ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年2号
特集
在庫は減ったか 間違いだらけの在庫削減

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

FEBRUARY 2002 14 在庫は減っていない 日本企業の在庫削減は進んでいるのか。
それを調べ るため本誌はこのたび上場企業一三〇〇社を対象に、 一九九〇年から二〇〇〇年までの一〇年間にわたる 在庫回転期間の推移を分析した(次頁「調査の方法」 参照)。
その結果、SCMというコンセプトが日本の 産業界に広く普及したにもかかわらず、在庫水準には その効果がほとんど表れていないことが分かった。
一三〇〇社の在庫回転期間を単純平均した次頁の 表によると、日本の主要企業の九〇年代の在庫はバ ブル崩壊以降、九四年まで増え続けた後、九七年ま では低下する傾向にあった。
ところが九八年、九九年 と再び増加に転じている。
マクロ経済統計(鉱工業生 産指数・二三頁参照)を見ても、日本の製造業の在 庫率は九四年以降、循環を繰り返しながら、むしろ増 加する傾向にある。
長年にわたり米国の対GDPロジスティクス・コス ト比率の分析を行っているキャス・インフォメーショ ン・システムズのロバート・ディレイニー副社長は 「米国の対売上高在庫残高は九一年をピークに減少す る傾向にある。
これは企業のロジスティクス改革の成 果だ」という。
しかしその一方で、「生産・在庫管理 技術の進歩が在庫投資とGDPの関係を変化させる という仮説は統計上確認できない」という分析レポー トも米国では発表されている。
俗に「在庫は情報に置き換えられる」と言われる。
在庫とは実際の販売動向と生産活動とのギャップから 必要になるものであり、情報によってギャップを埋め ることで在庫を減らすことができるという意味だ。
S CMの基本となる理論であり、九〇年代に爆発的に 普及したインターネットはその格好のツールとなって いるはずだが、現実にはセオリー通り機能していると は言い難い。
とりわけ日本では「組み立てメーカーの在庫が減っ ていたとしても、調達先のサプライヤーや川下の流通 段階の在庫が膨らんでいる場合が少なくない。
SCM の普及によってサプライチェーン全体で見たときの在 庫が減っているという印象は持っていない」と日通総 合研究所の塩畑英成常務は指摘する。
最近では発言力を増した小売業が一括物流やVM I(ベンダー・マネージド・インベンドリー:ベンダ ー主導型在庫管理)を導入することで、在庫のしわ寄 せが川下から川上へ逆流しているケースも見られる。
サプライチェーン全体の最適化を目指すSCMのコン セプトとは相矛盾する在庫リスクの?ババ抜き〞が横 行しているという現状だ。
物流改革の落とし穴 基本的には、在庫を削減する方法は一つしかない。
実需に応じた生産調整だ。
受注生産が究極のモデル となる。
ロジスティクス部門が拠点集約や納品のリー ドタイムの短縮をいくら進めても、肝心の生産活動が 変わらない限り、サプライチェーン全体の在庫量は減 らない。
在庫を保管する場所が変わるだけだ。
しかし、実際にはロジスティクス部門の多くが需給 調整の権限を与えられてない。
生産計画は工場の生 産管理部門、もしくは営業の販売計画部門が握って いる。
工場の最大の評価基準は生産効率であり、営 業は売上高だ。
そのため在庫管理はどうしても後回し になる。
この体制にメスを入れない限り、ロジスティクス改 革は失敗する。
事実、巨費を投じて大規模な物流セ ンターを建設し拠点を集約したものの、在庫は減らな 間違いだらけの在庫削減 日本の産業界にもサプライチェーン・マネジメント (SCM)という言葉は広く普及している。
しかし、マクロ 的なデータを見る限り、その効果はまだ表れていない。
SCMの主役となるべきロジスティクス部門が本来の役割 を果たしていないことが原因だ。
15 FEBRUARY 2002 特集 かったという事例は枚挙に暇がない。
抜本的な在庫削 減はロジスティクス部門が生産や営業から需給調整機 能を剥奪することが、その第一歩となる。
キリンビールは九六年の組織改革で従来、生産部 門に属していた物流部を独立させた。
新たに営業・生 産・物流の三本部体制を敷き、需給調整の機能と責 任を物流本部に持たせた。
「物流本部の最大の使命が 在庫管理。
トップからは適正在庫の維持に全力を挙 げろという指令を受けた」と同社物流本部の篠岡方 長取締役は説明する。
従来、同社では営業部門が作成する販売計画をベ ースに生産・物流計画を立てていた。
この体制を改め、 物流本部の需要予測を活動計画の基本に据えた。
こ れに合わせて物流本部ではi2テクノロジーズ社のサ プライチェーン計画ソフト「リズム」を導入。
大幅な カスタマイズを加えて需要予測エンジンとして活用し ている。
二〇年以上前から同社の在庫水準は製品在庫で四日分というギリギリのレベルまで絞り込まれている。
しかし、かつては主力ブランド「ラガー」の単品大量 物流がその前提となっていた。
そのレベルを「SKU (ストック・キーピング・ユニット:在庫管理の最小 単位)で一七〇まで増加した今日まで維持できている のは、物流本部に需給調整を移したことが大きい」と 篠岡取締役は胸を張る。
実際、九〇年代というスパ ンで振り返ると、同社は業績的にはアサヒビールにシ ェアを浸食され続けながらも、一貫して在庫回転期間 の改善を達成している。
マクロで見ればSCMはまだ効果を発揮していない。
しかし、ロジスティクス先進企業は既にその成果を着 実に自分のものにしている。
ロジスティクス部門の真 価が問われている。
キリンビールの篠岡方長取締役 全業種平均 食品 繊維 パルプ・紙 化学 医薬品 石油 ゴム 窯業 鉄鋼 非鉄・金属 機械 電器機器 造船 自動車 輸送用機器 精密機器 その他製造 卸売業 小売業 1.47 0.99 2.24 1.43 1.34 1.52 1.21 1.05 1.76 1.69 1.66 1.91 1.59 4.27 0.61 1.62 2.27 1.41 0.77 0.77 1.56 0.99 2.21 1.42 1.45 1.53 1.37 1.08 1.86 1.80 1.83 2.13 1.73 4.33 0.62 1.77 2.45 1.47 0.82 0.80 1.69 1.00 2.44 1.42 1.47 1.53 1.33 1.15 2.00 2.07 1.98 2.50 1.83 4.87 0.63 1.88 2.86 1.52 0.85 0.82 1.71 0.98 2.52 1.34 1.51 1.58 1.38 1.25 2.07 2.18 2.04 2.59 1.73 4.80 0.66 2.00 2.76 1.54 0.84 0.82 1.64 0.95 2.55 1.29 1.45 1.55 1.42 1.17 2.00 2.08 1.95 2.44 1.65 4.41 0.63 1.88 2.55 1.52 0.82 0.82 1.57 0.97 2.23 1.25 1.45 1.59 1.42 1.10 1.90 2.06 1.90 2.22 1.60 4.27 0.65 1.75 2.24 1.56 0.80 0.84 1.53 0.97 2.37 1.27 1.42 1.57 1.27 1.10 1.83 2.01 1.81 2.09 1.54 3.97 0.63 1.76 2.08 1.52 0.78 0.84 1.57 1.03 2.33 1.32 1.46 1.66 1.30 1.14 1.86 2.04 1.83 2.15 1.51 4.13 0.67 2.04 2.16 1.60 0.83 0.89 1.71 1.04 2.45 1.41 1.59 1.73 1.39 1.17 2.11 2.36 1.96 2.46 1.62 4.59 0.77 2.20 2.48 1.68 0.86 0.91 1.62 1.05 2.27 1.29 1.55 1.67 1.26 1.14 2.07 2.23 1.90 2.37 1.49 4.62 0.70 2.09 2.14 1.57 0.79 0.86 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 1300社の在庫回転期間(カ月)の単純平均  株式を公開している日本企業のうち製造業、小売業、卸売業を対象にした。
各社の棚卸資産回転期 間(カ月)は、有価証券報告書に記載されている棚卸資産の各項目(部品・製品、半製品・仕掛品、原材 料・貯蔵品など)を合算して、その期首と期末の平均値を求め、これを同期の月平均売上高で割ることで 算出した。
 データは2000年3月期のものを最新として、過去10期にわたるものを使用した。
過去に決算期変更な どがあった企業もそのまま掲載し、その旨を欄外に明記した。
10期に渡ってデータが入手できることを優 先して、今回は単独決算を利用した。
また本特集では90年代を通じた企業の在庫動向の推移をみること を主眼としたため、10期分のデータが入手できない企業については掲載対象から外した。
 業種の分類は証券取引所の定める新業種分類(33業種)に準拠した。
社名は一部、略称を使用。
企 業の掲載順は、各業種ごとに入手できた最新期の売上高の大きい順とした。
一覧表には各社に掲載番 号を付け、索引で検索できるように配慮した。
各社のデータは東洋経済新報社の協力を仰ぎ、同社が発 行する「会社財務カルテ」を参照した。
調査の方法

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