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FEBRUARY 2002 62
二年間ミスゼロのピッカー
昨年十二月、物流コンサルティング会社、
カサイ経営主催の「河西賞(物流プロフェッ
ショナル賞)」の授賞式が行われた。 同賞の
対象となるのは、会社や経営者ではなく、現
場で働く物流マンたちだ。 今回はハウス物流
サービスの社員一同と、カルビーの物流子会
社、スナックフード・サービス(SFS)の
従業員四人(豊泉和寿氏、小野塚竜也氏、植
木栄氏、久保寺誠寿氏)が同時受賞した。
SFSの四人の受賞事由は、長期間にわた
り「ミスゼロ」を達成したこと。 作業ミスの
低減を目的にSFSが九四年に開始した品質
改善活動「ゼロイチ活動」で、豊泉氏は二年、
他の三人は一年以上、ミスをしなかった。 「こ
れは凄いことですよ。 彼らに限らずSFSの
物流品質の高さには全く驚かされた」と同賞
の主催者である河西氏は評価する。
といっても、ミスをなくすための特別な手
法があるわけではない。 「基本作業を忠実に
守り、二重チェックをとにかく徹底した」と
受賞者の一人、豊泉氏は説明する。 同社の高
い作業品質は、地道な改善活動によって積み
上げてきた成果なのだ。 実際、「ゼロイチ活
動」の結果、六年強で当初の目標を達成、ミ
ス率は一七分の一に減少した。
SFSの設立は一九九〇年。 派遣社員や
パートを含め、現在の従業員は総勢一一八人
いる。 同社の平成十二年度の売上高は、前年
頭を下げる必要のない物流業目指し
現場の改善を重ねミス率を1/17に
スナックフード・サービスは菓子メーカ
ー大手カルビーの物流子会社だ。 これまで
同社は7年余りにわたって「ゼロイチ活動」
と呼ぶ地道な現場改善を進めてきた。 その
結果、ミス率は1/17に低減。 顧客に頭を下
げることの多い日々から解放された。
スナックフード・サービス
―― 物流子会社
親会社のカルビーは現在、全国に八つの独立した地域事業部を持っている。 そのうちS
FSは東北、関東の物流業務を担当している。
SFSの中核拠点である宇都宮DCの取扱量
は、入庫ケース数一日当たり九万ケース、出
庫ケース数同八万ケース。 最大保管量は三五
万ケースで、一三〇〜一四〇のアイテムを扱
っている。
同社の「ゼロイチ活動」とは、スタッフ全
員参加による製造業のための生産保全手法
「TPM(Total Productive Maintenance
)」
を、物流に適用した独自の品質改善活動だ。
「ミスゼロ」の達成を目標に、各作業者がそ
れぞれ自分の作業のやり方を見直し、ミスの
発生しない仕組みと手順を作る。 その目標と
してのミス率を〇・一%に置いたことから
「ゼロイチ活動」と命名された。
永島社長は「活動以前の当社の品質は正直
言って悪かった。 活動スタート時に測定した
ミス率は一・六七%。 一〇〇件の納品に対し
て一・六七件のクレームが出る計算だ。 ミス
が多いことはうすうす気づいていたが、これ
では信用を無くすと危機感をもった」と当時
を振り返る。
ミスが発生すれば、本来は不要なコストが
発生するだけでなく、荷主や顧客に頭を下げ
なければならない。 当然、現場の志気に影響
する。 「頭を下げなくていい仕事にしたい」
(永島社長)という思いが強かった。 最大顧
客であるカルビーからは鮮度の良い商品の供
63 FEBRUARY 2002
比一〇五・一%の三七億九七〇〇万円。 過
去五年間の業績は順調に伸びている。
SFSの外販比率は、昨年十一月の時点
で全体の一割強だという。 ここ数年、品質の
向上と足並みを揃える形で増加している。 「今
年はもう一社、新しい案件もとれそうだ」と
永島悟社長は、会社の新しい柱として外販を
捉えている。
給、適時適量納品(欠品ゼロ)、そしてロー
コストオペレーションという課題を要請され
続けていた。 またSFSとして親会社以外の
荷主を開拓したいとも考えていた。
物流版TPMを開発
そこで、ミスを減らすための手法として
「TPM」に目をつけた。 活動を始めるにあ
たって最初に現状のミス率を測定した。 算出
法は、誤納・遅配・接客不良・破損雨濡・
日付逆転の総件数を、受注件数で割り一〇〇
倍するというもの。 誤納は出庫した時点でピ
ッキングリスト(指示書)の内容と異なった
場合を「1ミス」としてカウントするなど、
ミスのカウント方法も詳しく定義付けた。
実際の活動は協力物流業者も全て含め、現
場の全作業員をドライバーチーム、構内チー
ムなど、業務に準じた計二五チームに編成す
ることから始まった。 最初の一年間は三ステ
ップに分けて活動を遂行した。
第一ステップは「初期清掃」。 現状の作業
スナックフード・サービスの永島
悟社長
94
年9月
11
月
95
年
1
月
3月
5月
7月
9月
11
月
96
年1月
3月
5月
7月
9月
11
月
3月
5月
7月
9月
11
月
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年1月
3月
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9月
11
月
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年1月
3月
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11
月
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年1月
3月
5月
7月
9月
11
月
00
年1月
3月
5月
01
年1月
1.8
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
(%)
0.1
ゼロイチ活動成果推移
プロパー社員を導入した98年春上昇するが、ミス率はほぼ順調に改善された
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方法(仕組み)を整理して、ミスの原因を洗
い出すというもの。 チームごとに業務プロセ
スを整理し、ミスの原因となっているプロセ
スを明確にした。 第二ステップは、「発生源・
困難箇所対策」。 ミスの対処法を各チームで
議論した。 そして最後の第三ステップで、対
処法を「自主保全仮基準書」としてまとめた。
こうしてミスの起きない作業をするための手
順書を作成した。
「ゼロイチ活動」のチームの一つで、荷役
業務全般を請け負っている総勢八人のチーム
「検討中です」では、ピッキングした商品を
パレットに積む際のチェックミスの改善をテ
ーマの一つに掲げた。 個人ごとにバラバラだ
ったチェック方法をルール化して、それを全
員に徹底することに挑んだ。
ピッキングした商品をパレットに乗せる時
には一アイテムごとに声を出す。 パレットに
乗った現物を見て数量、品名に間違いがない
かを確認する時には、ピッキングリストの数
量に必ず赤線を引いてチェックする――そう
やって細かな作業の一つ一つを見直していっ
た。 その結果、同チームの誤納率は活動開始
時の〇・八九%から、一年後には〇・二一%
にまで改善された。
チーム「真鮮組」ではミスの原因を徹底的
に話し合った。 「ピッキングリストの一番下
のアイテムを見落とす」、「商品の積み方が各
自バラバラで検品しづらい」、「一回目のチェ
ックの後、ピッキングリストに直接ペンで線
引きをするため、数字が見にくくなる」などの意見が出された。 こ
れに対する改善策として、ピッキ
ングリストの最後のアイテムの下
に赤線を入れてアイテムの見落と
しを防ぐことや、商品の積み方に
統一性を持たせて検品しやすいよ
うにする、などの対処法が実践さ
れた。
各チームの成果を社内に普及さ
せる狙いもあって、「ゼロイチ活動」
開始から約一年後、全ての協力物
流業者にも参加を求めて「第一回
ゼロイチ全員大会」を開催した。 成
績優秀チーム六チームを表彰し、そ
れぞれが成果発表を行った。 その
後も、大会は年一回のペースで開
催され、他に計七五回にわたる小
規模なチーム発表会も繰り返した。
社長をはじめとする経営陣が直接
現場へ出向いてチームごとの活動成果をチェ
ックする「トップ診断」も三カ月に一回のペ
ースで二年間にわたって続けられた。
こうした地道な活動が功を奏し、二〇〇〇
年十二月には、ミス率はついに念願の〇・
一%を達成した。 永島社長は「全てが順調に
いったわけではない。 特に従業員のモチベー
ションを維持する仕組みには今でも苦労して
いる。 それでも、この活動で成果を上げてい
る社員の顔付きが変わったのも確か。 精悍に
なってきた」と活動の成果を実感している。
二〇〇〇年九月にSFSは調査機関に依
頼して「取引先卸店の満足度調査」を実施し
た。 その結果、「カルビーの配送サービスに
関しては、全体の九割近くが満足していると
回答。 満足度は非常に高い。 サービス水準の
高いメーカー名をあげてもらっても、ランキ
ングの一位にカルビーがあがっている」との
嬉しい評価を得た。 この調査はカルビーの社
名を相手方に知らせた上で回答してもらった
検品してから荷積みする
ドライバー
同じアイテムは同一面に
統一してミスを防ぐ
65 FEBRUARY 2002
ものなので、必ずしも額面通りに受け取るこ
とはできないが、安心できる結果だった。
今では、「顧客からクレームが入っても、本
当にこちらのミスなのだろうか疑問を持つ。 結
果として、相手先の発注ミスだったことが判
明することもある。 当社のサービスに自信が
持てるようになった」と永島社長はいう。
従業員の意識もはっきりとした形で変わっ
てきた。 「活動を進めることによって、仕事
の内容を見直すことができた。 また数字で結
果を出されるため、ミスに対して各自が真剣
に注意を払うようになった」、「地道な日々の
活動の重要さを知った」、「個々が責任感を持
つようになった」、「作業方法に統一性が出て
きた」、「チームワークが培われた」などの声
があがっている。
今回の河西賞の受賞者の一人、植木氏も
「活動開始から半年間は、ミスをしないかと
不安な毎日だった。 それが今は、周りもミス
しないことが当たり前という雰囲気。 (ミス
ゼロを続けることに)意地になっている部分
もあるが、良い意味での仲間同士のライバル
意識も芽生えた」と語る。
活動成績を人事評価に反映
こうして「ゼロイチ活動」は当初の目標を
達成した。 現在、同社は新たな目標として二
〇〇五年の三月までにミス率を、さらに今の
八分の一にまで減らすことを目指している。
そこで最大の課題になっているのが改善に対
する社員のモチベーションの維持だ。
そのために二〇〇〇年五月、全従業員を対
象にしたアンケート調査を実施した。 「社風
診断」と銘打ち、改善活動を含めた現在の同
社の経営に対する社員の考えをたずねた。 「社
員評価の基準が不明瞭だ」、「会社が何をしよ
うとしているのか判断できない」、「(改善活
動の)成果が評価に反映されていない」とい
った意見が寄せられた。
この結果を受けて、SFSは二〇〇二年四
月から成果主義に基づく新たな人事制度を導
入する。 作業者一人ひとりの努力や実績を個
人の評価に反映させることが狙いだ。 新制度
の骨組み作りにも「全員参加」をとり入れた。
新制度導入に先駆けて二〇〇〇年八月から約
四カ月間かけて全社員が自由に参加できる
「オープン研修」を六回にわたって開催。 年
功・能力・業績・成果主義と人事制度のあ
り方などについて話し合った。
続いて、オープン研修全日程を受講した者
の中から、会社が白羽の矢を立てた人材によ
るプロジェクト・チームを結成。 資格等級フ
レームの作成や昇格条件、態度評価の検討、
賞与の分配方法などを議論し、新制度の枠組
みを決定した。 新制度では年に二回、ドライ
バーチームや構内荷役チームなどの各チーム
リーダーが、チーム内の作業員一人ひとりに
ついて評価を行う。 職務態度や職能評価の他
にも、各社員が自ら設定する個人目標の達成
度などが評価の基準となる。 こうした評価を
まとめ、資格取得などといったプラス材料を
考慮して、次年度の昇格人事が決まる。
最終段階では、各部署のチームリーダーお
よび準リーダーを対象に、運用マネジメント
研修会を開いた。 これによって新人事制度に
対する理解を深め、部下管理に自信をもって
もらうことを目的とした評価者訓練を行った。
この研修を昨年末に終え、今年二月から役員
による個人面談を行う。
その後、四月にまず総勢五八人いるプロパ
ー社員を対象に新制度が適用され、夏の賞与
までにカルビーからの出向者を除き、パート
を含めた全従業員に適用する予定だ。
「頑張れば頑張るだけ評価に反映されるこ
とで社員のモチベーションを上げていきたい」
と新制度の責任者である孝橋茂則取締役は考
えている。 一方、プロジェクト・チームのメ
ンバーだった植木氏は、「自分たちでシステ
ムを作っていくことに不安はあった。 また、
多くの従業員が個人面談にとまどっている」
と漏らす。 顧客に頭を下げずにすむ物流会社
への道のりはまだ途上にある。
(夏川朋子)
スナックフード・サービスの孝橋
茂則取締役
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