ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年3号
デジロジ
SCMとITを考察する

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2002 62 負け組の研究 Kマートが破綻した。
米国を訪れる度、同社の店舗はいたるところでごく普通に見かけ られる風景の一部であり、こんなにもあっけ ない結末は、なにか拍子抜けした感さえした。
その後、メディア各誌は同社破綻についてウ ォルマートとの比較を交えて企業分析を行 っている。
しだいに状況が明らかになるにつ れ、再建は前途多難な状況であることが分 かってきたようである。
早くから積極的にIT投資と効率的な物 流基盤を構築したウォルマートと、マーケテ ィングばかりでなく「情報システム」と「物 流基盤整備」に遅れを取ったKマート(以 下、K社)で、明暗を分ける結果となって しまった。
ロジスティクスとITがキーワー ドであったことは大変興味深い。
K社の経営実態は簡単に知ることはでき ないし、どのようなシステムが使われ、どの ような物流戦略が取られてきたのかは不明で あるが、ITと物流と経営の間に不整合を 起こしていたことは事実である。
経営側にITや物流戦略志向がないとこ ろにベンダーがシステムやサービスを売りつ けた結果なのであろうか。
また、自社物流や 3PLなども活用していたと思われるが、そ れらからは経営に対する戦略的提言などは なかったのであろうか。
今後、K社のケース が詳細研究されると、本稿のテーマとしてき たデジタル・ロジスティクスの観点から、 様々な情報や教訓が得られるであろう。
田中純夫フレームワークス社長 SCMとITを考察する 第12回  売上高世界一を達成したウォルマートと経営破綻に陥っ たKマート――米国産業界における企業競争の勝ち負けが 益々、鮮明になってきた。
IT分野も例外ではない。
従来 の勢力図が大きく塗り替えられようとしている。
NASDACによると、K社に関わった SCMベンダーは軒並み業績悪化に陥った 模様だ。
システムにどこまで責任があるのか は判断できないが市場の反応は敏感である。
米国では上場企業の情報は大半がインター ネットを通じてリアルに開示されるからであ る。
実際、インターネットでは様々な情報が 得られる。
K社を鍵として、関連する様々な 情報を検索しながらサイトをサーフしてみる と、ベンダーやサービスの実態に迫ることが できる。
競争の厳しい米国のSCMマーケッ トにおける新興勢力の台頭や没落の状況、勝 ち組と負け組の実態などがよく理解できる。
SCMシステム導入の結果は、最後は導 入企業の業績に現れる。
物流は隠すことの できない現実である。
行き詰まった企業はど のような情報システムを持ち、その物流の実態と戦略性はどうであったのか。
相関を調べ ると意外な事が分かってくるからおもしろい。
実は、勝ち組企業のシステムや物流より も負け組の失敗例を調査する事が大変参考 になる。
通常、肝心なところは非公開か、う まくいったところだけ見せて、一番苦労した 部分は公開されることはなく、失敗はこっそ り処分されてしまうものだ。
他方、失敗例を 複数研究すると見えてくるのは、経営戦略 の課題はもとより未来への糸口、そしてダメ なシステムやベンダーの実態が明らかになる と言う事である。
こうして勝ち負けが明確になってきた米国 IT産業であるが、eマーケット・プレース 系ではロゼッタネットやコビシントなどが実 63 MARCH 2002 次の狙いはプラットフォームビジネスであ る。
プラットフォームとは、汎用的なビジネ スの共通基盤の事であり、「IT」と「金融」 そして「物流」の機能を担う。
このうちIT と金融は従来から大きなマーケットを形成し ている。
問題は最後の一つ。
CRMで顧客 分析を進めていくと、ある現実に行き当たる。
それが物流だ。
あらゆるビジネスのリアリテ ィは物流に帰着するからである。
昨年はSCMシステム市場にも国産ベン ダーが多数登場した。
システム・インテグレ ーター、ベンチャー企業、マテハン機器メー カーなど、枚挙に暇がないほどである。
後の ない物流であるからこそ、マーケットを知る もの、信頼と実績を積み重ねることができる 企業のみが勝者に成り得る。
かつてない厳しい競争の下、選び抜かれたより良いシステム の登場に期待しよう。
動かないシステム SCMの導入にあたって、ユーザー企業 が自らシステムを開発するというケースはも はやほとんどない。
大半は一般に定評のある システム・インテグレーターを数社ピックア ップして個別相談のうえ、相見積・競合プ レゼンを行う。
少し余裕があればコンサルタ ントに依頼し、ベンダー選定のための適切な アドバイスを受けるなどが一般的である。
オフィスソフトとプレゼン上級者のファイ ルが普及した功罪と言うべきか、最近は皆、 プレゼンが妙にうまい。
スライドはいずれも だいに明らかになり、ユーザー側にも知恵が 付いたことは言うまでもない。
国内ベンダーのリベンジ Nippon Original ERP Strikes Back! 我が国のマーケットにも同様に変化の兆 しが現れている。
日本型ERPを標榜する 大手〜中規模企業向け基幹業務系システム のベンダー各社が非常に元気である。
大型 ERPベンダーの対象顧客が一巡し、マー ケットの中心が中堅企業に移るとともに市 場が活性化しつつある。
日本企業のお家芸 である製品の品質の良さと、きめ細やかなサ ポートに対する再評価が進んでいる。
相当の 大手企業であっても国産システムに切り替 える例が珍しくなくなってきた。
欧米諸国と我が国のマーケットの違いは 大企業に対する中堅企業の層の厚さである。
大手のみを対象とする大型システムに比較 して、大手〜中堅を幅広くカバーするシステ ムのエリアでは、国産システムが他に先行し ており、海外システムはほとんど入ってきて いない。
中堅ERPマーケットは国内有力 ベンダーにより、群雄割拠の様相を呈し始 めている。
ERPにやや遅れITマーケットを形成 したものにCRM(Customer Relationship Management )がある。
eコマース系やE RPからCRMに移行した企業も多く、マ ーケットは活発であるが、その中でいち早く 見切りをつけた企業も出始めてきている。
用・定着期に入り、堅調に推移しているよ うである。
ここ数年内には、世界規模の調 達やロジスティクスを基盤としたB2Bマー ケットが、ITの普及拡大と歩調を合わせ てオールドエコノミーにも定着していくだろ う。
一方、SAP、オラクルなどに代表され る大 型 のE R P ( Enterprise Resource Planning )は一昨年頃から中堅ERPにマ ーケットシェアを奪われはじめている。
少な くとも米国市場では昨年は実質的に中堅E RPベンダーが大手ERPベンダーのシェア を逆転したようだ。
この背景にはXML(eXtensible Markup Language )を活用したEAI(Enterprise Application Integration )システムの普及が ある。
XMLはインターネット時代のシステ ム間の、いわば公用語であり、メッセージで もある。
乱暴に言えば、「ハブ空港」のよう に、これらのメッセージを交通整理し、シス テム間をリアルに連携し、統合管理してくれ る管制塔のようなものがEAIである。
これを活用すると基幹システム等を同一 ブランドで統一する必要はなく、また、他に 影響を与えることなく、必要な機能を必要 なときに導入したり、置き換えたりすること ができる。
疎にして密な、ホロニック構造の 基幹システムが構築できる。
中堅企業にも システム導入の選択肢が広がり、中堅ベン ダーにもマーケット参入の機会が拓かれたか らである。
むろん、過去のERPの功罪がし 合 MARCH 2002 64 デジタル・ロジスティクスとは情報システ ムとロジスティクスの融合によるビジネス基 盤の構築と、見えないものを数値化すること により可視化する技術である。
その目指すも のは、全体最適の観点からオペレーションコ ストを低減し、キャッシュフローを改善する ことである。
その実現には高度な情報システ ムの構築と統合能力を必要とし、確実な業 務の執行が求められる。
そして何よりも、「戦 略性」が問われるのである。
ステムの目利きはもう少し近代的・合理的 に行いたいものである。
より良いシステムはベンダーだけが作り出すものではない。
受注者・発注者という上 下関係ではなく、対等な関係で公正かつ厳 正評価のもと、マーケットの競合原理と相 互作用により育まれるものなのである。
それ に応えてくれるベンダーを見つけたい。
コラボレーションの時代は選択と集中の時 代である。
SCMの導入において何を選択 するかにも、企業自身の戦略性が問われる のである。
企業評価にITが活用されてい るのと同様、システム科学を応用したSC Mベンダーやシステムのレーティング(評 価・考課)がインターネット上で行われるよ うになる日も遠い将来のことではない。
終わりのないSCM ロジスティクスとサプライチェーンの改善 には終わりがない。
マーケットが変化すれば、 経営戦略が変わる。
SCMの中核となる「I T」と「物流」では、「IT」や理論に軸足 を置き、そちらに重心を掛けすぎると、実態 はリアリティとしての「物流」からかけ離れ たものになってしまう。
SCMの構築は、ま ず、事実ベースが把握できる仕組み作りから SCMの第一歩を踏みだそう。
楽天より地 に足をつけて。
Winner; It s difficult. But, It may be possible. * Looser; It s possible. But, It s too difficult. * 立派なものが多い。
ゆえに、プレゼンのみで 不適切なベンダーを選定してしまうと、導入 の段階で初めて現実とのギャップに遭遇、そ して驚愕することになる。
後戻りは困難である。
意味のないシステム 費用の垂れ流しの状態になる。
こうなると残 された手段は、一刻も早くそのシステムを捨 て、他のものに切り替えるしかない。
SCM に限らずこの種のトラブルが昨今、目立ち始 めているようだ。
企業側としてSCM導入に明確な経営戦 略とビジョンを持つことはいうまでもないが、 自社ですべて完結することは困難である。
経 営戦略の策定と、それらを実現するパートナ ーと成りうるベンダーを見つけることがソリ ューションへの最短コースである。
良いパー トナーを見つけることは真のコラボレーショ ンであり、SCM構築は永続的な信頼関係 の構築である。
本連載では今までに、ベンダーやシステム 選定や設計のポイントを述べてきた。
システ ムの選定は機能や価格で決めるものではなく、 経営の根幹に関わるパートナーを選ぶという 意志決定である。
物流は常に臨戦態勢であ り、そこには信頼性と安定性が必須である。
今回は、すこし観点を変え、下記にベンダー (パートナー)選定のポイントを一部要約し たので参考にしていただければ幸いである。
すべてはホンモノとニセ物を見極める目を 養うこと。
つまり、「目利き」ということで ある。
焼き物の目利きには、ひと山、ふた山 売り飛ばす覚悟がいるらしいが、さすがにシ SCMベンダー選択の心得 ◆プレゼンは鵜呑みにしない  ・ベンダーは良い話しかしないので、テーマを変えて数回プ レゼンを受けること  ・通り一遍の話の後、急激にネタが尽きないか  ・話が矛盾しないか  ・他に専門スタッフがいるかどうか ◆数字のマジックに注意  ・ケタ違いの話、検証のできない他企業や海外の話を多用し ていないか  ・もっともらしい数字のワナに引っかからないこと ◆ベンダーの経営者を見る  ・ロジスティクスビジネスの本質を理解しているか  ・経営者自身にコストダウンへの貢献とロジスティクスの戦 略性という意識があるか  ・現場を知っているか ◆会社をみる  ・一年前との比較して、システムや会社の体制が進歩してい るか  ・人が頻繁に出入りしていないか  ・顧客(ベンチマークの)を見る  ・顧客はリピートオーダーをしているか(リピーターが多い か)、他に水平展開しているか  ・市場における顧客自身の情報システム・物流の戦略性につ いて評価はどうか  ・システム導入後の業績はどうか ◆企業を評価する  ・インターネットを活用し、株式市場の評価や関連情報を調 査の上、裏をとること  ・十分な与信を行うこと ◆パートナーを見る  ・情報システムや物流の戦略性はあるか  ・業績はどうか  ・取り組み姿勢はどうか など。

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