主導のTCが数多くできたが、
それで本当に全体最適になっているのか。 高
コストな流通の仕組みでは、いずれは小売業者も卸も共
倒れになり
か
ね
な
い
。
我々は顧客
である小売
業から言わ
れたことを
合併した新和のノウハウを全面採用
物流機能の整備で「業態卸」へ転換
日用雑貨品卸最大手のパルタックが物流イ
ンフラの強化を進めている。 98年4月に、先進
的な物流ノウハウで定評のあった中堅日雑卸、
新和を合併したことが契機になった。 合併後
は、新和の物流センターと同様のコンセプト
で大型拠点を相次いで新設。 既存の物流ネッ
トワークの見直しを進めながら、全国展開の
チャンスをうかがっている。
パルタック
―― 物流センター
パルタックの山岸十郎副社長
新和の物流ノウハウを活かす現在、パルタックは全国数十カ所に分散し
ている物流拠点を、RDC(リージョナル・
ディストリビューション・センター)と呼ぶ
汎用型の大型物流センターに集約する作業を
進めている。 九九年三月に大阪で新設したR
DC近畿を皮切りに、同年七月には愛知に東
海RDCを、さらに二〇〇一年十一月にはR
DC九州を稼働した。 これにより同社が持つ
全国のRDCは、上記三カ所のほかに岐阜、
北陸、横浜など計八カ所となった。
その一つ、近畿エリアの二府四県を主な配
送エリアとするRDC近畿では現在、約一二
〇〇企業、約六〇〇〇店舗に対して、カテゴ
リー別に商品を供給している。 取り扱い高は
年間約四〇〇億円。 特定小売り向けの専用
センター分の商品も含まれてはいるものの、
基本的には細かい注文に対応した物流を処理
している点に、卸の物流拠点ならではの特徴
が見られる。
同センターで取り扱う商品の数は約一万六
〇〇〇SKU(ストック・キーピング・ユニ
ット:在庫管理のための最小単位)。 一般に
コンビニエンスストアの店頭に陳列されてい
るアイテム数が約三〇〇〇、特定小売りチェ
ーン向けの日雑専用センターのアイテム数が
五〇〇〇程度なのと比較するとRDC近畿の
アイテム数は極めて多い。
これだけ莫大なアイテムを、数多くの顧客
53 FEBRUARY 2002
やるだけではなく、それで本当にムダが排除
できて、トータルコストが安くできるのかを
きちんと考える必要がある」と指摘する。
日本のようにメーカー、小売業のいずれに
おいても寡占化が進んでいない市場において
は、工場と店舗の間に一カ所だけ中間流通拠
点を置いたとき、トータルコストが最も小さ
くなる。 その場合の物流センターは小売業の
調達拠点であると同時に、メーカーの出荷拠
点としても機能する。 運用コストは本来、合
理的な判断に基づいてメーカー、小売りそし
て卸の三者で分担する必要がある。
ところが「現実にはそうなっていない。 従
来の日本の中間流通は、小売りの仕組みにつ
いてあまりにも無関心だった。 メーカーの生
産についてもきちんと見ていたわけではない。
こんな状態でSCMなど実現できるわけがな
い。 ただでさえ日本の流通分野の取引には、
必ず上下関係があった。 これを止めませんか、
と私は言っている。 流通という狭い世界で生
きているのだから、同じテーブルについて敬
語なしでガンガンやるべきなんです」と山岸
副社長はいう。
に供給しているにもかかわら
ず、RDC近畿の納品精度
は九九・九九九%を維持し
ている。 一〇万件に一回しか
ミスを起こさない。 「RDC
近畿が稼働する以前は、ほと
んどの取引先が納品時に検
品をしていた。 しかし、この
センターができてからは大半
が検品レスになった」と同社
ロジスティクス本部の道海勉
ゼネラルマネジャーは言う。
現在、パルタックが進めて
いるセンター整備は基本的に、
九八年四月に合併した北陸
地方の中堅日雑卸、新和の
ノウハウをベースにしている。
この合併劇は、多くの面で異
例づくめだったため当時のマ
スコミを賑わした。 その頃のパルタックの年
商は二〇〇〇億円ですでに圧倒的な業界トッ
プの座にあった。 一方、新和の年商は二六〇
億円。 経営規模だけを考えれば、パルタック
による新和の一方的な吸収という形が妥当に
思えた。
ところが両社の合併比率は一対一で決着し、
そのうえ新和の社長だった山岸氏には新生パ
ルタックでの代表取締役副社長のポストまで
用意された。 経営規模ではわずか七分の一に
過ぎない新和がここまで厚遇された理由は、
「徹底して小売りの立場から
考える」と米内進ロジステ
ィクス本部長
パルタックをとりまく日雑業界の動向
1996年
1998年3月
1998年4月
1999年10月
2002年4月(予定)
花王が花王システム物流を設立
セブン-イレブン・ジャパンが専用卸会社「エス・ブイ・デー」を稼働
日雑業界首位のパルタックが新和と合併
同二位のダイカが、タナカ、富士商会と合併して関東に初進出
P&Gの日本法人が取引制度改革を実施
ダイカ、伊藤伊、サンビックが共同持株会社を設立して経営統合
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業界最先端との呼び声が高かった新和の物
流・情報ノウハウをパルタックが熱望してい
たからに他ならない。
新和の山岸氏にとっても、この合併話は渡
りに船だった。 ?量〞のパルタックと?質〞
の新和が手を組めば、従来にない局面が開け
る。 新和としては、それまで独自に積み上げ
てきた中間流通の効率化ノウハウを、より大
きな舞台で使うことが可能になる。 実際、R DC近畿は、「基本コンセプトは新和が九六
年に石川県で稼働したRDC北陸と同じ」(道
海ゼネラルマネジャー)なのだという。 岐阜
と北陸のRDCに至っては、現在でも新和の
時代に構築した施設を、そのままパルタック
の汎用センターとして活用している。
こうして新和の物流ノウハウを取り込んだ
パルタックだ
が、目指して
いる物流イン
フラが最終的
にどのような
形になるのか
は、いまだ不
透明な部分が多い。 加工食品卸大手の菱食の
ように、機能別の物流センターを全国に配備
するといった明確な戦略を打ち出しているわ
けではない。 特定チェーンの専用センターの
運営にも消極的で、現在もマイカルとの取り
引きで一カ所を運営しているに過ぎない。
マテハン開発で相次ぎ特許
道海ゼネラルマネジャーは、パルタックの
インフラ戦略を次のように説明する。 「当社
にはRDCのほかにも、営業所という形で在
庫を置いてある倉庫が複数ある。 こうした拠
点戦略については、かなり柔軟に考えている。
今後も常に流動性を確保していくつもりだ。
最終的に最適物流で最適コストになればいい
のであって、形にはこだわっていない」
分かりにくい説明だが、これは同社が扱っ
ている日用雑貨品の持つ商品特性にも関係し
ている。 日雑品は一つひとつの製品が細かく、
種類も膨大だ。 単価も安い。 加工食品などと
比べると回転率も低い。 そのうえ、荷扱いの
難しい商品が多いため、ケース単位の物流な
らまだしも、バラピッキングを要する単品単
返品加工エリア
空オリコン搬送コンベア
バラピッキング
ケースエリア(Aランク)
ケースエリア(B・Cランク)
ケースエリア(RIP-B)
補充リフター
事務所エリア
デリバリー管理室
物流管理室
入庫エリア
オリコンスタッカー
出庫エリア
オートカートンカッター
オリコン店合せストレージ
出庫オリコン搬送コンベア
補充ケース搬送コンベア
新和の物流ノウハウを本格導入したパルタックの近畿RDC
「近畿RDCには社運を賭け
て取り組んだ」と道海勉ゼ
ネラルマネジャー
店別仕分けのためのソーターを置かない、などの工夫でスペース効率を高めている
位の物流を正確に低コストで
処理するためには、専門的な
技術を必要とする。
しかも規模のメリットを享
受するためには、「最低でも一
センターで三〇〇億円以上の
商品を出荷するのが適正規模」
(山岸副社長)とパルタック
は判断している。 RDCの対
象エリア内における量を確保
する必要があるのだ。 そのた
めに同社は現在、物流以外の
マーチャンダイジングのサー
ビスレベルを拡充することで
商流を確保しようと躍起にな
っている。
通過額三〇〇億円以上のR
DCとなると投資額は一拠点
あたりの三〇〜五〇億円に上る。 決して利益率の高くない
中間流通業者という立場で、
数十億円規模の投資を回収す
るためには、かなり長期的に
通用する機能をセンターに持
たせる必要がある。 そのため
にパルタックは現在、マテハ
ン機器などの精度を「〇・一
ミリのレベルで徹底的に改善
する」ことによって、他社の
追随を許さない低コストの仕
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入庫した商品は独自開発の入庫カート「S
RAV」(無線LAN搭載)でスキャン検品
を行う。 商品の行き先は1階のケースエリア
(基本的にフリーロケーション)と3階のバ
ラエリア(基本的に固定ロケーション)。 ス
キャンした際に入荷シールが発行され、行き
先が指示される。 このシールを商品の外箱に
直接貼付すると、指示に従ってキャリーに乗
せた商品を移動し、補充エリアに着いたら、
入荷シールと棚のバーコードの双方をスキャ
ンしてから入庫する。 コスト効率を考えて、
あえて自動化を図ってはいない。
独自開発のカートピッキング台車「SPIEC」
を使ってバラピッキングを行う。 ハンディタ
イプのスキャナーではなく、小売店のレジな
どで使う据え付け式の平面スキャナーを搭載
しており、商品だけを動かすのが独特。 作業
指示の画面もその横にある。 スキャンした商
品をすぐに折り畳みコンテナ(オリコン)に
投入するための工夫。 台車の開発時にハンデ
ィ・ターミナルを使う場合と比較したところ、
ターミナルを持ち上げる時間、スキャンして
また戻す時間などがムダだったために現在の
形態になった。 「SPIEC」のピッキング能力
は1時間あたり平均120〜200行。
店別仕分けのためのソ
ーターを使わないのが特
徴。 納品先の店舗数が
6000店にも上るため、
ソーターではスペース効
率などが悪すぎる。 また、
仕分けソーターを使うと、
最後にドライバーが目視
でカゴ車に積み付ける作
業が間違いの元になる。
ここでもスキャン検品を
しなければミス率は減ら
せない。 独自開発の
「ADELS」ではバッチ・ピッキングしたケースがコンベヤで搬送さ
れてくると、自動的に商品のITFコードがスキャンされる。 これを作
業者は眼前のモニターの指示に従って、同時に11個まで置けるカゴ
車に積み分ける。 積み終えた作業者が足元のボタンを踏むと、次のケ
ースが搬出される。
作業者はフォークに搭載した無線LANでエリアを指示され、必要
なケース数をピッキングする。 ピック・ツウ・ベルトのためのRIP
ーBと、無線フォークLAN(ピックフォーク)に同じ仕組みを搭載
している。 ピック時のスキャンによって間違っていなければ、その場
でフォーク搭載の特注小型プリンタからラベルが発行され、これを商
品の外箱に添付する。 ピッキング済みの商品はコンベヤで同じ1階の
出庫エリアと、3階のバラピッキングの補充ラインへと搬送される。
台車ピッキングを終えたオリ
コンをコンベヤで1階の出庫エ
リアへ搬送し、「アングルキャリ
ー」と呼ぶキャリーに自動で積
み付ける。 このキャリーに乗せ
たまま押してトラックの荷台に
積み込み、陳列作業のために店
舗内まで持ち込めるようになっ
ている。 パルタック・オリジナ
ルのオリコンのサイズは容量40
リットル。
自動倉庫は導入していない。 理由はコ
スト、スペース、スピード(処理能力)
に難があるため。 扱う商品数がケースエ
リアだけでも約5000SKUと多いうえ、
入荷する際の荷姿がパレット単位とは限
らないため自動倉庫向きではない。 1階の
ケースエリアは商品回転率により3エリア
に分かれていて、最も回転率の高い商品
群は独自開発の(RIP-B)に、それ以外
は無線LAN搭載のフォークでケースピ
ッキングを行うためにラックに入庫する。
多用な荷姿の段ボールの上蓋のサイズを、
光センサーで読んで自動的にカットする「オ
ートカートンカッター」。 このように特注のオ
リジナル機器を開発する際には、人手でやっ
た場合や、既存のマテハンを利用した場合と
のコスト比較を事前に徹底的に行う。 その上
でメリットが見込めれば自分達で開発する。
基本的な設計図は、建物もマテハン機器も自
分達で引く。 図面が外部に流出するのを避け
る狙いもあって、業者選定のオープンコンペ
などは行わない。 業者数はできるだけ絞り込
んでおり、現状では大半をオークラ輸送機に
任せている。
入庫検品
ケースピッキング
オートカートンカッター(特許取得済み)
バラピッキング
「ADELS」(特許取得済み)による店別仕分け
オリコンスタッカー
ケース別仕分け
――これまでの卸は基本的にメーカーの販売代理業でし
た。 非食品分野での「業態卸」を目指すという御社に
は、もはやメーカーの代理店という意識はないのでしょ
うか。
「ありません。 メーカーの販売代理機能と、当社が目
指している小売りの購買機能はまったく別物です。 まし
てや、ここに物流という要素が入ってくると、量を扱う
必要が出てくる。 生産者からの調達単位がどれぐらい
になるのかというのが何より重要になってきます」
「従来の日本の卸というのは、商流の確保を優先して
いたため物流は二の次でした。 売上至上主義的な考え
方はいまだに色濃く残っていて、本当はトラック満載が
いいのだけれども、一〇ケースでも一〇〇ケースでもい
いですよ、と言ってしまう。 誰が決めたのかは知りませ
んが、そんなことが通用してきた。 おかしな話です」
――その辺が欧米と一番大きく異なる点なのでしょうか。
「まったく違いますね」
――山岸副社長は基本的に米国のモデルを参考にして
いると考えていいのですか。
「そうです。 米国ほど競争の激しい市場はありません
からね。 競争の激しいなかで生き残るためには、何かが
なければダメです。 日本にはこれまで競合はあっても、
競争はありませんでした。 A社もB社も一緒に業績を
伸ばすことができた。 競争というのは、A社が伸びれば
B社は沈むんです」
「日本が抱える物流上の大きな問題の一つに、物量の波
動があります。 日本で最もトラックの走行量が多い曜
日は、一週間のうち何曜日だか分かりますか? 火曜
日ですよ。 週末に売れた商品を一気に月曜日に発注す
るからです。 物流的な波動がものすごく大きい。 当然、
一番波動の高い部分に応じて物流インフラを整備する
ためコストも高くつく。 よく物量の平準化という言い方
をしますが、流通の効率化というのは、そこまで大きな
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組みを構築しようとしている。
実際、同社が新和時代から開発を続けてき
た独自マテハン機器には、ユニークなものが
多い。 あらゆるサイズの段ボールの上部を自
動カッティングする『オートカートンカッタ
ー』、店別仕分けソーターを不要にした『ケ
ース店別仕分けシステム』、バラピッキング
棚へのケース補充を効率化した『オートリフ
ター』――。 いずれも同社のオリジナル機器
で特許も取得済みだ。
卸売業による特許の取得というのは極めて
珍しいが、その理由は、「一つは知的ノウハ
ウを守るため。 また、自分達の仕事の独創性
を目に見えるかたちにすることによって社員
のモチベーションの向上を図るという狙いも
ある」のだという。 実用新案まで含めると、
すでに一〇案件近い権利を保有している。
物流技術の革新は現在も続いている。 昨年
十一月、最新拠点のRDC九州が稼働した。
同センターでは基本的にRDC近畿で確立されたコンセプトを踏襲しながらも、新たなア
イデアを採用した。 全体のレイアウトを見直
すと同時に、バラピッキングのためのケース
補充の仕組みを刷新している。 こうした改善
の繰り返しが、パルタックの物流ノウハウと
して蓄積されているのである。
情報システムについても、「ソフトウエアの
開発は、すべて社内のシステム・エンジニア
が手掛けている。 だから全体の整合性を保ち
ながら、地域ごとにカスタマイズを進めるこ
とができる。 これは当社の強みの一つ」と道
海ゼネラルマネジャー。 トラブルに直面する
たびに改善を重ねてきたため、イレギュラー
への対応力では負けないと強調する。
最近の日雑卸業界は、九八年のパルタック
と新和の合併が引き金の一つになって企業再
編の嵐が吹き荒れている。 今年四月には業界
第二位のダイカと、準大手の伊藤伊、サンビ
ックが持ち株会社方式による経営統合を予定
している。 これにより統合会社は、売り上げ
規模ではパルタックを抜いて業界首位に踊り
出る。
しかし、パルタックに焦りはない。 「最後
にはきちんとした仕組みを持っているところ
が残る」と悠然と構えている。 それよりも自
社の既存インフラのうち、RDC化の途上に
ある関東、東北、北海道の拠点の充実が先決
というわけだ。
さらに日本の流通業界を覆っている淘汰の
波は現在、パルタックの意志をはるかに超え
るレベルで進行している。 もともと関西を基
盤に成長してきたパルタックは、大手量販チ
ェーンのなかではダイエーとの付き合いが深
く、イトーヨーカ堂との取り引きはまったく
ない。 このことがパルタックの将来にどのよ
うな影響を及ぼすことになるのか。 予断を許
さない日々が続く。
(岡山宏之)
57 FEBRUARY 2002
視点で考える必要がある」
――小売りの店頭自体を、ロジスティクス重視で考える
べきということですか。
「実際、米国のウォルマートなどは、そうした部分を
きちんと考えています。 一日分の納品トラックが一杯に
なると、そこで止めちゃう。 翌日便に回してしまう。 こ
れに対して日本は、発注があればロジスティクスとは無
関係で運ばなければならない。 量が少なくても運ばなけ
ればペナルティをとられる。 もっとロジスティクスを重
視するべきです」
――いまイオンが大がかりな自前物流の仕組みの構築を
進めています。 あれは山岸副社長の目
からご覧になって理屈に合っています
か。
「欧米には自前でやっている小売業者
はたくさんいますからね。 ただ、メーカ
ーと直取引をするというのは、どちら
かというと短絡思考ではないでしょう
か。 かならず中間物流というのは必要
であって、それをどういう括りで、ど
ういうコストで、誰がやるのかが問わ
れているに過ぎません。 仮に卸以上に
安くて、高いサービスレベルを提供で
きる業者が現われれば、卸はなくなります。 これは仕方
がない」
「イオンさんがああいう形でおやりになって、例えば
我々の商品は要りませんよという形になっても、我々は必ず何らかの提案をします。 『本当にいいのですか。 我々
の方が正確で安いですよ』と言ってね。 いずれはイオン
さんも、『雑貨は特殊だ。 やはりパルタックに頼もう』と
いうことになるかもしれない。 いま取引がなくなったとし
ても、永久に彼らの側に行くとは、僕は思っていません」
――小売りが自らすべての構想を描いて、物流機能だけ
は3PLを使うというイオンの手法は、欧米でも行われ
ているのでしょうか。
「いまアメリカで起きている現象を見ると、じゃあ、な
んでKマートはフレミングにグロサリー部門を全て委託
するのか。 なぜ、ターゲットはスーパーバリューを使う
のか、というということですよ。 彼らは両社とも自前の
物流センターを持っています。 にもかかわらず、卸を使
うのは安いからに他なりません」
「アメリカにはロビンソン・パットマン法という法律
があるため、商品のネット(正価)が小売業者にもすべ
て分かるようになっています。 どれだけの商品を買えば、
いくらになるかが分かる。 オープンプライスとか、メニ
ュープライシングというのはそういうことです。 つまり、
小売業者にしてみれば、計算さえすれば自前でやる場
合のコストと、卸を使う場合のコストを比較できる。 そ
うすると自前でやることが、いかに高コストかが分かる
わけです」
「これに対して日本では、卸のネットが分かりません
から、直取引をすると安くなるだろうという考えを抱き
がちです。 しかし、中間流通というのは絶対に必要です。
そこの物流コストまで考えたうえで、卸を使うより安け
れば利益も出るはずです。 しかし、最初から上手くいく
とは限りません。 3PL業者も最終的には技術を高め
てくるでしょうが、われわれ卸も頑張ります。 そうする
と中間流通コストをめぐる戦いになりますよ」
――御社は、あと何年ぐらいでRDCの全国展開を終
える方針なのでしょうか。
「それは、お金との相談です。 一カ所作るのに三〇億
円前後かかるわけですから。 慌てて作っても、物量が確
保できなければ赤字になってしまう。 お客様がいらっし
ゃるのかどうか、物量が確保できるのかどうかを緻密に
計算する必要がある。 そう簡単にはできませんよ」
――商流を確保するには、どこかの卸を買収するのが一
番、早道なのでは?
「それは、ちょっと違いますね。 物量を確保するため
の買収というのは失敗します。 合併というのは、そんな
に簡単にしてはダメです。 やはり、卸としての機能はど
うあるべきか、経営というのはどうあるべきか。 理念が
きちんと合うかどうかのステップを踏んでから合併しな
ければいけません」
――となると、東北と北海道への本格的な進出のタイミ
ングは、御社のタイムスケジュールには乗っていないの
ですか。
「強引な買収などというやり方はしたくないため、計
画には乗せられないんです。 もっとも、やると決めたら、
単独でも、赤字でも出ていきますよ。 物量が一〇〇億
円しかなくても、三〇〇億円出せるセンターをどーんと
建ててしまう。 むしろ、そうやって作ってから攻めてい
く方が早いかもしれない。 ただし、そうなるとお客様を
取り合うことになるため、当然、摩擦が起きる。 いらぬ
摩擦は避けたいという気持ちはあります」
――そうまでして全国展開は急がないと。
「そうです。 あなたね、中間物流というのはそれほど
簡単なものではありません。 陣取り合戦に勝ち残っても、
そこのお客様とずっと取り引きを続けられる保証は一つ
もない。 そういう意味で全国展開を急ぐつもりは全くあ
りません。 最後はきちっとした機能を持つところが残る
のですから」
「日本の流通には競争がなかった」
パルタック山岸十郎 副社長
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