ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年2号
特集
在庫は減ったか 在庫と荷動きが同時に減少している

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

FEBRUARY 2002 22 ――SCMの導入によって日本企業の在庫は減ってい ると言えるのでしょうか。
「統計資料をみる限り、現在は在庫が減少する局面 にあります。
二〇〇〇年の夏以降、製造業が急激に 生産を落としています。
その結果、二〇〇一年の五月 以降、在庫も一気に減っている。
しかし、それはSC Mの浸透が在庫削減に寄与したというよりも、むしろ 生産の落ち込みで自然と在庫がなくなってきたという 表現のほうが当たっていると思います。
事実、在庫は 減っているのに在庫率は上がっているという状況にな っています」 ――経済の法則からすると、基本的に在庫量は循環し ます。
現在のように景気の落ち込みが激しい時期には 普通なら在庫は増えるはずです。
しかし、そうなって いないのは、なぜでしょう。
「在庫が従来のような典型的な動きをしなくなって います。
経済学でいう『在庫の二面性』というものが、 従来のように当てはまらなくなっている。
一般には景 気が落ちればモノが売れないわけですから当然、在庫 も増える。
マスコミでは在庫が積み上がると表現しま すが、これを経済学では『意図せざる在庫』と呼びま す。
一方で景気がよくなる局面でも在庫は増える。
景 気の拡大を見越した『意図した在庫』です。
一般には 在庫を積み増すと表現しますよね。
しかし、このうち 景気回復期の『意図した在庫』が最近ではそれほど増 えなくなってきている」 「現在は需要が長期間にわたって落ち続けている。
企 業も在庫の溜まり具合を見て、そうとう思い切った調 整をしている。
需要の減り方以上に生産を減らしてし まっている面がありそうです。
需要に対して極端に在 庫が溜まった場合には理屈から言っても、景気が悪化 しているのに在庫が減少するというケースが起こり得 る。
もっとも、それは一時的なもので、在庫が今以上 に減り続ければ、いつかは在庫を積み増す方向に動く はずです。
しかし、今は景気回復の見通しが立たない ため、企業が在庫水準そのものを大幅に引き下げてし まっている。
加えて、メーカーが相当な決意で生産を 絞り込んでいる。
結果として、景気の下降局面なのに 在庫は増えず、逆に減り続けているということだと思 います」 急ブレーキでも止まれない ――バブル経済の後遺症が一〇年経った現在も続いて いると考えてよいのでしょうか。
「いや、それはないでしょう。
各種の指標を見る限 り、既にバブル時代に積み上がった過剰な資本ストッ クについては大方、調整が済んでいる。
放っておいて も減価償却は済み、機械は陳腐化するわけですから、 時間が経てば自ずと調整されてくる。
さらに在庫は基 本的に設備投資よりも、もっと短いサイクルで動きま す」 ――過去一〇年を振り返ると、在庫はどう動いてきた のでしょう。
「バブル以降の在庫の動きを見ると、九六年から九 七年にかけて景気が多少上向いたことが分かります。
実際、九七年の初頭には在庫がかなり減っている。
そ れだけ需要も伸びていることになります。
そこで生産 をかなり上げたわけですが、景気の上昇は続かなかっ た。
その結果、九八年には大量の在庫が溜まってしま い、生産にブレーキがかかった」 「その後、在庫の調整が進み、九九年から二〇〇〇 年にかけて、改めて景気が上昇する傾向になった。
と くに二〇〇〇年の末には出荷も設備投資もかなり膨 らんだ。
ところが二〇〇一年に入って、とてつもない 「在庫と荷動きが同時に減少している」 2000年8月に日本の製造業者は生産活動に急ブレーキをかけた。
その効果は昨年5月以降の在庫の急減として表れている。
それで も需要の急激な減退には追いつかない。
その結果、在庫と荷動き が同時に減少するという異常事態が起きている。
日通総合研究所 塩畑英成常務 23 FEBRUARY 2002 勢いで景気が急降下したんです。
メーカーは生産を極 端に落としているけれども需要の減退に追いつかない。
だから在庫は減っているのに在庫率が跳ね上がってし まっている」 「二〇〇一年に入って主要な産業の需要は前年比で二 桁、一〇%以上落ちています。
それだけ経済成長率が 落ちるわけですから、これは大変なことです。
サービ ス業を含めたGDPでは昨年は〇%とかマイナス数% など言われていますが、少なくとも生産サイドではそ うした状況になっている。
これほど極端に生産が落ち ることは過去にもあまり例がない」 ――在庫は今後どのように推移していくと予想されま すか。
「在庫を積み増すための生産調整、つまり生産量の 引き上げにメーカー各社が踏み切るのは年末くらいに なるのでしょう。
今後も生産を急激に落とすことを続 けたとしても、現在抱えている在庫を処理するまでに はそれだけ時間が掛かると踏んでいます」 誰が在庫を抱えているか ――マクロ的な在庫循環と、個別企業の在庫は違う 動き方をしています。
マクロ的な在庫の変動とは関係 なく、一貫して在庫水準を下げ続けている企業も現 実には少なくない。
これを、どう考えればよいのでし ょう。
「もちろん本来はミクロの数字の積み上げがマクロ になるはずです。
しかし、マクロのデータは全体でし か在庫を見ていない。
流通段階のどこに在庫があるの かという問題が一つあります。
流通業の持っている在 庫とメーカーの在庫を全部トータルすればマクロの統 計の動きと同じになるはずです。
しかし、主要メーカ ーや主要流通業だけを見れば必ずしもマクロの数字と 同じ動きをするわけではない」 「とりわけ現在の局面で主要メーカーの在庫が減り 続けているとすれば、それは中小メーカーか、あるい は流通段階で在庫が積み上がっていることも推測でき る。
サプライチェーンという意味では製造業の在庫が 減少していたとしても、それよりも川下部分である中 間流通(卸)や小売業で在庫が溢れているかも知れな い」 ――例えば組み立てメーカーがJITを導入すること で在庫を減らしたとしても、そのしわ寄せがサプライ ヤー側の在庫の増加として表れている可能性があると うことですか。
「まあ、そういうことでしょうね。
確かに一部には SCMの登場によって、サプライチェーン全体の在庫 が減りつつあるという指摘もありますが、私はそれに 対して懐疑的です。
製造業サイドに在庫がないときに は、卸や小売業がその分在庫を抱えているというのが 実情なのではないでしょうか。
もっとも、この不況で生産量そのものを落としていますから、サプライチェ ーン上の在庫が相対的に減っているのは確かでしょう が」 ――逆に小売りが一括物流やVMIを導入することで、 川上側の在庫が積み上がるというケースもありそうで す。
「可能性は考えられますね。
いずれにしろ、さきほ ど説明したとおり、現在は製造業が生産に急ブレーキ を掛けているので在庫が溜まらないという状況です。
昔のように在庫を次から次へと市場に投入すれば、い ずれは売り切ることができた時代なら、生産に急ブレ ーキを掛ける必要はなかった。
いずれ売れることが約 束されているわけですから、在庫を抱えていても構わ なかった」 120 115 110 105 100 95 90 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 在庫率 出荷 生産 在庫 1999年4月 96.1 11月 113.9 11月 93.5 2000年8月 108.3 11月 90.9 11月 95.3 出典:内閣府資料 (注)1.経済産業省「鉱工業指数」により作成 2.季節調整済指数(1995年=100) 3.2001年12月、2001年1月の生産指数は、製造工業生産予測調査の増減率を用いて試算したもの 鉱工業生産・出荷・在庫・在庫率の推移 特集 FEBRUARY 2002 24 「ところが、最近ではあらゆる商品のライフサイク ルがどんどん短くなってきています。
需要予測が外れ ると、その商品は死に筋商品と化してしまう。
そのリ スクを回避するためにも、生産を必要最低限に抑えて おく必要がある。
あらゆる分野でこのような施策がと られている。
その結果、生産が伸びず在庫も増えない という状況になっている。
それをSCMと呼べるのか どうか」 ――つまりSCMによって市場動向に柔軟に反応して 在庫を減らしているというより、今はとにかくブレー キを力一杯、踏んでいる。
それでもなかなか止まれな い、という状況だということですね。
「そうだと思います」 デフレは八二年に始まっていた ――在庫と出荷が同時に減少するというのは、物流業 者にとってはダブルパンチです。
実際、大手輸送業者 から耳にする限り、この年末年始も荷動きは振るわな かったようです。
しばらくは現在のような状況が続く のでしょうか。
「メーカーの生産調整はしばらく続くでしょうね。
そ の結果、在庫も減り続けます。
需要も落ち込むでしょ うから出荷も増えない。
しかも以前なら不況であって も、繊維の生産・出荷量は落ちているが、紙パルプが 比較的堅調である、といった具合に、業種ごとの景況 に濃淡があった。
ところが、現在はすべての業種で落 ち込みが見られる」 「当社が製造業者を対象に行ったヒアリング調査 (「業種別にみた荷動きの見通し」)でも二〇〇二年の 荷動きは全業種でマイナスを示しています。
これは非 常に珍しいケースです。
それだけ現在の景気は厳しい。
物流企業は大打撃を受けるでしょう。
さらに当社では 荷動きは年々落ち込むと見ている。
二〇一〇年の国 内の貨物輸送量は現在よりも一〇%程度減少すると 予測しています」 「ただし、物量は減っても物流のアウトソーシング 市場自体は今後、拡大していく。
そのことも各種の調 査結果には表われています。
ということは、単にモノ を運ぶだけの機能は今後も価格競争を免れない。
しか し3PL的な業態転換ができれば物流企業には成長 の余地がある」 ――マクロ経済指標の推移などから、現在のような深 刻な不況に陥ることはある程度予想できたのでしょう か。
「実はバブル崩壊よりもはるか前に、日本の物価は ピークを迎えていました。
日本の国内卸売物価指数 は今からちょうど二〇年前の八二年が最高なんです。
バブル期に多少の凸凹はありましたが、それでも指数 は下がる一方だった。
八二年の総合卸売物価指数を 一〇〇とすると、昨年末の指数は二四ダウンの七六 だった。
国内卸売物価指数も一五〜一六ポイント程 度落ち込んでいる。
要するに、バブル崩壊よりも前に 右肩上がりのインフレの時代は終わっていたといえま す」 ――しかし、その後もGDPは拡大を続けてきたでし ょう。
「確かにそうですが、物価は下がっている。
とくに プラザ合意のあった八五年以降は安い輸入品が大量 に国内に流入したことで急激に下がった。
それだけ荷 物の運賃負担力がなくなったわけですから、物流業が ダメージを受けるのも当然です。
しかも物量も増えな いとなると、物流インフラの維持が難しくなる。
物流 業者の淘汰と業界の再編が避けられないと考えていま す」 特集

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